第51話 決意の帰還
「・・はぁ頭領!頭領!!はぁはぁ・・」
「どうした、何かあったか?」
息を切らし慌ただしく駆け込んできた若人に、反対にゆっくりとした態度で返事をする。
なおもあわてて話そうとする男に手で落ち着くように指示をして、頭領のラ・ゴールは男の息が整うのを待った。
深呼吸をして息を整える姿を視界に収めながら、ゴールは何があったのか思案する。
頭領である自分に伝えられる情報は、その立場上、重大な事ばかりである。
食糧が足りない、何者かがやってきたなど、頭領でしか対処できない物で、それ以外の事は息子であり、戦士長でもあるラ・ガージが解決し事後報告することになっている。
今抱えている問題といえば、獲物不足による食糧難。・・・それと、数日前にやってきたショウという吸血鬼とその配下のゴブリンの存在だろう。
「侵入者」として彼らを排除しようとしていたガージ、彼の判断は間違っていなかった。
問題はショウたちの強さ。侵入者ありとの知らせを聞いて見てみれば、戦士長のガージでさえ苦戦させていた。
ガージはまだまだやる気で、それに呼応するように、防戦一方だったショウも、ついにはやる気になっていた。急いで止めなければあわや大惨事になっていただろう。
ショウたちを通し話を聞いて望みを知って、つい憤慨してしまった。
歳のせいか・・・いやおそらくはレールイという人間のせいだろうが、無責任にまるでなんでもないようにオークの業を求める輩に、これ以上我慢できなくなっていたのだった。
その怒りが情報の共有よりも、オークの誇りを優先させ、「洞窟から生きて帰ったものはいない」と嘘をついてしまった。オークが敵に背を向け逃げ帰ってくるなど恥だと思ってしまったのだ。たった一人で情報を持ち帰ってくれた戦士を。
いや、もしかするとショウに断られるのが怖かったのかもしれない。それほどまでに彼の実力を無意識に認めてしまっていたのだ。自分の傲慢な態度に怒る彼の様子には、周りの戦士たちですら恐怖するほどだったから。
ショウならば『洞窟の主』を倒してくれるかもしれない、そして彼に預けた息子になにか良き変化が―――――
「頭領!頭領!!」
「む!で、どうしたんだ?何があった」
男の声によって思考は中断され、頭領は正気をとりもどす。
まるでボーッとなどしていなかったかのように頭領として尊大な態度をもって、やってきた男に事の詳細を尋ねた。
「帰ってきました・・」
「・・まさか」
「そうです!ガードたちが帰ってきました!!」
「直ぐに行く。広場で待たせよ!」
知らせを聞いてすぐに玉座から立ち上がると、愛用の武器をもってゴールは歩く。
走りたい気持ちを抑えながら、なるべく急いで現場へと向かう。頭領として、砦内を走り回ることは出来ないのだ。
(帰って来たのか・・!けがはないのか?洞窟の主はどうなった!?・・・無事なのか・・ガード!!)
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「ふぅー疲れたなー」
「お疲れ様です」
額に腕を当てて深く息を吐くショウに、ガードは労いの言葉をかける。
両者とも服はぼろぼろで、まるで追いはぎに遭ったかのようなありさまである。
リードはというと、『元祖の怒り』によって暴走したガード戦のケガがひどいため眠っていた。起きるときと言えば飯を食べるときだけで、道中は――今もガードが背負っている。
彼らは現在砦の中・・門をくぐってすぐの広場に立っていた。
辺りには人だかりができ、彼らを囲んで、興味深げに観察している。
ショウとしては、早くけがの治療―おもにリードの―をしてほしかったが、「頭領が待てといっている」というオークの言葉と、ガードの親方が「俺が治療の道具持ってくるぜ!!」と走って行ってくれたことで、とりあえずは頭領の言葉に従って待つことにしていた。
幸い、当初に比べれば回復したおかげでリードのケガもそこまでひどいものではなく、そこまで急がなくても大事にはいたらない状態だったので、この判断を下すことができたのだった。
「頭領がお見えになるぞー!!」
「お?やっと来るか」
数分待ち、オークが叫んだかと思うと、ゴールはやってきた。
魔獣の羽根やら角などで装飾された服を纏い、どこぞの国の王のような風格をもってゆっくりとショウたちに向かって歩いてくる。
まずガードを、次にその背中のリードを見て、そしてショウとその手に持つ魔獣の首で視線を止めた。
やがてショウたちの前までやってきたゴールは、年季の入った戦鎚を、地面に突きたててショウたちに視線を注ぐ。
「それが『洞窟の主』か・・?」
「そう、しっかり討ち取って来たよ」
ゴールの前に魔獣の主の首を差し出す。
「そうか・・ご苦労だった。今日はゆっくり休むがいい、明日、我らの約束について話そう」
そう言うとゴールは踵を返しすたすたと歩き始めた。
「待ってください!頭領!」
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「僕を・・あなたの仲間にしてください」
「え・・」
突然のガードの言葉に困惑するショウ。
その様子を見て、おかしかったのか、ガードはいたずらが成功したかのような笑みを浮かべる。
「なんだ・・冗談――」
「冗談じゃないです。僕は本気ですよ」
ショウの言葉をさえぎるほどの熱意をもってガードは言う。
その瞳には本気の色が見え、ちょっと前まで泣いていたとは思えない程の気迫があった。
「本気なのか・・」
「はい」
困ったように頭を抱えるショウ。
しかしすぐに、まるで閃いたように顔を上げた。
別に良くね??
ショウの出した結論はこれだった。
あまりに突然だったため反射的にNOと言ってしまいそうになったが、よくよく考えてみれば何も問題はなかった。というより、ショウたちにとってプラスでしかなかった。
ガードが来ればショウの目的である鍛冶技術を手に入れることができ、食料で武器や防具を取引するのとは違い、ゆくゆくはゴブリンたちにその業を教えることが可能である。
それにガードには夢の話や、異世界人ということも話してあるので、むしろこれ以上ないほどの人物だと言えた。
「ああ、いいよ。ガードさえよければ俺の仲間になってくれ」
「はい!よかった!」
そう考えて言ったショウの言葉に、当然、ガードも了承し喜びをあらわにした。
「なあいいよな?リード?」
遅ればせながら右腕のリードに確認を求めるが返事はなく、そこには倒れ伏す彼の姿があった。
「リードさん!!」
「リード!!」
あわててガードはリードに近寄ると、状態を確認する。
「・・・寝てるだけです。けがはひどいですけど命に別状はないでしょう。すごい生命力ですね」
「そっか・・よかった」
ショウは安堵の息を漏らした。
「・・リードさんは魔名があるんですよね、だからあんなにも強い・・」
「ガード?」
「ショウさん。新参者の身でありながらおこがましいですが・・僕にも魔名をくれませんか?
僕、もっと強くなってお二人の役に立ちたいんです!今のままじゃ、『元祖の怒り』に負けるようじゃダメなんです!
お願いします!僕に恩返しをさせてください!!」
リードを丁寧に寝かせて、頭を下げてガードは懇願した。
頭を下げているため表情はうかがえないが、その思いの強さは、言葉に乗った熱量から量ることができた。冗談なのではなく本気のものである。
その様子を見てショウは思い出す―――リードの姿だ。
リードがショウに忠誠を誓った時もこんな感じであった。頭を下げて、話す言葉は真剣味を帯びていて覚悟がひしひしと肌に伝わる。
ガードは本気なのだ。ならば、それに応えなければならない。
「ああ、わかった。ガード、お前に魔名をやるよ。だから顔をあげろよ」
「よかった!ありがとうございます!・・・でも今は受け取れません!」
「え?なんで・・?」
「僕が魔名をショウさんからもらうということは、僕がショウさんの臣下になるということ。
つまり、一族を離れるということですから、今の僕の状態じゃ受け取るのは筋違いです」
「ということは・・?」
「はい、僕はラの一族を抜けます。そのために――――」
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「僕は一族を抜けここにいるショウ殿に仕えることにしました!!」
「何だと!?」
背を向けて歩いていたゴールが、目を剥いて振り向く。
そんな頭領の様子を収めながら、ガードは視線をその奥に立つ赤髪のオークに向けた。
『そのために―――』
「戦士長、ラ・ガージよ!オークの伝統に則り、そなたに決闘を申し込む!!」
『そのために、一番強い戦士である兄に勝たなくちゃいけません』
ガードの宣言が砦中に響いた。




