第12話 奴隷の店②
ドイドに案内された場所は奴隷の詰所。
ようは奴隷店の商品棚だ。
だというのに明かりは弱く、奴隷たちの着ている服はぼろぼろだ。
華やかさは微塵もなく陰気な空気が辺りをただよっていた。
そんな商品棚の奥にゴブリンはいた。
背丈は小さく、服は腰に巻いた布程度。
本来人ひとり用の檻に七、八人が詰め込まれており窮屈そうだ。
ドイドと案内されたショウを見つけ睨むと、皆そっぽを向いて話す気はないと機嫌を態度で表した。
「うちにいるゴブリンはこれで全部です。買い取っていただく場合はこいつらをまとめてでお願いします」
金貨を見せてからより丁寧な対応を取るドイド。
そんな態度を横目に見ながら、ショウは檻に入ったゴブリンたちを見る。
「このゴブリンたちはどこで拾ったのですか?」
「えーこいつらは森ですよ。ガヴァの大森林でね。群れの雄たちを根こそぎとってきました」
まるで獲物を狩ったかのように話すドイドを見て嫌悪が表情に出てしまいそうになるが、ショウはそれを抑え込む。
感情のままに行動すれば、この街を、王国を敵に回しかねないのだ。
「そうですか・・。群れの長もここに?」
「いえいえ。こいつらの群れの長は珍しいことにホブゴブリンでしてな、ちょいとだまして闘技場の小銭稼ぎに使ってるんですわ」
「ほーそうですか。闘技場で見ましたよ。強いですよねーあのホブゴブリンは!ところで騙すというのは?」
「おおぉーご覧になりましたか!いやね森で見つけて護衛に戦わせて何とか捕えたんですが言うことを聞かなくて困ってたんですよ。
そこでね群れの仲間を殺すぞと脅したら『それだけはやめろ!』と反抗したんでねこれは使えると思いまして、取引を持ちかけたんですよ」
下卑た笑いを浮かべながらドイドは嬉々として話す。
「『もし闘技場で100連勝したら群れの仲間は解放してやる』とね!!」
「100連勝?」
「ええそうですよ!馬鹿ですよねー!月に2、3回しか行われない闘技場で100連勝ですよ?どれだけ時間のかかることか!」
ドイドの嬉しそうな態度にショウは怒りを覚えるがぐっとこらえた。
「それで、もし本当に100連勝したら解放するんですか?」
「いやいやまさか!実のところゴブリンは人気がないんですよ。見た目も悪いし力も際立って高くないし、知能も低いですしね。
そのくせ飯だけは一丁前に食うので食費がバカになりません。だから何匹かをまとめて売っているのですが・・・」
言葉を途中で切るとドイドはショウに近づき耳元で言葉をつづけた。
「ここだけの話、こいつらはもう処分することが決まっているんですよ。
感づかれないようにホブゴブリンはここに近付けていませんがね・・くくっ」
「そう・・ですか」
笑いを耐えるのに必死という様子でドイドは言った。
それを聞いて心の底から嫌悪感がわきあがってきたショウは、ささっとドイドから離れた。
本当にこんな人間がいるとは。
ショウは心の中で失望した。
人間とコミュニケーションがとれるゴブリンをモノのように扱い、かわした約束さえ守る気がないというのは最低だ。
もしショウがこの世界に来てゴブジイに助けられず、べつの人間に助けられていたら自分もこうなっていたのだろうか。
ゴブリンと会話しようとせず、モノとして扱う。
そう考えると身震いがした。そして同時に人間という種族に対して嫌悪感を抱いた。
自分も同じ人間だというのに嫌悪するなんておかしな話だ。いや、もしかしたらこれも吸血鬼になった影響なのかも知れない。
「それでーお客様?いかがですか?このゴブリン共をお買い求めいただけますか?」
「いやえーっと、本当はそのホブゴブリンに会いたくて来たんですがここにはいないのですか?」
「えーまぁあいつは闘技場にある牢屋に入れておりまして、会うには闘技場の方に行かないと・・・」
「闘技場ですか・・・。ところでそのホブゴブリンはいくらだったら売っていただけますか?」
ショウの質問にドイドは悩んで見せた。
小鬼の価値は低いと言っておきながらも小鬼人は別なのだろう。
ドイドの頭の中では今、売った場合の利益と売らなかった場合の利益の計算が行われていた。
「そうですねー。あれは賢いし剣も使えるので…金貨10枚といったところですかね」
「金貨10枚ですか・・」
ドイドは心の中でほくそ笑んだ。
確かにあのホブゴブリンの価値は高い。が、せいぜい金貨5枚程度で10枚もの価値はないだろう。
少しでも商売の心得があるものからすればこの価格設定は明らかに適正ではないとわかる。
しかしショウには当然商売の知識や技能などなかった。そしてドイドはそれを見抜いていたのだ。
これだけの金額をふっかけたのは売る気がないのが一つと、もし売れた場合は売れなかった場合の利益ーおもに闘技場によるものーを上回るからだ。
そんなドイドの言葉で悩むショウを見て購入の諦めを促すようにドイドは言葉を発した。
「さすがのお客様といえどそこまでは無理でしょうな。死体ならお譲りできるのですが、そのためには誰かが闘技場であれを殺さねばなりませんしなぁ」
深い意味はなかった。
ゴブリンを見下しているとはいえ、奴隷商人として奴隷の価値は公正に見ている。
だからドイドはたとえゴブリンだとしても、知能、力、剣技があるあのホブゴブリンは高く評価していた。
高く評価しているからこそ金儲けに使えると思っているし、力を認めているからこそ、闘技場の試合でホブゴブリンが死ぬわけがないとも思っていた。
だからショウにはとっととホブゴブリンの事は諦めてもらい、ここにいる売れ残った奴隷たちを売りつけようとした。ただそれだけの為の発言だったのだ。
そんなドイドの言葉にショウは予想外の反応を見せた。
「そうかその手があったか!」
「へ?」
「俺がもしそのホブゴブリンを闘技場で討ち取ったら、譲っていただけますか?」
「死体をですか・・・?」
「ええそうです!いいですか?」
何を言っているのだこの小僧は。
ドイドは意味不明な事を言う少年に頭を抱えた。
この少年は死体が欲しいといった。そこはまだ百歩譲ってよしとしよう。死体収集をしている人もいるし、小鬼人は珍しいからそういった収集人なら欲しがるのもわかる。
問題はそこじゃない。
この少年は確かに言ったのだ『俺がもしそのホブゴブリンを闘技場で討ち取ったら』と。
つまり、自分の実力はあの剣技を持つホブゴブリンよりも上だということだ。それだけの自信があるということだ。
ドイドはちらりとショウを見る。
身長は大人の平均位だろう。腕は細く、体はやせ形で筋肉はあまりついていないように見える。剣を腰に下げているがどの程度使えるかもわからない。
おせじでも強い戦士には見えない。とてもあの流れるような剣技を持つホブゴブリンに勝てるとは思えない。
(でもまぁいいか。試合をすれば金は入るし、ダインとかいうごろつきとの試合のせいでホブゴブリンに挑戦する奴はいないみたいだしな。前の試合から期間は空かないが、あのホブゴブリンは人気みたいだし客も集まるだろう)
ドイドは驚く一方でしたたかに計算する。
その計算にはホブゴブリンがショウに負けるという考えはなかった。
「わかりました!お客様がそこまで言うのならいいでしょう。もしホブゴブリンが試合で負けて死ぬことがあればその死体はお譲りしましょう」
「それはよかった・・・それであのー」
「はい?」
「そのー奴隷たちがつけている首輪はその時にはずしていただけますか?」
「あー≪隷属の首輪≫ですか。はいもし奴隷が死ぬことがあれば外しますよ」
そういってドイドは懐からハンコのようなものを見せた。
「この≪解放の印子≫を押すだけですからね。ただあのホブゴブリンには効果はありませんよ」
「なぜですか?」
「いやあのホブゴブリンは≪隷属の首輪≫をつけようとしたら暴れまして、結局つけられてないんですよ。
まあ群れのゴブリン共を人質に言うことを聞かせられているので大丈夫なんですがね。」
「ほーなるほど。納得しました。」
そういってショウはこの店に来て初めて笑った。




