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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
51/110

第50話 死闘ではなく喧嘩

大変お待たせいたしました!!!

次はなんとかもっと早くに投稿します!!!


「おおっ!!」


 始まりはリードによる斬撃。

ショウより少し遅れて飛び出したリードは、その間を埋めるように後方から跳躍。文字通りガードにとびかかった。

それをしっかりと視認し、ガードは打ち返そうと戦鎚を構えて――――


「はぁあっ!!」


 ――――いつのまにか懐にまで接近していたショウの攻撃に気づいた。

圧倒的な力を誇る『元祖の怒り』。魔人であるショウでさえ恐怖するほどの強大な力。

力で劣っているショウとリードがこの戦いにおいて勝っている点、数の利を生かした作戦だった。

ショウに対処すればリードが、リードの対処すればショウが攻撃を加えられるという状態を、彼らは作り出すことに成功した。


(どっちにしろ一撃は与えられる・・!!)

(そうしてできた隙に畳み掛ける!!)


 同じ事を思い浮かべながら、ショウとリードは作戦の結果を待つ。

無論、どちらも手を抜いていない。一撃で戦闘不能にしてやるという意志を乗せた、本気の攻撃である。


「ウガアァァア!!」

「ぐっ!!」


 ガードが選んだのはショウ。横に薙ぐように放たれた片手剣を、その刃を折るほどの勢いで戦鎚をぶち当てて弾いた。

ショウは苦悶の声を上げで、まるで車にぶつかったかのような衝撃を感じ、そのまま跳ね飛ばされた。

しかし、それほどの攻撃を受けながら、ショウは内心笑みを浮かべる。作戦は成功した、と。

後方へと吹き飛ばされながら、ショウの視界にはガードの姿が映る。そしてガードの表情を見て、ショウの背筋に寒気が走った。


 ガードは笑っていた。


「まさか・・!!」

「なっ!!」


 嫌な予感がして振り向くショウ。

同時にリードが驚きの表情と共に両手剣を振り上げている姿を視認した。


 ゴッ

固いものが岩にあたったような、静かでにぶい音が響くと、飛んできたショウにぶつかって、リードもショウ同様に後方へと飛ばされた。


「≪蝙蝠移動≫」


 体が四散するような妙な感覚を覚えながら、ショウの身体は何十匹という蝙蝠の群れと化した。

そしてすぐに人型に戻ると、吹き飛ばされた衝撃などなかったかのように、ショウは地面に足をつける。

リードは両手剣を突き刺すことで衝撃を緩和。見事地面へと着地していた。


「まいったな・・まさかあれを防がれるとは」


「ええ、ガードのやつなかなかやりますね」


 視線をガードに向けつつ、二人は言葉を交わす。

驚くべきは、ガードのショウを吹き飛ばすほどのパワーと、プロゴルファー並のコントロール力だ。

最低でも一撃は与えられると思っていた二人にとって、この結果は精神に衝撃を与えるのに十分だった。


「同じ作戦は・・」


「通用しないでしょう。・・ふぅ接近戦しかありませんね」


 ガードを警戒しながら短く息を吐き、コキリとリードは首を鳴らす。

その様子を視界の端に捕えながら、ショウは黙って気持ちを引き締める。

ガードの怖いところは何と言ってもその強大な力。『元祖の怒り』からくるパワーと戦鎚本来の武器としての攻撃力が合わさって、爆発的な破壊力を生み出している。

しかし何事にも欠点や短所があるように、この圧倒的な力にも突くべき点はあった。

それはその圧倒的な力を生み出す要因のうちの一つである戦鎚。そのリーチだった。

長柄の先に鉄でできた槌をくっつけたその武器は、重量と振り回すことによって生じる遠心力によって高い攻撃力を誇るが、逆を言えば、振り回すことのできない程に距離を詰められるとその性能を十全に発揮できない。

つまり、ガードの攻略法として、ショウとリードには接近戦しか道は残されてなかった。そしてその事を二人は既に理解していた。


「・・いきます」


 短く、それだけ言うと、リードは駆け出す。

眼前には両手で戦鎚を構えるガード。そんなことを構わずになおもリードはガード目がけで突進した。


「おおっっ!!」

「ウガアァアア!!」


剣と槌が激突する。

互いの腕がその衝撃によって痺れるが、両者の表情にはそれは表れない。

衝撃に浸る暇もないまま、リードは続けざまに両手剣を振るう。

回転する勢いで体をひねり左右から連続で重撃がガードを襲う。

速く、滑らかなその攻撃を、しかしガードは冷静に戦鎚ではじいていく。

キィンキィンと硬質な音が鳴り、火花が散る。何合、何十合と切り結ぶ中、リードの勢いはいまだ衰えない。


「ウオオォオ!!!」


 吠えるリード。それに呼応するかのように両手剣はより速く、苛烈に振るわれる。

横からではなく、縦。慣れた頃にななめ。流れるような動きでリードは腕だけでなく、身体をひねり、まさしく縦横無尽にガードを攻め立てた。

エリート・レントの闘技場のエース、ダインを完封し、吸血鬼のショウを苦しめた鬼の猛攻。

小鬼人ホブゴブリンの頃に編み出したその技は、人子鬼ホブロンに進化した今、さらなる高みへと至っている。リード・ホブソードの本領発揮であった。


「ウガァ!」


 守勢でいることに耐えかねたのか、ガードは肩を突出しリードめがけてタックルをかます。

当然リードの剣の餌食になるところ、しかしあろうことかガードの肌は両手剣をはじいた!


「な!」

「ウガァァ!」


 目を見開き驚くリード。見ればガードの身体が淡い緑色の光を纏っていた。

洞窟の主の爪を防いだスキルか、と気づくリードに、緑色の巨躯が眼前へと迫っていた。

剣を弾かれ、わきが開き無防備な体制から、リードは人子鬼の筋肉を総動員し、無理やり屈む。筋肉が非難の声を上げるが気にせずリードは衝撃に備えた。

ドゴォ

再びの激突。

多大な衝撃と共に、感じる相手の圧倒的な熱量。食いしばった歯の隙間からは血が飛び出て、一瞬世界が色を失う。

踏ん張っていた足の感覚が薄れ、力が入らなくなり、剣を握る力も同様に薄れていく・・・・が―――


「耐えたぞ・・・!!オオオオアアアアッッッ!!」


 天にも響く咆哮と共に両手剣をすくい上げるように振るう。

腹の底から再び熱が全身に回り、視界に色を、足には踏ん張る力を取り戻させた。

至近距離から放たれた剣撃がガードの腹をなでるように斬りながら彼の首へと動き――緑色の大きな手によって止められた。

片手ながらその力はすさまじく、掴まれた両手剣は引き抜けない。その隙を狙ってもう片方の緑手が鉄の槌をリードめがけて振るう――しかしそれは風をきって現れたショウによって止められた。


「わりい遅くなった」


 リードとガード。二人のあまりに激しい戦闘によって、手出しができないでいたショウが、仲間のピンチにようやく参戦できた。

槌をそのまま受け止めるのではなく側面をはらうように片手剣をぶつけることで、ショウは何とかガードの攻撃を防ぐ。

もしそのまま受け止めていたら、また、もしガードが両手で戦鎚を振るっていたらこううまくはいかなかっただろう。


「あああっっ!!」


 ショウは片手でガードの腕をつかむと、ソレを軸にして逆上がりの要領でガードの顔面に蹴りを叩き込んだ。

あまりに速いその動きにガードはついて行けず顔面へともろにそれを喰らう。

わずかに怯んだ様子を認めたショウは跳躍、圧倒的な身体能力に頼った動きから、今度はパンチを見舞った。

しかしことはそううまくはいかず、ガードは反射的に戦鎚を持っていない方の手でそれを防いだ。

鉄よりも固いものにあてたような嫌な感触がショウを襲う。ガードはショウの拳を握るとそのまま引っ張ろうとして――――下方の殺気に気づく。


「剣を・・放したな?・・オオオッッ!!」


 殺気の主、リードは炎のように熱い息を吐きながら両手剣を両手で振るい、ガードの身体を切り裂いた。

逆袈裟に斬られたガードの腹は、スキルによる守護はもうなく、傷口に沿って血が噴き出す。


「ウオオォアオアオオ!!!」


 傷を負ったことに憤慨したのか、ガードは獣のように叫ぶと、戦鎚を突き出してリードを殴った。

「グフッ」と咳き込むような声を上げて、リードはその衝撃に耐えられずたたらを踏む。殴られた額からは血が滲み、酸素を欲して開けられた口からは涎のように血が流れる。


「やめろ!!」


 これ以上させまいとショウが振るった片手剣は、あっさりとガードの戦鎚によって防がれる。

片手を封じられて、体勢が整っていなかったショウの剣は十分な威力を発揮できなかった。


「くそっおおおああああ!!」


 ブオォンという風切り音とともにショウは吹き飛んだ。ガードに投げられたのだ。

すぐさまスキル≪蝙蝠移動≫を発動させ蝙蝠の群れと化したショウは、引き返すようにガードの元へと向かう。

ガードの元へと戻るまでの数秒、その間にガードはふらふらと足元がおぼつかないリードへと近づき上方へと戦鎚を構えると――――


(やめろ・・・!!!)


 ―――――そのままリードの頭へと振り下ろした。

蝙蝠となっているショウは言葉を発せず、また心中の思いも通じることなくそれは行われてしまった。

意識が朦朧としていたリードでは躱せるはずもなく、『元祖の怒り』によって強化されたその一撃は、轟音をたててリードを地面へと沈めてしまった。

額から流れる血が地面を濡らし、リードを中心に広がっていく。


「リード!!」


 人の形を取り戻すと同時にショウが振るった剣は、ガードに届かず吸い込まれるように戦鎚とぶつかる。


「おおおおっっ!!」

「ウガァウ!!」


 ショウは弾かれても構わずに何度もガード目がけて剣を振るう。

まるでその気迫に押されたかのように、じりじりとガードは後退させられていく。


「ウガアァァアウ!!」


 オークの剛腕から繰り出される重撃。

ショウの気合いに負けじと叫んでガードは放つがショウの反応がそれを上回る。

防ぐと同時にすぐさまショウは次の攻撃を。ガードはうまく戦鎚を回転させてなんとかそれを防ぐ。

右から――鎚を当てて防ぐ。上――柄で軌道をそらす。下――少し退いて回避する。

繰り出されるショウの剣撃ひとつひとつに対応するガード。ショウの剣は速かった。

多少は荒があるもののその剣捌きは剣士と言っても何ら遜色なく、縦横無尽、ありとあらゆる方向から変則的に振るわれることで防御もしにくい。

さながらリードの猛攻のように。違う点は彼のモノが両手剣なのに対し、ショウのは片手剣なので軽い分速く、威力が落ちるという点。

しかしその点でさえも吸血鬼の力でカバーされており、あたればたとえガードだろうと余裕でいられるほど甘いものではなかった。

『元祖の怒り』で理性が飛び――いや、理性が飛んだからこそ本能によってそれを感じているガードは、培った技術、与えられた戦士としての才能を駆使してショウと互角に渡り合っていた。


(くそ・・重い!!)


 連撃に次ぐ連撃。

まるでマシンガンのごとく剣を振るい、しかも一刀一刀に全力を乗せながらショウは思考する。

普段リードと特訓していた成果が出ていた。彼を見て、彼と闘って吸収した剣技。それに自分の癖が入った今現在のショウの技は確かにガードに通用している。

それは嬉しいことだ。しかしながら、たとえ吸血鬼と言えどずっとこれを――縦横無尽に剣を走らせるこの剣技を続けられるわけではなかった。

理由としてまず体力。全力で剣を振るうのにも消費するのに、それを様々な方向からずっとというのは、普通に考えて体力が持つはずがなかった。

そしてそれ以上の理由としてガードの存在があった。

ショウはガードを正気に戻す方法として、彼を叩きのめして体力を奪えばいいと考えている。とんだショック療法である。

とにかく、そう考えているショウとしては―当然、ガード相手では手を抜けないので―全力で闘っているが、ひとつ予想外のことがあった。

ガードの防御力である。

彼の戦鎚捌きはまさしく一級品であり、大抵の攻撃は弾かれ、流され、かわされてしまう。

そしてなんとか攻撃を当ててみても、直撃は防がれ、しかも―オークの特性なのか―異常に肌が硬く生身の防御力が段違いで、刃がそう簡単には通らなかった。

その事を闘ってみて気づいたショウは今一抹の不安を抱えていた。


『このまま剣で倒せるのか?』


 剣撃が有効なのは間違いない。それはリードがつけた傷から分かる。

しかし同時に、リードはその後すぐに、剣を振るった後のわずかな隙を突かれ倒されてしまっていることから、剣を当てるならそれで勝負を決めなければならないということも証明していた。

このまま攻撃をし続けて相手の体力を奪うというのも戦略の一つではあるが、自信の残りの体力と、かかる時間の大きさがショウにそれを続けることをためらわせていた。

案はあると言えばある。危険が伴い、ともすれば失敗に終わる可能性の方が高いものが。

だがそうだとしてもそれ以外に案はなく、時間もない。早く終わらせてリードの手当てをしなければいけないからだ。


「よしっ!!」


 洞窟の最奥にビリリと空気を震わせる気合いの一声が響いた。

発したのはもちろんショウ。剣撃と剣撃の合間にその言葉の意味するところは――ショウが勝負に出ると言う事だった。


 ガキィィイ

いつも通り止められた片手剣。しかし今回はいつも通りではない。

持ち主であるショウは両手で持っていたそれをすぐさま片手持ちにして、のこした半身をガードにぶつけた。

それによってわずかにガードがよろめくが、しかしそれだけ。緑の山はその程度では崩れない。

が、それを含めてショウの計算通りであった。


「≪眷属召喚≫」


 ショウのつぶやきと共にスキルが発動。彼の影から夜の眷属たちが舞い出た。

眷属たちは滝のように現れ続け、ガードの視界はまるで夜のように闇に包まれた。


「ウガァアウ!!」


 ガードはあわてない。煩わしそうに声を上げながらも前回の経験で学んだ彼は、前回同様に戦鎚を振るって眷属たちを消滅させ―――


「だよな。前と同じことをすると思った、だから前より多めに出したんだぜ?ガード」


 ―――眼前に現れたショウの顔を見て、自分の犯したミスに気付いた。

ショウがやったことは前回と同じこと。眷属を使って視界を遮ってガードの目から逃れる。そしてガードは前回同様に戦鎚を振るった。振るってしまった。

たとえどんな優れた戦士でも攻撃の後は、ほんの小さな隙ができる。しかしその隙をつくのは相当の実力者でないと不可能だろう。

しかし今回の場合、ショウは前回の経験からガードが戦鎚を振るうことが予想できた。予想できるなら、前もって隙ができるタイミングを知ることができるなら・・・・そこを突ける!!


「ウガアァァァアアア!!」


 焦ったようにガードはショウにむかって戦鎚をぶつけようとする。

風を切って横から迫るそれを、ショウは見向きもせずにただつぶやいた。


「リード」


「≪ゴブリンの・・一撃!!!≫」


 ショウと戦鎚の間に差し込まれるように、赤くほのかに輝く両手剣が現れた。

轟音を奏でて剣と鎚がぶつかり衝撃が大気を震わせる。


「オオオオアアアアッッッ!!」

「ウガァウ!?」


 繰り出された両手剣は勢いそのままに、鎚を断ち天に向かって突き立てられた。

勝ったのはリード。その赤い肌を血でさらに赤く染めた、ショウの忠臣、リード・ホブソードである。


「いくぞガード・・!!」


 その声に、今自分に迫っている危機を思い出してガードがショウを見た。

彼は剣を捨てて右手を音がするほど握りこんでいた。

目線の高さが同じになるほどわずかに跳躍し、後方から聞こえる仲間の息で存命を知っていたショウはわずかに笑みを浮かべながら、固く握ったその拳をガード目がけて振りぬいた。

ガツッと音を立ててショウの拳は的確にガードの顎を捕えた。

ただのパンチ。だが侮れない。吸血鬼のソレは人間のものより高威力で、その衝撃は顎から伝わってガードの脳を揺らした。


「ウウゥ・・・」


 あれだけ斬りつけても、身体をぶつけても揺れなかったガードの身体がぐらりと揺れた。

ひざががっくりと落ち、ショウのパンチの威力を表すように体が流れる。


「・・ウガアァァァア!!」


 しかしそれでも、ガードは倒れることを拒否した。

壊れた戦鎚を捨て、未だ空中にいるショウ目がけてアッパー気味のパンチを放つ。

なにがそこまで彼を駆り立てるのか。咆哮をあげて拳を振るう彼の姿は、ショウにはとても苦しそうに見えた。


「目ぇ覚ませ!ラ・ガード!!」


 ガードのアッパーを両手で受け止めショウは叫ぶ。

本能に埋もれた理性を呼び起こすため。苦しむ友人を助けるために。


「≪吸収ドレイン!!≫」


 瞬間、両者を赤い光が包んだ。



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


 声が聞こえる。

聞いたことがあるようなないような、でも安心できるそんな声だ。

というかここはどこなんだろうか。辺りは真っ暗で何も見えやしない。


―――ド


 ん?また声が聞こえた。一体こんな暗い場所のどこから聞こえてくるのだろうか。


―――ド!


 ん?今なんか光らなかった?・・・おかしいなまだ暗いままだ。

僕は今何してるんだろう。立ってるのか横になってるのかさえわからない。なんていうかこうーー漂ってる?そんな感じがする。


―――ード!


 -ど?なんて言ってるんだろう。よく聞こえない。

あ!光った。やっぱりさっきも光ってたんだ・・・どこが光ってるんだろう・・・よく見えない。


―――ガード!!


 うわっすごい光!!・・・ん?ガード?ガード・・・ああ、そうか。

僕の名前だ。誰かが僕の名前を呼んでいるんだ。返事しなきゃ・・・・・・なぁんだ。暗かったのは僕が目をつぶってたからか・・・今行きますよショウさん。


∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「ううぅ・・」


「起きたか!ガード!」


 うめき声をあげながら上体を起こすガード。

夢を見ていたような気がするがよくわからない。自分はいままで何をしていたのか。


「ショウ・・さん?僕は一体・・・!!!」


 気絶明けのガードは状況を把握しようと近くにいるショウに目を向ける。

未だはっきりしない意識で発した言葉を――思わずガードは途中でつぐんだ。


「大丈夫、ちょっと気を失ってただけさ。洞窟の主はきっちり倒したから」


 笑いながらショウは言った。


「いや・・これは・・!・・そういう・・ことですか。僕は・・僕はまたやってしまったんですね・・」


「別に何も間違ったことはしてないぞガード。お前は・・」


「嘘言わないでください!これは・・それは・・僕が、僕がやったんでしょう!?」


 マントはびりびりに裂けており、所々露出した肌には、なにかに打ち付けられたような打撃痕がある。

口や手からは出血しており、足からも大きな傷跡がうかがえるショウ。

生傷がおびただしいそれは激しい戦闘があったことが予想できた。ずいぶんと痛々しい。

しかしそれ以上にひどいのが彼の後方で立つリードであった。

額にまかれた布は真っ赤に染まり、今なお染まり続けている。

マントは裂け、中の服までも破れており、望める肌全てにむごいほどの傷跡が。むしろ傷がない部分を探すのが難しいほど満身創痍である。

なぜ立っていられるのかわからない程の傷を負いながら、それでもなお立ち続けるリードの姿はどこか異様だった。

そしてそれらの傷は少なくとも洞窟の主と闘った時はなかったように見える。つまりは――――――――


「僕が・・僕の『元祖の怒り』がまた暴走して・・あなたたちを傷つけた・・僕はまた同じ過ちを・・」


 まただ。またやってしまったのだ。

十数年前に発現して生まれたトラウマを、ようやく克服できたと思った矢先に、また・・・。また大切な人を傷つけてしまった。

ガードの頭にぐるぐるとそんな考えが回る。


(きっともう・・二度と克服はできないんだろうなぁ)


「おいガード!調子に乗るなよ!」

「え?」


 悲しみに沈むガード。

そんな彼に予想外の声が浴びせられた。


「いいか?お前はなんか俺たちを傷つけたことを悲しんでるみたいだけどな、自分の身体を見てみろよ!お前も相当喰らってるぞ」


「え・・・」


 ショウの声に従って自分の身体を見てみるガード。

確かに体の所々に切り傷がある。一番大きいのは上半身を斜めに切ったような大きな斬撃の痕。あと顎が痛かった。


「お前なんか一方的に俺たちをやっちまったって顔してるけどな、おれたちだって十分お前に攻撃してるから。

 というか勝ってるから。なぁリード?」


「おっ・・しゃるとおりです」


 ショウの問いにリードが苦しそうに返事をした。


「え・・許してくれるんですか?僕があなたたちをそんなになるまで傷つけたっていうのに・・」


「許すも何も・・お互い様だって。あんなのただの喧嘩みたいなもんだし。

 それに知ってるだろ?俺たちが強いってことは!ガードの『元祖の怒り』大したことなかったよ!はっはっ」


 笑うショウの横を通って、多少ふらつきながらリードがガードの目の前まで移動した。


「・・楽しかった、ぞガード。またやろう」


 両手剣を地面に突き刺して、ソレを杖代わりにしてリードは言った。

晴れやかな笑顔で。額から流れる血など気にせずに。


「・・あなたたちは・・本当に・・」


 ガバッとガードは両手で顔を覆った。

その動きに怪訝な表情を浮かべたショウとリードだったが、その数秒後すぐに理解して微笑を浮かべた。



 ガードは泣き出した。


 わずかに嗚咽の声を上げながら、しかしその表情は見せずに静かに泣いた。

二人にあってから彼は驚きの連続だった。オークには・・いやもしかしたら世界でも類を見ないような彼らの考え方を知るたびに、ガラガラと自分の中の常識が崩れ去るのを感じていた。

誰もが同情する話をすれば、「そんなことは自分が口を出すことじゃない」と。命を張る理由を尋ねれば、「仲間の為だ」と。

そんな彼ら・・いやショウという男の考えに触れたおかげで自分はトラウマを一時的に克服することができた。

しかしそれもつかの間。気づいたら同じことを繰り返していて、また絶望の渦にのみ込まれた・・・と思ったのに、彼はまた自分を救ってくれた・・・助けてくれた。

吸血鬼ヴァンパイア小鬼ゴブリンに助けられて、ガードは嬉しすぎるあまり泣いたのだ。


『俺はショウ様について行くだけだ』


 今になって思いだされる言葉。何気なく聞いたこの言葉が今は深く心にしみていた。

静寂の中、わずかになっていた嗚咽の音がやみガードは顔を上げた。

見上げれば、そこには恩人であるリードとショウの顔。

人間にしか見えないショウの顔は、困ったような優しい笑みを浮かべていた。


「ショウさん・・・」


「ん?なんだガード」


「僕を・・あなたの仲間にしてください」


 ショウの驚いた顔を見て、ガードはやり返しだと言わんばかりに無邪気に笑った。










 


あともうちょっとだけ第二章は続きます

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