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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
36/110

第35話 群れのルール

「えーっと?・・これはどういう状況?」


 いつも通りの朝。太陽は空に浮かび世界を照らす。

日光を浴びて木々は輝き、ショウの眼前には明るい世界が広がっている。

木でできた家から出てくるゴブリンたち。どう頑張ってもぼろぼろの家しか建てられなかった彼らが、万人が家と判断できるレベルのモノを建てられるようになったのは人間の大工であるノイドのおかげである。

かつて住処に一つだけだった家だが、今では群れ全員が住めるだけの数が建てられている。当然一人一軒とはいかないが。

農作業を行うゴブリンたちもいる。かつて何のノウハウもなく、いたずらに作った畑ではなく、プロに習って耕された本物の畑で行っている。

大した実りがなかったそれが、今では狩り以外の食料の供給源として大いに役に立っている。こうなったのは人間の農夫であるナダのおかげである。

 

 そんな群れの発展に多大な貢献をした二人の人間は、自分たちの仕事の事を一通り教えると、自分たちの村へと帰って行った。

勿論、これで関係が終わったわけではない。村に帰ってからも交流は続いており、ノイドは『村の皆にもゴブリンを認めてもらえるように頑張るぜぃ』と意気込んでいた。

ショウがこれを聞いたときは、思わず泣きそうになるほど喜んだものだった。

 

 群れの発展はこれだけではない。

群れの皆が住む、いわゆる居住区。その近くの訓練場も大分様変わりした。

ただ開けており、身体を動かすのに便利なだけだったその場所は、今ではわらで作った人形や、木にかけられた木製の的などが設置され、名実ともに『訓練場』となった。

穀物などの食料が畑から得られるようになったおかげで、狩りに行く回数が減り、訓練場では、日夜その空いた時間を利用して剣や弓の訓練が行われている。

 

 剣の訓練を担当するのは、群れのNo.2。人子鬼ホブロンのリード・ホブソードである。

彼の指導は控えめに言っても地獄であり、毎晩毎晩、訓練のストレスでゴブリンたちがうなされるほどである。

それでも、地獄なだけあって効果は絶大で、群れのゴブリンたちの能力は向上し、奴隷から解放されたバルや、実力至上主義のボルは特に能力の向上が見られる。

リードをして、『今、再び奴隷商が来たら俺抜きで返り討ちにできる』と言わせるほどであった。

 

 そんな剣の訓練から逃げて、もとい選択して受けられるのは弓の訓練である。担当するのはダークエルフのリーシャ。

その明るく社交的な性格で、来てからすぐ群れに溶け込んだ彼女は、持ち前の弓術を生かし、それを教えることで群れに貢献していた。

彼女が来るまで、ゴブリンたちは独学で弓の訓練をしていたが、リーシャが来てからというものの、その内容はより洗練されたものとなった。

リーシャの指導は、彼女の性格からは想像できない程的確でわかりやすく、習うゴブリンたちはみるみるうちにその腕を上げていった。

リーシャ曰く、『ゴブリンさんたちは素直だから教えやすい!私も大満足だよ!』とのことだった。

余談だが、彼女は弓だけでなく、ショウも含むゴブリンたちに字の読み書きを教える、教育も老ゴブリンのガンと共に行っている。


 繰り返すがいつも通りの朝。各々が各々の仕事を全うするショウの群れの普段の光景。

初期のころに比べれば圧倒的に様子は変わったが、今現在の群れの日常は滞りなく流れている。

ところが、流れている中でいつもと違う、溶け込んでいるようで違和感のある状況にショウは立たされていた。

ショウの目の前には、群れの中では見かけない、心なしか群れのよりも大きな四人のゴブリンたちの姿があった。


「おかえりなさいませ。」


「お、おお。ただいま、リード。で・・どういう状況?」


 街から帰ってきたら、見慣れないゴブリンの姿があるのだ。説明がなければ困惑するのは当然だろう。

正直、ゴブリンたちの顔にそれほど大きな違いはないように思える。だがさすがに何か月も一緒に生活していれば、群れの全員の顔の違い位は分かるものだ。

だからこそショウは断言出来た。目の前で座っている四人のゴブリンは、明らかに自分の群れのゴブリンではないと。


「ええ、こいつらは別の群れのゴブリンたちです。なにやらショウ様に話があるようで、帰りをお待ちしておりました」


「話?・・・じゃあここじゃあれだから、俺の家でしようか。」


 ゴブリンが訪ねてくる・・というか、誰かが住処に訪ねてくるのは初めての出来事であった。

客をもてなすという意味合いと、自分が落ち着くためという意味合いもかねて、ショウは自分の家に招待したのだった。

招待されたゴブリンたちは黙って、ショウの後について行く。その表情はこわばっており、ショウから見ると緊張してるように感じられた。




―――――「要するに・・群れに加わりたいと?」


「ああ、そうだ。」


 突如始まった、ショウの家での会談。

話し合いのまとめとして言ったショウの言葉に応えたのは、ゴブリン規格ではあるが、体の大きな四人のうちの一人のひと際大きいゴブリンだった。


「そうか・・えーっと」

「ダイだ。」


「ダイ・・ね。他の皆も同じってこと?」

「ああ」 「はい」 「うむ」


「なるほどー・・・」


 ショウは顎に手を添えて考えるポーズをとる。

彼ら四人のゴブリンの用事とは、ダイの言った通り、ショウの群れに加わることだった。

四人はそれぞれ群れを率いる長であり、群れの代表としてそれぞれやってきたということだった。

理由としては、曰く、ここら辺で一番力のある群れだから。

曰く、食料が充実していて飢えていないから。

鉄でできた武器を使い、簡単に魔獣を狩る。その群れのゴブリンは皆たくましく健康的な肉体である。率いるのは角がない鬼の魔人。

そんな噂が住処の近隣に流れ、聞きつけて配下に加わろうとダイ含む四人のゴブリンがやってきたのだ。


 正直、ショウとしては断る理由はなかった。

夢の実現のために仲間が増えるのは喜ばしいことだし、食料も備蓄は増え、やり方を教えれば、狩りも農業も新たに加わるゴブリンたちにもできるようになる。

問題は、しっかりと自分の言うことを聞くかどうか。リーシャを勝手に連れてきた自分が言うことではないが、むやみやたらに群れの人数を増やせば、それだけで問題が起きる可能性は高まる。

仲間内で争いが起きるのは断固阻止しなければならない。そのためには―――


「ダイたちは俺に従うつもりはあるか?俺の言ったことを必ず守ることができるか?」


「もちろんだ」

「ええ」

「必ず」

「当然」


 ショウの質問に四人のゴブリンは即座に返事をした。

ゴブリンは縦社会。強いものに従う。どうやら噂だけでショウの強さを認めているようである。元々嘘をつくほど器用じゃないゴブリンが、すぐに肯定したことからその言葉は信じられるだろう。


「そうか・・じゃあ、ここにいるリードにはどうだ?従うことができるか?」


「それは・・」

「命じるならば」

「長以外に従いはせん」

「嫌だ」


 予想通りであった。

ゴブリンの群れは基本的に上に立つのは長が一人である。『大長』などという地位があるのはショウの群れだけである。長と認めるのはショウだけで、長じゃないリードには従いたくないというわけだ。

だが、それでは困る。


「・・・リード」


「いいんですか?」


「手加減してやれよ?」


「御意に。おい、外に出ろ。力の差を教えてやる」


 ショウの意思を汲んだリードは、四人のゴブリンをショウの家の外に出るようにけしかける。

リードは獰猛な笑みを浮かべ、先に外に出る。続いて、挑発され怒った四人もショウの家を出た。

従う気がないのなら従うようにすればいい。少なくとも自分よりも圧倒的に強いものが二人もいれば、反乱を起こす気にも、争う気にもならないだろう。

ゴブリンは縦社会。強いものに従う。単純で明確なルールである。


(しかし・・リードのやつ嬉しそうだったな。闘技場で闘った時も笑ってたっけ)


 普段、リードはショウに対して恭しい態度で接しており、そんな素振りは一切見せないが、いざ闘いになるとその本性がむき出しになる。

それは血か性格か。凶暴とはいかないまでも、闘いの時のリードは普段よりも気迫がすさまじいのだ。


(あいつ人子鬼ホブロンになってから益々強くなったし・・・もしかしたら俺より強かったりして)


 自分も毎日訓練はしているが、リードもまたどんどん強くなっていっている気がする。

稽古の相手として、毎日リードと闘っているショウだが、今、稽古ではなく、本気で、それこそ闘技場で闘った時のように殺す気で斬り合った場合勝つのはどっちなのだろうか。あの時は毒を使いはしたがショウが勝った。今やれば―――


ガラッ


「お?終わったか。どうだった」


「全然です。でもまあ、さすがにハイゴブリンなだけあって、普通のゴブリンよりは強かったです」


「ハイゴブリン?」


「ええ。ゴブリンより体が大きく、知能も高い。ゴブリンの進化系です。知りませんでしたか?」


「おお、知らなかった。どうりで大きいなと思ってたんだよな。・・ああ!それで流暢にしゃべれたのか!気が付かなかった」


「群れの皆はもうガンたちの教育のおかげか流暢に話しますからね。・・・おい!さっさと入ってこい」


 リードが声を張り上げると家の扉からゆっくりと入ってくる四人のゴブリンたち。

その誰もが、まさに満身創痍と言った様子で、傷が痛むのか疲労のせいか、フラフラである。


「・・・手加減したのか?」


「ええ、しましたよ。」


 おおよそ手加減されたとは思えないほどボロボロの四人だが、確かにリードが本気を出せばこんなものじゃないだろう。嘘を言っているわけではないようだ。


「そっか…。それで、もう一度聞くけど――リードに従う気はある?」

「「「「従います」」」」


「それはよかった」


 その後、正式に群れに加わることをショウは受諾し、四人のゴブリンたちはそれぞれの群れを率いて出直してくるということで方針は固まった。

帰り際、リードを見る四人の顔は、恐れ、尊敬、畏怖、それらが混ざったような複雑なものだったという。



∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥∥


「おお、これは・・すごいな」


 ショウの眼前に広がるのは、いつも通りの朝・・ではなく、整列するゴブリンたちだ。

その数約150。ショウの群れと、先日やってきたダイ含む四つの群れのゴブリンの合計の数である。

今までは群れと言っても、学校の一クラスにも満たない数だったが、今では小さな学校の学年全員ぐらいの人数になった。

というわけでショウは皆に集合をかけ、演説というか、挨拶をすることにしたのだった。


「えーどうも。長のショウです」


「こんにち・・あれ?」

「リーシャありがとう」


 ショウの挨拶に答えようとしたのはリーシャただ一人。そのリーシャでさえ、皆が返事をしないので途中でやめてしまった。

このことにショウは不満はなかった。ゴブリンたちに挨拶という概念はないし、この反応はショウを無視しているのではなく、真剣に聞いているだけだとショウは知っていた。


「見てのとおり一気に群れの人数が増えて、皆驚いたと思う。

 でも安心してほしい。増えたからって、食べる分は減らないし、家が狭くなることもない。・・・最初は狭いかもしれないけど、必ず状況は改善する。それは約束できる。

 えーっと…そう、人数が増えたから今までどおりに生活したくても、色々とうまくいかないことが出てくるかもしれない。そこで!!」


 ショウは言葉を一回止めると、後ろからあるものを取り出した。

それは木の立札。ガンとリーシャに協力してもらい、完成させた今後の生活に必要なものだ。


「よしっ!と。これはールールです。俺たちの群れのルール。皆が生きやすいようにっていうか・・俺からの皆へのお願いかな?」


「ルール?」


 そこでだれかから声が上がる。

それもその筈、ゴブリンたちにルールなんてものはない。ただ毎日を生きるだけだ。

しかしそれでは群れの生活はいつか崩壊してしまう。そうならないためのルールだ。


「うーんっと・・・俺と皆の約束事かな。破ると俺が怒る」


「はーい!守りまーす!」


 声を出したのはリーシャ。つづいてあちこちからリーシャに同意の声が上がる。


「ありがとう、皆!じゃあルールを発表します。

 一、他種族を見下さない。

 ニ、群れ内で争わない。

           以上。

               皆、わかったか?」


「「はーい」」


 わかりやすいように簡単な、絶対に守ってほしい事だけをルールとし、この世界の文字で書き記した。

ゴブリンのいいところは、長の言うことには素直に従うことである。正直、なんでルールが必要なのかわからない者ばかりだろうが、意味は後々分かるだろう。


「よしっ!じゃあこれは俺の家の前に刺しとくから、気が向いたら見るように!

 俺からは以上!皆仲良くな!!解散!」


 ショウの号令で皆ばらばらに動き出す。

新しく入ってきた群れのゴブリンたちは、元々ショウの群れだったゴブリンたちに、男は伐採と建築、女は農耕と料理を教わることになっている。

今はなにがなんでもまずは住む環境を整えることである。

新しく仲間が増えたショウの群れは、ゆっくりと新しい生活を始めようとしていた。



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