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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
第五章
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第92話 登山

 登山。それは見た目以上に体力の消費を要する運動。幅広い年齢層が参加できる運動ではあるが、その過酷さは登る山の高さ、そして荷物の量によって劇的に変わる。現在、ショウ、リード、ガード、ガランの四名が登っている山は大陸を二分するトールデン山脈に連なる山のひとつ、モラン山である。正確な標高まではわからないが大陸を分けるほどの山々のうちのひとつなのだ、低いわけがなかった。


「ふぅー半分くらいいったか?」


「どうでしょうねー先はまだまだ長そうですが」


「あまり先のことは考えないほうがよろしいかと、ショウ様」


「ガチチチ…ガハハ!我は余裕だぞ!ガチチチ…」


 登山の記憶はショウになかった。休日に山登りしたことなどなかったし、おそらく小学生か中学生の頃に遠足で行ったのが最後だろう。しかしその山もここほど険しいものではなかっただろう。しかもモラン山は雪山だ。雪で足がとられながら坂を歩き続けるのは体力をより奪われる。ショウは吸血鬼の特性ゆえに寒さを全く感じないため分からないが、気温も相当低い。一行は荷物から防寒着を着て寒さを凌いでいた――――ガランを除いて。


「ガラン…服着ろよ。寒いだろ?」


「ガハハハハ!…ガチチチ…寒くなどない!自然に我は倒せんわ!ガチチチ…!」


 荷車で山の麓まで着いた時、リードとガードは気温の変化を予想して防寒着を着たが、ガランだけは着ようとしなかった。曰く、『普段から服を着ていないから問題ない』と謎理論を展開していた。が、さすがに辛そうである。強がってはいるが歯がガチガチと音を立てていることが彼がやせ我慢していることを証明していた。


「ったく…ん?」


 ショウと同じタイミングで、他の三人も異変に気づいた。前方から複数の気配。魔獣だ。すぐに四人の目にそれらは現れた。木がまばらにしか生えていない山の中腹では視界が開けており良好だ。少し遠くの方から真っ白な毛の狼の魔獣が十数匹ショウたちに向かって走ってくるのが見える。白毛狼スノーウルフと呼ばれる魔獣で、雪の上でも平地と同等の機動力があり、大型の魔獣にも恐れず攻撃をしかける獰猛性がある。近づいてくるにつれて大きくなる彼らの興奮した息が、戦いの緊張感を高めていく。


「初めて見るな」


灰色狼グレーウルフと似たようなものでしょうか」


「ちょっと数多いですね」


 ショウ、リード、ガードが荷物を置いて各々の武器を構える。片手剣ハンドソード両手剣グレードソード、戦鎚が獲物を迎え打とうと待ち構えていると、一歩、無手のガランが前に出た。


「よしっ!ガチチチ…こい!ガチチチ…我を暖めてみろ!」


「やっぱり寒いのかよ」


 戦いで体を動かして暖めようと言うつもりだろうか。ガランは体を小刻みに震わせながら両手を広げて、白毛狼スノーウルフを迎えるような構えをとった。そんな彼を見て他の三人は呆れ顔だ。両者の間合いは詰められ、白毛狼スノーウルフが―射程距離内に入ったのか―放射状に広がる。


「グルルルウゥゥウウアアアッッ!!」


 咆哮。獣が威嚇に使うソレに似ていながら、通常のソレを何倍も凝縮したような重みと深みがガランのソレにはあった。まるで地の底から怒涛の勢いで溢れ出したような音の暴力。白毛狼スノーウルフたちは瞬く間に気絶した。


 『獅子人ライオネルの咆哮』。獅子人ライオネル固有スキル。その咆哮を聴いたものは恐怖心を煽られ、相手によって戦意喪失や身体機能低下などの負荷がかけられる。あまりの実力差ゆえに白毛狼スノーウルフたちは戦う前に敗北を悟り、そのショックで気絶してしまったのだ。


「…なんだ戦う価値なしか…ガチチチ…お、臆病者め」


「…はぁガラン、いい加減服着ろよ」


 ファング達冒険者の連携を見て以来、自分たちでも同じことを密かに試してみたかったショウ。そのチャンスをガランに潰された彼は少し落ち込みながら、ガランにそう言った。武器をしまい荷物を背負い直す。見るとリードもガードも同じことをしていた。


「断る!…ガチチチ、が、それは命令か?」


「え?」


「さすがの我も王の命令とあらば…ガチチチ…従うしかあるまい…ガチチチ」


「あーそれでいいよ。面倒くさいやつだな」


 ショウの返答を聞いてすぐさま荷物を漁り始めるガラン。防寒着を見つけすぐさま着替えると、その暖かさにいつも以上に高笑いをしていた。とても前まで一つの群れを仕切る立場だったとは思えないほどわがままな態度だとショウは呆れてため息を吐いた。


「よし!旅を続けようか!ガハハハハ!!」


「…調子のいい奴め」


「まあ暗いよりいいじゃないですか、リードさん」


「果たして、最後までこの元気がもつかな」


―――――ズシンッ


「安心しろ!我の体力は無尽蔵だ!」


「…それ聞いて俺が落ち込んだわ」


「少しは体力温存のことを考えろ」


「なんだ?やるか赤いの?」


 リードの苦言にニヤリと笑って挑発するガラン。無視して冷静に対処しているように見えるリード脱退だったが、こめかみには血管が浮いている。


「まあまあ二人とも…というか今なにか聞こえませんでした?」


「確かに…」


 瞬間、視界が真っ白に染まった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「《充血槍レッドランス》!!」


 紅色の大きな矢の形の光が、地中から空に向かって放たれる。ちり積もった積雪が熱によって溶かされできた円形の窪みで、ショウは仰向けに倒れていた。九死に一生を得る、を初めて体験した彼の息は疲労のせいというより、ショックで荒い。『充血槍』は『吸血印』と共に吸血鬼ヴァンパイアから純吸血鬼ピュアヴァンパイアに進化したときに得た魔法で、手に魔力を集め矢の形にして放つことができる。溜めれば溜めるほど威力は増すが練度が足りていない今はそうするのに時間がかかるため、戦闘での使用はまだ難しいとショウは考えている。が、雪に埋もれた状態では何も問題はなかった。ちなみに、ガンドンの右手を切除したのもこの魔法である。


「はぁ…はぁ…ビビった……雪崩か?」


 音がした、と思ったら目の前に迫る真っ白な波。咄嗟に『蝙蝠移動』を発動させ雪崩を回避しようと動いたがスキルの効果時間を超えても雪崩は止まらず、雪の波に揉まれ埋もれてしまった。大分流されてしまったのか、辺りの光景は先程までと違うように見える。仲間の姿は見当たらないし、これは予想外であったが、『蝙蝠移動』で蝙蝠の群れに変化できるのは肉体と身につけている衣服までのようで、背負っていたバックパックはどこかへ行ってしまった。吸血鬼のショウには水も食事も必要ないが、それらと一緒にバックパックにしまってあった山の地図をなくしたのは痛手だった。大雑把なものだったとはいえあったほうがいいに決まっている。とはいえ無くなってしまったものはしょうがない。ショウは気持ちを切り替えて立ち上がり、服から雪を振り払う。


「リード!ガード!ガラン!」


 大声で仲間の名前を呼ぶが予想通り返答はない。周りの様子まで目を配る余裕はなかったが、おそらく各々で雪崩に対処しようとして、ショウのように何処かへ流されたりしたことだろう。雪山最大級の災害に巻き込まれていながら、存外楽観視している自分にショウは不思議な感情を抱いていた。だが、どうしてもあの三人が雪崩でくたばっているとは思えなかった。


「…とりあえず頂上を目指すか」


 いざという時の集合場所など決めていなかった。今思えば緊急連絡用に眷属を一人一匹懐などに忍ばせておけばよかったと思うショウだったが、結局この雪崩に潰され消滅していた事だろう。どちらにせよ後の祭りだ。唯一再会できる可能性のある場所といえば頂上しかないだろう。リードやガード…おそらくガランも同じように考え、頂上を目指す筈だ。ショウはとりあえず上を目指して歩くことに決めた。吹雪くほど風の強い雪山で、ショウは自分が寒さを全く感じない体になったことを心から感謝した。



========================


「シィッ…!」


 鋭い息を吐いて、襲い来る白毛狼スノーウルフの胴体を片手剣で斬りつける。勢いに圧され地面に倒れ伏す白毛狼スノーウルフはこれで六匹目だ。同胞がこれだけ倒れているというのに周りの白毛狼スノーウルフたちの戦意は全く衰えていない。それどころか益々高揚しているように感じる。


 雪崩の被害にあってから大分上まで登ってきたショウであったが、ある一定の地点から白毛狼スノーウルフを中心に多数の魔獣に襲われ続けていた。雪の上などお構いなしの俊敏な動きで襲い来る魔獣たちを完全に無視することは出来ず、いちいち相手にしているせいで時間を喰っていた。大抵の魔獣は仲間がやられれば実力差を悟って逃げていくものだが、このモラン山の魔獣は最後の一匹になっても戦いをやめようとしない。その異常とも言うべき獲物への執念には息を巻いた。


「グルルルルッ…!」


「俺もガランみたいに叫べたら…なっ!」


 雪に足がとられないように軽く踏み込んで、加速。そのままの勢いで白毛狼スノーウルフを一閃。身体を半回転させて空中へと飛び上がり、背後から飛びかかってきた二匹の白毛狼スノーウルフの内一匹に刃を、もう一匹に蹴りを叩き込んだ。キャインと鳴いてショウと同時に白毛狼スノーウルフは地面に落ちる。好機とばかりに突進してくる三匹の白毛狼スノーウルフ。飛び起きて片手剣を構えようとするが、刃が白毛狼スノーウルフの顔に深く突き刺さっており抜けない。刹那、ショウは武器を諦め一歩踏み出す。接触する直前、ショウは横にダッキングして三匹の内の一匹の顎を蹴飛ばした。二匹の白毛狼スノーウルフとショウの視線が交錯する。方向を変えて再び突進してくる白毛狼スノーウルフの噛みつきを躱して横腹に素早く貫手で二度突きを放つ。内臓の生暖かい感触が伝わる頃にはその白毛狼スノーウルフは絶命。残る一匹はその死体を踏んで跳躍するが、タイミングを合わせてショウは首根っこを掴んで攻撃を防いだ。


「《吸収ドレイン》」


 赤い光が白毛狼スノーウルフの肉体を包む。ショウが最初から覚えていた魔法によって発せられたその光は瞬く間に白毛狼スノーウルフの生命力を奪っていく。ものの数秒で物言わぬ死体となったソレを地面に置いてショウはふっと息を吐いた。連戦に次ぐ連戦で肉体的というより精神的に疲労が溜まっていた。


「あいつら大丈夫かな…」


 ふと、仲間のことが頭によぎるショウ。雪崩から何時間も経っているが一向に彼らの気配がない。一瞬、最悪の事態を想像してしまうが、深呼吸してかき消した。寒さを感じないのに吐いた息が白いことが可笑しくて少し笑う。


―――――グルルルルルッ


「おい、嘘だろ…」


 休息などないのだろう。新手の魔獣の唸り声を聞いて、眉をひそめるショウ。渋々白毛狼スノーウルフの死体から片手剣を抜き取って、服で血を拭き取る。そのタイミングで飛び出してきたのは犬ではなく猫。狼ではなく虎だった。雪のように白い毛皮に、まるで稲妻のような模様がはしっている大柄の魔獣だ。白雷虎びゃくらいこという魔獣で一頭で金級ゴールドの冒険者パーティーを相手取ることもある危険な魔獣だが、そんなことをショウは知る由もない。そして―――――


「カーッ!」


「何だ?」


――――知る機会も失った。


 飛来する一本の矢。否、槍だ。白雷虎びゃくらいこの背を掠って地面に突き刺さったそれに視線を送っていると、反対方向から物音が。すぐさま目をやると白雷虎びゃくらいこ目掛けて飛行する人影が映る。黒い翼、尖った嘴、ガラス玉のように光る目。


「カラス?」


 カラスに瓜二つ、しかし大きさは人間大だ。ガランが獅子を人型にしたような見た目なら、目の前で白雷虎びゃくらいこに向かって飛んでいるのはカラスを人型にした見た目をした亜人だった。白雷虎びゃくらいこと接触するギリギリのところでそのカラスの亜人は急上昇し真上まで飛ぶと、なんと地面に刺さっていた槍が勝手にそのカラスの亜人の元まで飛び、彼の手に納まった。


「え?」


「御免」


 白雷虎びゃくらいこの遥か頭上からそう呟くとカラスの亜人は急降下、そのまま槍先を白雷虎びゃくらいこの脳天に突き刺して、貫通、串刺しにした。


「助太刀失礼する。そこの御仁―――」


 白雷虎びゃくらいこから槍を引き抜いて、カラスの亜人は言葉を紡ぐ。


「――――貴方がショウ殿で間違いないだろうか?」




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