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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
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第37話 鍛冶師を求めて

「じゃあ行ってくる!後は任せたぞ!リーシャ」

「はーい。まかせてー。」


 太陽が昇り、時が昼に差し掛かる少し前、ショウがリーシャに声をかけた。

肩には革でできた袋を担ぎ、腰には片手剣ハンドソードを差し、とどめに旅人が愛用するマントをつけている。

隣には右腕のリード。背中に両手剣を担ぎ、腰に小袋を身に着け、ショウ同様にマントをつけていた。

片手剣はショウがゴブジイの住処を出る際に、ゴブジイからもらったもので、革袋やマントは、なんとゴブリンたちの手作りであった。

無論ゴブリンたちが自ら考案し、試行錯誤して創り上げたものではない。建築、農業の時と同じく人間の技術提供のおかげであった。


 人間のノイドとナダを助け、彼らと打ち解け、無事に彼らを村まで帰してから約一か月経っている。

『村の皆にもゴブリンを認めてもらえるように頑張るぜぃ』と意気込んで帰って行ったノイドだが、その健闘は空しく、村人たちはゴブリンたちを受け入れようとはしなかった。

それもそのはず、ゴブリンに助けられたショウ、ノイド、ナダを除けば、世間一般のゴブリンのイメージと言えば、醜悪で血を好む魔物である。受け入れるなんてとんでもないだろう。事実、ノイドもナダも最初は受け入れようとはしなかった。

その経験からか、はたまたゴブリンへの恩からか、ノイドは村人の反応に臆することなく、帰ってからずっと説得を続けていた。

当然ショウたちも協力を惜しまず、魔獣を狩っては肉を、街で買っては雑貨を村に届け、時には村を魔獣から警護もした。

その甲斐あってか村の人々は段々とゴブリンたちを受け入れはじめ、今では頻繁にゴブリンが村に通うようになった。

実際はそれだけでなく、徴兵による村の若人の不在、それに伴う食糧の減少という村の状況が、ゴブリンを受け入れる後押しをしていたのだが、そのことをショウは知らない。


 そうして人間との文化交流に成功したゴブリンたち、主に女ゴブリンが、これまた村の女性たちから料理や、裁縫などの日常で使える技を学んでいる。

その甲斐あって、今では群れのほとんどのゴブリンたちがお手製の服を着ており、さながら人間のような生活を可能としていた。

生まれた時から死ぬ時まで裸なのが一般的だったゴブリンたちも、初めは着るのをためらったが、今ではすっかり服に慣れ、何の違和感もなく着るようになった。

その服の製作技術の派生でできたマントは、ショウからしてもまるでプロがつくったような着心地であった。


 なぜ彼らがそんな恰好をしているのか。遡ること昨日・・・。


――――――――――「ああ、それならひとつ、心当たりがあります。」


 急激な人口増加。それに伴う武器の欠品が目立つショウの群れ。

その状況を打開すべく、ダメもとでゴブリンであろうと力を貸してくれる鍛冶師の存在をショウが尋ねると、ハイゴブリンのインエはあっさりとそう答えた。


「え?あるの?心当たり?・・ちょっと詳しく教えてくれ」


 あまりに予想外な返答に動揺しながらも、ショウは続きを促した。


「はい。私はここより北の方に住んでいたのですが、そこを通る人間が度々口にしていたのです・・オークの存在を」


「オーク?」

「えーっオーク!?」

「ん?なにか知ってるのか?リーシャ」


 オークというとファンタジー系のゲームや漫画、小説などの創作物には見ないことはないほど、欠かせない存在である。

けれども見た目は作品によって差異があり、ある作品では豚の頭を持つ人型の魔物だったり、またある作品では蛮族のような恰好をした戦士だったりする。

そんな見た目に差異があるオークだが、ほとんどの作品で共通しているのは、人間の男は殺し女は犯すといった残虐な行為をすることである。

そう、つまりショウにとって、オークとはそういう存在だ。だからこそ要領を得なかった。なぜ鍛冶師とオークがつながるのか。この世界のオークは自分のイメージとは全く違うというのか。


「知ってるよー!!私外の世界の事はたっくさん勉強したからね!」


「・・外の世界?まるで今まで外にいなかったみたいな口ぶりだな」


「そ、それはいいとして!・・オークっていうのは緑色の肌のおっきな亜人で、あんまり知られてないんだけど、その鍛冶能力はドワーフに匹敵するほどなんだって!!」


「へー!そうなのか!・・ん?なんで有名じゃないんだ?そんなにすごい鍛冶能力があるのに」


 リーシャのおかげであっさりと疑問が解消されたショウ。

しかしすぐに新たな疑問がわいた。


「んー。なんかオークさんたちは種族至上主義が特に顕著らしくて、自分たちの業はあんまり外に出したくないんだって!『我らが業は至上であり、外界にさらすにあらず』なんだってさ!」


「あー・・なんだ・・。じゃあ結局俺らが頼みに行っても無駄か・・」


「いえ!そうとは限りません!」


 暗闇の中に差した一筋の光明。

その光を一瞬で消され、落ち込んだショウであったが、また新たな光を与えるがごとく、インエがすかさず口をはさんだ。


「先ほども言いましたが、よく私の元住処の近くを通る人間がオークの存在を口にしたのです。その内容が、リーシャ先生の言う他種族嫌いのオークからもらった武器の事についてだったのです!」


「え?どういうことだ・・?」


「詳しくは私にもわかりませんが・・・オークが人間に武器を渡した。つまり―――」


「つまり私たちにも武器をくれるチャンスがあるってことー!!!??キャー!はいっ!私行きたい!オークさんの説得行きたい!!」


「なるほど!よしっ!じゃあすぐにでも・・って今日は無理か。じゃあ明日だな!いそいで女の子たちに準備してもらって、リーシャ・・でいいか!明日一緒にいこ―――」


「ちょっと待った!!」


 一筋しか差していなかった光が、目にはっきりと見えるほど大きくなったのを確認しながら、ショウはオークと会う計画を練る。

そんな中、今まで沈黙していたリードが叫んだ。


「リーシャではいざというときショウ様をお守りできるか不安だ。ここは俺がショウ様に同行する」


「えーっ!なんでよリード!オークの事について知ってるの私だよ?私が一緒に行くべきでしょ!」


「失礼ながら、それならば元々情報を差し上げた私が行くべきだと思うのですが!そこのところどうお考えでしょうか!?」


「いーや俺が!」

「私が!」

「この私が!!」


「まあまあ落ち着けよ」


 群れの武器問題の解決の糸口をつかんだかと思ったら、ここに来て別の争いが始まってしまった。

三者とも譲らなかったが、リードの『情報は教わればいいが、ショウ様を守れるのは俺だけだ』という言葉によって、この一件はリードの勝利という形で幕を閉じたのだった。


――――――――――――――――――――――――そうして時は現在へと戻る・・・。


(テンション低いな・・まあしょうがないか。三人とも連れて行くのは群れの安全が不安になるしな・・)

「よし。他の皆も群れの皆の事を頼むぞ?特に戦士たちは女子供をしっかりと守るように!」


「任せろ」


 長であるショウの前に集まって話を聞く群れのゴブリンたち。

その中でおおよそ部下とは思えない口ぶりで、あるゴブリンが返事をした。


「ダイ!!長になんて口のきき方だ!わきまえろ」


「う・・すまん。リードさん」


 ダイ。

最近加わった四人のハイゴブリンのうちの一人。

ゴブリンに比べて一回り大きい体格のハイゴブリン。その中でも一際大きい体を持つ。

ショウとの話し合いにおいて、四人を代表して話していた彼だが、代表するにしては言葉づかいが簡素で単調。ともすれば喧嘩を売っているかのよう思われてしまうことがしばしば。

しかしその裏表のない愚直で真っ直ぐなところは信頼されており、元々彼の群れだったゴブリン、ショウの群れを含む他の三人の群れのゴブリンたちから「なぜか憎めない」と好感を得ていた。


「まったく・・なんで俺にはできて主にはできないんだ・・」


「まあまあリード。俺そんな気にしてないからさ」


「甘いですよショウ様!力関係をはっきりしませんと群れの皆が混乱してしまいます!」


「リード総隊長の言うとおりですよ、大長。ダイ一人のせいで群れの皆に迷惑がかかるのはよくありません。このインエがお灸を据えておきます。」


 インエ。

最近加わった四人のハイゴブリンのうちの一人。

ハイゴブリンの四人に比べて四肢がやや細く、そしてゴブリンにしては美形であることから、まるでどこかの人間の子供のような見た目をしている。

前住んでいた場所、その近くにいる人間の影響でいやに丁寧な口調で話す彼は、その口調の違和感のなさから、群れに加わった当初は・・・というか今も群れの中で「人間に育てられたのではないか」と噂されるほどであった。

もっぱら弓が得意であり、そんな彼の影響か、元々彼の群れだったゴブリンのほとんどが、彼ほどではないが弓が得意な傾向にある。


「うん。まあほどほどにしといてやってくれ」


「長の御命令とあれば。」


「はっはっはっは!我らが大長は優しいですなぁ!わいなら斬っていますわ!はっはっは」


「コーガ・・それはやりすぎだろ・・・なぁ?リード?」


「そうですね。死んだら反省させられませんし、するとしても半殺しです」


「なるほどなるほど!総隊長は聡明でいらっしゃる!はっはっはっは」


 コーガ。

最近加わった四人のハイゴブリンのうちの一人。

ハイゴブリンでありながら、人間の大人台の肉体をもつリードに張り合えるほど筋骨隆々である。

さながら一本の剣のような肉体の彼は、見た目に反してか陽気でお気楽な性格をしている。

群れ一番の陽気者として知られる、年寄りゴブリンのガン並のその陽気さは、群れの雰囲気を一段上の明るさに押し上げるのに一役買っていた。

そんな彼だが、ひとたび訓練・・いや剣を握るとなると人が変わったように無口になり、剣に真摯に向き合う一人の剣士となる。剣を振るうときのその気迫は、ショウをして「闘技場で闘った時のリードみたいだ」と言わせるほどであった。


「どっちも怖いな・・。まあとりあえず行ってくるよ!留守をたのんだぞ!」


「・・・ザラはなにか言うことはないのか?隊長の中でお前だけ何も言っていないが」


「・・・・お気をつけて」


 ザラ。

最近加わった四人のハイゴブリンのうちの一人。

ゴブリンに比べて一回り大きい体格のハイゴブリン。やや黒みがかった赤色の肌を持つゴブリンの進化形である。

その特徴を何の差異もなく、そのまま表しているのが彼と言ってもいいだろう。ダイのように大きくも、インエのように細くも、コーガのように筋骨隆々でもなくただただハイゴブリンを体現している。

そのせいか四人の中で彼の印象は薄く、また彼のあまりしゃべらない無口な性格もあいまって、彼の存在感を薄くしていた。

しかし訓練には真面目に参加し、また訓練中に見せるその戦闘能力の高さから、「一体何者なんだ」と、群れの中で知能の高い人々―インエが幹部と呼ぶ連中―のショウ、リード、リーシャ、ガンの間ではもっぱらの噂だった。


「おお、ありがとうザラ。今度こそ行くよ、俺とリードがいないからって悪さするなよ?群れの皆はリーシャと隊長たちの言うことを聞くように!いいな!?」


「俺がいなくても訓練は続けるんだぞ?帰って来たとき、もし腕がほんの少しでもなまっていたとしたら・・・分かるな?」


「「「「「はいっっ!!」」」」」


 群れの皆の返事を聞き、ショウとリードは踵を返し、森の中へとその歩みを進める。


「よし、行くぞリード。目指すはオークのいるカーマード砦だ!」


「ええ、お供しますよ。どこまでも」


 ショウは前を歩き、リードは不敵な笑みを浮かべながらそのあとに続く。

こうして二人はまだ見ぬオークの鍛冶師を求めて、旅立ったのであった。



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「行ったか?」


「行きましたね」「ああ!行ったな!」「・・行った」


 ショウとリードが住処を離れ、群れのゴブリンたちが普段通りの生活をする中で、四人の黒みがかった赤色の肌を持つ男がこそこそと話す。


「ではいいですね?計画通りに」


「ああ」「まかせろ!!」「うん」


「あの二人に目に物を見せてやりましょう」


 そう言って男は狡猾に笑った。




 




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