第19話 VSリード②
「どういうことだ!?なぜ同胞の名を知っている!!」
リードが怒鳴る。
先程までの冷淡な表情ではなく、見るものによってはその剣幕に圧倒されてしまうだろう。
つばぜり合いをしていて、顔が肉薄しているショウも、その表情の変わりように驚いた。
が、すぐに持ち直し笑う。リードの表情は真剣である。真剣に怒っている。
同胞を大事に思っているからこその怒り。ゆえにショウは笑ったのだ。
(いいリーダーじゃないか)
奴隷店で話したゴブリン――バルの話から、信頼されていることはわかっていた。
しかしそれは見せ掛けで、信頼する気持ちを利用している可能性もあった。
そんな可能性を払拭させる程のリードの怒り。激情。剣幕。
ショウは確信する。リードの同胞を、仲間を思う気持ちは本物だと。
(その仲間に俺も入れてもらうぜ!)
バルにも語った、かつてはゴブジイの、今は自分の夢。
ゴブリンを亜人と認めさせ、亜人と人間が共存する世界を実現させる。
そんな途方もない夢をかなえるにはショウ1人では到底不可能だろう。だからこそ仲間がいる。
初めて闘技場でリードを見たとき、仲間になってくれたらと思った。
そして今、バルの話を聞き、リードの態度を見て、ショウは仲間にすることを決定した。リードなら仲間になってくれると確信した。
「何を笑っている!!答えろ!同胞に何をした!」
考えているうちに笑っていたようだ。あわてて表情をただすショウ。
「落ち着け、リード。バルたちには何もしていない。むしろ俺が助けたくらいだ」
「なんだと・・・?馬鹿な。俺が100連勝しなければ解放しないとドイドは言っていたぞ!」
声に呼応して、リードの剣を押す力が強まる。
「ああ、知ってる。だがその約束は嘘だ!ドイドは最初から約束を守る気なんてなかった!今日、試合の後バルたちは殺される事になってたんだ」
「なに?いや・・まさかそんな・・」
ショウの言葉に困惑するリード。両手が自由なら、頭を抱えるほどである。
「信じられないのはわかる。だけどこれは事実だ!俺はお前を助けるためにここに来た」
「・・・・」
無言でショウを見つめるリード。
その表情はいまだ困惑したままである。ドイドとショウ。どちらの人間を信じるべきか迷っているのだ。
小鬼人は賢い。その知能は人間ほどといってもいいだろう。
そんな知能をもつホブゴブリンのリードでもすぐにどちらかに決めるのは難しかった。
それは経験の不足が原因である。
リードはホブゴブリンとして生まれ、ゴブリンたちと同じように育った。
知能や力の差はあれど生活は同じ、森の中獲物を狩り、木の実を採り食らう。
時に人間たちを襲い、討伐に来た人間――主に冒険者――は返り討ちにする。
そんな生活の中では、当然人間と会話する機会などほとんどない。リードにとって人間は敵であり、獲物であるからだ。
ましてや、約束をするなどまったくと言っていいほどなかった。ただ一回だけ、たった一回だけ人間と約束したことがあっただけだ。
そんなリードが約束が嘘だったと聞かされてすぐに納得も、判断もできるわけが無かった。
人間が嘘をつくメリット、また自分たちを助けるメリットもわからない。
ゆえにリードは思い出す。
初めてまともに人間と会話した出来事を。人間と約束したあの日の事を―――――
『強いなお前・・名前は?』
『そうか、おれはファングだ。って普通は一騎打ちの前に名乗るんだけどな』
『じゃあ約束通り俺の命で勘弁してくれ!仲間には手を出さないでくれよな』
『え?何で自分をそんなに信じるのかって?そうだなー・・なんかお前はゴブリンにしては話が通じそうな気がするからかな!』
『根拠?根拠って・・それは・・そう感じたからとしか・・いやいや適当じゃないって!
俺ってさ、斬り合った相手の事はなんとなくわかるんだよなーまさかそれがゴブリンでもそうだとは思わなかったけど。
もしかしたら、お互いに歩み寄ればゴブリンと人間は共存できたりして・・・それは無理か。』
『え?命はいらないから早く出てけ?そんな・・それだと決闘じゃなくなるだろ。それに元々そういう約束だったろ?』
『困ったな・・敗者は勝者になにかあげなきゃいけないんだが俺にはあげるもんが・・あっ!』
『これやるよ!命の次に大事な両手剣だ。大切に使ってくれ』
『いいか、やるって言ったが預けるだけだ。俺が腕を磨いてお前に勝った時は返してもらうからな!』
『ああ!約束だ!』
――――――「おい!リード!」
ハッと顔をあげるリード。
短い間だが、思わず思考の海に沈んでいたようだ。
目の前には自分に呼びかける人間の姿。そういえば話をしていたんだったっと状況を思い出す。
「で、どうだ?信じてくれるか?」
ショウが問いかけにリードは再び思考する。
自分の唯一の人間との会話を思い出してみたものの、あれだけではとてもどちらを信じるべきかなんて判断できない。
正直、目の前の男が嘘を言っているとは思えない。しかし信じるための材料が少ないのも事実である。
ショウが嘘をついてた場合、ドイドを裏切ることになり、同胞が危険にさらされる。
しかしドイドが嘘をついていた場合、自分はすでに裏切られており、ショウが同胞を救ってくれたということになる。
(どちらを信じればいい・・!!)
ゴブリンより知能が高いと言っても、無知では頭の働かせようがない。
経験不足のリードでは、考えることで答えを出すことは出来なかった。
『斬り合った相手の事はなんとなくわかる』
天啓のごとくリードの頭に言葉がよぎった。
それは自分と約束を交わした人間の言葉だった。
「そうだな・・斬り合えばわかるか・・」
「なに?」
「ショウとやら!お前の話信じよう!」
「ほんとか!?」
「ああ!俺を倒すことができたらな!」
「え?」
ショウの表情が固まる。リードが何を言っているかわからないという感じだ。
「俺に信じさせたいなら、俺を倒してみろ!できたなら。いくらでも信じてやる」
リードは笑顔で告げる。
迷いを吹っ切りすがすがしい様子だ。
ゴブリンは縦社会。力の強いものが上に立つ。自分よりショウが強いなら信じてもいいだろう。それに―――
「斬りあったらわかるものだ」
「・・・」
ショウはさらに表情を固め、遂には無言となった。
しかし次の瞬間、ショウから出たのは笑い声であった。
「はっはっは!いいよ!わかった!そうしよう。俺が勝てば信じてくれるんだな?」
「ああ、その通りだ」
「単純でいいな。全力で勝ちに行ってやる!」
「ふふっ、ならば俺も全力を出すことにしよう」
そういってリードはつばぜり合いをやめ剣を下ろすと踵を返して歩く。
後ろでは、「あれ?まだ本気じゃなかったの?」と聞こえた気がしたが気にしない。
数十歩離れたところで、ショウの方に向き直り、両手剣を構える。
それに呼応してショウもまた片手剣を構えた。
「いくぞ」
「こい!」
短い掛け声の後、両者は走り出し激突する。
互いの顔は微笑を浮かべており、心から闘いを楽しんでいるように見えた。




