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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
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第44話 ガード


「――それ以来、闘う事が怖くなっちゃったんです」


 己のトラウマをポツリポツリと、苦々しい表情で語るガード。

声色は沈み、背中を丸め、立つ気力もないように座っている。いや、座り込んでいる。

その姿はからは、初めて会った時の威圧は感じられず、まるで叱られて落ち込む子供のようにさえ思えた。


「だから・・・すいません。僕は、闘えません。闘うことが何よりも恐ろしいんです・・」


 初めは人を傷つけるという恐怖。

我を忘れ、大好きな兄までも攻撃してしまったという事実。

抑制がきかず、ただただ力任せに、相手を選ばずに危害を加えてしまったというその事実が、ガードに武器を振るう怖さを植えつけた。


 そして、恐怖は広がり、やがてその対象は自分へと移った。

発現したのは何年も前。まだ子供だった頃。

子供ゆえ、加減がわからず無茶をしたりすることもあるだろう。しかし、あれは、大人たちが『元祖の怒り』と呼んだあれはその度をはるかに超えていた。


 暴走していたがために、記憶は定かではないが、それでもその時を思い出せば、それがどれほど恐ろしい力かわかる。

昔から才能があると言われて生きてきた。年齢の平均を超えた身長、体格。親譲りの戦鎚さばき。それでいて戦闘中には冷静な思考ができ、長になるべき器だと皆がもてはやした。ガード自身もその気があった。

しかし、その才能あふれるガードをもってしても、あり得ない程の速さと力で兄のガージを吹っ飛ばした。

今でもかすかにその時の感触が残っている。

軽い。

子供と言えどオーク。人間と比べれば体格差は歴然。当然、それに比例して体重も重い。

しかし軽かった。まるでわらでできた球のような軽さ。一瞬何かが当たったと思ったら、次の瞬間にはガージは飛んでいた。

子供という規格を超えた一撃。戦士の大人でも出せないだろうと思わせるほど強烈なもの。


 しかし問題はそこではなかった。

ガード程ではないが、才能があり、戦士長に成れる器だと言われていたガージを吹っ飛ばしたのは確かにすごい。

だが、まだ、なんとか、それは理解することができる。人間の子供に比べて重いと言っても、対するは同じオーク。子供対子供なら、何万分の一だろうが、何らかの偶然が重なりに重なって、片方が、もう片方を圧倒する機会はあるだろう。

しかし、ガードの『元祖の怒り』はそこで終わらなかった。今度は抑えに来た戦士の大人たちにまで、それは及んだのだった。

自分を抑えようとする手を、戦鎚で払う。足を掴まれれば殴り、肩を掴まれればかみつく。

暴力の権化のように暴れ、暴れ、暴れ、頭領である、若かりし頃のラ・ゴールが、まだ全盛期の戦士だった頃の彼が加わってようやくガードは静まったのだった。

そう、問題はここ。戦士たちが総出で出張ってようやく、抑えられるほどの暴走、そしてその力。


 突如自身に起こった『元祖の怒り』。その圧倒的な力と、見境なく暴れる破壊衝動が、幼き子供に恐怖を植え付けないわけがなかった。

いつそれが再び起こるのかわからない。もしかしたらまた大切な人を傷つけてしまうかもしれない。

それは起きた時か、食事中か、勉強の時か、・・決闘の時か。いつだ。いつ起こる?いつまた誰を傷つける・・?

そんな恐怖が体中に染み込み、蝕み、ガードに闘うことを許さなかった。武器を持てるようになったのも最近だ。あれから何年もたっているというのに、たった一回の発現で生まれたトラウマが未だガードを苦しめていた。


『武器を持つのが怖い・・?大丈夫だ、じきによくなる。』


 ゴールの言葉。武器を持てなくなったと言った時のセリフだ。


『決闘は・・しないのか??まあいいか!明日な!』


 ガージの言葉。毎日やっていた決闘を初めて断った時。


『おーガード。・・もう決闘やんないのか?密かに俺の楽しみだったんだけどなぁ』


 鍛冶師のおっさんが笑いながら言っていた。


 初めは皆こうだった。意味が分からない力におびえるガードに優しく接していた。

しかし・・・・・・


『なに?まだ武器が持てないのか?・・もうすぐ成人の儀だぞ、しっかりしろ』


 訝しむような、納得ができないようなそぶりでゴールが言った。


『ガード、最近どうしたんだ?何かあるなら言えよ?』


 心配そうというより、不思議そうにガージが言った。ガードは心配かけまいと笑顔でかわした。それがより心配をかけるということがわからず・・。


『ようガード。・・なんだその面、悩み事かぁ?俺もお前くらいの頃はなー―――』


 鍛冶師のおっさんは普段通りに接してくれた。ガージの心の支えだった。


 何年たっても未だ武器を持たないガードに、皆が疑問を抱いていた。

そして・・・・・


『何をやっているばかもの!!成人の儀を通過できてないそうだな!・・「自分の力が怖い」だと?オークなら、操って見せよ!!』


『一体どうしちまったんだガード。あれだけすごい力があるのにどうして・・・。力が怖くないのかって?そんなの怖いわけないだろ?力は強さ。強さは誇りだぞ』


『なぁ聞いたか?ガードやつ、成人の儀に落ちたらしいぜ』

『えー!あれって魔獣狩るだけだろ?オークの男なら誰だってできる事じゃないか!・・あり得ないな』


『聞いたか?ガードの事』

『ああ、がっかりだな。血にも才能にも恵まれたっていうのに、「武器が持てない」なんて・・・オークとは思えん』


 ゴールは憤慨し、ガージは心の底から不思議そうに、全く理解できないと言った感じだった。

周りの同世代はガードを嘲り、戦士たちは落胆し、彼を見限った。

変わっていく周囲の評価。かつていた才能あふれるオークの少年の姿はいつの間にか消えてしまっていた。

この時から、ガードはオークという種族に嫌気がさす。どうして物事を一方向にしかとらえられないのか。闘えない者はオークではないのか。

しかし、そんな状況でも得てして救いがあるものだ。ガードにとってそれは鍛冶師のおっさんだった。


『ガード・・。お前さえよかったら鍛冶師にならないか?ちょうど今、弟子を探してたところなんだよ』


 そういって、昔と一寸の違いすらない、温かくて陽気な、いつもの笑顔を鍛冶師のおっさんは浮かべてくれた。

こうしてガードはなりそこないの戦士から、鍛冶師見習いとなった。

オークの一族は、自分たちの鍛冶技術にも、強さ同様に誇りを持っているが、それでも、ガードは馬鹿にされ続けた。

なぜなら鍛冶とは女、または戦士を引退した老人たちの仕事だからだ。成人したばかりの若人がやるようなものではない。

ましてや頭領の血を引く戦士の才覚にあふれる者がやるのは、自明の理であった。

そんな中でもガードは気にせず鍛冶に励んだ。皆が落胆や怒りの感情をぶつけてくる中で、唯一手を差し伸べてくれた鍛冶師のおっさんに報いたかったからだ。


『俺は戦士の才能がなくてな・・お前と同じ歳の頃に親方に弟子入りしたんだ。

 周りの皆は俺を笑ったが・・・はっ!!くそくらえだ!!俺は全く気にしなかった。

 だからガード!!お前も気にするな!!鍛冶は女のもんでも老人のもんでもねぇ!誇りを持て!オークの誇りは鍛冶にもある。が!オーク云々じゃなく、お前自身が誇りを持て!!

 それが俺がお前に一番教えたい事だ。俺は親方にこう言ってもらえてうれしかった。だからガード!お前の親方として、今度は俺がお前に言うのさ。

 いいか?もう一度言うぞ?誇りを持て!種族にじゃねぇ、業にでもねぇ。お前自身にだ!自分で自分を誇りに思え!・・いいな?』


 そう鍛冶師のおっさんは・・親方はいつも通りに笑った。

この言葉のおかげで今日の今まで周りを気にせず鍛冶を続けることができた。そしてその腕は、未だ戦士たちには受け入れられていないが、周りの鍛冶師たちからは一目置かれるほどとなった。

そのおかげか、ようやく武器を持てるようになったのだ。このままいけばもしかしたらもう一度闘えるようになるかもしれない。

・・・・そう思った結果が今の現状だった。


 ショウとリードが強かったおかげで事なきを得たが、どう考えても、どこからどう見てもガードは足手まといだった。

闘おうと思った。武器も握った。敵の挙動を見張った。

大丈夫。見える。避けれる。ここだ。ここが隙だ。入る。戦鎚が当たる。倒せる。・・そしてまた暴走する?

どう思考しても結局そこに行きついてしまう。その考えがよぎった瞬間に、身体は固まり、足は震え、途端に何もできなくなる。闘うことへの恐怖に支配されてしまう。

そして確信してしまった。武器を持てるようになっても、根底は変わらない。植えつけられた恐怖はいつまでもそこにあり続ける。



 僕は一生闘うことはできないんだ



 その考えが、すっかりと頭にこびりついてしまった。

きっとこれは呪いなのだ。自らにかけた呪い。自分の力におびえてかけた恐怖から逃げるための。


「ガード・・」


 長い長い話を聞き終えて、ショウが口を開いた。

出るのは中傷か、それとも慰めか。どちらにしろ気分がいいものではない。

身構えて次のショウの言葉を待つガード。そんなガードに―――


「とりあえず、飯でも食べようか」


―――予想外の言葉が投げかけられた。


「ええ、そうしましょう。この辺で火を焚きます」


 何の疑問も投げかけず、リードが慣れた手つきで火を焚き始める。


「おう、ありがとうリード。まだ肉あったよなー」


「え?え?」


 困惑するガードをよそに、革袋をごそごそとまさぐるショウ。


三角猪トリプルボアの肉がまだ余ってたと思います。・・ギリギリ大丈夫でしょう」


「え??え??」


「じゃあそれは俺が食うわ。リードとガードはあの肉食べなよ、あのーここに来るまでに狩った―――」


槍鹿ホーンディアーですね。ではありがたく」


「ちょっと待ってください!!」


「「??」」


 あまりの展開について行けず、思わずガードは声を荒らげた。

ショウもリードも一体どうしたんだと言った表情を浮かべる。


「なにも・・なにも言わないんですか?僕の、過去に対して。・・お前が悪いと怒るとか、逆に同情するとか、何も・・?」


 反応を望んでいたわけではない。しかし、全くないというのは納得がいかなかった。

その意を込めてガードは叫んだ。いったいどう思っているのか。足手まといだと思っているのならそういってほしかった。


「なにも・・」


 ショウが口を開く。


「なにも思ってないわけじゃない。でもオークの事も、ガードの事もよく知らない俺が・・俺たちがなにか言うのは間違ってる・・と俺は思う。

 それがガードを傷つけるものでも、慰めるものでも俺が・・というか誰も何も言うべきじゃないよ。

 ガードもガードで何か言ってほしくて、俺たちに話してくれたわけじゃ無いんだろう?だったら何も言わないよ。なあ?」


「はい。ショウ様の言うとおりです。わかったら立ち上がって、木の枝でも拾ってきてくれ。このままでは肉が焼けない。」


 衝撃がガードに走った。

今までそんなことを言う人はいなかった。目からうろこである。

これが外の人なのだろうか。オークの一方面からしか考えられないことにうんざりしておきながら、自分も考えが固いのかもとガードは感じた。

ショウの考えが正しいのか、間違っているのかわからない。それが自分にとっていいのかも悪いのかも。

答えは現状では出ないだろう。ショウという人物をもっと知らなければ。


 さしあたって、今ガードができることと言えば、火を起こすための木の枝集めだけだった。










補足

ショウが三角猪の肉を食べるよう申し出たのは、傷んでいても彼には関係ないからです。

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