482
サキコはまたも五号達覚醒者を呼び出していた。この所呼び出しの頻度が多くなっており五号の機嫌はより一層悪くなっているが、当然サキコがそんな事を気にする筈も無い。
この場にいるのは五号の他には三号と九、十号の二人だけだ。公人達が便宜上八号と呼んでいる男は偶然ながら八号本人だったのだ。四号は相変わらず三号の奴隷という立場が続いていてここにはおらず、サキコもすっかり忘れているのでは無いかという始末だ。リージャスの子を宿してからはハーフ達も一層遠慮が無くなっているそうなのだが、サキコは一切関与していないためそんな事は知らない。
「もう少し待って頂戴。今日はまだ呼んでいる人がいるのよ」
サキコがそういうと同時に二人の男が姿を表した。一人は五号もよく知っている人物である飛鳥馬だが、もう一人の男は見たことが無い。やせ細った初老の男といった風貌だがその身の内に秘める力は隠しきれてはおらず、これがリージャスなのだろうと察する事が出来た。
リージャスはこれでもサキコに相当力を渡してしまい弱っているのだが、そういった事情を知らない五号から見れば充分以上の力を有している様に見える。
「何?ついに全面戦争でも仕掛けるつもり?」
「違うけど遠くは無いわ。戦うという事に変わりはないし、先に仕掛けるのはこっちじゃなくて向こうからだもの」
「へぇ。そんな情報どこから?僕もまだ掴んでない話なんだけど」
「一号、今はセルカちゃんね。彼女の意識に細工をしてあるのよ。本人も気付かないうちに、彼女が持っている情報は筒抜けよ」
何の理由も無く一号を追い出すとは思ってもいなかったが、やはりそういう意図を持っての事だった。五号も何度かしたセルカと出会っているが、全くそんな素振りも見せていなかった為本当に気付いていないのだろう。それならば周囲にいるロイ達も気付いていない可能性が高い。
「そういう訳でセルカちゃんはこっちの駒じゃないから敵対する事になるわ。もう用済みだし、遠慮せずに殺しちゃって良いわよ」
「まぁそれはどうでも良いんだけど、僕も参加しなきゃダメなの?面倒だから勝手にやってて欲しいんだけど」
「私達が負けちゃったら貴方も好き勝手出来なくなるわよ?もし勝っても貴方が参戦してないなら、その後の自由は保証出来ないわね」
あくまで本人の意思に任せるがその後は保証しないという、ほとんど脅迫に近い内容だ。サキコの言う通りにするのも癪だが、サキコの元を離れた時にちょっかいを掛けられるのも面倒である。結局勝算の高いサキコ側に付くことにして、大人しくサキコの作戦を聞くことにする。
「分かってると思うが俺は夜一以外に興味は無い。邪魔をすればお前らでも殺すからな?」
「分かってるわよ。彼も別口だけど来るみたいだから安心して頂戴。あなた達も希望があれば好きな相手とやらせてあげるわ」
「俺は女を壊せれば誰でも良い。出来ればあの佐綾という女が良いが、あいつでなくても構わない」
「相変わらず三号は女好きね。リージャスと九号達は……ある訳無いわよね。五号はどうする?」
「……はぁ。それなら僕はセルカをやるよ。それだけやったら後は適当で良いよね?」
「最低限働いてくれればそれで良いわ」
サキコが立てる作戦はとても作戦とは呼べず、ただ要望を聞くだけのものでしかなかった。とても迎え撃つとか塔を守るといった気概は感じられず、これから起こるであろう事を適当にやり過ごそうとしているだけにしか見えない。
「ちなみに僕たちが戦っている間、お母様は何をしてるんですか?」
「昔から親玉は一番高い所でふんぞり返っているのがセオリーなのよ」
「一番高い所で、ねぇ……」
普通に考えれば一番高い所と言えば塔の最上階になるのだが、そこには国の結界を維持する制御装置が置かれている。だがそんな所で待ち構えて居ては戦闘になった時に破壊されてしまう可能性がある為、それよりも下の階で待ち構えるべきなのだが、わざわざ一番高い場所と言うからには何かあるのかもしれない。
「長生きの秘訣は余計な事に首を突っ込まないことよ?」
「おっと、顔に出てましたか?」
サキコがわざわざそれ以上聞くなと釘を刺す以上、本当に知らない方が良いのかもしれない。だが視界の端でリージャスが僅かに反応してしまったのが見えてしまい、色々と状況を知ってしまいそうになる。
「じじい、露骨なんだよ。それじゃあバラしてるみたいじゃねぇか」
その反応は五号だけでなく飛鳥馬も気付いていた様であり、折角五号が止めようとしていた話題が蒸し返された。しかしサキコは飛鳥馬に興味を持たれたら面倒で有るため仕方無しに少しだけ詳細を明かす。
「今この塔の真上にかつて神霊種が使っていた浮島を待機させてる。見つけ出すのに本当に時間がかかったのだけど、ようやくその準備が整ったの。私は特等席であなた達の戦いを見物しているわ」
「へぇ、そんな物が……」
「それならこの塔の被害はあまり気にせず戦っていいって事?」
「そうね。残せるならそれに越したことは無いけど、最悪倒壊しても構わないわ」
そういう事は最初に言っておけと思う一方で、サキコが地上の事をあまり気にしていないのもこれが理由だったと分かった。通常の方法ではアクセス出来ず、しかも上からは一方的にこちらの様子が見えているのだ。多少の厄介事でも上に避難すれば良く、それどころか一方的に地上へ介入出来る。かつての神霊種が持っている強みをそのままサキコが持っているという事なのだ。
「さぁ、存分に騒いで私を楽しませて頂戴」




