第10話 闘技場
エリート・レントの闘技場。
この街の目玉事業であり、人気が高い興業である。
月に2、3回試合が行われ、行われる際は街に大々的に宣伝がされる。
大抵の試合内容は冒険者VSモンスターというチーム戦だがたまに強者VS強者の一対一という男心をくすぐる試合も行われる。
入場料は銀貨3枚とお高めだがー一般町人の平均月収は銀貨5枚ー根強い人気があり毎回観客席が埋まるほどだ。
お金さえ払えばだれでも入場できるが早めにいかないと立って観ることになるのは常識である。
そんな円形闘技場の観客席の後ろにショウは立っていた。
中年のおっさんを追いかけ入場したのだ。お金は余っていたので入場料は問題なかった。
「すごい熱気だなー」
男女問わず客で観客席は埋まっており皆試合を心待ちにしている。
どうやら今回の試合は久々の事らしく、長い間待っていた人々ばかりなんだろうと思わせた。
皆、売り子から買った飲み物や食べ物をあおりながら試合をまだかまだかと体をそわそわさせている。
かくゆうショウもちゃっかり酒を買い、試合開始を待っていた。
『お待たせいたしましたー!!これより試合を開始いたします!!』
拡声器を使ったかのような声が響いた。
見ると、フィールドの中央に、ピシッとしたスーツのような恰好の男が何かを口に当てながら話している。
この世界に拡声器があるとは思えないので、より手に持っているものに集中してみるがよく見えない。後で調べてみよう。
周りは興奮状態だった。
腕を掲げて大声を出すもの、ただ叫ぶもの、なかには立ち上がって踊る者までいた。
どれだけ皆好きなんだと思ったショウだったが、周りの空気に引っ張られ、密かにテンションが上がっていた。
『選手の入場です!
東!誰が呼んだかその名も‘剛腕”。太くたくましいその腕はどんな敵をもねじ伏せる。
力自慢は名乗り出ろ!俺が敗北を教えてやる。街屈指の暴れん坊、ダインー!!!ホージンーー!!』
ショウから見て右。司会から見て左から男が現れる。
その腕はまさに筋肉の塊で、一般人の太ももぐらいありそうだ。
身長はあまり高くないが、身体の筋肉量によって迫力はたっぷりだ。
簡素な皮鎧をつけ大きな斧を持ちながらのそのそとゆっくり歩いて中央へと向かう。
髪はなくスキンヘッドで顔はお世辞にもかっこいいとは言えないだろう。まさに街のチンピラといったような風貌。それがダイン・ホージンという男だった。
ダインが斧を掲げると観客席がドッと沸く。
どうやら闘技場の人気選手のようだ。
外見は人気が出るようなものではないが、その筋肉に裏打ちされた力でこれまでに何度も対戦相手を蹴散らしている。
その圧倒的な力が人気の理由だった。
『続きまして西!
今回闘技場初出場。弱小種族が勝てるのか!?森で暴れた赤い鬼・・ゴブリンです!!』
今度はショウから見て左、司会から見て右からゴブリンが現れた。
腰に布を巻いた申し訳程度の防具。
両手で扱う両手剣を背中に背負い、のしのしと歩く。
赤い肌に大きなつり目、間違いなくゴブリンだ。
ただそれをゴブリンと決めるのは違和感があった。
ゴブリンの最大の特徴といってもいい子供のような体格ではなかったからだ。
その体はたくましく大きい。人間の大人と同じぐらいあるだろう。
筋肉で引き締まっており、どこか目も理知的な気がする。
(なんだあのゴブリン!背でかいな。ゴブジイみたいに長く生きたおかげとか?
いやでもゴブジイは髭あったけどあいつにはないな・・・。どういうことだ。)
どうやらショウの疑問は皆も抱いていたようで周りの人とゴブリンの外見について話し合っている。
そんなショウを含む皆の疑問はすぐに解消された。
『えー・・失礼しました!情報に誤りがありましたので訂正します!
ゴブリンではなく、ホブゴブリン!小鬼人です。どうやらゴブリンの上位種にあたるようです!』
司会の説明を聞き皆が納得したようにうなずいた。
彼らの疑問は消え、今はホブゴブリンは強いのか?という話題に転換していた。
ショウの疑問も一応は消え、どうやったらホブゴブリンになるのか考えていた。
(ていうかゴブリンでも出場できるんだな。意外と外の世界のゴブリンに対する偏見とかないのかな?)
人間の興業に選手として出場を許されてるなら、1選手として扱われてるなら偏見はないのかもしれない。
もしかしたらゴブジイの夢はすでに実現していたのかも。
そんなショウの考えは次の瞬間すぐに消えることとなった。
『なお、こちらのホブゴブリンは、奴隷商人のマル・ドイド様からの提供になります!』
(奴・・隷?)
試合が一番見やすい壁で囲まれたVIP席。
そこから手を振る太った男に皆から拍手が送られた。
「またドイドさんとこの奴隷かー!毎度毎度どこで奴隷見つけてんのかね?」
「まえのゴブリン10匹もそうだし・・その前のエルフもそうだっけ?すごいなドイドさんは」
「俺も買ってみようかなー奴隷」
「馬鹿!お前の稼ぎじゃかえねぇよ」
「そーだな!はははははははは」
ショウは近くから聞こえてくるその会話を信じられなかった。
奴隷。
それはショウがいた世界にはなったもの・・・いやショウが生きた時代には消滅したものだ。
人を人として扱わない商売。
人権を無視し、人が人に値段をつけ金で命がもてあそばれる。
歴史の授業で学んだ時、ショウには昔それが存在していたことが信じられなかった。
だが今、世界は違えど、同じことが行われている。
歴史を聞くだけではどうしても信じきれなかっただろう。しかし今現実で見てしまった、確認してしまった。
もう認めるしかなかったのだった。
この人間の社会ではゴブリンは人として扱われず家畜のように扱われている。
ゴブジイの目指したゴブリンの亜人化、亜人と人間の共栄。
その道の果てしなさをショウは実感した。
『ではルール説明をいたします!
ルールは至ってシンプル!時間は無制限!今回は1VS1ですので、選手のどちらかが降参、または戦闘不能および死亡した場合に試合終了とします。
今回も、投擲武器、魔法、遠距離武器の使用は禁止の近接戦のルールとなっております!!
では大変永らくお待たせいたしましたー!!試合を開始いたします!レディー・・・ファイッ!!』
掛け声と同時に司会は下がりフィールドから姿を消した。
それと同時に、ホブゴブリンとダインは各々の武器をぶつけ合い肉薄した。
目と目が交差し、緊張感が観客席にまで伝わるようだ。
はた目から見ると実力は拮抗している。これは長い試合になると誰もが予想した。
が、その予想は外れることになった。
両手剣をふるう謎のホブゴブリンが、そのたくましい肉体から繰り出される流れるような剣技によってダインを完封してしまったのだ。
開始数分でダインの斧を飛ばし、ダインに降参させたのだ。
初めはダインを応援していた観客席も、やがてホブゴブリンのその圧倒的な強さに心を奪われ、声援はホブゴブリン一色となった。
ダインを気の毒に思ったショウだったが、他の皆同様にホブゴブリンの技に魅入っていた。
(すごい早いな・・ほんとにゴブリンかよ。あ、ホブゴブリンか)
ここからなら見ることができるが、相対した時、強化されたこの吸血鬼の視力でも見切れるかどうか不安なほどの速い剣さばきだった。
そのホブゴブリンは吸血鬼になって数日のショウだが自分に勝てるかもしれないと思わせた最初の人物であった。
そうして興味がわいた。
ショウは勝ったというのに嬉しそうにもせずに黙って入口に戻るホブゴブリンの背中を見つめ続けた。




