第41話 オークの変わり者
短めです
ギイィィ
苦しそうな声を上げながら扉が開く。
鉄でできた関節部分が錆びており、老朽化が進んだ証拠である。
扉も鉄でできているから、木のモノと違いゆっくりと重々しそうに開いていく。
暗く、冷たい部屋に、扉が開くにつれて少しずつ、少しずつ外の光が入ってくる。
数日ぶりの光に照らされて、男は思わず手で額に影を作る。
ようやく解放だ。ここに入れられたのは子供の時以来か。そんなことを思いながら、男は目を細めつつ光の先を見つめる。
なぜ自分が牢に入れられたか、そんなことは理解している。もう子供ではないのだ。
だが納得はしていなかった。この件に関して牢に入れられたのはこれが初めてだが、それ以前に何度も同じことを訴えてきた。考えは今も変わっていない。
『我らが業こそ至上である!!』
今も脳裏に牢に入れられる直前に言われた言葉が残っている。
男が嫌いな文言だ。幼少時からずっと聞いてきた呪いの言葉。
男は何も自分の種族が嫌いなわけではない。他の皆と同じように、誇りだってもっている。
だが、自分が一番だと決めつけ、他を例外なくはじき、関わりをもとうとしないのはどうにも納得ができなかった。
他の良いところを認め、学び、それを自分の業に生かすことの何が間違っているのか。説明を求めても、返ってくるのはその言葉だ。
よく子供だと自分は言われるが、男にしてみれば、他の皆こそ他を認めるほど余裕がなく、自分が一番だと現実を見ずにだだをこねる子供に思えた。
こんなことを言えば、また周りは怒るだろう。「種族の恥」と罵るかもしれない。
それでも男は説得をやめない。訴えを下げない。何よりもみんなのために、考えを変えてもらわなくては困るのだ。
「釈放だ。頭領が呼んでるぞ」
いつの間にか光に慣れた目に、同胞の姿が映る。
緑の肌、筋骨隆々の巨体。赤髪をすべて後ろにおろし、手には鉄製の戦鎚が握られている。
超自種族至上主義にして、超他種族排他主義のオークであった。
「わかった」
そう短く返事をして、男は立ち上がり、扉を開けたオークの横を通った。
「おい」
「・・・・」
通り過ぎて少しの後に、オークは男に声をかけた。
男は返事をしない。ただ足を止めて、背中越しにオークの言葉の続きを待った。
「・・親父に謝っとけよ?お前が変なこと言わなきゃ、親父だって―――」
「わかってるよ!・・わかってるけど、必要な事なんだ。・・忠告ありがとうガージ兄さん。」
オーク――ガージの言葉をさえぎり、男は大声を出す。
どうにも駄目だ。普段は温厚な性格の癖に、この件になると大声を出さずには、感情を出さずにはいられない。
大声を出したことを少し悔やみ、しかし首を振って気持ちをリセットすると、男はそのまま歩いて行った。
「・・・本当に、かわいくねぇ弟だぜ・・ガード」
誰もいない空間で、ガージはため息とともにつぶやいた。
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カンカンに晴れた朝、カ―マード砦の大門の前にショウとリードはいた。
一悶着あった頭領との取引を終えて、一晩たった今日、約束通り、ショウたちは洞窟の主を倒しに行く。
てっきりその日のうちに洞窟に向かわされるものと思っていたショウだったが、一応遠方から来たばかりという、頭領の、態度からは想像できない配慮のおかげで一日休むことができた。
夜には少ないが食事も出て、一応客という扱いをしてもらったのだった。布団は硬かったが、それは贅沢というものだ。
ショウが怒ってまで要請した案内役は、『当日に会わせる』と言われていて、いまだあっていない。
ショウとしては、なるべく他種族に理解があるというか、多少は親しみやすい人物が来ることを願っているが、今までのオークたちの態度から、布団と同じく贅沢な願いなのかもしれない。
「…遅いな、案内役」
ぽつりとショウがつぶやく。
「オークに侮られているのでは?いくらなんでも奴らは傲慢すぎます」
リードが若干怒りながら言った。
「まあ、そういうなって。他種族を嫌うのはお前らだって一緒だったろ?オークの場合、それがちょっと態度に出過ぎてるってだけだ。気にしない気にしない」
なだめるようにショウは話す。
正直、ショウにもオークの態度に思うところがないわけではない。事実、頭領の態度に一回キレている。
だがここは長として、リードの上司として、リードを抑制しなくてはいけない。高校生にはハードな注文だが、そうも言ってられないのだ。
「・・ショウ様がそういうのなら、俺に文句はありません。
ただ!もし案内役まで、主に無礼を働くのであれば、その時は・・・・」
ギュッと拳を握るリード。
それが示すのはオークに対する敵意。いつも冷静沈着なリードをここまで怒らせたのは、奴隷商のドイドに続いて二人目であった。
「まあ落ち着けよリード。さすがに案内役は多少は話の分かるやつをよこしてくれるだろ。・・多分」
言葉に願望が入り混じる。
冗談抜きで、まともに話せない案内役が来たら、最悪失敗する。それは大いに困るのだ。
ギイィイ
扉の開く音。砦の大門が開いたのだ。
大門の前にいたショウ、リードは少し身構えつつ、門より出てくる人物を待つ。
人が一人通れるほど開くと、砦の中より、ソレは現れた。
巨体ともいうべき大きな体。砦内でたくさんのオークを見たから分かるが、他のオークに比べても身体が大きい。
筋肉の隆起がすさまじく、どことなく腕が他のオークより太い気がする。
背には大きな革袋と、オークおなじみの鉄製の戦鎚を背負っている。
オークは黙ってショウたちに歩み寄ると、大きく息を吸った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてきそうなほどの威圧感。顔には影ができていて表情がよく読めない。
案内役は闘う必要がない。そうショウは言っておいたので、もっとオークの中でも小柄な者が来ると思っていたのに、現れたのはまさにその逆の存在。このまま攻撃されるのでは?と思わず警戒してしまう。
「お」
「「お?」」
オークの挙動に注目し過ぎて、思わずショウとリードはオークの声を追ってしまう。
「おはようございます!案内役のラ・ガードです。今回はよろしくお願いします」
風が起こるほど勢いよく頭を下げて礼をするオーク。
背中を曲げたまま、顔だけあげてショウたちを見る。
影になって見えなかったその表情は、砦内のオークの誰よりも明るい笑顔であり、先程までの威圧感などどこかへ行ってしまっていた。
あまりの印象の変化に、ショウもリードも固まるが、やがてハッとして口を開いた。
「お、おれはショウ。吸血鬼だ。で、こいつが―――」
「・・リード、リード・ホブソードだ。種族は人子鬼という」
「吸血鬼に人子・・鬼?初めて見ました。とにかくよろしくお願いします。道案内は任せてください!さぁ行きましょう、こっちです」
出会って一日未満のショウたちだが、早くもこのガードの存在によってオークの印象が壊された。
個性というものがあるが、それにしても、このガードというオークは他と違いすぎる。
張り切って歩き出したガードの背中を見ながら、オークについてしばし考えるショウ。
ふと横を見ると、おそろく同じことを考えていたであろうリードと目があった。
「とりあえず・・行きますか?」
「ああ、そうしよう・・か」
苦笑いを浮かべ、ショウとリードはガードの後をついて行くのだった。




