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二度目の告白

宏明達がマンションに引っ越ししてきて、五日が経った。宏明は自分の部屋を片付けていた。

この日は紀美や京子、辻井達五人が、引っ越し先のマンションに遊びに来るのだ。五人は泊まりたいと言い出したのだが、生憎布団が四組しかないため、宏明は困り果てていた。

――う〜ん…これは誰か一人に犠牲になってもらうしかないな。オレのベッドで寝たいなんて奴はいね―と思うし…。それに、寝る部屋はどうしようか? オレの部屋は一人しか寝られね―しな。あぁ…どうしよう…。

頭を悩ませる問題ばかりだ。

全員がやって来るのは、午後五時半だ。今日は鍋パーティーをやろうということで、食材は紀美と京子の女二人組が持ってくることになっている。

二人の兄は帰りが遅いため、近所迷惑にならない程度にドンチャン騒ぎしても大丈夫なのだ。

この日、バイトのない宏明は、昼過ぎに実家へ鍋を借りに行くと、珍しく母が家にいた。いつも昼間はパート勤めに出ているのだが、この日は体調が悪いので休んだ、と母が言っていた。宏明はまだ昼食を取っていない母のために簡単に食事を作ると、鍋を持ってマンションへと戻った。

そして、マンションに戻った時、母からありがとうと一言メールが入っていた。宏明も鍋のことをメールで礼を返信すると、自分も少しは役に立てたのかな、と改めて思いながら、マンションへと入っていった。




そうこうしているうちに、あっという間に午後五時半になった。松川の車でやって来た五人は、珍しそうに宏明達が住むマンションを見ていた。

「意外と綺麗なんだな。ま、当たり前か…」

リビングを見渡しながら、辻井が言った。

「私もそう思った。あまり期待してなかった」

京子も苦笑いしながら言う。

「築十二年のマンションらしい。まだまだ新しいマンションだよ。さっ、準備しようか?」

宏明は立ち上がり、キッチンに向かう。

紀美と京子も立ち上がる。

「私達も手伝うね」

紀美は宏明の隣に立ち、見上げて言うと、宏明は微笑みながら頷く。

「もぅ、二人共、ラブラブなんだからや―ねぇ。人前で熱々になるなんて…」

京子は妬きながら言う。

「ホント、この二人はどこでもラブラブだよな」

松川はニヤけている。

「別にどこでもラブラブってわけでは…」

ス―パ―の袋から食材を取り出しながら、宏明は自分の心臓の高鳴りを隠す。

「早くやっちゃおう。そこの二人は鍋にス―プの素を入れといてよ」

京子はテキパキと仕切ると、松川と辻井に鍋用のス―プの素を渡した。

それから、京子の指示のお陰で、鍋の準備が出来た。

「それにしても、ノンちゃんてばヒロがいれば、いつもくっついてるよね」

「くっついてるって…付き合ってるんだから当たり前だと思うけど…」

紀美の代わりに、辻井がフォローする。

「そりゃあ、そうだけど…。ノンちゃん、ヒロの彼女ってだけで羨ましがられるでしょ?」

京子は意味ありげに聞いてくる。

――今日の京子はやけにオレらにつっかかるな。

宏明は鍋の具合を見ながら、ぼんやりと思う。

「付き合い始めた頃はね。今なんて全くそういうのは言われないよ。今日の京ちゃん、変だよ? どうしたの?」

いつもと違う京子に首をかしげる紀美。

「そうかな? 私はいつもこんな感じだと思うけど…」

「どう見てもいつもの京子じゃね―よ」

松川も京子の態度に違和感を感じていた。

これは紀美と松川だけが感じていたのではない。宏明と茂と辻井も感じていた。何かあったのか、とにかく文句をつけたいねかもしれない。誰だってそういう時もあるが、直接文句をつけるというのはどうかと思う。

「別に何かあったわけじゃないのよ。ヒロ、そろそろ鍋いいんじゃない?」

京子は宏明の横にすり寄ってくる。

何かを企んでいるようだ。

「そうだな。さっ、食おうか!」

すり寄ってくる京子にやや引き気味の宏明は、鍋の蓋を開けた。

それと同時に、六人は楽しく食べ始めた。



午後十一時半、片付けも終わりホッコリとしていた。酒が入ったせいか、茂と辻井と松川の三人は、リビングで寝てしまっていて、一向に起きる気配がない。そんな三人を見て、宏明は三人分の掛け布団を持ってくると、三人に掛けた。紀美と京子は、一緒にTVを視ている。宏明はマグカップに紅茶を注ぐと、女二人に渡した。

「ヒロ、私の寝る場所どこでもいいから。ヒロはノンちゃんと部屋で一緒に寝るんでしょ?」

京子は体育座りをして、マグカップを両手に持ち、宏明に言った。

「うん、まぁ…。寝るったってどこで寝るんだよ?」

「私、リビングでもいいよ」

「茂達が寝てるけど…」

「いいの。はじっこのほうで寝るから…。私ね、寝れたらどこでもいいの」

「そっか、わかった。スマンな、部屋数少なくて…」

「ううん、いいよ。気にしてないから…」

そう言うと、京子は紅茶を啜る。

「私、紅茶飲んだらシャワー浴びてくるね」

紀美は笑顔で宏明に言う。

「オゥ! わかった!」

そんな二人の姿を愛しそうに見つめる京子。

「もう二年半だね」

京子は二人を交互に見て言った。

「うん、そうだよ。早いね、付き合ってもう二年半だなんて…」

紀美は付き合ってからの時間を噛み締めるように言った。

「そうだな。紀美って付き合い始めた時、オレと目も会わせてくれなかったんだぜ」

宏明は冗談っぽく言う。

「あれ? そうだったっけ?」

付き合い始めの自分の行動を完成に忘れてしまっている紀美。

「そんなこと言ってたね―」

「えっ?! 京ちゃん知ってんの?!」

思わず、大声になってしまう紀美。

「知ってたよ。ずっと“紀美が目合わせてくれない”って言ってた。ヒロの話聞かされてたんだから…」

京子は当時のことを思い出しながら答える。

「そんなことしてたんだ。私、そんなつもりなかったんだけど…」

「わかってるって。慣れてなかったんだろ?」

「うん、まぁ…」

「ヒロの話を聞いてて、すぐに別れるんじゃないかな―って思ってた。でも、見事に私の予想も外れちゃったよね」

少し淋しそうに言う京子。

「そんなこと思ってたんだな」

「だって、ヒロの話聞いてたらそう思っちゃったんだもん」

「そうか…。オレの話、そんなに切羽詰まってた感があったんだな―」

宏明は頭をかき言った。

「宏君、シャワー浴びてきていい?」

「ああ…風呂場、リビング出てすぐだしな。マグカップ、預かっておくよ」

「うん、ありがとう」

マグカップを宏明に渡し、着替えを持って風呂場へと向かった紀美を、二人は見届けた。




紀美が風呂場に行ってから、宏明と京子はベランダに出た。最初に言い出したのは、京子からだ。二月の風は、ひんやり冷たい。二人は何の会話もなく、ただ時間が過ぎていく。

「ねぇ、ヒロ…」

京子はゆっくり口を開いた。

「なんだ?」

宏明は前を向いたまま反応する。

「私ね、まだヒロのこと好きなの」

静かに落ち着いた口調で、今の気持ちを告げた京子。

宏明は京子のほうを見る。

「さっき、すぐに別れるんじゃないかなって思ってたって言ったよね? それはノンちゃんと付き合い初めてた時から、ずっと今まで思ってた。ノンちゃんと付き合うってわかった時、私とても悔しかった。どうして私じゃないの? どうしてヒロと付き合えないの?って思った。ヒロにフラれた時だって、なんで?って気持ちばかりだった。私のほうがノンちゃんよりも仲良いのに…って思ってた。付き合ってる二人を見るのが辛かった。でも、私はノンちゃんとは離れようとは思わなかった。だって、ノンちゃんは私にとって心から色んなことを話せる一番の親友だもん」

京子は今までの辛い想いや紀美のことを、全て宏明に打ち明けた。

そんな京子の気持ちを痛いほどわかった宏明は、京子にどんな言葉をかけようか悩んでいた。それに、京子の気持ちにはなんとなく気付いていたのだが、宏明は京子の気持ちに気付かないフリをしていたのも事実であり、

申し訳なく思っていた。

「ホントにごめん。京子に辛い想いさせてしまって…。でも、今のオレは紀美を大切にしたいと思ってる。だから…」

途切れる宏明の言葉。

「いいの。もう一度、きちんと自分の気持ちを整理したかったの。いつまでも、グチグチとヒロのことを思ってても仕方ないって思ってたから…」

元気印の京子が涙目になっているのに気付いた宏明の胸は痛んだ。

「ヒロ、ちゃんとノンちゃんのこと、大切にしなきゃ許さないんだから…。私をフッテまで付き合ってるんだしね」

京子は涙目を隠すように、わざと明るく言った。

「大丈夫だ。ちゃんと紀美のことを大切にするから…。あっ! 辛い想いさせてしまったからお詫びにデカプリンあげる!」

宏明は笑いながら言った。

「何よ―? 私のことバカにしてるでしょ―?」

「してね―よ。寒いから早く中入ろうぜ」

宏明は寒そうにしながら部屋に入る。

――京子の気持ち、凄く嬉しかった。この想いをムダにはしないようにしていきたい…。

そう心に誓った宏明であった。


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