第9話 エリート・レント
新章スタート!
「ここがエリート・レントか・・・!」
ショウは感嘆して声を上げた。
吸血鬼になったショウだが目的は最初に出発した時と同じで、街に行く事だった。
そして無事森を抜けて街に到着したのだった。
石畳で整備された道を人が、時々馬車が行き交っている。
街並みは中世のヨーロッパのようなファンタジー世界おなじみの感じである。
服も前の世界では着ないような、簡単な作りのものだ。
装飾のない簡素な服を着ているのが平民、豪華な服を着ているのがお金持ちーおそらく貴族ーだとわかる。
この街の名は『エリート・レント』。マッシャルディーナ王国の都市の一つだ。
ショウが街の入り口で聞いた話では、この街は都市の中でもひと際賑わっているという。
「うわーすげー・・。外国みたいだ」
街を歩くほとんどの人の髪は金、茶、赤、緑など様々な色に染まっている。
黒髪は珍しいが、全くいないというわけではなく、10人のうち1人か2人という割合で見かけている。
そんな外国じみた風景に驚いているショウを道行く人がちらちらと見てくる。
黒髪だからか?独り言を言ったからか?吸血鬼ということがばれたからか?
全て違う。
答えはショウが背負っている大きな袋だろう。
中身は亡き冒険者たちの服、鎧、持ち物、武器などだ。
ゴブジイからいくらかお金は持たされたが、お金の価値がわからない今、自分がどの程度持っているのかわからない。
そのため、少しでもお金を増やすため、売ろうと思い持ってきたのだった。
「さあーってどこかなー」
自分の荷物をちらちらと見てくる人々をなるべく気にしないようにし、ショウは道を歩く。
ショウが探しているのは質屋、換金屋、雑貨屋・・・どれでもいいがとにかくこの大きな荷物を買い取ってくれる店だ。
吸血鬼になった影響で、筋力は大分上昇している。おかげで重さ的には問題ないのだが、このまま街の人の好奇な目で見られ続けるのは恥ずかしいのだ。
だからなるべく早くこの荷物を処分したいと早歩きする。
「お?ここなんていいんじゃないか?読めないけどたぶん雑貨屋だろ」
言葉は通じるが、文字は読めない。
これはショウが街に入るときに、門番をしていた兵士と会話してわかったことだ。
というよりショウは兵士と話すことで驚きの事実を知っていた。
この世界には言語が一つしかないのだ。
初め兵士からそう言われたショウは冗談だと思ったが、兵士は嘘ついている風でもなく、至って真面目、というよりさも当然のようにいってのけた。
この街だけでもこれだけたくさんの人がいるのだから当然故郷が違う人もたくさんいるだろう。
だというのに言語が一つしかないというのはショウには信じられなかったが、兵士に言わせれば当然らしい。
これは昔、言語がたくさん存在していたために、同じ人どうしで争いが生まれ、それに嘆いた女神が言語を統一したせいだと言われているらしい。
ショウは何を馬鹿なと思ったが、この世界の大半の人がその話を信じているようだった。
では文字はどうか?
女神が統一したのはどうやら言語だけで文字に関してはそれこそ人種や種族の数だけ存在するという。
ショウが兵士に見せられた文字は読めず、案の定、店の看板や、地図さえもショウには読むことはできなかった。
だが店の看板というものは、たいていはわかりやすいようにイラストでその店を表しているものだ。
だからこそショウは安心してその店の扉を開ける。
剣、薬、服、パンの絵が描かれていて、それら全てを取り扱ってないなんてことはないはずだ。
カランカラーン
「いらっしゃい!・・おいおいずいぶん大荷物だな?売りに来たのか?」
「ええそうです。これなんですけど!」
丸メガネをかけた初老の男性が構える店。
そのカウンターにショウはどさっと荷物をおいた。
店主は「おいおいこれはすげぇな・・」とつぶやくと袋を開け、中身を確認する。
「どうすか?」
「うーん。まあ状態は悪くねぇし買い取ってもいいだろうな・・・そうだなーこれだけだったら銀貨五枚と銅貨六枚ってとこだな。
ただ・・あんたのその着ている黒い服。それかなり上等なもんだな。どうだ?売る気はないか?」
「え?これ?」
「ああ!それさ。それも売ってくれるってんなら・・金貨三枚出してもいいぜ」
「金貨三枚・・・?」
お金の価値がわからないショウは考える。金貨三枚はどれほど価値があるのか。
正直この黒コートは手放してもよかった。
吸血鬼になったおかげで寒さをほとんど感じなくなっていて、防寒具が必要なくなっていたのだ。
正直愛着はあるが、どうしても手放したくないわけではないので売れるなら売ってしまいたかったのだ。
「・・・ふぅー。あんた若いのにやるな。さすがそれだけのモノを着ているだけはある。
そうだよな。その服とここにあるものであわせて金貨三枚なんて安いよな。若いからってなめてたぜ」
「え・」
お金の価値について考えていただけです。
「じゃあ五枚でどうだ?金貨五枚!!」
「五枚かー・・」
「な・・ふっふっふどうやら想像以上に手ごわい相手だったらしいな。俺も男だ!受けて立つぜ!
金貨八枚でどうだ!!さらに税金等はこっちで負担する!これでどうだぁ!!」
またお金の価値について考えていただけだったのに店主は勝手に熱くなっていた。
右手で5、左手で3を表しショウに突き付けている。
金貨8枚という額はきっと高いだろう。
考え事をしているだけだったがいつの間にか価格交渉が始まっており、この5000円のコートが金貨8枚の価値にまであがっていた。
だからこそ、ここでショウの脳裏にまだ上がるんじゃないか?というちょっとコずるい考えがよぎった。
(いやいや・・一人で生きていかなくちゃいけないんだからこれぐらいの処世術は必要だよな。うん。)
自分を納得させショウはさらなる価値上げに挑む。
「8枚かーうーん・・」
「うそだろぉ・・。もうむりだぜー・・。かんべんしてくれよぉ」
ダメだった。
ショウはあきらめて金貨8枚で黒コートと持ってきた荷物を売り、この世界で一番オーソドックスな服を買ってその店を後にした。
退店間際、ショウのズボンをみた店主が売ってほしそうにしていたのは気づかないふりをした。
「さーって金はたまったし何しようかなー」
現在所持金は金貨9枚に銀貨5枚。それと服を買ったので少し減ったが銅貨が50枚ある。
服が一番安いのを買ったのもあるだろうが、銅貨10枚だったことから、これだけあればそれなりの間生活できるだろう。
街に溶け込めるようにさっそく着て見ているが、着心地は悪くないしショウは満足していた。
「ふ・・ふふっ」
これでこの世界の一員だと思ったショウから笑みがこぼれた。
ドンっ
気を抜いてあほ面をかましていたショウに何かがぶつかる音が聞こえる。
見ると、目の前で人が転んでいた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すまんありがとう。ちょっと急いでてな!こけちまった」
「どこか行くんですか?」
「闘技場だよ!知らないか?今回の試合は、ゴブリンが出るらしいんだよ!」
「え!ご・
「あーあ!こうしちゃいられねぇ!試合が始まっちまう!ありがとうな兄ちゃん!」
そういうと転んだ中年の男は走って行った。
中年なのに転んでしまった事に関する羞恥は急いでるおかげで意識しなくてすんでいるようだ。
だがそんな事より気になるのは中年男の言った言葉だ。
『闘技場だよ!知らないか?今回の試合は、ゴブリンが出るらしいんだよ!』
「行ってみるか!」
ショウは中年男を追いかけるように走り出した。




