5-6
再編集した為2話分の話しを統合しました
内容に大きな変更はありません
サブタイトルの数字もそういう意味のものですので特にお気になさらずにお願いします
公人はアラームとほぼ同時に目を覚ました。日々の訓練の賜物か、少々夜間修行を行った所で体内時計は狂っていないようだ。カーテンを開けると日差しが眩しい。あまり日当たりの良くない家だがこの時間だけは日が届く為、今のうちに布団を干しておく事にする。
顔を洗い程よく目が覚めた所で机の上の新聞紙が目に入る。生真面目な公人は普段から勉強や情報収集を欠かさない。既に習慣化しているため半ば無意識に手に取り新聞を読み始める。
「特に変わった事は無さそうだな」
一面は食い逃げの常習犯が捕まり、人類種区から追放されるとの事だ。追放などそうそうある事では無いのだがよほど食い荒らしたのだろう。流石に食い逃げで国外への追放というのはやり過ぎなため、取り敢えず中立区域の神霊種区に追放という形になるだろう。
他の記事は新たに道場が開かれただとか、どこぞの道場が道場破りにあい潰されてしまっただの、要はいつも通りの日常であった事が伺える。道場破りに関しては公人もたまに変装して行うので深くは考えないでおく。
最後の面を捲ると次の闘技祭の事が書かれていた。どうやら代表決定戦が三日後に迫っているらしい。曰く今年の人類種は強豪が揃っており、今回は優勝が望めるかもしれないとのこと。
その代表候補筆頭の名前は堅那飛鳥馬というらしい。流石に名前以外の情報は載せていない。戦術や武器を載せてしまえば他の種族に情報がバレてしまう恐れがある、とは言え新聞如きの情報で何が分かるというほど、易しい闘いにならないのが闘技祭の常なのだが。
「さて、そろそろ出かけるか」
新聞を読み終え、着替えを済ませた公人は調べ物を済ませる為に出かけようとしたが、不意に空腹感に襲われた。新聞で食い逃げの記事を読んだからだろうか。最後の食事は修行前だったので十五時間は前になるだろう。
先日から夜一が帰って来ていない為、作りおきが冷蔵庫に残っているが直ぐに傷むものでは無い。折角着替えた事だし、調べ物をする前に飲食店にでも立ち寄ることにする。
公人の年代は成長期の真盛りであるため量は勿論のこと、バランスを考えて食事を取る必要がある。修行の際は不規則になりがちな為平時ならば尚更だ。体作りも修行の一環なのだから、食事だって修行の延長線にあると考えている。
頭の中を昼食のメニューの事で一杯にしながらも、常の如く隠形術をかけながら忍び足で家を出て行った。
「神霊種区に来るのも久しぶりだな」
神霊区内は活気で溢れていた。各種族が平等に扱われている、神霊種の許可さえ取れば自由な商売が出来る、他種族の領地へ用がある際は必ず神霊区を通る必要がある等、様々な理由により名実ともに国内の中心を担っている区である。
公人は夜一に連れられて何度か訪れた事があるが、行く場所はいつも決まって飲食店であった。他にも商業施設はたくさんあるのだが、幼いころから修行に明け暮れていた公人は、あまり他の店に興味が持てなかった。
そんな公人の服装はといえば、基本的に地味な柄の長袖長ズボンしか着ない。単にファッションというものに興味が無いからなのだが、経済的だとか目立たないようにしているだとか、いざという時動きづらいだとか、言い訳じみた御託を並べてそのスタイルを変えようとしない。
実際年齢に不釣合いな程体を鍛えられている為、薄着をすると否が応でも目立ってしまうし、それを隠すように着込んでしまえば鬱陶しいのだから、余り服装に選択肢が無いとも言える。しかしこの日公人は身形を整える事の重要性を改めて認識する事になった。
公人は昼食に腹持ちの良いパスタの店に入ることにした。手近にあった店に当たりを付けて適当に選んだ店だったが中々に洒落た店だ。
こういった店ならサラダの種類も豊富でバランスの良い食事が取れるだろう。店外に置いてあるメニューを見ると平均よりやや高めといった印象だがたまにはそれも良いか。そう考えてしまったのが間違いだったのかもしれない。
「おいおい坊主よぉ。この店はおめぇみてぇな見るからに貧乏そうなガキがくるとこじゃねぇぞ?」
運の悪い事に酔っ払っている人類種の男に絡まれてしまった。別に言うほど高級な店という訳では無いのだが、周囲を見渡すと皆そこそこにお洒落をしていてるようだ。
確かに公人は少々場違いな服装で浮いているが、見ず知らずの他人に文句を付けられる様な事では無い。
「おい、獣人種のあんちゃんもこんなガキ入れんじゃねぇよ!この店にはドレスコードもねぇのか?」
何を勘違いしているのだろう、普通の店にそんなもの有るわけが無い。そんな事はお構いなしに男は騒ぎ立てている。近くを通った獣人種のウェイターは目も合わせず黙々と自分の業務をこなしていく。それがこの面倒臭い客への一番の対処法なのだ。
ここは神霊種区、神霊種の名の下に平等。それはただ個人を尊重するというだけのものではない。
他者に危害や損害を与えるような行動は、神霊種の判断に従い処罰される。それがここのルールなのだ。どこから見ているのか、どうやって監視しているのかは分からないが、事件があればそれは例外なく神霊種によって断罪されるのだ。
だからこそ何かあっても普通は無視する。下手に首を突っ込んで自分が加害者になってしまう恐れがある。基本的には原因となった方のみが処罰の対象なのだが、事の次第によっては事件に関与していると見なされてしまうのだ。




