第53話 実力を見よ!
(踏み込んでくるか・・!!)
間合い、というものがある。
物と物の間という意味だが、人にとって、特に戦士にとっては非常に重要なものである。
誰しもが自分の間合いというものを持っている。戦士にとってそれは自身の全力が出せる位置を表す。
素手ならば至近距離、片手剣ならば近距離、両手剣ならば近~中距離というように使うものによっても適切な間合いというのは変わってくる。
では戦鎚ならば?答えは―――中距離である。
(近すぎだアホがッ!!)
戦鎚を振るう適切な範囲を無視し、自分に突っ込んでくるガードに対して内心ガージは怒号を飛ばす。
あと数秒としないうちに、両者の距離が近距離になることを予見して、そのタイミングに合わせてガージは戦鎚を振るった。
ガードが足を前にだし距離を詰めるのと同時、横からはガージの戦鎚が迫る。
この攻撃には牽制の意味があった。いくら戦士をお休みしていた期間が長いとはいえ、さすがにこのまま突っ込んでくるほど馬鹿ではないとガージは思ったのだ。
(ガードは避ける!そしてその隙――なっ!!」
重量感たっぷりで繰り出されたガージの戦鎚は空を切った―――ガードが前に出て接近すると同時に避けたのだ。
自らの予想がまさか裏切られるとは思っていなかったガージは、思考をぶったぎって思わず驚きの声を上げた。
ゴウッ
「ぐっがぁ!!」
突如として視界に現れた鉄を、頭を後ろに引くことで回避する。
ガージの懐に侵入したガードが、戦鎚を突き上げたのだ。ガージの額には冷や汗が浮かび、質の悪い団扇が起こした風が、ガージのほほをなでた。
予想だにしなかった戦鎚の使い方に、一瞬驚きによってガージの思考は闘いから離れる。
そしてそのわずかな隙を狙って放たれた緑の拳が、深々とガージの横っ腹に突き刺さっていた。
「うぐっ」
くぐもった声が漏れ、内臓にまで届いた衝撃に顔を歪ませるガージ。
しかしそれだけで終わらない。次々にできる隙を狙い撃つように、ガージが気づいたときには、すでに反対方向の腹めがけてガードの拳が振るわれていた―――が、そこはラの一族、オークが戦士長。今回は拳は腹ではなくガージの手に着地していた。
「舐めんなアホがッ!!」
「!!」
バチィ
勢いよくぶつかった頭と頭が、なにかが弾けたような音を出した。
いや、事実ガードの頭が頭突きの衝撃によって弾かれていた。
「もう一発!!」
「ウガアァ!!」
ガチィイ
先程よりも大きな音が鳴る。
掴んだままのガードの手をつかって引き寄せて、再び頭突きを見舞ったガージだったが、同時にガードもタイミングを合わせて頭突きを繰り出していた。
硬い頭と頭が勢いよくぶつかって、両者とも一時の混乱状態となる。
脳が揺れて平衡感覚が定まらないその時間に、手が離れていることに気づいたガードはよろよろと後ろにさがって距離をとった。
「「「オオオオオォォオッォォオオオオオオ!!!」」」
二人の雄姿を見て会場は沸いた。
とくに戦士たちは両手を上げて大盛り上がりである。
混乱状態から立ち直ったガージが見れば、いつの間にかガードと距離が開いている。
どうやらガードも立ち直ったようで、戦鎚を構え直していた。
(やるじゃねぇか・・)
どうやらやり合えるだけの力はあるようだ、とガードの力量を再確認しながらガージは心中でつぶやく。
決して声には出さない。闘いは気合いである。相手を調子づかせてもメリットはない。
正直、ここまでで見ればガージが押されていた。
変則的な戦鎚の使い方に驚いた、という言い訳は一応は用意できるが、言い訳なんて言っていれば戦場なら死んでしまうだろう。
ゆえにガージは忘れる。自分が攻められてことなんてすっかり過去にする。
頭に残すのは常識外の戦鎚を使った攻撃方法だけ。すっかり頭を切り替えて、ガージは大きく一歩前進した。
「いくぞ・・!!」
誰に聞かせるわけでもなく、ただぽつりと、しかし充分に気合いをこめてつぶやく。
そしてそのつぶやきを残して、ガージはガード目がけて突進した。
(来た・・!!!)
ガージの行動を予測できていたガードは、あわてることなく戦鎚を握り直すと、ガージを待ち構えた。
ガージの性格上、先程までの自分のミスや失態は忘れていることだろう。
だがしかし、未だどこかに残る「自分が攻められた」という思いを抱えるガージならば、今度は自分の番だ、と攻撃を仕掛けてくるに違いないと踏んでいた!
「オオオォォオオ!!」
雄叫びと共に、走りの勢いそのまま、ガージは戦鎚を横なぎに振るう。
剛腕によって振るわれるその戦鎚は、豪快に風を切って主の思うとおりの位置へと向かい――別の戦鎚と衝突した!
体格はほぼ同じ。筋肉量もさほど変わらない。
明暗を分けたのは攻撃の威力。助走をつけたその一撃は、迎え撃ったガードのモノを凌駕した。
「ぐっ・・!」
「オオオォオオァアアア!!」
戦鎚ごと腕を弾かれ、脇が甘くなったガード目がけてすぐさまガージは次の一手をうっていた。
ガードの戦鎚を弾いた勢いを、そのまま利用し自らも回転。体勢を低くしてしっかりと踏ん張ると、遠心力を十二分に利用した高威力の攻撃を放っていた!!
攻撃の余韻がまだ残るガードは、その不安定な体勢から立て直すことは出来ず、そのガージの一撃は――――
―――ドカッ
観客席にも聞こえるほどの衝撃音と共に、深々とガードの身体に強烈な打撃を与えた。
最高のタイミングで、最高の威力を、最高の位置に叩き込んだガージは、手に伝わる確かな手ごたえに笑い――そうになった顔をすぐさま頭上へと向けた。
そこには、淡く緑色に光る戦鎚と、苦痛に耐える表情を浮かべるガードの顔があった。
「そうか・・オークフレッ―――」
「――≪粉砕≫」
自身の最高の一撃を喰らっても立っていられた謎を解いた瞬間、ガージの眼前にはスキルによって強化された重撃が迫っていた。
躱すには遅く、スキルを使う時間すらも残されていなかった。
読まれていたのだ。自分が攻撃を仕掛けることも、戦鎚を弾いた後にする動きもすべて。
そのことに気づいたガージは自嘲気味に笑い
「やるじゃねぇか・・ガード」
昔失望した弟の実力を、今再び認めるのだった。
ゴォォオオッッ
そうしてそこで、ガージ意識は途絶えた。
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「・・決まったな」
観覧席の中央、簡素ながら豪華な椅子に座る頭領のゴールは、ひっそりとつぶやいた。
普段なら周りにいるはずの、戦士たちは各々別の観覧席に座っているため、今は独りである。
頭領としての矜持から、「よいしょ」という掛け声を―誰も聞いてはいないが―出さぬように心がけながら立ち上がると、大きく息を吸った。
「そこまで!!今回の御前試合、勝者はラ・ガードとする!!!」
「「「「オオオオオォォォォオォオオオオオ!!!」」」」
試合を締めくくる自分の言葉に、オークたちが沸く。
それは今の闘いが素晴らしかったということを証明することであり、誰もがガージと、そしてガードの実力を認めたという事だった。
耳が痛くなるほどのうるさい歓声を聞きながら、ゴールは人を呼ぶと、伝言を託し使いに出した。
伝言を受け取ったオークが走っていくのを見送って、視線を闘技場へと戻す。
気絶しているガージ。心配そうに彼を見るガード。ガージを運ぶために下りてきた戦士の男たちを視界に収めながら、ぼんやりと今後の事について思考する。
――――と、そこで強い視線を感じ、思考を中断して視線の元へと目をむける。
そこにいるのは吸血鬼のショウの姿。そしてその近くからそそくさといなくなるオークの姿を見て、「伝言は伝わったようだ」と確信する。
それを確認したゴールは、魔獣の羽根で装飾されたマントを翻すと、闘技場の出口へと向かって歩みを進める。
ここからが、頭領としての仕事だと思いながら・・・・。
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「なんです?今のオークは」
主に耳打ちをして、そそくさといなくなったオークの背中を睨みながら、リードが尋ねた。
「ん?ん、ああ、なんか頭領さんが俺に話があるんだってよ。呼び出された」
ゴールが踵を返して歩いて去る様を見ていたショウは、リードの言葉に遅れて反応した。
「呼び出し、ですか。相変わらず随分と偉そうなやつですね、話があるなら自分から来るべきでしょうに」
出発前と一ミリも変わっていない頭領の態度に、苛立ちを込めて苦言をていするリード。相変わらずオークが嫌いだった。
「まあまあ、ここはあの人の砦なんだし、一番偉い人がよそ者に気を遣うのはよくないんじゃないか?」
「そういうものですか・・、しかし何のようですかね?」
「うーん、大方、約束に関することじゃないか?・・・また一悶着あるかもな」
出発前の光景を思い出して苦笑いを浮かべるショウ。
「約束など知らん」と頭領が言うところを想像して・・・あながち無い未来じゃないなと思い至ったことに寒気がした。
「その時はオークを斬る許可を・・・。しかし、もしかしたらお礼かもしれませんよ?洞窟の主を倒したのもそうですが、ガードがトラウマを克服したのもショウ様のおかげですから、ない話じゃないでしょう」
「それこそないだろ!・・まあいいや、とりあえず行ってみるよ」
全く想像できないその光景に、ショウは微笑を浮かべた。
「お気をつけて、俺は割り当てられた部屋で休んでいます」
「おう、じゃあ後で」
そういって二人は別れると、各々目的地に向かって歩き出した。
ショウの頭の中は、頭領の話についてが大半を占め、そしてほんの少し、ガードに与える魔名について考える容量があった。




