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7-8

再編集した為2話分の話しを統合しました

内容に大きな変更はありません

サブタイトルの数字もそういう意味のものですので特にお気になさらずにお願いします

 酔っぱらいの男は、店員に無視されたことに更に苛立ち悪態をつく。店員どころか絡んでいる公人の反応も薄いため、それがまた気に食わなかった。


「チッ!無視しやがって。客だけじゃなくて店員も程度が低いったらねぇな」


 最も程度が低いのはこの男なのだが、やはり皆何も言わない。足早に店から出て行く客も出始めていた。厨房の奥では明らかに苛立った様子のコックがこちらを見ている。まるで早くこの場を治めろという言っている様な目だ。こちらは単なる被害者なのに、いい迷惑だが仕方がない。

 改めて男を見ると成る程、ファッションに疎い公人が見ても中々にお洒落だと思うことが出来る程には綺麗な身形だが、酔っ払って着衣が乱れている為台無しだ。

 しかし唯一気になった点は、服の上からでも分かる程度には体も鍛えられているという事だ。案外どこぞの道場にでも通っているのかもしれない。


「あにじろじろ見てんだ?……てめぇのその目、うちに殴りこんできやがった男に似てんなぁ……ああああクソ!見てたら腹立ってきたぜ!てめぇのせいでうちの門下生は皆出て行っちまいやがったんだよ!」


 道場に通っているどころか道場主だったようだ。しかし酒に酔っている事を差し引いても、その所作からは武術家らしさというものは感じられない。

 元々の実力も大したことは無かったのだろう、弟子達が去っていくのも頷けるというものだ。しかしその原因を自分に押し付けてくるのは些か納得がいかない。確かに自分も幾度か道場破りをしてきたが、この程度の道場など相手にする価値も無いのだから。

 だがどうしたものか。怒っている原因は分かったが自分にはどうする事も出来そうにない。この酔っぱらいは無視してオーダーを取り消して店を出て行くしか無いか。

 そう決めて席を立とうとした時、店の入口の方から女性の高い声が響いた。


「そこのあなた。その少年から離れてくださらない?」


 決して大きな声を出した訳ではない。しかしその澄んだ声色は店中に響き渡り束の間の静寂が訪れた。それまで無視をしていた店員も客も、皆がその女性に注目した。

 お淑やかさを際立たせる綺麗な白を基調としたワンピース、腰まで流れるエメラルドの様な髪、彫りが深い綺麗な顔立ち、そして特徴的な耳と緑色の瞳。恐らく上流階級のエルフ種だろう。その綺麗な姿に先程まで怒鳴っていた男も我を失い見惚れている。


「聞こえなかったのかしら?そこを退いてくださらない?」


 今度はやや語気を強めてそう言い放った。纏っていた穏やな雰囲気が一変して威圧感になり突き刺さる。ほんの一言発しただけだがその声には人を従わせるような力強さがあった。

 その声に威圧され我に返った酔っぱらいの男だが酔いで震えていた手が一層震えている。なおも男を見据えるエルフの目に耐えかねたのか男は叫ぶ。


「な、なんだお前は!いきなり入ってきやがって、邪魔すんな!」


 荒げた声と同時に、置いてあったグラスに手を伸ばしエルフ種に向かって投げつけた。公人はその男の行動を止めることが出来なかった不甲斐なさを恥じる。

 エルフ種の強烈な印象に呆けていたのは自分も同じだった。せめてそのグラスを避けてくれと願い目線を向けると、不思議な光景にまたも呆気にとられた。

 両手を前に差し出したエルフ種の前には投げられたグラスと、飛び散ったはずの水が宙に浮いている。両手はよく見ると青や緑に淡く明滅している。

 どうやら魔法を使って風と水を操作しているようだ。風に靡く髪とワンピース、宙を舞う水とグラスが明滅する光に映しだされて幻想的で美しい。

 グラスはゆっくりと手元へ引き寄せられ、水はグラスの中へと注がれていく。一滴も溢れていないグラスをテーブルに置き微笑みながら呟く。


「私、喉は乾いていないの」


 男はバカにされたと憤りエルフへ駆け寄ろうとする。その動きを公人は今度こそ見逃さず静止に入る。


「いい加減にしてください。これ以上やると道場を立て直すことも出来なくなりますよ」


 公人としては相手を気遣ったつもりの言葉だったが、頭に血が上っている相手には逆効果だった。ただでさえ冷静さを欠いているのだ。そこへ年下の相手から諭されるような物言いをされたらとあっては、余計に腹を立てるのは当然だろう。公人はあまり人と接してこなかったが為に、心情を察するという事が苦手だった。


「ガキが知った口きくんじゃねぇ!」


 男は振り向き走りながら拳を振り上げる。公人は振り上げた腕の方へ一歩踏み出すと手を突き出し、相手の拳を難なく受け止める。

 踏み出した事で腕が伸びる前、拳に力が伝わる途中の段階で受ける事が出来る。そして公人は受け止めた拳に対して、間髪入れずに掌底打ちの要領で力をかける。

 その掌底打ちの力は、相手がパンチを繰り出す為に踏み込んだ勢いと重なり、拳を通じて肘へと抜けていく。その衝撃に耐え切れなかった男の肘からゴキンと骨が外れる音がした。


「ぐああああ!」


 男は堪らず腕を抑え悲鳴を上げる。傍から見れば男が勝手に自滅したように見えるだろう、これならば公人が目立つことも無い。男は悲鳴を上げながら逃げるように店を出て行った。

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