第13話 これからの為に
「またのご来店をお待ちしていまーす!!」
店先で笑顔で手を振る奴隷商人のドイドに手を振って軽く答え、ショウは街路を歩く。
石畳で整備された道を歩みながらショウは思考にふけっていた。
ゴブリンが入れられている檻に案内された後、購入を勧めるドイドをはねのけ今に至っている。
何度も断りを入れるショウに食い下がるように説得するドイドを、終始笑顔で撃退できた自分をショウは褒めてやりたかった。
どうもドイドは好きになれない。むしろ嫌いな部類に入るとショウは感じていた。
理由はやはり奴隷商人というドイドの職業だろう。
この世界ではなじみある職業だとしてもショウには馴染みがない、それに自分を助けてくれたゴブジイと同じ小鬼はおろか、同じ人間までもモノのように扱う商売はどうしても好きにはなれなかった。
ショウにとって小鬼も人間も同じ人なのだ。
かつてゴブジイが語った小鬼は亜人であり、人間と分かり合えるという考えはしっかりとショウに受け継がれていた。
(ほかの人たちにもゴブリンは人だと認めさせるにはどうしたらいいかなー)
ぼんやりと道を歩きながらショウは考える。
今はまだ思い浮かばないが、きっと方法はあるはずだ。
ショウはそう考え始めたところでふと足を止めた。
立ち止まったショウの目の前には木でできたジョッキにビンから液体が注がれている絵の看板が下ろしてある建物。
中からはかすかに笑い声が漏れている。
きっと居酒屋だろう。もう夕方なので開いていてもおかしくはない。
ショウは迷うことなく店の戸を開いた。
もともとこれからの行動をどうするか考えたいと思っていたのだ。
金はあるし、休憩がてらその居酒屋で今後の計画を立てようと思っての行動だった。
ギィと音を立てて木の戸が開いた。
中で飲み食いしていた何人かの客が、会話をやめ、入店してきた新しい客を一瞥するが、すぐに視線を戻し会話を再開した。
中は別段変なところはなくいたって普通に思われた。
カウンターには髭にスキンヘッドといういかつい見た目の男が、薄汚れたエプロンを身に着けて立っている。木のコップをタオルでふくその姿から店主だと予想できる。
5つ6つあるテーブル席は半分ほど客で埋まっており、それぞれ料理を食べたり、酒を飲んだりしている。
ショウは少しドキドキしながらもカウンター席の端っこに座った。
座るときに店主から一瞥されたが努めて気にしないようにする。
「…注文は?」
「リンゴ酒をひとつ」
「…あいよ」
席に座り何を頼もうか考えていたショウに店主から声がかかった。
反射的に闘技場で売っていた、唯一名前の知っている酒を注文した。
だからといって問題はなく、むしろ、リンゴ特有の甘酸っぱさに喉に広がる爽快感を加えたリンゴ酒は闘技場で飲んでみておいしかったのでまた飲みたいと思っていたくらいだった。
それに文字が読めないのだから結局聞かれなくてもリンゴ酒を頼んでいただろうと思いショウは微笑した。
ドンっという音とともにリンゴ酒の入った木のジョッキが目の前に置かれ、ショウは代金の銅貨五枚をカウンターに置いた。
店主は銅貨を無言で受け取り、またコップを拭く作業に戻って行った。
リンゴ酒を一口あおり、ショウは今後の計画を立て始めた。
といっても正直、やりたい事は決まっている、ホブゴブリンおよびゴブリンの解放だ。
突然森の中から連れ去られ、ゴブリンは奴隷に、ホブゴブリンは戦奴隷されているという事態をゴブリンに助けられたショウとしては見過ごすことはできない。
ならば正規の手順を踏んで、金を払えば良かったのだという人がいるだろうがショウはそれをしなかった。
理由は単純に金を払いたくなかったからだ。
金を払えば簡単にホブゴブリンもゴブリンも解放できるがそれをすれば自分は、奴隷制というものを認めたことになり、しかも嫌いなドイドの懐が潤うことになる。
それをショウは良しとしなかった。子供だと罵倒する人もいるかもしれない、しかしショウはどうしてもそれをしたくはなかった。意地である。
それに他に方法がないわけでもなかった。圧倒的に危険ではあるが・・・。
その方法は脱走と偽装。奴隷となったゴブリンを脱走させ、ホブゴブリンの死を偽装し、ドイドから解放する。
あまりに陳腐な計画のような気がするがショウは失敗するとは考えていなかった。
まず、脱走だが、それについては必要なものはすでにそろっていた。
ショウはポケットからソレを取り出し、眼前にすえる。
ドイドからくすねた≪解放の印子≫と呼ばれる、奴隷を≪隷属の首輪≫から文字通り解放する効果をもつものだ。
ショウの質問にドイドが答えるときに出したソレを、しまう瞬間に超スピードでショウが奪ったのだった。
あまりにも隙だらけだったので、試しにやってみたら簡単に取れてしまいショウ自身も驚いたほどだった。
なにはともあれこれを≪隷属の首輪≫に押せばそれだけで解放されるとドイドが言っていたのでショウでも十分扱えるはずだ。
問題はいつ使うのかということと、奪ったことがドイドにばれるのではないかということだ。
だがそれにたいしてもショウはすでにある程度考えていた。
使うのはドイドのいない時、たとえば闘技場の試合の時とかでいいだろう。ドイドが気づくのではということだがそれについては対策はなかった。
どの奴隷商人も常に予備も含めて二つ≪解放の印子≫を持ち歩いているとドイドが言っていたので、ドイドが細かく持ち物を確認しなければ気づかないだろうし、もし気づいてもショウのせいだと簡単には判断しないだろう。
もしそうなってもしらをきり通せばいいし、争いに発展したならばねじ伏せればいいと考えていた。
我ながら危険な発想だと思うショウだが、不思議とためらいや不安はない。きっとこれも吸血鬼になった影響だろうとショウは思った。
次に、偽装だがこれもまた方法は考えてあるし準備もできていた。
必要なものはゴブジイの住処から旅立つときに携帯した荷物の中にある『森蜘蛛の毒』だ。
この毒には麻痺の効果があり、一瓶で人間すらも仮死状態にするほどの代物だ。
万が一の時に使えと、ゴブジイに持たされていたものだがこんなに早く使う事になるとはショウもゴブジイも思ってもみなかっただろう。
作戦としては、闘技場の試合の時にこれを武器に塗りホブゴブリンを斬りつける。そうすればホブゴブリンは仮死状態になり、あたかもショウが斬って殺したように見えるだろう。
そのためにホブゴブリンをもし討ち取る事が出来たら、その死体を譲ってもらう約束を闘技場の試合の手配と共にとりつけたのだった。
当然、力を間違えれば本当に殺してしまうことになるが、それは気を付ければいいし、むしろそこだけがショウの考える不安な点だった。
あらかた計画をまとめたショウはリンゴ酒を一口あおると軽く息を吐いて落ち着く。
素人なりに考えたその計画は完璧とはいかないまでも、完成度の高いものに思えた。吸血鬼としての力まかせの計画だが。
(ていうか俺って今どれだけの事が出来るんだろう・・・。あんな至近距離でドイドから≪解放の印子≫を取ったのに気付かれてないし速く動けるのはたしかだよな。
力だって、軽く握るだけで骨とか砕けたし相当強いよなぁ。自分がどれだけ何ができるのか確かめたいな!ステータスとか見れないのか?)
【個体名】ショウ
【種族】吸血鬼
【称号】異世界人
【スキル】
≪吸血鬼の爪≫ ≪吸血鬼の肌≫ ≪蝙蝠移動≫ ≪眷属召喚≫ ≪血の誓約≫
【魔法】
≪ドレイン≫
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げたショウに店主はショウの方を向き眉をひそめる。
ショウがあわてて手で口を覆うと、店主は興味をなくしたかのように仕事に戻った。
そんな店主の行動など目もくれずショウは思考する。
(なんだ今の…!急に頭に浮かんできたよな…?もしかして・・・)
【個体名】ショウ
【種族】吸血鬼
【称号】異世界人
【スキル】
≪吸血鬼の爪≫ ≪吸血鬼の肌≫ ≪蝙蝠移動≫ ≪眷属召喚≫ ≪血の誓約≫
【魔法】
≪ドレイン≫
ためしにもう一度同じように念じてみたショウの頭の中に、さっきと全く同じ内容が浮かび上がる。
それは間違いなくショウのステータスだった。
(うわ・・見れちゃったよステータス。ていうかいつの間に俺の名前『ショウ』だけになっちゃったわけ?まあいいけど)
頭に浮かぶステータスを眺めながらツッコミを入れるショウ。
力や素早さといった数値は記されていないが、目を引くのはやはり【スキル】と【魔法】だろう。
≪吸血鬼の爪≫
吸血鬼固有スキル。鋭く硬い。強さは種族レベルに依存。
≪吸血鬼の肌≫
吸血鬼固有スキル。冷気耐性を持ち寒さを感じない。炎耐性は弱化。
≪蝙蝠移動≫
吸血鬼固有スキル。蝙蝠の群れとなり移動する。移動距離は種族レベルに依存。
≪眷属召喚≫
吸血鬼固有スキル。夜の眷属を召喚する。呼び出せる数、強さは種族レベルに依存。 ≪血の誓約≫
血を媒介にして『誓約の儀』を行える。
≪ドレイン≫
破壊魔法。対象の体力を吸収する(弱)
集中することで項目の細かい説明を見ることができた。
どうやらスキルや魔法は吸血鬼になったことで手に入れたもののようだ。いかにも吸血鬼らしい能力ばかりだった。
(種族レベルってなんだよ!そんな項目ないじゃんか!!『誓約の儀』ってのも意味不明だしステータスを見れたのはいいけど新しい謎ができたな・・・)
またツッコミを入れながらショウは自分のステータスを見続ける。
意識し続けていればステータスは消えずにずっと頭の中で表示し続けるようだ。
自分の能力把握は必須である。ショウはリンゴ酒を飲みながらステータスを睨み続けるのであった。




