第1話 森の中
ゴブリンの登場は次回!
風が吹く。
木々は風で枝を揺らせてざわざわと音を立てた。
辺りは真っ暗。夜中というのにも加えて木々がその葉で月の光すらもさえぎっているからだ。
辺りに生物の声は聞こえず、その森は静寂していた。
そんな森の中を黒いコートに身を包んだ少年が一人立っていた。
津田 翔、その人である。
「どういうことだ・・・?」
翔は静寂した森の中で動揺しながらつぶやいた。
さっきまで地元の神社にいたはずなのだ。なのにどうしてこんなところにいるのだろうか。
自分がしたことと言えば、ちょっと気になる道を発見して、その道をたどっただけだ。
だというのに、いつの間にかこんな森の中に来ていた。
「いやいやおかしいだろー!えー?・・うそだろ?」
誰だってこんな急に自分の居場所が移動していたら混乱するだろう、そしてそれは翔も例外ではない。
なんとか落ちつこうと無駄に明るく独り言を呟いてみても、結局は混乱したままだ。
「・・ここはいったいどこなんだ?」
混乱する頭を何どうにか落ちつかせて、翔は考える。
ここはどう考えても森だ。それは、周りにそびえたっている木や、自分が土の上に立っていることからわかる。
となると問題は別で、考えるべきところはそこじゃない。
どうしてここにいるかだ。
翔は今一度ここに来る前の事を思い出す。
弘人にお金を渡され、弘人、妃菜の二人から飲み物の注文を受けた。
飲み物の自動販売機に着いて注文通り飲み物を買った。
買い終わって周りを見たら知らない道があった。好奇心からその道をたどったのだ。
そして―――
(急にまぶしくなったんだ!・・光に包みこまれるようなそんな感じだった・・)
突如、光に包まれたことを思い出し、翔は改めて状況の把握に精を出す。
(考えられるのは・・誘拐?なんか特殊な光を浴びせられて気絶したとか?)
誘拐。
何者かが何かしらの目的で自分を誘拐しこの森まで連れてきた。
この可能性が一番高いだろう、そう翔は結論づけた。
が、可能性は高いだろうが、それすらも怪しい。
誘拐といえば犯人の目的は金だ。金目的で誘拐し被害者と引き換えに大金を要求する。
だが、それならば近くに犯人がいないのはおかしいし、身柄を拘束せずに森の中に放置というのも不自然だ。
目的は金じゃないとしたら実験だろうか?
テレビの企画か、はたまたどこかの科学者の勝手なものなのか。
どちらとも翔にはわからないが、多分どっちも違うだろうと翔は考える。
そもそも、光に包まれてからこの森の中に立っていることに気づくまで、全く時間がたっていないと感じていた。
これは翔の体感でしかないが、気絶していたなら意識が覚醒するのを感じるはずだし、さも道の延長のようにこの森まで歩いてきた感覚もあったからだ。
つまるところ・・・何もわからない。
色々考えた末にでたその結論に、翔は思わず座り込むのであった。
どれくらい経っただろうか。
長いような気もするし短いような気もする。
自分の置かれている状況はわからないと結論付けてから座ってボーッとしていただけで、時間が過ぎて行ってしまった。
途中ケータイで連絡を取ろうと試みたり、買った飲み物を飲もうとしたが無理だった。
荷物が消えていたのだ。
ポケットの中に入ってたはずのスマートフォンも、買ったはずのミルクティーも消えていた。
自分のものは身に着けている白シャツに黒いコート、黒いパンツに黒いスニーカーだけだ。
それしか持っておらず、出来ることといえば、せいぜい「あぁ俺って黒好きなんだなー」と実感することだけだった。
しかし、いつまでもここでこうして座っているわけにもいかないだろう。
現状が把握できないなら、把握できるように行動するべきだ。
翔は立ち上がり背筋を伸ばす。
んーっと目一杯のばして体を軽くほぐす。
「とりあえず歩くか!もしかしたら森を抜けれるかもしれないしな」
翔はわざと明るく声を出し歩き出す。
不安がないわけじゃなかった。ただ、なんとかなるだろうと思っていただけだった。
そして数分後、翔は絶望することになる。