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ゴブリンに助けられて  作者: くろきち
序章
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プロローグ

異世界転移ものです

気楽に自分の大好きな要素を盛り込んで執筆していきます


「はぁ・・・疲れたなー」


長い長い行列の中、一人の少年はつぶやいた。


 少年の名は津田(つだ) (しょう)

18歳の高校3年生、受験生である。

新年を迎えたばかりの現在、友人の誘いから地元の神社に初詣に来ていた。

地元の神社といってもそこそこ大きく有名なので同じく初詣に来た人々が列をなし長蛇の列になっている。

並び始めて数分もたっていないが、翔の口からは思わず文句が出る。

きっとこれは行列だけのストレスのせいではない、日々の勉強のストレスのせいでもあるだろう。

毎日毎日、一日の大半を勉強に費やしているのだ。自分で選んだこととはいえ疲れは溜まる。


 防寒はしているが季節は冬。寒い。

そのうえ、さっきからこの行列は動く気配もなかった。

そんなことを考えてしまい、翔から思わずため息が出る。


「ちょっとーやめてよね、ため息とか」


「そうだぞ!新年なんだから明るくいこうぜ」


 そんな翔の態度を見て、近くで一緒に並んでいる友人二人が文句を言う。

最初に文句を言ったのは丸山(まるやま) 妃菜(ひな)。翔とは小学校からの付き合いでショートカットの少女で、次に文句を言ったのは松井(まつい) 弘人(ひろと)。妃菜と一緒で小学校からの付き合いでくるくるのパーマをかけた茶髪の少年である。


 彼らと翔は小学校からなので、考えてみれば長い付き合いであった。

数えきれないほど遊んだもので、特にこの二人は遊びに強い熱意があった。

今日だって、あまり乗り気ではなかった翔を半ば無理やりに初詣に連れ出してきたのだ。


「いやー寒いし全然すすまねーじゃん。そりゃ文句ぐらいでるわ」


 着ている黒いコートのポケットに手を突っ込みながら、わざと寒そうに身を震わせ翔は呟く。

実際、我慢できない程の寒さでは無かったが、わざと自分の不満を表すため大げさにやってみせた。


「文句ばっか言わないでよー!子供か!」


「そんなこといって、実は妃菜も寒いしイライラしてるだろ?」


 またも文句に対する文句が飛ぶが、すかさず翔は応戦する。

翔の言葉が思い当たるのか、妃菜は少し悔しそうな顔をして肯定も否定もできず口をつぐんだ。


「まーまーケンカすんなって!そんなに寒いならあったかい飲み物でも買いに行って来いよ!奢ってやるよ」


 そんな二人を見かねて弘人は喧嘩の仲裁をした。

喧嘩といっても本気ではないことは当事者の二人も弘人もわかってはいるが、ささいな口論でも弘人はみたくなかった。


「お!まじか!やったね!」


 翔は喜びの声を上げ途端に笑顔になった。

別に奢ってもらうのを狙ってやったわけではなく、単なる暇つぶしの会話だったのだが、思わぬ成果をあげてくれてラッキーだ。


「ほい!じゃあよろしくな」


 そう言って弘人は小銭を差し出し、あわてて翔はそれを受け取った。


「俺コーンポタージュな」


「私ミルクティーね」


 翔が小銭を受け取ると妃菜、弘人の二人から注文が出た。


「え・・あーうん?これってパシリじゃ・・」


「そうだよ?早くいって来いよ」


「私ミルクティーね」


「・・わかったよ、くそー」


 まさか寒さを和らげてくれるための優しい提案だと思っていたものが単なるお使いだったとは。

気づかなかった自分も自分だが笑顔で悪びれもせず、当然のように肯定した弘人に若干寒気がした。


(まあちゃんと俺の分も払ってくれたみたいだし、パシリくらいいいだろ!)


 そう自分を納得させ翔は飲み物を求めて歩き出した。








「えーっとこの辺に・・・あっ・あったあった」


 飲み物を求めて列から外れ歩いて数分、翔はやっと飲み物の自動販売機を見つけることができた。

まだ自分が小学生のころ神社で遊んだ記憶からは少しずれているような気がしたが見つかれば結果オーライだろう。


「いやーしかしこの辺も変わらないなー」


 この神社のなかで遊んだのなんてずいぶん昔の話だが、記憶の中にある神社と現在の神社はなんら変わらないように思える。

昔はよく鬼ごっこやかくれんぼといったあそびをしたものだ。

知らないおっさんーたぶん神主さんーに怒られて以来遊ぶことはできなくなったが、今でも思い入れのある場所だ。

あそこでは弘人が転んで泣いていたし、あっちでは弘人が妃菜に投げられて泣いていたし、あの階段では弘人が虫を新品の靴で踏んで泣いていたし、あのてすりでは弘人が・・・


(弘人泣きすぎだろ・・。神社での思い出を思い出してたはずが弘人の泣いているところばかり思い出したわ)


 昔の遊んだ記憶を思い出すつもりが、友人の泣いている思い出ばかり思い出してしまい翔は笑う。

戻ったら弘人に問い詰めてはずかしめてやろうなんて思いつつ翔は自動販売機へと近づく。


(えーっと・・弘人がコンポタで妃菜がミルクティーと・・)


 二人の注文を思い出しつつ、自分は何を買おうか考えていると--


「ん?」


 不意に目に留まるものがあった。

道だ。

単なる道。

何の変哲もない道。

気になることといえば道の先が暗くなっていて見えないことだが夜だから当たり前だろう。

そんなことは翔にもわかっていた。

ではなぜ気になったか、それは---


「知らない道だな・・・」


 そう昔何度も遊んでいて知らない場所や物、道なんてないはずなのに、その道に見覚えがなかったからだ。

無論忘れてしまっている場合もある。

よく遊んだといってもそれは昔の話だ。忘れていても変ではないから気にする必要なんてない。

そんなことはわかっている。

わかっているがそれでも翔は気になった。

地元なのに知らないのが嫌だったからか、それとも昔の記憶を思い出したかったからか、はたまたその道の先を知りたいという好奇心からか、答えは翔自身にすらわからなかった。

ただどうしてもその道をたどりたくなった、道の先を知りたくなった。


「ちょっといってみるか・・・」


 軽い気持ちで翔は道を歩き出す。

ここは地元、迷うわけがない。

ちょっと進んだら帰ってくればいい。

いざとなったら妃菜や弘人に電話しよう。

そう思いながら翔は道を歩く。


 瞬間、光が翔を包む。


「まぶしっ・・!!」


 翔は強い光から隠すように咄嗟に腕で目をおおった。

光はどんどん強くなり、覆った腕では隠しきれないほどまばゆく輝く。

太陽のごとき輝きはやがて収束する。しかしその場にはいるべきはずの人が・・翔がいなかった。


 こうして翔はその身を神社から消した。光とともに完全に消滅した。


 買ったばかりの温かいコーンポタージュとミルクティーを残して・・・。




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