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学内で起こった事件

学内の痴漢騒ぎが、一番最初に起こったのは、宏明が一回生の後期に入ってすぐの頃だった。当時、四回生だった女子大生が、教室の移動中、何者かに襲われ、誰もいない場所へと連れていかれ、身体を触られた、といいものだった。女子大生はあまりの恐さで覚えていることが少なかったが、黒い帽子を深くかぶり、サングラスをかけ、マスクをしていたため、どこの誰かかわらない状況だっだ。

そういう被害の女子大生が、二ヶ月で二十人にものぼった。

痴漢事件は生徒達の耳に入り、あっという間に噂は広まった。当然、宏明達も知っており、紀美や京子も不安が募っていた。大学側も事態を重く見て、犯人を探していたが、全く見当もついていなかった。

「痴漢の犯人って誰なんだろう?」

京子はカフェオレを一口飲んだ後に言った。

一日の授業後、四人は学内のカフェでお茶をすることになった。

「さぁ…。これじゃ、オチオチ学校にも来れないぜ」

茂も同感したように言う。

「女子はみんな集団で行動してるけど、大学に行きたくないっって言ってる子もいるよ」

「そうそう。早く解決しないかな」

京子と紀美は交互に言う。

「でも、なんで一人の時なんだろ? 一人で行動してても、周りに人がいるからバレるだろ?」

茂は前から疑問に思ったことを口にした。

「連れ去るっていっても、一瞬のことだからわからなかったっのもあるし…」

「人一人、連れ去るのは簡単なことじゃないぜ? 薬を嗅がされてたならいけるかも知れないけど、被害者は薬を嗅がされてなかったみたいだしなぁ…」

途方に暮れた表情をする茂。

「襲うにしても、授業の移動中っていうのが気になるよな」

アイスコ―ヒ―のグラスの中に入っているストローを触りながら呟く宏明。

「確かにそうよね。全ての被害者は、教室の移動中に襲われてるもんね」

「別に人が少なくなる放課後でもいいのにって…そう思わね―か?」

同意を求める宏明。

「そういえば…」

「犯人さえわかれば、本当のことがわかるんだけどな」

そう言うと、宏明はアイスコ―ヒ―を飲み始めた。

――女子を恐怖に陥れてる痴漢の犯人。今も堂々と日常生活を送っていることが、腹立たしいな。

宏明の中に怒りがこみ上げてきた。

「ねぇねぇ、今日も痴漢騒ぎが起こったらしいわよ」

そう聞こえてきたのは、四人が座っているテ―ブルの隣のテ―ブルからだった。

話していたのは、ギャル風の女子三人組だ。

「え―っ、ウソ―?! いつなの―?!」

「今日の三現目の授業後。噂通り、教室の移動中みたいよ」

「またぁ?! 全く痴漢は誰がやってんのよ?」

一人の女子が苛立ちながら言った。

「ホントよね―。さっさと犯人捕まえてほしいんだけどぉ…。これじゃあ、学校に来る気なくすし!!」

「うんうん。学校側も何やってんのよ?って感じだし…」

残りの二人も同感している。

「また起こったみたいだね」

紀美は小声で言う。

「みたいだな。なんとかならないもんかな」

茂はため息をつく。

そんな会話を聞いているうちに、宏明の中である思いが芽生えていた。

――オレ、なんとかしたい。コの事件を解決したい。

そう心の中で思っていたが、口には出さずにいた。口に出してしまえば、“解決出来るわけがない。無理だ”と言われるのが、目に見えていたからだ。

しかし、一人で痴漢騒ぎを解決したいと思っていても、どうしていいのかわからない。被害に遭った女性に、詳しく話を聞いていいが、恐らくおもいだしたくはないと言われてしまったらどうしようもない。それに、学校側に話したことを何度も話したくないっていうのが、被害に遭った女性の心境だろう。

それらを考えると、途方に暮れてしまう。

――最初からつまづいてるな。本当にどうしたらいいんだろう?

宏明は自分がどう行動したらいいのか考えていた。

「ヒロ…?」

茂が宏明の顔をのぞきこむ。

「え…?」

「怖い顔してどうしたんだよ?」

「あ、いや、別になんでもね―よ」

首を横に振る宏明。

「痴漢騒ぎ、早く解決するのを願うだけだね」

紀美は残り少ないレモンティ―を飲み干した後に言った。

女子大生はあまりの恐さで覚えていることが少なかったが、黒い帽子を深くかぶり、サングラスをかけ、マスクをしていたため、どこの誰かかわらない状況だっだ。

そういう被害の女子大生が、二ヶ月で二十人にものぼった。

痴漢事件は生徒達の耳に入り、あっという間に噂は広まった。当然、宏明達も知っており、紀美や京子も不安が募っていた。大学側も事態を重く見て、犯人を探していたが、全く見当もついていなかった。

「痴漢の犯人って誰なんだろう?」

京子はカフェオレを一口飲んだ後に言った。

一日の授業後、四人は学内のカフェでお茶をすることになった。

「さぁ…。これじゃ、オチオチ学校にも来れないぜ」

茂も同感したように言う。

「女子はみんな集団で行動してるけど、大学に行きたくないっって言ってる子もいるよ」

「そうそう。早く解決しないかな」

京子と紀美は交互に言う。

「でも、なんで一人の時なんだろ? 一人で行動してても、周りに人がいるからバレるだろ?」

茂は前から疑問に思ったことを口にした。

「連れ去るっていっても、一瞬のことだからわからなかったっのもあるし…」

「人一人、連れ去るのは簡単なことじゃないぜ? 薬を嗅がされてたならいけるかも知れないけど、被害者は薬を嗅がされてなかったみたいだしなぁ…」

途方に暮れた表情をする茂。

「襲うにしても、授業の移動中っていうのが気になるよな」

アイスコ―ヒ―のグラスの中に入っているストローを触りながら呟く宏明。

「確かにそうよね。全ての被害者は、教室の移動中に襲われてるもんね」

「別に人が少なくなる放課後でもいいのにって…そう思わね―か?」

同意を求める宏明。

「そういえば…」

「犯人さえわかれば、本当のことがわかるんだけどな」

そう言うと、宏明はアイスコ―ヒ―を飲み始めた。

――女子を恐怖に陥れてる痴漢の犯人。今も堂々と日常生活を送っていることが、腹立たしいな。

宏明の中に怒りがこみ上げてきた。

「ねぇねぇ、今日も痴漢騒ぎが起こったらしいわよ」

そう聞こえてきたのは、四人が座っているテ―ブルの隣のテ―ブルからだった。

話していたのは、ギャル風の女子三人組だ。

「え―っ、ウソ―?! いつなの―?!」

「今日の三現目の授業後。噂通り、教室の移動中みたいよ」

「またぁ?! 全く痴漢は誰がやってんのよ?」

一人の女子が苛立ちながら言った。

「ホントよね―。さっさと犯人捕まえてほしいんだけどぉ…。これじゃあ、学校に来る気なくすし!!」

「うんうん。学校側も何やってんのよ?って感じだし…」

残りの二人も同感している。

「また起こったみたいだね」

紀美は小声で言う。

「みたいだな。なんとかならないもんかな」

茂はため息をつく。

そんな会話を聞いているうちに、宏明の中である思いが芽生えていた。

――オレ、なんとかしたい。コの事件を解決したい。

そう心の中で思っていたが、口には出さずにいた。口に出してしまえば、“解決出来るわけがない。無理だ”と言われるのが、目に見えていたからだ。

しかし、一人で痴漢騒ぎを解決したいと思っていても、どうしていいのかわからない。被害に遭った女性に、詳しく話を聞いていいが、恐らくおもいだしたくはないと言われてしまったらどうしようもない。それに、学校側に話したことを何度も話したくないっていうのが、被害に遭った女性の心境だろう。

それらを考えると、途方に暮れてしまう。

――最初からつまづいてるな。本当にどうしたらいいんだろう?

宏明は自分がどう行動したらいいのか考えていた。

「ヒロ…?」

茂が宏明の顔をのぞきこむ。

「え…?」

「怖い顔してどうしたんだよ?」

「あ、いや、別になんでもね―よ」

首を横に振る宏明。

「痴漢騒ぎ、早く解決するのを願うだけだね」

紀美は残り少ないレモンティ―を飲み干した後に言った。



それからあっという間に一週間が過ぎた。

四人がカフェで聞いた痴漢騒ぎ以来、痴漢はなく、いつ起こるか学内はヒヤヒヤしていた。

そんな中、紀美と京子の友達が痴漢に襲われたのである。宏明と茂は、紀美と京子のメールで知り、昼休みに急いで事務まで来た。

二人が事務の奥にある個室へ向かうと、紀美と京子の友達は学科長と事務員が二人の計三人がいた。

被害に遭った紀美と京子の友達は、襲われた恐怖からか身体が少し震えていた。

「君達は…?」

事務員の一人が、宏明と茂の顔をまじまじと見て聞いてきた。「この方の知り合いで…」

宏明がそう答えると、事務員は「そうか」と言ってくれた。

「智美、大丈夫か?」

茂が心配そうに智美に声をかけた。

智美は小さく頷いただけだ。

「どんな奴だったか覚えてるか?」

「大学内で噂されてる人…」

智美はやっとの思いで、小さく震えた声で答えた。

「どこに連れて行かれたかわかるか?」

「…教授の部屋らしきとこだった…」

智美の言葉に耳を疑う一同。

「もしかして、この大学の教授が…?」

学科長は信じられないという口調になる。

「まさか…」

二人の事務員も驚く。

五人の脳裏には、嫌な予感がよぎった。

「その人の雰囲気とかはわかるか…?」

恐る恐る、茂が聞いてみる。

「覚えてなくて…。ごめんなさい」

「全然いいんだって」

そう言うと、茂は宏明を見た。宏明は茂と目を合わせると頷いた。

「智美、その部屋にどれくらいの時間いたんだ?」

「二十分くらい。その後、部屋の前で追い出されたの」

「そっか…」

宏明は黙ってしまう。

――約二十分もの間、犯人は智美を犯していたってかけか。

宏明は一週間前に自分の中に芽生えた想いを、思いきって告げることにした。

「オレ、今回の痴漢の犯人探してみます」

静かな口調で言った宏明に、再び驚く一同。

「ヒロ、何言ってんだよ?」

「待ってても仕方ない。被害者が増えるだけだ。このままだったら、“痴漢の大学”として、悪い噂がたって、来年この大学の志願者が減るだけだ」

真剣な表情で学科長に自分の思いを伝えた宏明。

「そうだな。生徒に痴漢の犯人を探してもらうのは心苦しいがやってもらおうか。言ってくれたらいつでも私も手伝うよ」

学科長は頷きながら言った。

宏明は「わかりました」と返事した。

「では、今日のところはこれで…。昼からも授業あるがどうする? 今日は無理はしなくていいんだか…」

事務員の一人が、智美に言った。

「大丈夫です。授業はでれます」

智美は黒のカ―ディガンを着ながら答える。

「本当に無理しなくてもいいんだぞ?」

茂は念のためもう一度聞く。

「いいの。何かしてないと思い出しちゃうもん」

「そうだよな。食堂にノンちゃと京子がいるし行こうぜ」

茂は明るく言った。



翌日から宏明の痴漢騒ぎの犯人探しが始まった。犯人を探すのには、かなりの時間を要した。事務員に今まで被害に遭った女性の名前を聞き、直接会ったりした。

被害者のほとんどは、思い出したくないという理由で話してくれなかったが、被害に遭った中の四人は、“自分の証言で犯人がわかるなら…”と言って、全てを語ってくれた。

宏明の五枚にわたって書かれたルーズリ―フには、被害女性の実態が綴られていた。

「宏君、どう?」

学内のカフェで、紀美が聞いてきた。

「う―ん…全くわからない。無謀だったかな、こんなこと引き受けて…」

宏明はルーズリ―フを見ながら答えた。

「ううん、そんなことない。宏君が痴漢の犯人を探すって言っただけでも凄いと思う。私には出来ないことだもん」

紀美は感心しきっている。

茂と京子も同様のことを思っていた。

「なんで、事件解決するって言ったのよ? 今までのヒロならこんなの興味なしって感じじゃない?」

京子はアイスクリームを食べながら、なんか納得いかないような口ぶりで聞いてきた。

「確かにな。オレにもなんでヒロが痴漢騒ぎに首突っ込んでんのかわかんね―よ」

茂も首を傾げる。

京子と茂には、宏明がなぜ痴漢騒ぎの犯人を探し当てると言ったのかがわからないでいる。

「放っておけね―んだ。ただそれだけの理由なんだけどな」

「放っておけないってのはわかるけど、大学側もなんとかしてるって…」

「一人でも多いほうがいいだろ? それに学生一人でも協力すると、学生の視点から何かわかるかもしれないってわけだ」

宏明はイスの背もたれに深く腰をかけながら言った。

「なるほど。ヒロ、くれぐれも注意して、あまり深入りして犯人に襲われたっていうのはやめてよね」

京子は宏明に忠告する。

「それは大丈夫だ。犯人は女子だけしか襲わないみたいだし…」

「万が一ってこともあるから…。ヒロには気を付けてもらわないとね」

「心配してくれてありがとうな」

「ヒロは仲間だしね」

とびきりの笑顔を宏明に向ける京子。

宏明もつられて笑顔になる。

その瞬間、紀美の胸中は一抹の不安を覚えた。

「でも、一つだけ気になることがあるんだな」

「気になること…?」

茂は首を傾げる。

「被害者の四人…智美も入れて五人になるんだけど、智美を含めた三人が部屋らしきとこに連れて行かれてるんだよな。学科長達もまさかという表情してたけど、そのまさかってのもあるしな」

頭をかきながら答える宏明。

「教授ってわけ?」

「まだなんとも言えないけど、大学内の誰かが犯人ということは確かだ。それに教授の部屋らしきとこで襲われた被害者は他にもいると思う」

「教授の部屋らしき場所以外で襲われた被害者は、どこで襲われたの?」

疑問をぶつける京子。

「校舎の草むらって答えてくれた」

「校舎の草むらって…すぐバレてしまいそうじゃん? 草が生えてるっていっても、せいぜい20〜30cmくらいだし、昼間人通り少ないのに襲うことは可能なのかよ?」

茂は校舎内に生えている草のことを知っているため、本当にそんなところで犯行が行えるのか不思議だった。

「人通り少なくても大声出さなかったらどうだ? 紀美と京子に考えて欲しいんだけど、もし犯されてる最中、大声なんて出せるか?」

宏明は真剣な面持ちで、紀美と京子に聞いてきた。

二人は少し考えると、

「私は出せない」

「私も…。とてもじゃないけど恐くて…」

「だろ? 被害者も紀美と京子と同じ心境だったってわけ」

「じゃあ、犯人は被害者の心理をついたってこと?」

「そういうこと」

そう答えると、宏明は考え込んだ。

――被害者だけの証言だとなんかしっくりこない。犯人に近付く何かがあれば…。それに犯人の目的もわからない。女性だけを狙うから、よっぽどの何か理由があるはずなんだけど、その理由が全くわからない。

「あの…二葉さん…?」

腕を組んで痴漢の件で考え込む宏明に、一人の女性が声をかけてきた。

四人はその女性に目をやったのと同時に、宏明はあっと声を出した。

痴漢の被害の話を聞く時に、思い出したくないと言って語ってくれなかった女子学生の一人だ。

「ヒロ、知ってる人?」

「あ、うん…。どうしました?」

「痴漢の件でお話があって…いいですか?」

「いいですよ」

返事をすると、自分の席に座らせた宏明。

「えっと…二回生の滝田照美さんでしたっけ?」

照美はコクりとうなずいた。

「で、話というのは…?」

「はい。話そうかどうか迷ったんですが、話しておいたほうがいいと思ったんで…。行為の最中、香水が鼻についたんです」「香水ってどんな匂いだったか覚えてたりします?」

京子は優しい口調で聞いた。

聞いたのが京子だったので、安心した照美は、自分が嗅いだ香水を思い出していた。

「あまり香水には詳しくないんですが、シトラスミントっぽい匂いだったかと思います」

「シトラスミントっぽい匂い…? なんていう名前の香水なんだろ?」

首を傾げる紀美。

「名前までは…すいません」

「全然構いませんよ。こうやって話してくれただけでも、ヒロにとっては貴重な情報なんだし…」

笑顔で言う茂の声を聞きながら、宏明は何かを思い出していた。

――シトラスミントっぽい香水…? オレ、どこかで嗅いだことある…。

「ヒロ、どうしたのよ?」

「シトラスミントっぽい香水ってオレらも嗅いだことあったよな?」

「あったっけ?」

「あったって。オレらの知ってる人物の中で…」

途中まで言いかけた宏明の脳裏に、今回の痴漢の犯人の顔が思い浮かんでいた。

「滝田さん、ありがとうございます! おかげで犯人がわかりました!」

宏明はカフェ全体に響き渡るような大声で、輝美に礼を言った。そして、ルーズリ―フをカバンの中に片付け、証拠集めへと思い、紀美達を残し、カフェを出た。


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