第六話 決着
活動報告にもあげたように、 今回の投稿で一旦、 一日一回の更新を止めさせて頂きます。
次回は5月13日 (金)の午前0時を予定しています。
最近、 PV数やブックマーク件数が少しずつ増えており大変嬉しく思っております。
以後も、 少しでも楽しんで頂ける内容を投稿出来るように頑張りますので、 末永いお付き合いを宜しくお願い致します。
時は少し……リュートとアルの二人が、 レイラの食堂の扉をくぐった時点まで遡 る。
表へと踏み出した二人の視界に映った物、 それは――
「あぁ…… 」
「酷い……リュート君のお家が…… 」
――大火球によって地中深くまで陥没した村の中心部と、 空から舞い落ちる火の粉。
傷を負いながらも他所への延焼を防ぐべく、 声を掛け合いながら走り回る仲間達と、 その想いを否定するかの様に赫々と燃え盛る領主館であった。
「……やるぞ、 アル 」
それらを目の当たりにして、 更なる決意を固めたリュートと唇を噛み締めながら頷いて同意を示したアル。
幸いにして敵は周囲に見えず、 村の住民や“雷花”の面々も二人には気付いてない。
ここに……二人の、 二人による、 ここ に想いを寄せる、 全ての者へと捧げる為の戦争が始まった。
周囲の喧騒とは無縁に見える……この世界での出来事とは思えない程に淡々とした口調で、 二人の戦争における方針は決定された。
「リュート君、 決めた? 」
「スネア、 鬼スネアな 」
「……串刺しでも良い? 」
「ん、 オケ 」
「詠唱狙い? 」
「とーぜん 」
「偽装は? 」
「要らん、 振り切る 」
「……アイツは? 強いよ? 」
「アイツは俺がやる。 と言うより…… 」
「言うより? 」
「アイツは子供を殺さない 」
「……ホント? 」
「あぁ、 感じる 」
「……信じて良いの? 」
「任せろ 」
かのような随分と大雑把な打ち合わせが済んだところで、 アルがさっきから気になっていた事をリュートへ尋ねた。
「何なの? その頬の狼……感じるってそのおかげ? 」
「カッコいいだろ? 」
「……リュート君、 大丈夫? 」
「へっ、 言ってろ 」
軽口で肝心な部分をはぐらかすリュートに向けて、 抗議の視線を送るアルであったが。
今のリュートは余程昂っているのか、 長々と事情を説明する気が無いようだった。
「もう……じゃあ、 ちゃんとやってよね? 」
「あぁ、 任せろ 」
リュートへの追及を諦めたアルが、 敵の弱点を晒す事をリュートへと要求して……リュートはそれを即座に了承した。
こうして二人は、 徹底的なスネアを基本とした方針を確認して……自分達の大切な者を奪った相手の元へ、 夜の闇に溶けるようにして舞い戻って行くのであった。
そして……テュレミエールから借り受けた槍は、 デヴォリの構えた双剣と交錯した部分から先が断ち切られて宙を舞った。
その代償として、 最大の難敵の右腕を斬り落とした事で……リュートは勝利を確信した。
「せいっ!! 」
間髪入れずにリュートは追撃を図る。
その狙いは片腕を失ったデヴォリ……ではなく。
「ちっ!? 」
呆然としたまま動きを止めているフォンタナであった。
フォンタナを庇って身を投げ出したデヴォリの……リュートへと晒したその脇腹を、 やや短くなったリュートの槍が追いかける。
リュートの槍は、 デヴォリとリュートの間の空間を通り過ぎただけであったが……何故かデヴォリの脇腹から鮮血が迸 る。
「槍ではない……鎌、 か 」
フォンタナの体を巻き込みながら、 地面へと転がったデヴォリが口を開いた。
一方のリュートは、 二人から目を離さすにじっと見つめたまま……後方で戦況を見つめるアルへと指示を送った。
「アル! 残りを殺れ!! 」
手負いのデヴォリと、 未だ立ち直る兆しを見せないフォンタナに脅威は無いと見たのか。
まだ息がある襲撃者に、 とどめを刺すことを優先させた。
「……恐ろしいな、 君は 」
付け入る隙をまるで与えずに……徹底して敵の殲滅を唱えるリュートに、 自身の感じたままを告げたデヴォリ。
その顔に浮かんだのは、 畏怖か悔恨か……どこかもう二度と、 届かないものを見る様な目をしていた。
「是非も無い。 お前はここで……殺す 」
その瞳に何の色も映さず……デヴォリの言葉には取り合わずにただ淡々と、 機械の様な無機質な目と表情でリュートは告げた。
ここへ来ても、 彼はデヴォリではなく弱者であるフォンタナを徹底して狙う……その野生の狼の様に非情な姿勢に揺るぎは無かった。
フォンタナの魔術スキルが【火】と言う確信を得ていた為に、 離れた距離から【水属性】の槍でもって彼を狙い撃つ。
「……たまらんな、 これは 」
残った左腕でフォンタナを抱えながら、 大地を転げ回るデヴォリが嘆いた。
フォンタナが茫然自失したまま動かない為に、 リュートの魔術は彼が防ぐしか無い。
デヴォリが反撃を狙ってナイフを取り出しても、 フォンタナを狙うリュートは魔術を止めない。
魔術で対抗しようにも、 リュートの展開速度はデヴォリのそれを遥かに上回っていた。
この戦いは……フォンタナを死なせたくない上にリュートを殺せないデヴォリと、 例え死んでも相手を殺すまで攻撃を止めないリュートでは……最初から互いの条件に、 差が有り過ぎたのだ。
「そこを見抜かれた……俺の負けか…… 」
隻腕でフォンタナを庇いながらも、 インベントリから止血用の紐を取り出して……左手と口で右腕を縛ってまで抵抗を続けていたデヴォリだが……リュートの放った魔術の槍が、 フォンタナの無事だったもう片方の足を貫いた所でゆっくりと口を開いた。
「君の……君達の勝ちだ 」
遂に耐えきれなくなったデヴォリが抵抗を止め、 膝立ちになって両手を前に広げた。
片腕が無いために分かりづらいが、 降伏の合図であることは明らかであった。
「……じゃあな 」
敵を散々に痛め付けてもなお……何の感情も宿していない、 無機質なままの両の瞳でデヴォリを見つめたリュートが、 魔術によって先端から鎌を生やした槍を高く掲げる。
デヴォリは自身の背後に庇った……茫然としたままのフォンタナを一瞥した後、 全てを受け入れるかの様に瞳を閉じた。
「心配すんな、 お前も直ぐに送ってやるよ 」
未だに事態を理解出来ていないフォンタナへ、 吐き捨てる様に言い放ったリュートが勢い良く槍を振りかぶり――
「もう良い……もう十分だよ、 リュート君 」
――その槍は降り下ろされぬまま、 リュートは動きを止めた。
いつの間にか……トゥールーズの大地には朝日がうっすらと顔を覗かせており……それによって伸びたリュートの影の先には、 モルゲンに肩を貸されたザグリーブが立っていた。
突如としてトゥールーズ村を襲った事件は、 リュートの本懐を果たさぬままに一端の幕を下したのであった。
リュートを半ば強引に……【闇属性】魔術の“影踏み”によって制止したザグリーブを始めとする大人達は、 まずデヴォリとフォンタナを拘束した後に、 事後の処理を粛々と開始した。
テュレミエールやシルワーヌ、 ミリエラもリュートが戦っていた領主館の北側に広がる庭――と言っても現在はあちこちに死体が転がっている為に戦場としか表現できないが――へと集まっており、 死体を運んだり襲撃達の所持していた武器や防具、 果ては彼等が領主館から持ち出したらしき魔道具等の整理と分別を行った。
手を体の後で縛られ、 ザグリーブが提供した罪人用の拘束具――対象の魔術の行使を阻害する物――を首に嵌められたデヴォリとフォンタナであったが……抵抗する素振りを見せず、 逆に驚くほど従順であった。
「ちょっと、 アンタ達も手伝いなさい 」
その為か、 シルワーヌの指示で遺品の分別に協力させられていた。
使える物は何でも使う。
黙々と作業を執り行うその姿勢は、 彼女自身の凛々しさも相まって……とても毅然として見えた。
その一方で……。
振り上げた拳のやり場を、 突然奪われた形となったリュートは怒りを収められずに……誰彼構わずに当たり散らそうとしたが――
「二人とも……お願いだから落ち着いて…… 」
――自身も軽くない傷を負いながらも、 気丈に振る舞うミリエラに強く懇願された事によって怒りを収めざるを得なかった。
彼女達……大人にとっては自らが傷を負うことよりも、 リュートやアルの様な少年……子供に戦いをさせてしまった、 自分達が守るべき相手に命のやり取りをさせてしまった事を酷く悔いていた。
グランディニアのあらゆるギルドに、 十五歳まで実戦を伴う本登録を許可しない制度があるのは……守られるべき子供達が、 しっかりと護られる為にある。
確かにグランディニアは、 現代の地球に比べて命が軽い。
だからこそ、 此処には此処の、 彼等には彼等の矜持があるのだ。
魔物の存在がある事もあって、 殺すべき相手は殺す……だがそれは大人の手でもってあるべきである。
大勢の決した状況下でのリュートの追い撃ちを、 ザグリーブが止めたのもこう言った理由があったからであった。
リュートがやり場の無い、 憤りを抑える様子に何かを感じたのか……デヴォリが口を開いた。
「少年よ……確かリュートと言ったか? 」
低く、 腹の底に響くようなその声は冷静さを欠いてたリュートの耳に、 不思議と良く届いた。
自身の肩にかかったミリエラの手を優しくどけたリュートは、 声の主の方へと体を向けた。
先程までの怒りや悲しみは、 何故か少しだけ落ち着いていた。
「君は俺に勝利した。 ならば……何を望む? 」
自分に出来うる事であれば、 可能な限り応える。
敗れた身にありながらもそう語ったデヴォリの言葉は、 リュートの怒りを再燃……させたりはしなかった。
無論、 レイラの命を奪われた怒りや悲しみはリュートの中から消えていない。
だが、 戦闘中にリュートが感じたものはそれだけでは無かった。
ここへ来て漸くリュートは本来の精神性――転生前を含めた年齢由来の落ち着いた思考――を取り戻しつつあった。
「……端的に言え。 黒幕は誰だ? 」
戦闘中に感じたそのままに、 リュートは問うた。
デヴォリの素性は知らないが……この男は本質的に護る側の人間であって奪う側の人間では無い。
ならば彼が凶行に走った裏には、 それを指示した人間が居る筈であろう、 と。
「ふっ……良いだろう 」
リュートの質問に、 デヴォリはシニカルな笑みを浮かべた。
その後、 デヴォリの口から発せられた内容に一同は驚愕する事となった。
「……サルゲイロ=フォン=アルバレアだ 」
「……誰? どっかの貴族? 」
リュートは自分が聞いた事が無い名前が出たので、 反射的にそう返してしまった。
仕方なく周りを見て――少しだけ、 ここにスウェントが居ない事に寂しさを覚えてから――この中で最も詳しいであろう、 ザグリーブに目を合わせた。
リュートの視線を受けたザグリーブは、 少しだけ息を吐いてから口を開こうとして……直ぐ様その口を固く閉じた。
肩透かしを食らった形のリュートであったが、 ザグリーブの視線が北の方角――飛竜山脈の方――へと向けられているのを見て、 釣られてそちらへと向き直った。
そこには猛然と此方へ駆けて来る、 馬に乗った集団の姿があった。
「あぁ、 親父達か……あれ、 スウェント兄さんも? 」
その中にリュートが良く見知った、 父のラグナや母アリア。
そしてエジルとリーナのペイルレート夫妻や、 三年ぶりに見る兄スウェントを見付けた為に声に出してしまっていた。
見知らぬ鎧姿の一団も居たが、 どうせラグナの知り合いだろうと当たりを付けた為に深く考えなかったのだが――
「説明する手間が省けたな 」
――デヴォリの一言によって、 リュートの身に纏う空気が即座に変化した。
無言のまま強い視線――問い質すそれ――をデヴォリへと向けるリュートに対して、 デヴォリは今までと声色を全く変えずに答えて見せた。
「あそこに居る青髪の男……他より一際豪華な鎧の奴が居るだろ? あれがアルベス=フォン=アルバレアだ 」
デヴォリの説明がリュートの耳へと届いて直ぐに、 彼が先程落ち着かせた……どうにか収めた筈の感情が沸き上がった。
地面に置いていた槍を再び手に取る。
デヴォリに向けた時よりも強く、 握りしめて。
一方のデヴォリは、 依然としてシニカルな笑みを顔に浮かべたまま……いや、 少しだけ笑みを強くしてリュートへと説明を続けた。
「あれが現公爵だから……サルゲイロ=フォン=アルバレアは次期公爵、 アイツの息子だよ 」
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