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女の友情

翌日の午前十一時前、少し遅めに起床した宏明達。当然、二人の兄は仕事に行ったためいない。宏明は全員分のオレンジジュ―スを入れると、全員は無言のまま飲んでいる。

「今日はどうする?」

松川は眠そうにしながら、宏明に聞いてくる。

「う〜ん…どうしようか? 特にやることないだろ?」

「まぁ、やることないと言えばないけど…」

辻井も今日一日の予定に困る。

「これから買い物に行くなんてどう?」

紀美は提案する。

「おっ! いいねぇ。ノンちゃんいいこと言うねぇ…」

「松川君、それ、どういう意味?」

紀美はわけがわからない様子だ。

「いや、深い意味はないんだって。どうするよ?」

「賛成!」

「よし、決まりだな」

茂の一言に、全員はいそいそと用意をし始めた。





宏明達一同は二台の車に分かれて、若者達が買い物する街へとやって来た。車は近くの駐車場に置くと、先に軽く昼食を済ませ、男四人組と女二人組に分かれて、買い物することになった。

実はというと、京子は昨夜の出来事から紀美とロクに口を聞いていない。京子の中でまだ気持ちの整理がついていないのだ。二度の告白をして、そして二度もフラれた。

だけど、昨夜の告白だけは違った。勢いだけで告白した感があるが、京子は京子なりにきちんと自分の気持ちを考えて、真正面から宏明にぶつけた。宏明も京子のその気持ちを受け止めて、返事をくれた。京子にとっては聞きたくなかった返事だが、宏明を諦める材料にはなった。

宏明が紀美と付き合っている時点で諦めなければいけないのだが、そんな簡単に諦められるはずもないのは当然のことで、それで昨夜、自分の気持ちにケリをつけるつもりで宏明に告白した。

紀美とロクに口を聞いていないため、紀美に八つ当たりしてるつもりはないが、紀美が事情を知れば、“八つ当たりをしている”と言われても仕方ないな、と思う京子。

そして、紀美と京子は靴屋さんに入り、お互い別々に店内を見て回る。

「そのパンプスいいんじゃない? ノンちゃんに似合ってると思うな」

紀美がパンプスを試しに履いている背後から、京子が声をかけてきた。

「そう? でも、ちょっとハデすぎないかな?」

パンプスの色をを見ながら、京子に意見を求める。

「そうねぇ…ノンちゃんからすると少しハデかも…。でも、可愛いし、何しろヒロが“紀美、可愛いよ”なぁんて言っちゃったりして―?」

何を考えているのか、京子はおどけて言ってみせる。

「まさかぁ…。宏君はそんなこと言うキャラじゃないもん」

「そうよねぇ…。ヒロのことだし、心の中で可愛いって思うタイプだもんね」

「どうしようかな? このパンプス買おうかな?」

紀美はパンプスに目をやり、買うかどうか悩む。

「買っちゃえば?」

「うん、じゃあ、買おうかな。レジ行ってくるね」

紀美が言うと、京子は微笑みながらうなずいた。





ひとしきり、買い物が終わると、二人は駅近くにあるファーストフード店に入り、ジュースだけ頼んで休憩することにした。二回の隅に座り、座りジュースを飲むとホッと一息ついた。

「いっぱい買い物しちゃったね―」

京子はお互いが買ったショップ袋を見ながら言った。

「そうだね。こんなに買い物したの久々だよ。次のバイト代が入るまで、買い物は控えなきゃ、だよ」

「私もだよ。待ち合わせ時間まで一時間近くあるけどどうする?」

「あとでプリクラ撮ろうよ。最近、京ちゃんとプリクラ撮ってなかったしさ」

「OK!」

快く承諾してすると、ジュースを飲む。

「でも、京ちゃんが喋ってくれて良かった」

紀美は少しホッとしたような口調だ。

「昨日、私がシャワー浴びた後から、宏君と京ちゃんの様子が変だったし、京ちゃんはあまり喋ってくれないし…何かあったのかなって思ってた」

何も知らない紀美は、自分の不安な想いを言った。

「何かあったなんて思ってないって言ったらウソになるよ。元々仲良かったし、宏君と付き合う前の二人のことは聞かないつもりでいるし、聞くつもりもないよ。でも、昨日の夜の二人の様子を見てたら、なんだか不安になっちゃって…」

紀美はジュースの入った紙コップを強く握りしめる。

そんな紀美を見て、本当のことを言ってしまおうと思った京子だが、言わないでおこうと思った。言ってしまえば、余計に紀美を不安にさせてしまうだけであるのは確かだ。

「何もないよ。ノンちゃんを不安にさせてしまってるのはわかってた。でも、私はヒロとは何もないのよ。信じろっていうほうが無理かもしれないけど…」

「何もない…」

今にも泣き出してしまいそうな紀美は、京子を見る。

「もう、ノンちゃん、そんな顔しちゃダメよ。ヒロはノンちゃんを大切にしてるんだから…ねっ? 笑ってるノンちゃんがヒロは好きなんだしね。ホントだよ」

ニコニコ笑顔の京子。

これは、紀美を安心させるものである。

「京ちゃん…」

「ホラ、笑ってよ」

「うん…ごめんね、京ちゃん、疑ったりして…」

ぎこちない笑顔で、京子に謝る紀美。

「いいのよ。私だってノンちゃんがこんなに不安になってるだなんて思ってなかったから、悪いことしたなって思ってたんだから…」

京子は昨夜から紀美と口を聞かなかったことを反省した。

「ホント、ヒロってノンちゃんを不安にさせる名人よね」

「うん、そうかもね」

――不安になっているのは私なんだ。宏君は別に私を不安にさせる名人でもなんでもない。私が勝手に…。

ゆったりとしながら京子の質問に答えつつ、そう思う紀美。

いつだって不安になるのは自負からである。宏明も不安になっているだろうけど、宏明はあまり言ってくれない時も多々ある。だから、不安になる。本当に自分は宏明の彼女として相応しいのか、と何度も思ったこともあったが、宏明は自分が好きで付き合っているんだと思い直したのだ。

「ノンちゃん…?」

何か考え事をしている紀美に声をかける京子。

「何かあったら言ってね。私に協力出来ることがあったら、協力するから…」

「ありがとう、京ちゃん…」

紀美はうなずきながら礼を言う。

「さっ、プリクラ撮りに行こうよっ!!」

京子は紀美を元気づけるように言った。


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