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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第一章
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第14話 スキル


「さて・・・」


 魔獣が跋扈する森。

人の目がきかない夜という時間にショウは来ていた。

例え夜だろうと昼のように見ることができるのは吸血鬼になった恩恵である。


(なんでそれがスキルじゃないかは不思議だけどな)


 スキル。

意識せず獲得していたそれは、ステータスと念じれば確認することができる。

しかしそのスキル欄には≪吸血鬼の爪≫や≪吸血鬼の肌≫といったものはあるが、≪吸血鬼の視力≫というようなものはない。

ショウにしてみれば同じ能力のように思えるが何度見てみてもそのスキルの存在は確認できなかった。

同じ能力でもスキルとなるものと、そうならないものがある。

これはこの世界の新しい知識である。今後こういったこの世界の情報も集めていかなければいけないと、ショウは留意した。


「始めますか」


 決心したようにショウはつぶやいた。

わざわざ夜の森に来てやることといえば、今のショウには一つしかなかった。

スキルの確認である。

唯一の味方であったゴブジイが亡き今、一人で生きていかなければならないショウにとって、自身の能力の把握は他の誰よりも必要であった。

 人のいない時間帯と場所を選んだのは吸血鬼ヴァンパイアとばれないためだ。

まだ確認はしていないが、普通に考えて吸血鬼は人類の敵だろう。

夜に人を襲い血を吸う鬼。

物語などに登場するそれは、話によっては人を食べるようにも描かれる。

人間を超える膂力をもち、不死であり、不老であり、その姿を蝙蝠や狼に変える力を持つ化け物。

こんなモノが実在していたら、人は協力しその存在を倒そうとするだろう。そんなことは誰でも容易に想像できる。

ましてや魔法が存在する世界なのだから、前の世界に比べて吸血鬼に対抗するのはいくらか簡単だろう、とショウは考える。

だからこそ自分の正体は隠さなくてはいけないのだ。

正直、人を食べたいという欲求も、血を飲みたいという欲求もショウは感じないので、もしかしたら無用な心配かもしれない。

しかし、それはショウだけが特別で、ほかの吸血鬼たちは血を求め人間を襲ったりしているという可能性を完全に否定するのは、現段階の知識では不可能だ。

とりあえずは安全策を取りつつ、今出来ることをやるのみだ。そしてそれがスキルの確認であった。


「よし・・まずは≪吸血鬼の爪≫」


 何も起こらなかった。


「・・・ん?じゃあ≪吸血鬼の肌≫!」


 何も起こらない。

ショウは恥ずかしくなり顔をすこし赤らめた。

誰もいない森の中で、独りで技名のようなものを叫ぶのは心に来るものがあるのだ。

周りに誰もいなくて良かったとショウは心の底から思ったのだった。


「はぁ・・じゃあ―≪蝙蝠移動≫」


 瞬間、浮遊感がショウを襲う。

一瞬、体が何個にも別れたかのように感じるが、気が付けば浮遊感は収まり、地面に立っていた。

何が起こったかわからないショウは体、手、顔を触り自分の状態を確認する。

触った感覚では別段変化はない。身体は一つだし、浮いておらずしっかりと地に足はついている。

ショウはハッと気づいたかのように振り向くと、予想通り数メートル移動していることがわかった。


 ≪蝙蝠移動≫

   吸血鬼固有スキル。蝙蝠の群れとなり移動する。移動距離は種族レベルに依存。


 それは紛れもないスキルの発動の証であった。

スキルの説明通りならば―把握はできていないが―蝙蝠コウモリの群れとなって移動したはずだ。


「≪蝙蝠移動≫!」


 再び浮遊感がショウを襲う。

しかし今度は事態を把握しようと努める。

分散したかのように感じる身体の一つ一つに意識をつないでいく。

すると意識したおかげか、慣れたおかげか、自分の姿を俯瞰的に見ることができた。

 それはまさしく蝙蝠の群れ。

大群とはいかないまでも、そこそこの量のちいさな蝙蝠が群れをなしバタバタと羽ばたいている。

その蝙蝠には耳も目もなく真っ黒で、まるで蝙蝠の影が地面から浮き出て動いているかのようだった。

ショウが左に行こうとすれば左へ、右へ行こうとすれば右へ進行方向を変える。

やがて蝙蝠の視点から見れるようになったショウは、まるで鳥になったかのように錯覚する。

低いながらも飛行するその感覚はショウを興奮させるには充分であった。


(はははははは…!)


 ショウは笑う。

実際は蝙蝠になっているため笑う事できないが心の中では確かに笑っていた。

やがてショウは人の姿に戻る。

 スキルの限界であった。

説明には『移動距離は種族レベルに依存』とあることから、今のレベルではこれが限界なんだとショウはすぐ理解することができた。


「これはいいスキルだな・・ふふ」


 独り森の中で笑う少年。

傍から見たら何とも不気味な光景だが、周りに人は誰もいない。

ショウはたっぷりと≪蝙蝠移動≫のスキルの余韻にひたった。


「ふーじゃあ次は、≪眷属召喚≫!!」


 ショウはスキルの名を口にした。

途端に自分の足から―正確に言えば影から―ぞろぞろと黒い何かが這い出してきた。

突如として始まった事態にショウは少し驚き身構えると、黙って見守る。

現れたのは十数匹の狼や蝙蝠、蛇といった動物の影たち。

立体化したそれらは掃えば消えてしまいそうな希薄さがあるが、地に足をつけ確かにショウの眼前に存在している。そしてそれらの獣の影たちからは奇妙な連帯感というか繋がりを感じていた。

呼吸もせずにただ黙ってショウを見つめる眷属たちは何かを待ってるように見えた。


「何待ちですか・・?」

「・・・・」

「…もしかして命令?」

「ガウッ!」


 一番前にいた狼の形をした影が吠えた。

それはまるで主人に忠実な犬のようだ。


「命令かーうーんそうだなー・・・じゃあ何か獲物を狩ってきてくれ。なんでもいいから」

「ガウッ!」


 適当に言い渡されたその命令を、了承したかのように狼の影は吠えて走り出した。

それに続いて吠えなかった他の狼の影、蝙蝠、蛇もそれぞれ森の中に消えていった。


(これは便利かもな・・・。もしあの眷属たちがなにか動物を狩ってこれるなら色々と使えそうだなっ!?)


 眷属たちを召喚してから感じていた奇妙な繋がりが消えたことにショウは驚く。

初め消えたのは一つだけだったが、次々に他のつながりも消えていく。

眷属の消滅。それ以外考えられなかった。

思い当たるのは魔獣。おそらく、命令に従って獲物である魔獣を攻撃し返り討ちにあったのだろう。

戦力としては期待できそうにないとショウはややがっかりした。

その後、ショウは≪血の誓約≫のスキルを使おうと試みたが≪吸血鬼の爪≫ら同様になんの変化もなかった。

 ここでショウはスキルについてある考えにたどり着く。

スキルには種類があるのでは?

≪吸血鬼の爪≫、≪吸血鬼の肌≫は発動しようとしても何も起こらず、≪蝙蝠移動≫、≪眷属召喚≫は問題なく発動できた。

これらの違いは何か。それは前者は身体的なことで後者は魔法的な事ということだ。

≪吸血鬼の爪≫の効果説明の『鋭く硬い』で≪吸血鬼の肌≫は『寒さを感じない』というところがポイントだとショウは踏んでいる。

『鋭く硬くする』ではなく『鋭く硬い』。『寒さを感じなくする』ではなく『寒さを感じない』。

この微妙な文章の違いも加味して推測するに、これらのスキルは使用するたびに発動するのではなく、常に発動し続けているのではないか、とショウは考えた。

現に、ショウは今寒さを感じていないし、爪だって思い返せば、これで冒険者の首を切り落としたことがあるのだ。

 では同じ身体的なものなのになぜ、夜でも昼のように見通せる、この吸血鬼の視力はスキルではないのか。

これはおそらく種族レベルに依存しないからだと推測できる。つまりこの視力は種族レベルがたとえ上がろうが、変化しないということだ。

吸血鬼になって手に入れたスキルのほぼすべてに『種族レベルに依存』と説明があることがその推測を後押ししていた。

要するに、≪吸血鬼の爪≫、≪吸血鬼の肌≫のような常時発動型の常用スキルと、≪蝙蝠移動≫、≪眷属召喚≫のような使おうと思うたびに発動するスキルがあるということ。それがショウの出した結論だった。

 ≪血の誓約≫に関しては、説明にある『誓約の儀』に意味があるとショウは睨んでいた。

しかし現段階では、スキルに関しては―確信しているが―推測であるし、『誓約の儀』というものの情報もないので、このスキルに関しては放っておくしかなかった。


「まあとりあえずスキルの事がわかったし良しとするか!」


 使えるスキルは常用スキルを抜けば、≪蝙蝠移動≫、≪眷属召喚≫。

戦力として使えないので、≪眷属召喚≫には他の使い道を考えなければいけないが、それがわかっただけでも今回の実験は成功だろう。

それに飛行が楽しめる≪蝙蝠移動≫は使いやすいので、早くもショウのお気に入りとなっていた。

 やることが終わったショウは満足げな顔を浮かべると、都市、エリート・レントに向かって歩き出した。

さっそくスキルの使い道を思いついたからか速足である。

 スキル同様に覚えた魔法の≪ドレイン≫の確認を忘れたことに気づくのはしばらく後になってからだった。





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