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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
40/110

第39話 HELLOオーク


ズシッズシッ

巨足が地面を踏みしめる。

足の動きにともなって、緑色のその巨体ものそのそと動く。

約三メートルほどの巨体。それも一つではなく、数にして5つほど。5つもの巨体が森のなかを歩いていた。

葉や枝など気にせず、たとえそれらが顔や体に当たろうともものともしない。

ただただ真っ直ぐに進むその姿はまさしく怪物のそれであった。

本来なら誰もが畏怖し、敬遠するその姿、だがしかし今現在において、その威容はいまいち迫力に欠けていた。


「今日はこれだけか」


ぽつりと怪物のうちの一人がつぶやく。

その怪物の呟きに合わせるように、他の怪物たちはある一点に視線を集中させる。

怪物たちの瞳に映るのは縄で縛られた魔獣。角の先端が槍のように尖った槍鹿(ホーンディアー)であった。

四つ足を縛られ、逆さにされて担がれてるその姿を、怪物たちは複雑な表情で見つめる。


「そんな顔するな。まだ備蓄はある」


「ガージ・・。でも備蓄だって残りわずかだ。俺はいいとしてもうちのガキどもが――」


「そんときはまた狩りに出ればいい!ガキのためにな。そうだろう?」


「あ、ああ。そうだな。ガージの言うとおりだ」


呟いた怪物は、その複雑な表情を少し柔らかくして微笑を浮かべた。

それを見て元気付けた怪物、ガージも微笑を浮かべるとすぐに前に向き直った。

ガージにならって、他の怪物たちもまた槍鹿から視線をはずし前を向いた。


(また狩りに・・か・・。一日中狩りに出て収穫が鹿一匹。自分でいっといてなんだが、なかなかにやばい状況だぜ)


前に向き直ったとたんに、表情を微笑から真剣なものに変えたガージは人知れず状況を憂く。

安心させるために言ったものの、自分の言葉通りに状況を楽観視しているわけではないのだ。


(ちっ・・人間風情が・・・足元見やがって)


心中で毒つくガージ。

『約束の数は守ってくださいよ。そういう契約でしょう?』

そう言った人間の顔が脳裏に焼きついていた。殴りたいという衝動を抑えられたことは密かな自慢であった。

融通のきかない人間のせいでこんなに自分達は苦しんでいる。どうせならやっぱりあそこで殴っておくべきだったかなと、一瞬ガージは本気で考えた。


(いやいや、やはりそれはやっちゃいけねえな。今は俺ができることをやるしかねぇ・・・。あとは爺さんと・・・いや、あいつはなしだ。人間の業なんかに頼ろうとするやつを信じられるか!信じるのはやはり爺さんたちだけだな。――おっ?やっと家か。ふーなんにせよ今日はつかれ―――)


脳裏に浮かんだ考えを、ガージは即座に否定する。

同時に、浮かんできた男の顔を、その存在を、同じように否定したのだった。

そうこうしているうちに森を抜け、家についたガージだったが、そこで・・・


(あ?誰だあいつら・・・)


見知らぬ2つの影を確認したのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「やーっと着いたなぁー!!長かったー!!」


「お疲れ様です」


目一杯体を伸ばすショウにリードが労いの言葉をかける。

住みかを後にして3日。ようやく目的地である、オークのすみかのカーマード砦に二人は到着したのだった。


石垣を積み上げられてそびえ立ちカーマード砦。

所々鉄によって補強されているが、石垣のようすから、何年も前の砦だと予想することができる。

大方、戦争に使われていて、終了と同時に放棄されたのだろう、とショウは予想した。


現在、ショウとリードは砦の入り口である大門の前にいる。

唯一木でできているその扉は、赤く塗られており、砦の威容を示すのに一役買っていた。


「でっかいなぁー・・・」


「オークは我々の倍位の大きさですからね、その規格から考えるとこれくらいでしょうね」


感嘆で声をあげたショウにリードが同意する。

ショウは砦を見たことがないので、正確には言えないが、それでも、このカーマード砦は普通の砦よりも大きいように思えた。まるで城である。


「リードそれ・・さも自分の知識のようにいってるけどさ、リーシャから教えてもらったやつだよな?俺も聞いたし」


「え、ええ・・・まあ」


リードは少し戸惑ったかのような素振りをみせると、黙って大門に目をやった。

無愛想を装ってはいるが、一緒に暮らしているショウには、リードが照れていることがよくわかった。もし人間だったなら、きっと羞恥で頬を赤く染めていることだろう。元々赤肌のリードには関係ないが・・・。


「とりあえず、挨拶してみるか。第一印象が大事だからな。いくぞ――」

「!、ショウ様!!」


ガキィイイン

リードが突然叫んだかと思うと、金属音が鳴り響く。

振り下ろされた鎚を、両手剣で防ぐリード。

鎚を振るったのは、緑色の肌に約三メートルはあろうかというほどの巨体。

旅に出る前、リーシャに聞いていた通りの姿。ショウたちの目的であり、カーマード砦の主・・オークであった。


「わが主になにをする・・・!!」

「これを止めるか・・ちびとは思えねぇ力だな・・・!!」


オークが上から押し、リードが下から押し返す。

互いに互いの武器に力を注ぎ、拮抗しているのか体が少し震えていた。


「ちょっと待て!オークだよな?俺らは話をしに来ただけだ、戦う気はない!」


「はっ!信用できるかよ!お前みたいな人間は特になぁ!!!」


叫ぶと同時にオークは自身の武器の戦鎚を振るう。

衝撃によってリードとの膠着状態は解かれ、勢いそのままにオークはリードめがけて再び戦鎚を振るった。

オークは戦鎚によって肉が潰れる音を期待するが、実際に出たのは、先ほども聞いた武器同士が衝突した金属音だった。


「ったく!なんで初対面は絶対にうまくいかねぇんだ!!」

「ショウ様!」


リードに向かって放たれた戦鎚を、ショウは片手剣で防ぐ。

リードよりも背の小さいショウとリードよりもはるかに大きいオーク。まるで大人と子供である。


「ちぃ!なんだこいつまでこの力はぁ・・・!!ホントに人間かぁ!?」


「俺は吸血鬼だ!!」


吸血鬼の力を総動員してショウは片手剣を振るう。

軽く戦鎚を弾かれたオークは、きたる追撃を嫌い後方に跳んで距離をとった。


(『なんだこの力は』ってこっちの台詞だよ・・なんだよあの馬鹿力、あんなのまともにくらったらやばいぞ・・・)

「なあ!話を聞いてくれ!俺たちは敵じゃない」


戦いの間を利用してショウは再び会話を試みる。


(ちっ・・俺の戦鎚を受け止めるやつが二人。しかも片方は片手剣でか・・ちとまずいなこのままじゃ・・だがまあそろそろ・・・)

「敵じゃない?そういって近づいてきた人間はたくさんいたぜ!・・・っとぉ、お前は吸血鬼だっけか?まあ関係ねぇな!どっちも似たようなもんだろ!」


「話を聞けオーク!我らは敵じゃないと言っているだろうが!」


「ゴブリンごときがなにいってやがる!お前程度が仕える主なんざ、それだけで程度が伺えるってもんだぜ!!」


「何だと・・?」


リードの表情が怒りで染まる。

角がある外見と相まって、さながら本物の鬼のようだ。


「待てリード!怒るんじゃ―――」

「おらっ、御主人様が待てっつってるぜ?ゴブリンしか従えられないダメ主人がよぉ!」


「貴様!覚悟しろよ、主を愚弄したこと後悔させて―――」

「オオオオオオォォオォォォオ!!」

「なっ!」


突然の雄叫び。聴こえる風切り音。

意味するところは、第三者の介入。否、正確には増援であった。


「オオッ!」

「うぐっ」


本日2度目となる、戦鎚による強襲を、しかし今回は両手剣で切り払ってカウンターを出すことに、リードは成功した。

襲撃者である緑の巨躯の怪物、増援のオークは軽くうめくと後退した。


「バカやろー!背後から攻撃するのに叫ぶやつがあるか!」


最初の襲撃者であるオークが叱咤する。


「悪いガージ。いくらゴブリンといっても戦士の誇りが・・背後から仕掛けるまでは我慢できたんだが・・」


「おい!いい加減話を聞け!!俺らは敵じゃない!それに分かったろ!?俺らは少なくともお前たちの攻撃は防げるし、やり返すこともできる!不必要な闘いを続けて互いに傷つくのは間違ってる!もうやめよう!」


三度目の正直にかけて、ショウはまたも会話を試みる。

ショウにしてみれば、鍛治能力のあるオークはどうしても欲しい存在。多少の考えの違いがあっても、それは最初だけで、後で解決できる問題だと考えていた。


そして何より心配なのはリードだった。

先ほどの激昂したようす。あれはまさに闘技場で本気で斬り合った時のリードそのものであった。

つまり、心配事とはリードがオークを殺してしまうこと。

仕掛けてきたのがオーク側だろうと、仲間を殺されて平気でいられる筈がない。

そうなれば、難しいどころか、ほぼ100%の確率でオークをショウの仲間に引き入れるのは不可能になってしまう。

それだけはなんとしてでも止めなくてはならない。考えられる限りの最悪のシナリオである。


「で、どうするんだ?このまま四人で殺し合うのか?

はっきりいって、俺もリードも強い。一対一なら確実に勝てる。その自信があ る!・・・それでもやるか?それとも、俺たちの話を聞くか?」


語気を強めて叫ぶようにショウは言った。

ここでオークが会話を選ばなければ、そのときは・・・


「・・・確かに、お前たちは強い。お前の言うとおり、一対一では負けはしなくとも、苦戦するだろう。そう・・一対一ならなぁ!!」


最初の襲撃者、ガージの言葉に続くように、森の中から別のオークたちが現れる。

その数、3。皆一様に鉄で出来た戦鎚を構えている。


「だが5対2なら話は別だ!

・・・正直、戦士としては失格だが、生憎俺は人間が嫌いでな。吸血鬼だろうが見た目が人間のお前も同じく嫌いだ。だから今回は数で潰す!!」


ガージの言葉を号令に、皆各々の戦鎚を強く握る。戦闘態勢である。


「ショウ様!どうするんですか!」


「・・・・・」


「ショウ様!」


「・・しょうがないかクソッ。・・やるぞリード。こいつら倒して家に帰る!」


「了解しました!!」


ショウ側もまた、ショウの言葉によって戦闘態勢に入った。

リードは両手剣を、ショウは片手剣をそれぞれ構える。


「いくぞお前ら!」

「「「オオッ!」」」


「リード!そいつらを頼む!」

「お任せを!」


ガージはショウと、リードは四人のオークとそれぞれ対峙する。


「オオオオオオォォオォォオォ!!」


「ガアアァァァアアアァッァァア!!」


気合いの咆哮が木霊す。

互いに走りだし、衝突の寸前、武器と武器がぶつかるその瞬間―――


「そこまでだ!!」


突如として怒声ともとれる大声が響いた。

いつの間にか砦の門は開いており、そこには他のオークの誰ともにつかない、圧倒的なオーラを放つ、髭を蓄えたオークがいた。


「頭領・・」


ガージが驚く。


「頭領?」


ショウは首をかしげた。


「話を聞こう。入れ、吸血鬼とその臣下よ」


そう言い残し、オークの頭領は背を向けて砦の奥へと歩いていった。

こうしてオークによって始まった闘いは、オークによって鎮められた。


補足

ガージたちがいたのもガヴァの大森林の中です。

ショウたちが出てきた位置の反対側に彼らはいて、先にガージがしかけ、その隙に他はショウたちの後ろに回り込んでいました。

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