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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
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第49話 助けるしかない


「おおおおぉおぉおぉおおおお!!!」


 死体となった洞窟の主の前で、リードは吠えた。

両手剣を片手で握り、もう一方の手は拳を作っている。

長身の鬼が天に向かって叫ぶその雄叫びは、洞窟内で反響し、どこまでもどこまでも響いた。


 そんなリードの姿を見て、ショウは微笑する。

これだ、これこそがリード・ホブソードという男なのだと感じて。

リードと出会ってしばらくたち、今ではすっかり従順な臣下と言った感じになったが、それでもやはり本質は変わらない。

初めて闘技場であった時の、角がまだなかったのにもかかわらず「鬼」と感じたほどの気迫の持ち主。

生来の戦士であるこの姿こそがまさしく彼の本来の姿であった。


「ありがとうリード」


「あ、いえ、ショウ様の助けがあったからこその勝利です」


 ショウが声をかけると、我に返ったのか、雄叫びをやめてリードが答えた。

強敵だった。ショウにはそこまで戦闘経験があるわけではないが、そのわずかな戦闘経験のなかでもトップクラスなのは言うまでもない。

次があるなら、もっと楽に勝てるようにしなくてはと、自身の弱さを再確認した。


「!そういえば、ガードは!?」


「あ!ガード!無事か?」


 弾かれたようにガードの方へと目をやるショウとリード。

正直忘れていた。あまりに戦闘が苛烈だったため、それ以外の事が頭になかったのだった。

もちろん無事なわけがない。自分で言っておきながらなんだが、あの洞窟の主の一撃をまともに喰らって無事なはずがないのだ。

しかしそんなショウの思いを裏切るように――――


「あ」

「む?」


「うううぅううぅう」


 ―――ガードは立ち上がったのだった。


「だ、大丈夫なのか?無理しなくていいんだぞ?」


「ううぅう」


「おい。ガード?無事なら返事をしろ」


「ううぐぅう」


 ショウたちの呼びかけにガードはうめくだけ。

ふらふらと体を揺らし、両手は頭を抱え込でいる。


「・・まだ意識がはっきりしていないのか?どう思うリード」


「様子が明らかにおかしいですね。・・まるでなにかに苦しんでいるような・・」


「うううぐうぅう」


「と、とりあえず休もう。ガードは運んで寝かせた方がいいよな?」


「ええ、そうですね。手伝います」


 様子のおかしいガードに怪訝な表情を浮かべつつも、ショウとリードはガードへと近づく。

近づくにつれて、手で覆われている表情が徐々に見えるようになってくるが、やはりそこに正気は見当たらない。未だよく見えない部分が大半だが、ガードがいつも通りでないことはそのわずかな部分からでも容易に読み取れた。

歩みを進めながら、ショウとリードはわずかに警戒の帯を締める。

遠目から見ればまだ意識が定まっていない負傷者と言った印象を受けるが、近づくにつれてそれが間違いであると感じるのだ。

負傷者とは思えない重圧。それがガードに近づくにつれて徐々にその圧が増してる気がする。

嫌な予感がショウの頭に、それはどうやらリードも同じようで、闘いが終わったはずなのに両手剣をしまわず、今でも片手で強く握っている。

双方の距離およそ二メートル。その程度まで近づいて、ショウの頭に天啓のごとくある予測が打ち立てられた。


「まさか―――」


 ギラリ


 ゴゴオオオオォォォンン


 突如として響く轟音。

空気が爆発したかのような衝撃音、その発生元から風が吹き荒れ土ぼこりが舞う。


「やっぱり・・これが『元祖の怒り』ってやつか?ガード」

「ウガアアァッァアアアア」


 音の中心、風の発生源には、怒り狂った様子で戦鎚を握るガードと、ソレを受け止めて踏ん張るショウの姿があった。


「ショウ様!」


「俺は大丈夫だ。・・くっ、力がめちゃくちゃ強い・・くそっ」


「ウガアァァアアアアハアア」


 言葉を知らない獣のように唸り、ガードはショウを睨む。

瞳はぎらぎらと輝き、それは間違っても友に向けるようなものではなく、言うなれば獲物に向ける狩人のそれであった。

ショウは頭にあった予想を確信した。昨晩ガードが話した自身のトラウマ、それをつくった原因のもの。現在の彼の状態と合致するそれは、間違いなく『元祖の怒り』といわれる暴走状態だった。

ガードの話では、それが発現したのは幼少の頃。二年上の兄を吹き飛ばし、十数人の大人たちに抑え込まれるまで暴れたという。

そう考えてショウは自身の背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(子供のころに大人が十人がかりでやっと・・)


 ――ということは成長した今はその頃よりも格段に強いのではないか?


「・・勘弁してくれよ」

「ウガアァァァアアアアア」


 自嘲気味に笑うショウに対して、ガードは吠えることで応える。

ショウの予想を裏付けるように、ショウを押す戦鎚の・・ひいてはガードの力がどんどん増していく。

地面をえぐるほど足に力をこめ、両手で剣を抑えて戦鎚に対抗する。

生物のヒエラルキーの中で頂点に君臨する魔人。その一種である吸血鬼の力を総動員してショウは『元祖の怒り』に立ち向かった・・・が。


「ぐっ・・押し負け・・!!!」

「ショウ様から離れろ、ガード!!」


 オークが魔人の力を凌駕したその瞬間、小鬼ゴブリンから両手剣が叩き込まれた。

当たればタダじゃすまないその一撃を、ガードは戦鎚の柄をあてて力の流れをそらすことで回避する。


「な!」


 そのままガードは器用に戦鎚を回転させると、槌の部分を驚くリードにめがけて振るった。

しかしそれはリードではなく、両者の間に差し出された片手剣へとぶつかった。

異常なほどの衝撃が、片手剣を握るショウの腕に伝わり痺れる。その隙を狙い撃つようにわずかな時間で体勢を整えたガードの戦鎚がショウに襲い掛かる。


「おおおおお≪眷属召喚≫!!」


 瞬間、ショウが味わったのは恐怖だった。

それを打ち消すために無意識に叫び声をあげ、逆に意識してスキルを発動させる。

ショウの影からぞろぞろと狼、蛇、蝙蝠と言った動物たちの影か這い出てガードの視界を覆った。


「ウガァウ!!」


 突如現れた影に驚き、攻撃を中断するガード。 

しかしすぐに持ち直して、うざったい、そう言いたげに短く吠えると、ガードは影目がけて戦鎚を振るった。

たった一振りで眷属たちは消え去り視界が戻る。しかしその頃には眼前にいたはずのショウとリードは後方へと下がっていた。


「はぁはぁはぁ」

「ショウ様」


 リードを小脇に抱えて後方に跳躍したショウは、荒く息を吐きながらガードから目をそらせずにいた。

咄嗟に判断してスキルを発動し、なんとか距離をとることができた自分をほめてやりたかった。


「ショウ様!」

「は?あ、ああすまんリード」


 二度目の呼びかけによって我に返ったショウは、小脇に抱えっぱなしであったリードを地面に下ろす。

そんなことに思考が裂けない程にショウはまいってしまっていた。


 強い。

単純にそれだけ。危険とか恐ろしいとか、そういった印象もないではないが、何よりも一番強い印象はそれだった。

あれが『元祖の怒り』の力なのか。正直これほどまでとは思っていなかったショウにとって、それは衝撃的すぎた。


『――それ以来、闘う事が怖くなっちゃったんです』


 昨晩聞いたガードの言葉が思い出される。

同時にそれを言った時の彼の表情も。

悲しそうな顔だった。自分には何もできないと言ったようなそんな無気力な顔。

オークという「力」に強い思いを持つ種族の中では、力があるのに闘えないガードは文字通り役立たずという扱いを受けて来たのだろう。事実、ガードもそう言っていた。

しかし――――


(ガード・・おまえこんな力を抱えたままずっと生きてきたのか・・・誰も傷つけないように闘いから離れて、自分の力に怯えながら・・)


 なんという人生だろうか。しかし、それが納得できるほどの強大すぎる力がショウの目の前に確かにある。

あまりに危険すぎる力。御しきれなければ、すべてを破壊してしまうほどの・・。


(やっぱり、あの時に何も言わなくて正解だった)


 思うところはあった。しかし昨晩、ガードのトラウマを聞いた後にショウはあえて何にも言わなかった。

そしてそれが今正しかったと改めてショウは感じていた。だってこれほどの大きな力だと知らずに、さも知った風に話すなんて、それがたとえ憐れんで同情する類の言葉だとしても、おそらくガードには届かなかっただろうから。

しかし、今なら理解できた。もちろん全てとはいかないだろうが、それでも他の誰よりも、ガードの力を知った今なら、彼の辛さが理解できたのだ。

そしてそれが理解できた今、ショウの思いは一つだった。


「リード・・」


「はい?」


「ガードを救いたい、力を貸してくれ」


「仰せのままに」


 正直ショウは怖かった。吸血鬼になってこれほどの恐怖を感じるのは初めてであった。

『元祖の怒り』はそれほどまでに強力だった。例えるなら竜巻のような力の奔流。手を出せば切り刻まれると錯覚するほどの。

しかしそれ以上に、ガードを救いたい気持ちがあった。ガードは暴れたいのではない。だというのに力が暴走するというのは悲劇と言わずしてなんというのか。

それにショウは一人ではない。傍らには、この世界で一番信頼できる仲間のリードがいるのだから。


「連戦でちときついですが・・ガードの目を覚まさせてやりましょう」


 両手剣を構えてリードが笑う。

あるじの願いを理解して、それを手伝おうとする忠臣の姿である。


「ああ、第二戦目だな・・終わったらガードにうんと文句を言ってやろうぜ」


 リードの笑みを受けてショウもまた笑う。片手剣を構え直し目線はガードへと向けた。

あの温和な性格はどこへやら、目の前にいるのはガードではなく、怒り狂った獣だった。

ショウの視線にかぶせるように、ガードもまた、その血走った瞳で睨むようにショウを見る。


(待ってろガード・・今助けるぞ!)


 決意を胸に、ショウは飛び出した。

それに続いてリードが。わずかに遅れてガードが突進を繰り出す。


「ウガアァァァ」

「おおっ!!」


 互いの叫びが試合開始のゴングのように響き、双方は激突した。


 

あとちょっとで第二章終わります

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