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I wish I were ~土下座から始まる異世界冒険譚~  作者: PEE/ペー
第三章
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アドルードにて③

ちょっと書きたい事が長くなりそうなので……思い切って分割して投稿します。


もしかすると、本話中のリュートの様子がやや幼く感じられる方がいらっしゃるかもしれませんが……。

言ってしまえば、リュートには現在の肉体(十歳相当)と神界にてあれこれ鍛錬した青年状態(魂形態)と、更には前世の知識(記憶は無い)があるおっさん形態があると思って下さい。


つまり、ミ〇トバーンが大魔王の肉体を使った際に「最強=俺」とイキった様に、多少は精神が肉体へと引っ張られる事もあると思って下されば幸いです。

 春が訪れたとは言え、 決まって訪れる飛竜山脈からの冷たい風が朝晩の冷え込みを生むアルバレア公国南部の町アドルード。 そのような一日の中で人々が唯一、 春を感じる事が出来る昼下がりの穏やかながらも少し騒がしい空気が行きかう街の雑踏の中、 青年と少年が肩を並べて歩く。


 青年の方は体の大部分を土色のローブと似た色の肩掛け鞄――こちらは少し濃い色合い――で覆い隠している為に体型は(うかが)い知れないが、 旅の魔術()(ぜん)とした格好と端正な顔立ちが相まって実年齢以上の雰囲気を(かも)し出している。 (ゆる)く肩口まで流れる金髪に金眼、 その顔立ちは()に似たのか整い過ぎていて逆に冷徹さすら感じさせるものの……現在は気心知れた相手と一緒である為か時折柔らかい表情が顔を出し、 多くの人々がすれ違う町の中にあっても人々の注目を必要以上に集めていた。


 一方の少年と言えば、 水の大精霊を奉じるこの周辺ではあまり見る事の無い珍しい黒髪の上、 左側に一束ずつ水色と若草色がこめかみから後頭部の方へと編み込まれており、 黒目と合わさると一目で()()()だと判断出来る程度には異彩を放っていた。


 その顔立ち自体はまずまずで、 隣を歩く青年と見比べてもそう劣っている訳では無いのだが……何処か達観した――まるで人生を一度終えたかの様な――冷めきった様に()()()その瞳が、 色々と台無しにしてしまっている。


「いやぁ、 やっぱ新しい装備ってのは良いね! 」


 そんな周囲の視線を丸っと無視したまま大通りの脇――中央は馬車優先の為――を進む黒髪の少年(リュート)は、 上機嫌な……浮ついた内面を金髪の青年(スウェント)へとさらけ出していた。


「新しい旅路に新しい靴って言うのも……まぁ、 気持ちは分かるんだけどね 」


 自身の目線の位置の少しだけ下から語り掛けられたスウェントは、 やや苦笑いでそれに答える。


 昨日の一連の流れで新たな友人を獲得したリュートは、 意気投合した勢いのままに老紳士(ウィン)に対して兄弟二人でアドルードから西回りに公都を目指す事を告げ、 地元の者ならではの助言を求めた。


 旅に対する憧れでもあったのか、 ウィンからは役に立ちそうなものから眉唾ものな話まで様々な反応があった、 その中で――


 戦闘用と旅用の靴は違いますぞ!


 ――と言うアドバイスがリュートの琴線にそっとでは無く、 ガッツリと触れた。


 以前、 グランディニア大陸には野営に一家言(いっかごん)ある者が多いと言った話題があったが……“靴”と言うのもまた、 それなりに()が深かったりする。


 まぁここではある程度割愛させてもらうが、 戦闘用の靴には丈夫さに加えて静音性やその逆――盾役(タンク)には後者が好ましい――が優先され、 更には靴底にグリップ(りょく)が求められるのに対して、 旅用のそれは何よりも履き心地――移動の際の疲労感やストレス等の軽減――が第一となるのである。


 つまり、 今回が初めての徒歩(かち)ので旅となるリュートはそれ専用の靴などは当然ながら所持していなかったのだが……今朝リュートがウィンの邸宅の一室で目覚めた時には既に、 応接室にはアドルードで一番と名高い靴職人が待機しており。 そのまま採寸から加工、 微調整を経て気が付けば昼前には完成した靴が現在、 リュートの足元にあるのである。


「いやいや、 錬金術師ってのは凄いもんだね!! 」


「……たしかに、 飛竜(ワイバーン)()があっと言う間に()になって、 靴になったね 」


 実は昨晩の話題の中心であった錬金術師の一人がこの靴職人その人であり、 リュートが以前倒した飛竜の――しかも使ったのはご丁寧に足回りの物――素材を様々な薬品と己の<魔力>でもってあっと言う間に加工し、 靴へと形成したのである。


 錬金術師と言えば、 ファンタジー世界であれば生産系なら何でもこなす熟練者(エキスパート)。 現代人であれば、 どうしても両手を合わせて真理の扉を開く義手のあの人を想像してしまうが……ここグランディニアにおける錬金術師と言えば、 “同一の素材の特性を保ったまま、 変形、 合体、 分離を()しうる者” の総称である。


 即ちそれは、 金属であれ魔物の素材であれ、 自らが得意とする素材の加工に対しては絶対的なアドバンテージを持つ事に(ほか)ならず。


 例えば、 幾つもの散らばった鱗を性質――強度や魔素の伝達率――を保ったまま一つに纏め……それを衣服やマントの様に薄く広げたり、 逆に盾の様に厚みを持たせる事も可能なのである。


 逆に言えば、 彼等の存在によって魔物と言う人類の怨敵が、 有用な()()へと変貌を遂げるのであった。


 彼等の絶技を間近で見る事が出来た喜びに比べたら、 リュートが未だギルドカード――それに付与されたインベントリ――を持たない為、 飛竜素材の保管場所としてスウェントが()()された事などはまぁ、 些事(さじ)とまでは言わないが、 ご愛敬であったと言えよう。


「それにっ!! これでスウェント兄さんと一緒に居ても、 少しは違和感ないっしょ? 」


「……うん、 そうだね 」


 突然、 会話の最中に前方へと駆け出し……その勢いのまま振り返ってしたり顔で語るリュートの言葉に、 スウェントは思わずその端正な顔を(ほころ)ばせられる事となった。


 飛竜の力強さを想起させる深緑色の革靴に、 褐色のズボン。 その上に合わせているのが頭髪の一部の色でもある若草色のシャツに、 自分とお揃いの土色のマント……と言うのが何とも()()の無い気もするのだが。 彼等がこれから旅をするのは、 アルバレアの南部一帯……トゥールーズ程では無いとは言え、 飛竜山脈の(ふもと)と大湿原に挟まれた、 それなりに危険な地域である。


 急ごしらえの為、 靴の仕上がりが()()()なのは気になる所ではあるのだが……現在は街中の為にインベントリへとしまっている、 愛用の“鉄パイプ”を持たせれば、 この少年は頼もしい前衛へと早変わりする。


 無論、 リュートはラグナの様に恵まれた体躯(たいく)から繰り出される【大剣】でもって相手を釘付けにしたり、 【盾】に特化した長兄(マガト)の様にあらゆる攻撃を跳ね返してくれる訳では無いのだが。 それでも幼い頃から様々な局面(シチュエーション)を共に戦い抜いてきた経緯を考えれば、 スウェントにとっては自分を最も理解してくれる相方と呼ぶ事が出来るのだ。


「ほら、 今日はギルドで仮登録もしなくちゃいけないんだから 」


「ほーい! 」


 本来ならば護るべき相手を頼りにする……と言う事実に少しだけ思う所はあるものの。


 慌てて引き返して隣に並ぶ弟の姿を見守るスウェントの眼差しは、 アドルードの陽気と変わらない程には温かく。 その心の内もまた、 晴れ渡る青空に遜色(そんしょく)無い程度には澄み渡っていた。





 当然ながら町の中心部にあった町長宅を昼過ぎに出発した後……世話しなく行きかう馬車や荷馬車の(たぐい)を脇目に大通りを西へ向かう事しばし。 リュートとスウェントの足は、 いつの間にやらアドルードの町の西端……所謂(いわゆる)下町へとたどり着いていた。


 気合(カネ)の入った門構えの家屋(かおく)が適度な間隔で立ち並び、 その間をこれまた整備された石畳が貫く景色は次第に後方へと過ぎ去り……一目で木造と分かる民家や商店が所狭しと軒を連ねる光景は、 ファンタジー世界に感じるそれとはまた違った異国情緒をリュートへ思い起こさせる。


「……へぇ、 こんな感じなんだ 」


 アルバレア南部の東西に(わた)ってその威を示す飛竜山脈に沿うように広がるアドルードの町は、 必然的に横長の形で発展を遂げきた訳だが、 町の東と西ではその役割が大きく異なる。


 ほぼ真北に公都を見据える中心部が商業ギルドやその関連施設――外部からの宿泊者向けの建物――で固められ、 東側は彼等の()となる馬や従魔――人との共生を選んだ魔物――の厩舎や、 その先に放牧地が広がると言った具合に効率化されているが、 これは言ってしまえば商売()向けの顔であり。 この町の住民の大半は、 リュート達が今いる町の西側で固まって生活しているのである。


「あぁ~何か一気に地味になって来たね 」


「……意外とそうでも無いんだよ? 例えば―― 」


 先ほどまでと比べると随分と大人しくなったリュートに対して、 スウェントは町の家屋――具体的には屋根部分――を指さしながら、 いつも通りに“うんちく”を語り始めた。


 スウェントの話は家々の屋根が表通りに雪が落ちない様、 ほとんど同じ傾斜をしている事に始まり……どの家も玄関の扉は内開きで、 しかも路面より一段高くなっている等……豪雪地帯とまでは言わないが、 それなりに雪の多いこの地域の生活をリュートが想像しやすい様にと考えられたものであった。


「――後は入ってからのお楽しみに……っと 」


「……スウェント兄さん、 どうしたの? 」


「……ほら、 ここだよ 」


 話の真っ最中だがスウェントが急に立ち止まった事で、 リュートも釣られてその歩みを止めると……スウェントの視線の先を追いかけ、 やがて一軒の建物へとたどり着いた。


 その建物は周囲のそれと比べると重厚な造りをしており、 表通りに面した側には中央に両開きの大きな扉と、 リュートから見て奥には何かのオブジェがぶら下がった照明――らしき物――付きの小ぶりな扉が付いている。 そのまま視線を上の方へと移してみれば、 ()()の屋根のすぐ下には小さな三角の(ひさし)に窓枠が埋め込まれており……改めて全景を視野に入れてみると、 明らかに周囲の家屋とは一線を画す力の入りようが見て取れる。


 思わずリュートの脳裏に“豪華なログハウス”と言う言葉が浮かんだが、 表面上は遠からずと言った所だろうか。


「リュート、 行くよ? 」


「……あ、 うん 」


 こうして、 リュート=ヴァン=トゥールーズは異世界の定番中の定番、 “冒険者ギルド”への第一歩を踏み出した。





 両開きの大きな扉を一瞥(いちべつ)をくれただけで通り過ぎ、 オブジェのあるドアへと歩み寄ったリュートは……遠目からでは茶色っぽい何かにしか見えなかったそれが、 銅で出来た靴――を模した物――であった事に気付く。


 町中に吹く緩い風に揺られて小刻みに動くそれを、 チラチラと横目で気にしながら……ドアを(くぐ)ったスウェントに続いて中へと踏み入ったリュートの視界に飛び込んで来たものは……まずは手すりの付いた階段。 緩い弧を描きながら二階の奥側へと消えていくそれから目を離し、 視線を下方へと降ろしていくと……そこには小ぢんまりとしたカウンターがポツンと存在していた。 まるで小さな図書館の司書室に出くわしたかの様な……この大陸の文字で“総合受付”と書かれたボードの下には湾曲した長机が広がり、 恐らく左右のどちら側からでもカウンター内に入れる様に設計されているのだろう。 その内部は机の上の衝立(ついたて)によって隠されている為、 今この場のリュートからは中の様子を(うかが)い知る事は出来ない。


 その長机の中央――正面とも言える――にて、 不貞腐れた様に頬杖(ほおづえ)を突いていた妙齢(みょうれい)をちょっとだけ過ぎた女性に対し、 リュートを伴ったスウェントが正面へと回り込むと――彼にしては珍しく親し気に――声を掛けた。


「お久しぶりです、 マイラさん 」


 衝立のせいで向こうからこちら側も見えなかったのか、 (ある)いは元々ここへ来る人間に対して、 さして興味が無いのか……どちらにせよ、 昼下がりによく見合った気だるげな仕草で頬杖のままこちらを見やり――


「いらっしゃいま……ってなんだ、 アンタかい 」


 ――反射的に姿勢を正したかと思えば、 即座に元の姿勢へと立ち戻ってみせる……と言う早業でもって応じてみせた。


「相変わらずですね、 ここも 」


「ったく……こんなトコに来て喜ぶのは、 アンタ達兄弟くらいだよ 」


「ええ、 実は()()()その件で来まして…… 」


 この他人に対して不愛想で有名らしい次兄が、 えらく気安いやり取りを交わすものだと……ある意味で感心して二人のやり取りを眺めていたリュートであったが。 会話の流れからか、 二人の視線が自分へと集まった事を感じると気恥ずかしさからか数回だけ(ほほ)()き、 おずおずと名乗りを上げた。


「あぁどうも、 三男坊のリュートです 」


「……はぁ、 どうも 」


 何とも締まらないリュートの自己紹介に対し、 マイラと呼ばれた女性は何か珍妙なものでも見たかのような目でリュートをしばし眺めた後、 何の溜息(ためいき)か分からない息を吐くと……(にわか)に立ち上がり、 先ほどまで崩れまくっていた姿勢を正すと、 もっともらしく(のたま)ってみせた。


「ようこそ、 冒険者ギルド・アドルード西支部へ! 」


 こうして、 リュートの冒険者ギルドデビューは幕を開けた。

ご一読、ありがとうございました。


次話もなるべく早めに投稿出来る様、努めます。

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