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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第二章
29/110

第28話 村人の災難

短めです

「ぜぇ・・!ぜぇ・・!」


 森の中を男が走る。

白髪交じりの髭をたくわえ腰には斧をぶら下げた、いわゆる木こりである。

年齢に見合わない程の活発さを見せながら、それでも男は必死に走る。

口からは際限なく息が漏れ、肺は悲鳴を上げるが、そんなことは男には関係なかった。


「はぁ、はぁ・・ノイド!・・おいらはもうだめだ!はぁ・・は、はしれねぇ!」

「馬鹿言うな、ナダ!弱音吐かず走り続けろぃ!」


 先頭を走る木こりの男、ノイドは後方を走るナダに喝をいれる。

大声を出されたおかげか、ナダはその太った体を懸命に動かす。

いつも「なんで村のあの量の食事でこんなに太れるんだ?」と馬鹿にされるこの体が、重いだけの身体が今は本当に憎かった。

 彼らは今いるガヴァの大森林の近くの村人だった。

正確に言えば、広大なガヴァの大森林の南側にある村の住人だ。

その村でノイドは木こり兼大工。ナダは百姓の仕事についている。

どちらも五十を超えた年寄りであり、本来なら森に入るような、ましてや今現在走っている森の奥にまで入るような年齢じゃなかった。入らなくてはいけなかったのはひとえに、現在の村の状況によるものだ。

 彼ら二人の目的は薬草の採取。森に生えているモノを採りに来たのだ。

この行為自体はなんら不思議なものではない。このティステル大陸の多くの村々が近くの森に行き、そこで採った薬草を売って生計を立てているのだから。

本来は体力のある村の若者がやるはずのこの仕事を、五十を超えた二人がやっているのは村に若者がいないからである。

村に一人も若者が住んでいないという意味ではなく、今現在、若者が村にいないという意味である。

 領主の徴兵。若者がいない理由はこれであった。

普段は滅多に顔を出さない形だけの領主。その領主が突然、兵力がいるからと若者たちを連れて行ってしまったのだ。

領主が自分の治める村から徴兵するのは珍しくない。国同士の戦争のためや、今だったら戦争はしていないのでモンスター退治のためだろう。

しかしそれは一般論に過ぎない。ノイドとナダが住む村は辺境にあり、今までそんなことは一度もなかったのだ。

前触れもなく急に若者がいなくなったせいで、農作業は滞り、稼ぎは減った。

だからこそ村の経済を立て直すため老体に鞭をうち、しぶるナダを強引に引っ張り出して、ノイドは森に入ったのだ。なのに――


「・・はぁくそっ!」


 ノイドは走りながら振り返って後ろを見る。

やや遅れながらも懸命に走るナダが見え、その後ろに―


「ちっ!やっぱりまだいやがるか!!」


 一直線に突進してくる三角猪トリプルボアの姿があった。

薬草採取に夢中になるあまり、いつの間にか森の奥に入ってしまい出会った魔獣。

魔獣除けの薬をつけて安心しきっていた。油断していたのだ。

文字通り死に物狂いで走っているが、向こうの方が圧倒的に速い。このままでは追いつかれてしまう。


「はぁはぁ・・もう・・だめ」

「ナダ!!」


 後ろを走っていたナダが倒れた。

肩が動いているので生きてはいるだろうが、これ以上走るのは無理そうである。

 ノイドは立ち止まり荒く息を吐きながら考える。

歳をとったとはいえ昔から森によく出入りしていたノイドは体力には自信があった。それこそ森を抜けるまで走り続けられるほどである。

このまま走り続ければノイドは助かるだろう。その代りナダを犠牲にすることになる。

ここに残り、三角猪と闘うという選択肢もある。元々闘う力がないのに加え、ナダを守りながらという不利な条件付きではあるが。

三角猪が迫る数秒間。そのわずかな時間の中で、ノイドは選択を迫られた。


「そんなの決まっているよなぁ」


 ノイドは走り出した。

向かう先には三角猪。ノイドはナダを助けることを選んだのだ。

「助ける」といえば聞こえはいいだろう。しかしその実、ノイドがとった行動は無謀そのもの。勝算のないギャンブルに命を賭けたようなものだった。

そんなことはわかっている。しかしそれでもノイドはナダを見捨てることができなかった。小さな頃から同じ村で育った友人を裏切れるわけがなかった。

本来なら負けるはずだったこの闘い。無謀な挑戦の代償に支払われるはずだったその命は――


「ガッ!?」

「お?」


 一本の飛んできた矢によって救われることとなった。


「誰だ?」


 ノイドは思わず足を止め、矢がやってきた方向に目を向ける。

三角猪も当たってはいないものの、眼前をかすった矢を警戒し、ノイド同様足を止めて同じ方向に視線を向けた。


「ガアァアアァァアアアアアア!!」


 突如としてその方向から叫び声をあげながら人型の何かが迫ってきた。それも一体ではなくではなく複数である。

その複数の者たちは走ってやった来たかと思うと、皆一斉に三角猪に向かっていき、手に持っているものを振り下ろす。

三角猪は雄叫びを上げたかと思うと、すぐに血を体中から出しながら、あっという間に倒れてしまった。

 ソレらは小さく赤い。その子供のように見える体躯に似合わない剣を持っていた。


「お前、もっと弓ヲ練習しロ。当たってナイだろ」

「うぐっ・・、分かってイルがどうも弓ハ慣れんナ。剣の方ガイイ」

「気持ちは分カルぞ!俺モソウダシな!」

「デモせっかく大長が買ってキテくれたんダカラちゃんト使エよ。俺はもう慣れたゾ」


「あ・・あぁあ・・」


「「「「ん!?」」」」


 一連の流れを見ていたノイドの口から驚きのあまり声がもれる。

小さな体躯。赤い肌。尖った耳。大きなつり目。

自分を助けてくれた救世主たちの見た目。それは冒険者でない人でも、誰もが知っている魔物の特徴。


「ゴ・・ゴブ!・・」


「ありゃ!人間カ!?」

「見られタノか!・・って気絶してナイカ?」

「・・してるな、アレは。ん?ここニモいるぞ!気絶シタ人間」

「本当ダ・・どうする?俺たちハ人間に見つカッタラいけなイんだろう?・・殺すか?」

「馬鹿!それコソ大長ニ止められテるダロウ。・・しょうがナイ、連れ帰ッテ大長に任せヨウ」

「「「「賛成」」」」


 かくして討ち取られた三角猪、気絶したノイド、ナダはゴブリンたちに連れて行かれることとなった。

ゴブリンが話すことか、剣を使った事か、何に驚いて気絶したかは、今となってはノイドに聞くことは叶わない。

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