第11話 奴隷の店
短めです。
「ここか・・」
闘技場の試合を観戦し終わったショウはある店の前に来ていた。
店の名前は『ドイド奴隷店』。その名の通りドイドの奴隷を扱う店だ。
ショウがここに来たのはもちろん奴隷を買うためではない。
先ほど試合で見たホブゴブリンに会いに来たのだ。
ゴブリンが奴隷にされている。
よくよく考えてみれば、あり得ることだ。
エルフのような亜人すら奴隷にされているのだから、亜人とすら認められていない小鬼ならば奴隷にされていてもおかしくはない。
そのことは納得出来るショウであったが、腑に落ちないことがあった。
それはあのホブゴブリンの態度だ。
ショウのイメージでは誰かに売られるなり、その手段しかなかったりという理由から奴隷となる。
ならば奴隷たちは今後一切自由になることがない未来を考えて絶望するはずだ。
しかし、あのホブゴブリンには絶望の色が見られなかった。
むしろ何か目的があり、それに向かっていくかのような高潔さがあった。ショウにはそう感じられた。
だから興味がわいた。だから会いに来たのだ。
ショウはゆっくりと店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ~」
奴隷店の店主、マル・ドイドは笑顔で接客する。
そして心の中で舌打ちした。
久々の客の格好が一町人と変わらないような簡素なものだったからだ。
(なんだぁ?ひやかしか~?無駄な客を相手してる暇はねぇぞ)
顔に張り付いている笑顔に変化はない。
しかしその完璧な営業スマイルの下でドイドは愚痴をこぼす。
そもそもドイドはこの街に定住して店を構えているわけではない。今いるこの店は滞在するときだけの借り物件だ。
エリート・レントはそれなりに賑わっているが、別に王国一、大陸一というわけではなく、賑わっている理由はひとえに人口が多いからに過ぎない。
人口が増えれば街の発展につながり、それは大いに結構だが、ドイドはそんなことは求めてはいなかった。
ドイドが求めているのは金持だ。
奴隷は高い。奴隷一体で最低でも一般町人の三年分の稼ぎが必要である。
当然、町人はそんな高価な奴隷をおいそれと買うわけにもいかず、必然的にドイドら奴隷商人の客といえば貴族に代表される富豪に限定されてしまう。
まれに何年もコツコツためたお金で奴隷を買いに来る一般人もいるが、そんなことは滅多にないので計算には入らない。
ここエリート・レントには町人は溢れども金持が全然いないのだ。
人口の多さに伴い店が他の都市に比べ多く賑わってはいるが、それはライバル店が多いということで無論、競争率が高くなる。
お互いが切磋琢磨することで全体としての稼ぎは上がるが、誰か一人が突出することはなく金持は生まれにくい。
ドイドにとって金持がいないのは客がいないことと同義である。
そのため普段は奴隷を仕入れては富裕層がたくさんいる街に行き奴隷を売りさばく。
街と街の移動の合間に休憩や奴隷の仕入れをするためにエリート・レントに寄るのだ。
そしてたまに売れ残った奴隷をつかって闘技場に出場して小銭を稼ぐ。
ドイドにとってその程度の価値しかこの街には無い。
そのためこの街では客に期待してはいないが、この街に通うようになってから久々の客だってのでつい期待してしまったのだ。
しかし、期待はあっさりと裏切られた。見たところ普通の町人である目の前の男に奴隷を買えるほどの金などあるはずがないと思ったのだ。
「あのーすいません奴隷っていうか―ゴブリンに会いたいんだけど・・」
「ゴブリンですか・・。失礼ですがお客様、ご予算はおいくらでしょうか?
ゴブリンは確かに一匹の単価は安いですが、当店では単体での販売はしておりません。群れで一セットですので少々お高くなってしまうのですが・・・」
ゴブリンを一匹といったところで目の前の町人の目がぴくっと反応した気がするがドイドは気にしなかった。
金のない奴は帰れと暗に言ってみたドイドは町人の反応を待つ。
「あーそうなんですかー。それっておいくらぐらいですかね?金貨五枚で足りますか?」
そういって町人はズボンのポケットから小袋を取り出すと、その中から金貨を5枚取り出して見せた。
「ご、五枚!?これはこれは!すぐに案内させて頂きます!どうぞこちらへ」
ドイドは驚きのあまり思わず大声を出してしまうがすぐに持ち直して町人を案内する。
まさかどこからどう見ても町人の若造に金貨五枚もの大金が払えるとは夢にも思わなかった。
ドイドは重々しいドアを開いて町人を案内した。
「おぉ・・」
ショウは思わず息を漏らした。
感動したからではない。驚きのあまり漏れてしまったのだ。
金貨を見せびらかして客と認めさせる作戦が成功したショウがドイドに案内され見たのは檻に入れられた奴隷たちだった。
小さな正方形の檻の中に、様々な奴隷が入れられていた。
屈強な体を持った男や、肉感的な女性。逆に痩せている人や、けがしている人など様々で奥をみれば、エルフまでもいた。
そんな人々が奴隷と分かるのはぼろぼろの服を着ているからではない。全員が同じ首輪をしているからだ。
思わず顔を歪めてしまうショウだが、意思の力で何とか抑え込む。
信じられないが、きっと一町人だろうとこの世界の住人なら奴隷に否定的な表情は見せないだろう。
悪魔でも自分は一町人。そうふるまうことでとりあえずドイドに客として信用させるのだ。
こうしてショウの世界の価値観との戦いが静かに始まった。




