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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
48/110

第47話 Who are you? ガード


魔獣が――『洞窟の主』が雄叫びをあげる。

後ろ足で直立し、前足を存分に広げて威嚇する。

全身が黒い毛で覆われており、所々から金属のような硬質な輝きを放っている。


「くま・・か?」


若干の疑いを持ちつつもショウは動物の名前を口にする。

そう、洞窟の主は元世界でいうところのくまに近かった。鋭い爪に大きな身体。つぶらな瞳、黒い毛。

しかし、ショウの言葉には確信はない。というのもそれはくまというにはあまりにも大きかった。


「でかいな・・どこから斬るか」


リードが観察しながらつぶやく。

ショウの身長が約175cm。そしてリードがそれよりも少し高い180cm程度。

しかし主は明らかに二人よりもでかい。

目算で約4mはあるだろうその体躯は、なるほど洞窟の主と恐れられるほどの威風を放っていた。その体格の異常さは、一般のくま大きいもので約2mと知っていれば十分に理解できるだろう。


そんな主を警戒しつつも、ショウはチラリと後方のガードを見る。

未だ土煙がたっておりうまく視認することはかなわないが、すぐに起き上がって声を出さないことを考えると、やはり重症なのだろう。


(はやく、砦で治療しないと・・!)


「グオォオォイアタワアォォオオァォカ!!!」


主が再び咆哮をあげる

しかしそれは今までのものとは違った。

今までのが威嚇だとするなら、今回のは敵対心むき出しの戦闘開始の合図であった。


「!、ショウ様!来ます!」

「ああ、ガードのためにも早く倒すぞ!」


「グウウィィイゥウォオォォオイィォオオ!!」


四つ足となった主がショウたちに向かって突進する。

ドドドドオドドオドオドオオっと音をたてて向かってくるその様は、さながら暴走機関車だった。


刹那、ショウとリードは目を合わせると互いに後方へとバックステップした。

この行動の意図は簡単だ。まずは相手の攻撃の回避。そして――


数瞬後、元ショウたちのいた地点に主が突っ込んだ。

しかしそこには誰もいない。代わりに主の左右両方にはショウとリードが武器を構えて立っていた。


「はあああっ!」

「オオッ!!」


―――そして、急には止まれない主に、強烈な一撃をぶちかますためだ。


ショウは両手で片手剣(ハンドソード)を、リードは両手剣(グレードソード)を上方から叩き割るように振るった。

ゴゥッと音をたてて風を切り、左右から強力な剣撃が主を襲う。

食らえばひとたまりもないと即座に理解できるその一撃―主からしたら二撃―は――――



 ガキィイィンンンン


――――おおよそ毛皮と当たったとは思えない音と共に弾かれた。


「!、なっ!?」

「む!」


「グウウォォオォオオオォオ!!」


 ショウ、リードの驚きの声など無視して、主は無理やり止まると――――両前足をそれぞれショウ、リードに向けて振るった。

凶暴な爪が両者を襲うが、さすがに魔人と小鬼人(ホブゴブリン)の進化系。即座に距離をとってそれを回避した。


「堅いな・・」

「ええ・・さすがにただの魔獣というわけではないようです」


 主を睨みつつ、ショウとリードは肩を並べて言葉を交わす。

リードの言うとおり、ただの魔獣というわけではないようだ。戦闘が苛烈になることが容易に想像できた。


「グルルウウルウウウルウウ」


 その主は再び四本足になると、ショウとリードを睨みながら唸っていた。

ショウたちが主を警戒するように、主もまた彼らを警戒していた。


「あれは、甲冑熊(アーマードベア)です。身体の所々に固い鱗のようなものをもちます」


「ガード!無事だったか!」


 後ろから聞こえてきた声に、ショウは思わず振り返った。

そこには緑色の肌の巨躯の男。オークのガードの姿があった。


「ええ、なんとか。ちょっと気絶しちゃいましたが、スキルのおかげでケガはそこまでひどくはないです。」


《オークフレッシュ》

オーク族固有スキル。

自身の身体を堅くして防御力を底上げする。


あの主と衝突する瞬間、ガードはとっさにスキルを発動していた。

それと同時に後方に跳ぶことで衝撃を減らそうと努めていたのだった。

自分でも驚くほどの反応。まるで戦士のようなその反応のおかげで軽傷で済んだ。


 甲冑熊は危険だ。

書物で得た知識であり、出会うのはこれが初めてではあるがガードはそう感じていた。

本来は森のなかに住む魔獣であり、ショウたちにも言った通り身体の所々に金属のような硬さの鱗をもっている。雑食であり、草から魔獣までなんで食べる。

書物によれば、鉱石を食べることで鱗を生成しているとされており、また大昔、ドラゴンに対して勝利をおさめたという逸話を残すほど凶悪だと言われている。


 そんな化け物に勝てるわけがない。いくらショウやリードが強くても、甲冑熊は規格外だ。だから――


 逃げよう


 気絶から覚めてすぐ、あの『洞窟の主』の威容を見て、主が放つ重圧を受け、甲冑熊の攻撃を思い出して、ガードはすぐそう判断した。

けがはない。すぐ動くことができる。それにショウとリードも闘ってみて分かったはずだ。勝ち目はないと。

あの、道中襲いかかってくる魔獣たちをものともしなかった二人の、強者である二人の全力の剣を受けて無傷の相手だ。遠目で見た自分が分かるのに、実際に戦っている二人がわからないわけがない。言えばすぐに賛成してくれるはずだ。


「あ、あの・・」


「よかった!じゃあガードは安全なところまで下がっててくれ!!約束通りここは俺とガードに任せろ」


「・・あいつの攻撃を喰らってほぼ無傷とは見事だ。お前はよくやった、ガード。後は我らが引き受ける」


「え・・!!」


 信じられないと言った表情でガードは固まった。

頭に残る、ショウとリードの言葉を何度も反すうするが、・・聞き間違いではない。彼らは・・・諦めていないなかった。


「な、なにを言ってるんだ!!危険だ!あいつの強さは分かったでしょう!!???逃げるんですよ!『みんな』で!」


 数秒の沈黙の後、爆発したような勢いでガードはまくしたてる。

今まで会話してきて、考え方の違いに驚いてきたが、今ほど二人の考えを理解できなかったことはなかった。

おかしい。狂っている。この二人は戦闘において、常人が持つ当たり前の感覚をどこかに捨ててしまったのだ。そうに違いない。


「逃げないよ、俺は」


「どうしてですか!死にたいのですか!?」


「・・死にたくなんかないよ、死ぬのはもう二度とごめんだ。あんな怖い思いはもう二度としたくない」


「じゃあどうして!何でそんなに――」


「仲間の為だ」


 きっぱりとショウが答える。


「な、かま?」


「ああ、そうだ。こいつを倒さなきゃ、仲間の装備を整えてやれない。今はそれでいいとしても、放っておいたらいつかそれが命取りになる、・・そんなことは群れの長として出来ない。それに――」


 ガードの顔を見てショウは微笑んだ。


「――それに、あのーオークの頭領は正直いけ好かないけど、あの人も自分の家族を大事にしてるのはよく分かる。守るために、俺らに強く当たってるのも、この『洞窟の主』が彼らにとって危険なのも。

 だから、おれができることなら、力を貸してあげたいんだ。一応、同じ長として・・。・・・・それに、ゴブジイなら、きっと助けるために闘うと思うんだ。だから、俺は逃げない。逃げずに闘う」


 決意めいた顔を見て口をつぐむガード。


「・・俺はショウ様について行くだけだ。俺に説得を期待するな」


 ダメもとでリードに視線を送ってみるが、玉砕した。


「グガガガアァアハガガガカカカマガウアヤアア!!!!!」


 会話の終了を見計らったかのように主が叫んだ。

紛れもない戦闘再開の合図だった。


「来るぞ!リード、いけるか?」


「愚問ですショウ様!」


 二人は強く地を蹴り前へと飛び出した。

主を迎え撃つため、主をガードに近付けさせないため。


「あ、ちょっ・・!!」


 ガードが止めようとした頃、すでに二人は主と相対していた。


(なんなんだ・・・おかしいだろ!間違ってる。こんなの、間違ってる)


 ショウが片手剣を振るう姿を視界に収めながら、ガードは心中で愚痴をこぼす。


(仲間って!自分の命がまず大事だろう、普通は!!僕は間違ってない!二人がおかしいんだ!異常なんだ!!)


 リードが主の爪を受け止めているが、押され気味だ。どうみても力は向こうが上である。


(僕は・・間違ってない。間違ってなんか・・な――)



 本当にそうか?



 思考が途中でぶった切られ、電撃のような衝撃が頭を貫いた。


(本当に・・そうなのか?間違ってるのはぼくで・・正しいのはあの二人なんじゃないか?」


 瞳に映るのは今なお懸命に闘うショウとリードの姿。心なしか善戦しているように見える。

声が胸中から表へと出ているのに気づかずに、ガードはなおも思考を続ける。


「あの二人は・・そう、普通じゃない・・でも普通じゃないからと言って間違ってるとは・・そう、そもそも普通って、、僕の普通はオークの・・待て待て、僕はそんな考えが嫌いなはずでじゃあ僕の理想は―――」


『人間の業をつかうと?ならん!それだけは決して許さん!!許せば我らが種族の誇りをけがすことになる!我らが業こそ至上である』


『一体どうしちまったんだガード。あれだけすごい力があるのにどうして・・・。力が怖くないのかって?そんなの怖いわけないだろ?力は強さ。強さは誇りだぞ』


『ああ、がっかりだな。血にも才能にも恵まれたっていうのに、「武器が持てない」なんて・・・オークとは思えん』


 オークの考えにそぐわず、罵倒された。

この大きな世界の中の、砦という小さな世界がすべてだったガードにとって、それは何よりの苦痛だった。

だというのに・・・・


『なにも思ってないわけじゃない。でもオークの事も、ガードの事もよく知らない俺が・・俺たちがなにか言うのは間違ってる・・と俺は思う。

 それがガードを傷つけるものでも、慰めるものでも俺が・・というか誰も何も言うべきじゃないよ。

 ガードもガードで何か言ってほしくて、俺たちに話してくれたわけじゃ無いんだろう?だったら何も言わないよ』


『仲間の為だ』


『ゴブジイなら、きっと助けるために闘うと思うんだ。だから、俺は逃げない。逃げずに闘う』


 あって数日のショウの言葉がやけに胸にしみる。矢のように突き刺さっては、一向に抜けやしない。

鋭さは矢。しかし衝撃はいかずちを超えるほど。たった数発で今まで創り上げられたものをいとも簡単に壊した。・・・いや壊していた。すでに、崩れていたのだ。


 あれだけ嫌がっていたモノにすがっていると分かって、それが既に壊れていると自覚して―――ガードは思わず笑った。


「・・・ははっ、なんだ。なんなんだ僕は。生まれた場所に嫌気がさして、新しいものを求めたくせに、結局は変化を怖がってる。

 いつもそうだ。中途半端で、興味がわくとすぐに他を否定して、でも結局、昔のものに助けられてる」


 オークの業を学べば、書物で人間の業を学び。

鍛冶師になったのに、いざ闘いとなると、昔の動きをまるで現役の時みたいに行う。


 中途半端だ。オークでもない。人間でもない。鍛冶師でもない。戦士でもない。何にもなりきれない中途半端な存在だ。


「だからなんだ!」


 それはいけないことか?そんなわけがない。


「僕は間違ってない!」


 じゃあ周りがおかしい?いや、それも違う。


「僕は中途半端だ」


 それがどうした。なにか文句があるのか?


「僕は・・僕は・・・!!」


 何者でもない。他人にはかられる存在じゃない。


「我が名はラ・ガード!!戦士であり、鍛冶師のオークだ!!」


 宣名と共に、戦鎚を掲げる。

握る両手に震えはない。それどころか力がわいてくる。

これだ、と思えるような自然さ。頭の中のもやが消え去ったかのような解放感。


「うおおおぉぉおぉおおおお!!!」


 ガードは戦鎚を構えながら全速力で駆けだす。 

いつ振りだろうか、こんな雄叫びを上げるのは。

気持ちがいい。久々の充実感。全能になったかのような気分だ。今なら何でもできる。


「ッガ、ガード!??」

「なにを!?」

「グルゥウ!!??」


「うおぉおおおぉおおおお!!」


 驚く二人を視界の端に捕えながら、ガードは跳躍した。

落下予想地点には甲冑熊。空中という無防備な空間にさらされながらも、ガードの目に恐怖は映らない。


「おおおぉお≪粉砕スマッシュ!!≫」


 ガッゴオオォォオォオオンンン


「ギャウゥウ!!」


 淡い緑色を纏ったガードの戦鎚が、轟音を響かせて甲冑熊の眉間に叩き込まれた。

甲冑熊は弱弱しい声を出してたたらをふむと・・・そのまま地面に仰向けに倒れたのだった。


 唖然とするのはショウとリード。叫び声が聞こえたと思ったら、いきなり現れたガードが主をノックバックさせてしまったのだ。驚かないのが無理というものだろう。


「ショウさん、リードさん」


 ドスンっと着地したガードは、戦鎚を肩に担いで、二人に向き直る。


「僕も、闘います」


 笑顔で言ったガードに、ショウとリードは苦笑で応答した。










補足。

粉砕スマッシュ

  上方からの槌系の攻撃の威力を増加


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