第18話 VSリード
「くっ!」
闘技場の試合が始まって数分。ショウはこの試合で何度目かのうめき声を漏らした。
原因はホブゴブリン、リードの攻撃である。
(わかってたけど、こんなにかっ!)
思考すらまともにできず、すぐさま右方向に剣を振る。
わずかに遅れて響く金属音。刃と刃が交わった音だ。
ショウの目に何かが映る。確認をせずにショウは逆方向に剣を振るう。
再び響く金属音。同時にショウの腕にリードの両手剣を受け止めた衝撃が伝わる。
「うらぁ!」
ショウは剣を水平にし、横に薙ぐようにリードの首めがけて剣を振るった。
リードは首を動かし難なくかわすと、体をひねる。
ドンッ
ショウは体をくの字に曲げもがく。
少し遅れて殴られたと理解した時、次なるリードの攻撃が迫っていた。
上から一刀両断する勢いでリードが両手剣を振り下ろす。
攻撃に気づいたショウはすぐさま全力で剣を振るう。
下から放たれた吸血鬼の全力の剣撃は、小鬼人の両手剣の重量に重力を伴った重撃をそらすことに成功した。
腕に多大な衝撃が走るが、無視してショウは拳をリードの顔面に見舞う。
リードがひるんだすきにショウは後ろに跳躍。体勢を立て直すため距離を取った。
ふーっと息を吐き呼吸を整えるショウ。
短い時間で多数の動きを要した体は、まだまだ動きそうである。
これも吸血鬼の恩恵だろう。もし転移直後の高校生の肉体だったなら一撃でやられている。
心の中で感謝しつつショウはリードを見る。
リードもまたパンチの衝撃から立ち直り、ショウを見ていた。
お互いの視線が交錯する。
2人の戦いに熱狂する観客たちの声は切り離され、場は完全に二人だけの世界となっていた。
どちらも仕掛けようとせず、だた見つめ合う。
お互いの力量を認め合っているからこその警戒。うかつに手を出せばカウンターをくらうのだ。
強い。
膠着状態の中、ショウは考える。
試合が始まって数分で思い知らされた事実。
それはリードの強さ。まさに鬼のような猛攻は吸血鬼のショウでさえ防戦一方である。
吸血鬼の優れた視力、それに付随する反射神経をもってやっと、リードの攻撃に対応することができるのだ。
小鬼人は皆こんなに強いのだろうか、とショウの頭によぎるがすぐさま自分で否定する。
理由はリードの剣技である。
リードの鬼のような猛攻。それが単にがむしゃらに両手剣を振るうものだったら、実戦経験に乏しいショウであっても、吸血鬼の身体能力があれば難なく返り討ちにできるだろう。
しかし、リードの猛攻は素人のショウが見ても、明らかにがむしゃらに剣を振るっているわけではないと分かる。
それはまるで流水が如く。流れるように振るわれる剣は、素早く、あらゆる方向から繰り出される。
重量で言えば明らかに片手剣より重い両手剣を、軽々と扱うその技は見るものを魅了する舞のような美しさがあった。
こんな剣技を小鬼人全員が使えるのなら、人間社会において、もっと脅威とみなされているはずだ。
小鬼種の中でも珍しい小鬼人。さらにその中でも特別なのがリードというわけだ。
(まあなんとかしてみせるさ・・!)
リードが強いからと言って、助けるのを諦めるわけではない。
それに――これも吸血鬼の恩恵のおかげだろうが――段々とリードの剣技に慣れてきている気がするのだ。
決して勝てないわけではない。
そのことがショウが闘いを諦めず、いまだリードとうち合える理由であった。
そして今よりも早くリードの攻撃に対応できるようになった時初めて余裕ができ、自分の計画を話せるはずだ。
ショウは自らを鼓舞して闘志を燃やす。
未だ動かないリードを睨み、いつでも対応できるように集中するのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(なかなかやる・・・)
ショウを睨みつつリードは思う。
自分を相手にして、ここまで粘った人間は今までで一人しかいないのだ。
自分史上二人目の強敵に口元にわずかに笑みを浮かべながら、しっかりとショウを見据える。
群れの長で、決断する立場。試合には同胞たちの命がかかっている。
立場や状況はそうでも内側から湧き上がる興奮と愉悦は抑えられない。
それは本能によるもの。自身に刻まれた闘いの本能が試合を、強敵と戦えることを喜んでいるのだ。
(俺もまだまだ甘い)
群れの長としていつも冷静に、アツくならないようにしてきた。
それは仲間を、家族を守るため。長は危険を判断し冷静に対処しなくてはいけないのだ。そうリードは努めてきた。
群れの老ゴブリンに聞けば、そんなリーダーは珍しいという。
小鬼とは――他の種族もだいたいそうだが――力があるものが偉い。ゆえに上に立つ。
つまり小鬼の群れの長とは、狩り等で先頭に立って力を振るう猛者の事で、頭を使い同胞を守る者の事ではないのだ。
しかしリードは強さで群れの長になり、力だけでなく頭を使い群れを率いている。
そう考えれば確かにゴブリンにしては異端である。しかしそれは種族の違いだろうとリードは考える。
自分は小鬼人である。
生まれたときからそうであったから、自分からしてみれば何も不自然なことではないのだ。
成長するにつれて力も知能も高まり、他のゴブリンなど相手にならなかった。
だからこそ、次の長になるのは予想通りだったし、長ならば群れの皆を守るのは当たり前だと自然に考えていた。
だから老ゴブリンに珍しいと言われても気にしなかった。自分はホブゴブリンでゴブリンではない。ならば考えが違っていてもいいだろう、と。
同胞たちは自分を慕ってついてきてくれる。なればこそ、なおさら守るべきなのだ。
笑みを消し、息を吐く。
改めて決意したリードはショウ目がけて一直線に走り出す。
ただ真っ直ぐに、正面から叩き潰すのだ。
「同胞を救うために!!」
両手で強く剣を握りショウ目がけて振るう。
風を切り裂いて振るわれたその剣撃は、ショウのもつ片手剣とぶつかった。
「うおおおぉおぉああ!」
気合いの雄叫びを上げ、回転し、再び剣を振るう。
自然の中で創り上げた自己流の剣技。
ホブゴブリンの筋力があるからこそ成せる怒涛の連撃。
右から薙ぎ、左上から斬る。下から突き上げ、上から叩き潰す。
縦横無尽に振るわれる鬼の剣。対応できるものはそうそういないだろう。
だというのに――
「はあぁあ!!」
ショウもまた叫びリードの剣を受けとめる。
鬼の連撃に合わせるように片手剣を振るい、火花を散らす。
防御するのも難しいリードの攻撃を受け止め、時にそらし、時に斬り返す。
その頻度は増し、徐々にショウの攻撃の割合が増していく。
片手剣だというのに、放たれる一撃は重く、ほんとに人間か?とリードが疑うほどである。
「ぐっ」
試合が始まって初めてリードがうめく。
それにつけこむようにショウの勢いが増し、遂には攻守が逆転するほどにまでなった。
「うおおおぉぉああ!!」
「おらあぁああ!」
ガキィィイン
ばっちりとタイミングが合い、二人の全力の剣がぶつかる。
互いに体重をかけ、剣を押し込む。本日二度目のつばぜり合いとなった。
「ぐっ」
「うっ」
緩めれば押し込まれる状態。互いの口からわずかに息が漏れる。
「なぁ・・リード」
「・・・」
ショウの呼びかけにリードは無言で返答する。
「お前に話がある」
「・・・」
変わらず無言を貫くリード。
それに構わず発したショウの次の言葉は、リードを驚かせた。
「バルたちについてだ」
「なんだと!?」
自分の同胞の名を口にしたショウに驚きを隠せず、リードは思わず叫んだ。




