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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第一章
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第25話 ショウの群れ

 ハァハァハァハァ

いくつもの生物―ゴブリンの息が漏れ出る。

その息が表わすのは疲労である。地面に仰向けに倒れているゴブリンたちからは立ち上がる活力すら見受けられない。


「他に戦いたい奴は?」


 そんな倒れているゴブリンたちを見下ろすように立つ男、ショウは、周りの他のゴブリンたちに呼びかけた。

実力至上主義の小鬼ゴブリン社会で、小鬼人ホブゴブリンのリードに代わる長として認められる為の闘いが今、終わったのだった。

ショウを新たな長として認められない者、単に実力を確認したい者など、様々な者達が参加した闘いだったが、結果は皆同様でショウの目の前に倒れ伏すことになった。

手加減したので誰も絶命していないが、その実力差は明らかであった。それを証拠にショウに傷はなく息も乱れていない。

そんな光景を見れば、闘いに参加しなかった他のゴブリンたちも、ショウの実力を認めるしかなかった。


(誰もいないみたいだな…無事に終わってよかった)


 周囲を見回して安堵するショウ。どうにか自分の実力を示すことができたみたいである。

小鬼ゴブリンは弱い。それはこの世界での彼らの扱いを見ればわかる。

とはいえ、ショウはリード戦で疲労しており、相手は一人や二人ではなかった。下手すればいかに吸血鬼ヴァンパイアであろうとも負ける可能性はあった。

勝てたのは結局のところ実力差のおかげだったのだが、一概にショウの実力だけで圧勝できたというわけでもなかった。

 ゴブリンたちが惨敗した理由、それは彼らの闘い方にあった。

ショウが闘ったリードの群れのゴブリンたちは―おそらくは他の群れのゴブリンもそうだろが―連携というものを全くと言っていいほどできていなかった。

力は間違いなくある。体力も棍棒を振り回し続けられたことからあるだろう。しかし闘い方がなっていなかった。

各々が好きなように武器を振り回すから、よければ味方に当たり、周りを見ず突進してくるので味方とぶつかる。

奴隷から解放したバルや、捕まらず森で生き延びていたボル、といった群れの中でも上位的な存在の二人の動きはまだマシだったが他はてんで駄目だった。

 闘いはショウの圧勝。だがふたを開けてみればほとんどが同士討ちで、その隙をついて軽く殴っただけで決着がついてしまった。

もしこのままゴブリンの群れを束ねることになるのならば、まずは連携を教えなくてはと思うショウであった。


「どうやら決着はついたようだな・・・」


 闘いをわきで見ていたリードが立ち上がる。

その表情はどこか嬉しそうである。

 すぐに表情をしめ直すと、リードはショウの方を向き―両手剣を地面に突き刺すとショウの前に跪いた。


「え」


 突然のリードの行動に思わず声が漏れるショウ。

そんなことは誰も気にも留めず、リードにならって闘いを挑んで倒れているゴブリン、闘いを見守っていたゴブリン共々同様に跪いた。

リードを先頭に整列するゴブリンたち。それはまるで体育の時間の四列横隊のようである。


「私に打ち勝った強きショウよ。貴方をあるじとし忠誠をつくします」


 始めた会った時からは想像できないほど恭しい態度でリードは言った。

表情は下を向いているため確認できないが、その声色は冗談ではなく本気である。


「本気か?」


 リードの声は明らかに本気であると告げている。しかしショウは聞かずにはいられなかった。


「本気です」


 そのショウの質問に臆することなくはっきりと返答するリード。

顔を上げて言うリードのその表情は真剣である。


「他のみんなは?」


「貴方ノ強サハ本物デス。従ウノニ疑問ハアリマセン」


 一番ショウに否定的だったボルが頭を下げながら答えた。

その態度は先ほどまでとは違い、心の底からショウを、ショウの強さを認めているように思える。


「貴方ナラ従イマス。ドウカ群レノ繁栄ヲ」


 奴隷店の牢屋で話したバルも頭を下げて返答する。

表情は見えないがどこか笑っているように思える。馬鹿にしてモノでも、諦めてモノでもなく、喜びから笑っているようだ。

 そんなボルやバルに続いて他のゴブリンたちも次々に返答する。

そのどれもがショウを新たな長として認めるという内容だった。


「……俺は元は人間だった」


 ショウの言葉に一斉に顔を上げるゴブリンたち。

誰もが驚きの表情をしている。


「そして異世界人だ。この世界とは別の世界からやって来たんだ。

 この世界に来て最初の日、俺はゴブリンに命を狙われた。」


「絶望したよ。ただ生きるために逃げて逃げて・・それでもゴブリンに追いつかれて死を覚悟した。

 ……でも俺は助かったんだ、助けてくれたのは俺を襲ってきたゴブリンと同じ、ゴブジイという小鬼ゴブリンだった」


 語りながらゴブジイを幻視する。

追いかけてくる絶望ゴブリンを追い払う救世主ゴブリン。気絶寸前で見たゴブジイの背中は今でも覚えている。


「そのゴブジイというゴブリンは俺に寝る場所と食べ物、それに生きる術を教えてくれた。

 そして夢を語ったんだ。『ゴブリンを含めた亜人と人間の共存』ていう夢をな。

 その夢は今じゃ俺の夢になった!簡単な事じゃ無いことはわかってる!でも俺はこの夢を叶えたい!

 不可能じゃないはずだ、だって実際に人間であった俺とゴブリンのゴブジイは一緒に生活できたんだからな!!」


 語りに熱が入るショウ。その姿はまるでショウに夢を語ったゴブジイの姿そのものであった。


「ゴブリンだけじゃない。このゴブジイの…俺の夢は他の亜人も!人間に虐げられているすべての亜人が人間と共存することだ!だから・・!!」


 一旦口を閉じ軽く息を吸うショウ。

これから言う言葉は同意や共感は得難いだろう。非難されるかもしれない。しかし、どうしても言わなくてはいけないことだ。


「…だから自分たちの群れだけじゃなく、他の種族、ましてや人間とさえも協力する必要がある!

 このなかで他の種族、特に人間に対してよく思っている人は少ないだろう。でも俺の仲間になるのならだれにでも友好的に接してほしい。

 …強制はしない。この中の一人でも俺の意見に反対の人がいるなら俺はこの群れから離れるよ。長にはならない。」


 相手がどんな種族だろうと仲良くする。口にするのは簡単だが実行は難しいだろう。

ゴブリンのような森の中でも弱者で、他の生物の危険に常にさらされている者達には受け入れがたいはずである。

しかし、このことはショウにとってどうしても譲れないことである。この部分を納得してもらえなければ今後一緒に動くことなどできるわけがないのだ。


「…主の願い、しかと承りました。

 確かにその夢は壮大でいくつもの困難が待ち構えるでしょう。ならばその困難をこの私が切り払って見せます。協力させてください主よ」


「リード…!」


「貴方ノソノ願イ、牢屋デ聞イタ時ハ無理ダト…シカシ今ナラバ可能ダト思エマス。俺ニ異議ハアリマセン」


「バル…」


「貴方ノソノ強サナラ、ドンナ困難ダロウト大丈夫デショウ。貴方ニ従イマス。」


「ボル…」


「新シイ長ナラ何デモデキソウ!」

「人間ノ食イ物喰エルノカ」

「何カアッタラ守ッテモラエルンダヨネ…ダッタラ」


「みんな…!!」


「皆あなたに従います。どうか我らに新しい世界を見せてください…長よ!!」

「「「長よ!!」」」


 心配なんて無駄だったかのようにショウの願いはあっさりとゴブリンたちに受け入れられた。

それはショウの想いか、ゴブジイの願いか・・・。

ともかく力が上だからではなく、信頼によって、ショウの言葉を信じることで、ショウに従うと決めた群れの皆の顔は真っ直ぐであった。

 かくしてただでさえ異色の、小鬼人ホブゴブリンによって率いられていた小鬼ゴブリンの群れは、吸血鬼ヴァンパイアが率いる群れとなった。

魔獣が跋扈する『ガヴァの大森林』。その中で人知れず誕生したこの勢力の事を世界はまだ知る由もなかった・・。


次回、第一章完結!!

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