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再び外に出た二人は改めて法陣の上に立つ。
「あたしも今他の子の思考を読んだら同じことを考えていたわ。やっぱり混線しちゃってるみたいね。ねぇ、契約の時あたしの事を想ってって言ったよね。その時どんな事を考えていたの?」
「それはまぁ……というかそれこそ俺の思考を読み取ればいいんじゃないか?」
「実はこの術は言いたくない事とか、嫌なことは無理やり読み取れないようになってるの。あたしが術をアレンジしたからなんだけどね。思考を相手に流すことも出来るし相手の思考を読み取ることも出来る。でもそれは互いの同意がある時だけよ。じゃないと考え事したい時とか、寝る時に不便だもの」
そこまで言うと澄佳はにやりと笑う。
「つ・ま・り、今あたしがアルちゃんの思考が読めないのは、アルちゃんが無意識に読み取られる事を拒否してるからだよ。一応隠し事出来ないように無理やり読み取ることも出来るけど、できればしたくないなぁ。ね?自分の口で言ってくれないかな?それともやましい気持ちでもあるのかな?」
話の後半からは随分とくねくねした動きやねっとりとした口調で迫ってきた。思わずたじろいでしまうがこのままやられっぱなしというのも癪だ。
「分かった、素直に言う。俺はお前と共に生きたいと思った。初対面の俺をかっこいいと言ってくれて、信頼してくれて、仲間だと思ってくれた。そんな澄佳のそばに寄り添って、守ってやりたいと思った」
「え……ちょ、やだ。そんな事想ってくれてたなんて……」
どうやら効果覿面のようだ。と思いきや。
「なーんて言うと思った?あたしがアルちゃんの思考を読めるの忘れてない?無理しちゃってもー」
ケラケラ笑いつつも澄佳は明らかに照れているのが分かった。顔色には出ていないが耳が赤くなっている所を見るに、本気で照れてしまったのが恥ずかしくて隠そうとしているのだ。それが分かっただけで意趣返しとしては十分だ、そろそろ本題に戻ろう。
「それで混線の事なんだが」
「そうだった。ちょっと待っててね」
澄佳は目を閉じ集中する。すると再び法陣が光を放つが先程よりもその光は弱々しく直ぐに消えてしまった。
「一時的にアルちゃん側の術のコントロールを私に移したわ。これで大丈夫でしょ?」
「ああ、問題ない。今は誰の思考も感じ取れない」
「さっきも言ったけど基本的には同意が無いと術の効果は出ないはずなんだけど、多分アルちゃんの術の制御がうまくいってないんだと思う。他の子達は最初からうまくやってるんだけど本能かしらね?まぁ忍術なんて向き不向きもあるし、少しづつ慣れていけば大丈夫よ」
「本能か……確かに今の俺にあまりそういうものは無いかもな。これから頑張って制御出来るよう努力する」
「頑張ってね。もしかしたらアルちゃんなら、練習すればほかの忍術も使えるようになっちゃうかもね」
「遅い!何をもたもたしておったのだ!」
「そんなに怒んなくてもいいじゃない。術のチェックしてたんだからしょうがないでしょ。契約したことないから分かんないかもしれないけど、結構繊細なんだからね、この術」
頭領はまだ何かを言おうとしていたが反論できずにいる。どうやら口ではこの孫娘には敵わないようだ。
「まぁ良い。では澄佳よ。今日の報告会はすでに纏めてあるな?」
「既に纏めて書類に記してあります。今ご覧になりますか?」
祖父と孫娘では無く頭領と組織の一員という立場を明確にしているのだろう。そこにはおどけたお調子者という雰囲気は無く、真剣さが滲み出し一瞬で場の空気が変わった。
既に日付が変わっている為昨日になるが、昼過ぎに定例の報告会があった。夜一は遅刻してしまったために参加できていないので、内容は知らない。
「夜一も今日の報告会には参加していないのだろう。丁度いい、読み上げるが良い」
「では報告させていただきます。まず国外調査班からの報告です。以前から観測している地点に関しては魔力も安定しており、動植物の繁殖も見られ安定している模様。一方各地で何者かが暴れている痕跡を発見。主に魔力量が多い地点で見られる傾向があるが正体は未だ調査中」
付け加えるように欠員がいない事を報告する。頭領からも特に言うべき事は無かった。
「続いて国内人造種区の調査報告です。前回の闘技祭優勝を機に急激に生産力が向上している模様。特に軍事品の開発が急激に進んでいるようで、今までの優勝報酬とは比較にならないため注意が必要です。欠員ゼロ、身体的特徴に変化があるものの、支障無しと判断し調査を続行させています」
「身体的特徴の変化とは具体的に何だ?」
「調査員である通称ドクターの体が一部機械化していました。術の行使に支障は無く、人造種区内ではその体の方が色々と不便がないのだとか。義手や義足を付けているものは、人造種区内でメンテナンスを行っているようですので、自然に入り込めるのだと」
「次にドクターが来る前には儂の腕も何とかしてもらいたいものだな……報告を続けてくれ」




