第46話 洞窟の最奥
投稿遅れまして申し訳ございません!!!!
次は必ずもっと早くに投稿します!!
「ここか・・」
森を抜けてすぐの地点、岩石をくりぬいたようにできた空洞がそこにあった。
穴の周りに緑はなく、何度も人が出入りしているのが分かるように整然としている。
中は当然のように薄暗く、吸血鬼の視力をもってしてもほんの数歩先しか見ることができない。
まるで侵入者を拒むように鎮座する穴。牢獄のごとき冷気を発するこの穴こそ、ショウたちの目的地である洞窟であった。
洞窟の中からはゴゥゴゥと風が吹き抜けてきており、中の冷気をショウたちに伝える。
冷気耐性のあるショウですらぞっとしてしまうような冷やかさ。例えるなら墓のような、生者が入ってはいけないような気さえしてくる。
しかしそんな弱音ばかり吐いてはいれない。仲間たちの生活の為・・・とちょっぴりオークたちのために、ショウたちは洞窟の中に入らなくてはいけないのだ。
「・・行くか!!」
自らに気合いを入れるため大声を出すショウ。
臣下であるリードは「はい」と短く返事を、オークのガードは、コクリと小さくうなずいた。
ショウの後をリード、ガードと続き、三人は洞窟の中に入って行った。
やがて三人は外から完全に見えなくなった。まるで洞窟の闇が彼らを飲み込んだかのように・・。
ボッ
太い木の枝に油を染み込ませた布を巻いたもの――いわゆるたいまつに火がともった。
松明は辺りを照らし、光によってわずかに洞窟の闇を退ける。おかげで吸血鬼でないリードやガードも、ある程度の視界が確保できた。
ライターなどないこの世界では、火をつける役割を担うのは火打石である。
オーク御用達の火打石―赤鉄鉱という―はお互いが強い衝撃でぶつかると火花ではなく、小さいが火を発生させることができる。といっても誰でも使えるというわけではなく、オーク並みの力がなければ火を出すことは叶わないという、まさにオーク専用ともいえるモノであった。
当然ながら、火をつけたのはガード。ショウやリードでも多分つけれるだけの力はあるだろうが、慣れたものがいるなら任せるべきだろう。
そして、松明を持つのもこれまたガード。案内人としての職務を果たすべく一行の先頭に立ち、外に引き続き道案内をする。
「えーっと、俺たちはどこに向かってるんだっけ?」
「洞窟の最奥です。そこに『洞窟の主』がいるかもしれませんし、いなくても最悪鉱石が回収できます」
後方にいるショウの質問に、ガードは正面を向いたまま応えた。
「そうだった。でも俺ら的には主にいてもらわないとな。来た意味がなくなる」
「・・そうですよね」
この洞窟は、外見からは想像ができない程広く、奥まで続いている。下手に動けば『洞窟の主』を倒すどころか、迷って出られなくなることだろう。
それを知ってるからこそ、闘えない身でありながらガードは先頭に立って、道案内をしていた。
そして、最短ルートを行かず、所々道を変えながら進んでいた。
理由は簡単。魔物に会わないようにするためだ。
鉱石の採掘は鍛冶師の仕事、ゆえにガードはよくこの洞窟に来ていた。(当然、戦士の護衛つきである)
何度も来ているので、どの道に魔物がよく表れるのかや、反対にどの道は魔物が少ないのかをガードは知り尽くしていた。
魔物と言っても、現れるのは溶液を飛ばすスライムや、石に足が生えたストーインといったショウ、リードが対処できないどころか、人間の駆け出しの冒険者でも簡単に倒せるものばかりである。
ではなぜガードはそれらを避けるのか。厳密に言えば、ガードはそれらを避けているわけではなかった。実際にガードが避けているのは、それらを喰らうであろう『洞窟の主』だ。
ショウが聞けば、「なぜ」と問い詰めたくなるだろうが、それを承知でガードは主を避ける。ショウたちに死んでほしくないからだ。
短い旅だったが、道中ショウやリードの考えを聞いて、その考えにガードは可能性を感じていた。
基本的に自主族以外を排他するこの世界で、種族を超えて協力しようとして、そしてわずかに成功させている彼らの―ほとんどがショウのもの―考えはガードの理想とするそのものであった。
だからこそ、余計に死なせるわけにはいかなかった。ショウたちはやれるというだろうが、ガードは『洞窟の主』を相当に警戒している。
死ぬ可能性があるなら別の道を選ぶほど、ショウたちに、ショウの考えに期待しているのだった。
安全に洞窟の最奥にたどり着き、鉱石さえ回収できれば、とりあえずの問題は解決する。
いや、実際には先送りでしかないのだが、当面は平気になるだろう。つまるところ、ガードの目的は『洞窟の主』と出会わずに鉱石を回収し、誰も死なずに砦へと帰ることだった。
(あなたたちは希望なんだ。明るい未来への)
頭領はショウたちが『洞窟の主』を倒さずに帰ってくれば認めようとしないだろう。そうすれば当然ショウと頭領が交わした契約は無効となる。
そうなればショウたちは困るだろうが、もちろんガードもそのまま話を終わらせる気はなかった。
現在のオークの問題とは食料が残りわずかだと言うことだ。
備蓄も少なく、森に入っても獲物が少ない。今はまだなんとかなってはいるが、このままではいずれ食糧が尽き、再び飢餓が砦を襲うのは目に見えていた。
頼みの綱はレールイという人間との取引だが、彼が提示した条件には武器の量が足りなかった。『洞窟の主』のせいで鉱石が採れないからだ。
ならば、とガードは考える。
『洞窟の主』を倒さずとも、武器を作るのに十分な量の鉱石を持ち帰ることができれば、一応は状況が改善されるはずだ、と。
そうすることができれば、頭領もそれを為し遂げたショウたちを無下には扱わないだろうし、ガードの意見も多少は聞いてくれるかもしれない。・・・多分。
そこでガードは少しだけ鍛冶の技術をショウたちに教えることを提案する。
当然反対されるだろうが、オークの業ではなく人間の業を教えるといえば、さすがの頭領も譲ってくれるだろう。書物で読んだ程度だが、ガードならば人間の業を教えることが出来るし、オーク側にデメリットはないのだから。
これがガードの理想図。誰も傷つかないし、誰も損しない。
それにオークの問題に-目的があるとはいえ-他人であるショウたちを巻き込むのは、そもそもガードは納得していなかったのだ。ゆえこれでいい。オークだけでオークの問題を解決すべきなのだ。
「おお、すごいな・・」
洞窟内の入り組んだ道を歩き続け、ようやくショウ一行は洞窟の最奥へとたどり着いた。
最短の道を行けば―魔物と遭遇する危険はあるが―もっと早く着くことができた。ガードの思惑によって時間は最短の道を行った場合の倍はかかっていた。
しかしおかげで魔物に一切出会うことなく目的地にたどり着けた。ガードの計画通りに『洞窟の主』にも遭っていない。彼の計画は順調と言えた。
そんな事情も知らず、ただガードについてきたショウ、リードを迎えたのは洞窟の最奥、その光景だった。
辺り一面にキノコや草が生い茂っており、なんとそれら自体が発光していた。
光は最奥を照らし、さすがに真昼のごとく行かないまでも、誰もが十分に辺りを視認できるほどの明るさをもたらしていた。
そんな光がショウたちに見せるのは、洞窟の壁できらりと―キノコとは違うもっと硬質な感じ―光る鉱石たち。
ガードたちオークのお目当てのモノであろうその鉱石は、キノコや草の光をうけてギラッといった感じで輝き、最奥の景色を一段華やかなものにしていた。
まるでそれは大きな宝箱に入ったかのようで、日本どころか、この世界でもなかなか味わえないような神秘さがあった。
そんな光景を見て、思わずつぶやいてしまったのは当然だと言えよう。
今なお口を薄く開け周りを眺めるショウに、ガードは暖かな笑みを浮かべながら話しかけた。
「ここに生えているのは光々茸と地草っていうんです。洞窟内でもここしか生えてなくて、結構貴重なんですよ」
「なるほど・・。これは美しいな」
覚えがあるというような感じで、笑みをうかべながらガードは話す。
ショウに向けたその言葉は、肝心のショウには届いておらず、代わりにリードが、ショウ同様に景色に感動しつつもガードに答えた。
「ええ、そうでしょう?僕もお気に入りなんですココ。いつ来ても感動してしまいます」
得意げに笑うと、ガードはたいまつの火を消した。
これだけの光があれば松明の光は必要ないし、それになにより、もし火が移って光々茸や地草が燃えたりしたら大変だ。
布を巻いた木の棒となった元松明を袋にしまうと、未だ景色に見とれている二人を放ってガードは歩き出した。
(今のうちに鉱石を回収しておこう)
ガードはいつも通りの仕事をこなすように歩き出した。
オークの鍛冶師として幾度となく仕事をこなしてきたガードは、当然鉱石がとれるポイントも熟知していた。
松明を入れた袋から、小さなピッケルと別の革袋を取り出すと、採掘できるポイントへと歩を進める。
「さて・・この辺――ん?」
いつもの―実際に来るのは久しぶり―のポイントへと向かう途中、ガードは違和感を覚えた。
「こんなところに穴なんてあったっけ?」
それは見覚えのない穴。少なくとも昔からあったものではない。
見落としていたか?いや、そんなことはない。仕事柄、何度も最奥へはやってきているし、隅々までいつも見ている。前来た時はこんな穴などなかったとガードは断言出来た。
それになにより、ここは洞窟の最奥。この先に道はない。ここが終点のはずだ。だというのに、この穴は入口からは先が見えないくらいには奥まで続いている。
顔だけを穴に近付けのぞいてみる。
しかし、何も見えなかった。見えるのは相変わらずの闇。この穴には光々茸も地草も生えていないのだろうか。
ピチャ
「ん?」
ガードの耳に何かの音が飛び込む。
ガードは耳に集中し、もう一度音を拾おうと努めた。
ピチャ
「何か聞こえる」
気のせいではなかった。やはり何か―何のまでは分からないが―の音がこの穴の先から聞こえてきていた。
「・・・よし」
若干の恐怖はありながらも、好奇心を刺激されたガードは、袋から松明を取り出すと、再び火をつけた。
ボウッと音を立てて発生した炎が、光々茸らとはまた違った輝きで闇をはらう。
ガードは慎重にその穴―縦幅が狭いので若干屈んで―の中へと向かっていった。
ピチャ
正体不明のその音は徐々にはっきりと聞こえてくる。
ピチャ、クチャ
似たような別の音を聞いたところで、ガードの足が止まった。
それは、好奇心に恐怖が勝ったからとか、逆に、好奇心が満たされ、満足したからではなく――――
「これは・・僕たちの鎧?」
――――見覚えのある、魔獣の爪で引っ掻かれたような傷を持つ、オーク製の鎧を見つけたからだった。
ピチャ、クチャ、クチャ
脳から警報がガンガンにならされ、全身が震えるが、悲しいかな、本能は好奇心を後押しし、先の闇をはらうため、ガードに松明を投げさせることを選ばせた。
ガードの手から放たれた松明はゆっくりと放物線を描き、約数メートル先の光景を――――
ピチャ、クチャ、クチャ、グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ
―――――緑色の肉をほおばる魔獣の姿を映し出した。
「!!ッ・・洞窟の――」
「グギャアアッアアガアアア!!!!」
ガードの言葉をさえぎるように魔獣は叫びをあげて、間髪入れず、その大きな体でガードに向かって突進した。
あまりの衝撃的な光景に、ガードはしっかりと反応できず、正面からその魔獣とぶつかった。
「ぐはっあっ!!」
口から血反吐をぶちまけ、えもいわれぬ衝撃を受け、ガードは思いっきり後方へと吹き飛んだ。
「「ガードっ!?」」
洞窟内に、ガードが壁にぶつかった衝撃音が響き、突然吹き飛んできた彼を見て、ショウとリードは驚きの声を上げた。
「グウオォオォオオォオオオ」
のそりと穴から這い出て、その魔獣は、『洞窟の主』は雄叫びを上げた。
「こいつが・・」
「『洞窟の主』・・!!」
ショウとリードが警戒度を最大限まで引き上げ、戦闘態勢へと移行する。
ショウは腰から片手剣を抜き、リードは背中に背負っていた両手剣を握る。
「ショウ様、ガードは?」
「・・心配だが、無事を祈るしかない!こいつをとっとと片づけて、砦に戻って手当てするぞ!」
「了解しました!!」
「グワアァアアアウアオアオオアアナウアアア」
ショウたちの強い敵意を感じて洞窟の主もまた戦闘体勢へと移る。
ガードの計画は失敗し、ショウの予定通りに洞窟の主との決戦が始まってしまった。




