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三人が戦っている間も、塔の下の方からも戦闘音が聞こえてきている。まだ澄佳達の班の戦闘は続いている様子だっだが決して悲観する様な事では無い。戦闘音は徐々に小さくなっており、それはつまり決着が近いという事だろう。ならば勝つのは澄佳達であると信じて疑わず、こちらはこちらでやることをやるだけなのだ。
「次の俺の合図で一気に仕掛けます。合わせてもらえますか?」
「えぇ、勿論」
「私達は公人を信じてるわ」
そして公人の合図が出ると同時にルネが特大の火球を放つ。その後の防御や回避を捨てた全力の一撃は、流石にリージャスでも簡単には防ぎきれずにその足が止まった。
その横ではレイラが魔力で槍を作り出しており、結界すらも破壊する威力を誇る槍をリージャスも無視する事は出来ない。しかし槍を放とうと振りかぶった瞬間、リージャスはギリギリのタイミングで火球を消し去り回避する余裕が生まれてしまった。
「間に合わ……」
「そのまま投げて下さい!」
レイラは公人の言葉を信じて振りかぶった槍を放つが、その瞬間にリージャスの姿が消える。当然空間跳躍によって回避されるのは分かりきっていた事だが、レイラが見ている光景が一瞬で切り替わった。
いつの間にか公人はレイラを抱きかかえており、リージャスの跳躍に合わせて公人はレイラと共に後を追って跳躍していた。結果的にレイラとリージャスの位置関係は先程と変わっておらず、槍はリージャスに向けて放たれた。
「ぬぅぅぅん!」
その攻撃は見えない壁によって防がれたかに見えた。しかし壁は僅かな時間槍を食い止めた後に破壊され、リージャスの表情が驚愕に染まる。
だがそれで簡単に諦める筈も無く、なんと槍を素手で掴み取っていた。大きく後退し片腕が焼け焦げながらも直撃を避けているが、その絶好の逃すまいと公人は接近する。
「はあああああ!」
公人が振るった刀はリージャスを捉えたかに見えた。しかし咄嗟の所で焼けた腕を犠牲にして攻撃を防がれており、残っている片腕に光を集めて公人に振るおうとしている。
「公人!」
「避けなさい!」
しかし公人は避ける事無く、真正面から受け止める構えを見せた。その行動にリージャスは勝ちを確信した様に笑みを浮かべたが、直後にリージャスの胸から一本の刀が生えた。
「俺に続け!」
「師匠!」
たった一突きでリージャスが死ぬはずも無く、突如背後に現れた夜一に標的を変えて振り返る。しかし今度はその背中を公人が突き刺し動きを止め、夜一はすかさずに残っている腕を切り飛ばす。
「貴様あああ!許さん、許さんぞ!」
リージャスは夜一に激昂しており、公人の方を全く見向きもしない為簡単に首を狙う事が出来た。だが胸を貫かれ首が落ちているにも関わらず、リージャスは全く死ぬ気配を見せない。それどころか最初に切り落とした腕が既に再生しており、夜一へ襲いかかろうとしている。
「うおおおおお!」
夜一は襲いかかるリージャスに怯むこと無くその攻撃を受け止める。気付けばもう片方の腕と頭も生えているが、背後から公人が切り飛ばし続けた。
「ぬうう!いい加減に鬱陶しいわぁ!」
夜一に執着し続けてるのを辞めたリージャスは狙いも付けず無差別に光をばら撒き始める。
「きゃあ!」
「ルネさん!」
公人と夜一は咄嗟に躱しレイラは上空に逃げる事が出来ていたが、ルネはその光に足と肩口を貫かれてしまっていた。咄嗟に公人がルネの方に向かおうとするが、ルネはそれを拒否する。
「私は平気よ!それよりレイラさんを!」
ルネは傷を負っては居るが致命傷では無く、覚醒者としての再生力も持っている。その後もすぐに魔力による防壁を展開しており、以降の攻撃は防いでいた。しかしレイラは空中で回避し続けるのはやっとという状況だった。この場で最も攻撃力を持っているレイラが被弾して消耗する事はなんとしても避けなければならなかった。
「俺が引き付ける!公人はレイラの所に行け!」
夜一が忍術によって火柱を発生させリージャスの顔を焼くと、一瞬だけ光の嵐が止んだ。その一瞬で公人はレイラの飛び付き、再びばら撒かれる光を避け続ける。
「レイラさん、もう一撃お願いします」
「リージャスも弱っているわ、次で決めるわよ」
攻撃にも力を惜しむこと無く使い続けてきたリージャスは、徐々にその再生速度が落ちていた。先程の様に腕を切り飛ばすまでには至っていないが、夜一が切りつけた傷の治りが遅くなっている。
同時に攻撃の密度も薄くなってきており、公人の回避にも余裕が生まれてきていた。これならばレイラも自力で回避しつつ攻撃の準備が出来る為、今度はルネの元に向かいそちらの回避に専念する。
そうして攻撃に参加出来る様になったルネは、魔法による援護を開始する。大規模なものでは夜一も巻き込んでしまうため、もっぱらリージャスの動きを封じる為に氷を発生させてぶつけ続けていた。リージャスが流した血がそのまま凍りつくことで動きが鈍くなり、そのおかげで更に夜一が攻撃を当てやすくなる。
「準備出来たわよ!」
レイラの言葉で三人は同時に動き出した。公人と夜一が跳躍すると同時にルネが一気に床を凍らせ、リージャスの両足まで一緒に凍りつく。その身体を夜一が思い切り蹴り飛ばすと凍った足が砕け、上半身が床に倒れ伏した。最後に公人がその腹に刀を突き刺して床とリージャスを縫い付けると空間跳躍で離脱し、直後にレイラの槍が突き刺さる。
「ぐあああああ!」
槍はリージャスに突き刺さったまま貫通する事無く、その体内に荒れ狂う魔力を流し続けている。バチバチと電撃にも似た音と共に身体が燃えていく。
「これでも死なないなんて……もう一発」
「待てレイラ、この方が都合が良い」
リージャスはまだ息があるが、もはや身体を再生する力は残っていなかった。顔には諦めの表情がありありと浮かんでおり、抵抗する気も無いようだ。それを見た夜一は首を切り落とし、傷口を焼いてから手に持った。
「師匠、何をするつもりですか?」
「五号から入手した情報だとサキコは塔にはいないらしい。かつて神霊種が使っていた浮遊する島のようなものが上空にあり、そこでこちらを見物している。そうだな?」
「……その通りだ。五号はそちらに付いたか、愚かな事だ」
既に全てを諦めているリージャスは呆気なく夜一の言う事を肯定した。
「そこに行くには神霊種そのものであるか、或いは許されたものしか行くことは出来ない」
「それでその首を使って乗り込もうって訳ね?でもどこから乗り込むの?」
「この上に転送装置がある。サキコが壊していなければな」
その直後、塔の下の方から大きな爆発音が聞こえてきた。恐らく救出班の戦いが激化しているのだろう。先程は戦闘が終わりかけている様に思っていたが、もう一波乱起きている様だ。
「佐綾達なら大丈夫よ。私達は先に上を調べましょう」
「そうだな。向こうにはロイ君が情報を持って行っている。事が済めばすぐこちらに合流するだろう」
下での戦いは丁度四号が強大な力を手にし、桜達が吹き飛ばされた瞬間だったのだがそうとは知る由も無い。四人は仲間達を信じて塔の最上階へと向かった。




