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 レイラは遠くから響く轟音を聞く。方角的にも佐綾がいる場所に間違いない。となれば向こうでも何かが起きているという事なのだが、目の前の魔獣を放っておくわけにもいかなかった。


「凄まじい力ね。澄佳はこういう奴を求めていたのかしら」


 魔獣と言えば澄佳の事を思い出さざるを得ない。一月程国外に出ていた澄佳だったが、結局契約できた魔獣は一匹、それも大して力を持ってはいなかった。しかし詳細は伏せられたが、次の魔獣の目処は付いているという。

 目の前の魔獣を捕まえて、澄佳の元へ連れていってやろうかと思わなくもなかった。しかしそれは困難であると、ヤツの目に宿る力がそう告げている。サキコはどうやってこいつを捕まえたのだろうか、少なくとも事前の準備も無しにそれを実行できるとは思えなかった。


「こんな所で時間も、力も使うわけにはいかないってのにね!」


 レイラは蛇の視線から逃れようと、力を込めて一気に横へと駆け出す。目論見通り、視線から外れたことで身体に掛かっていた負荷が消えた。

 すかさずレイラは距離を詰め、隙を晒している腹部へ魔力を込めた拳を叩き込もうとする。しかしその直前、今度は虚脱感に襲われた事で、攻撃をする前に一度距離を取った。


「今の感覚は……何をされたの?」


 レイラは視線に囚われてしまわぬ様、動きながら蛇の様子を観察する。しかし距離を取っている段階では、特に何かをしてくる様子は無い。しかし再度接近すると、再び同じ感覚に襲われる。

 そして今度は魔力による攻撃を試みる。周囲への被害を考慮して威力を抑えた牽制の一撃だったが、蛇に直撃する寸前に、不自然に掻き消されてしまう。何度か威力を上げて魔力を放つが、いずれも結果は同じだった。


「魔力を打ち消してる?でもそれだと、私の力が抜けていく理由が無いわね。となると、打ち消しでは無くて吸収かしら」


 レイラはそれを確かめる為に攻撃目的では無く、ただ魔力を周囲に散布した。すると予想通り魔力が蛇に吸い込まれていく様子が観察出来た。


「吸収してるのは胴体だけか……となると顔が弱点だけど、目が厄介ね」


 遠距離からの攻撃は胴体によって吸収されてしまうが、近づけば魔力を吸われる上に視線による拘束もある。特にレイラの、というより魔霊種の身体強度は魔力による所が大きいのだ。力を吸われ続ける相手に接近戦をするのは、あまりにも分が悪すぎる。


「佐綾だったら関係無しに頭を潰せるんでしょうけど……魔霊種にとっては最悪の相手ね」


 こんな事なら何か武器でも持ってくれば良かったと後悔する。だが幸いなことに最初に仕掛けてきてから、特に目立った攻撃はしてこない。時間を稼ぎながら打開策を考える余裕くらいはありそうだった。




 澄佳はリオンの城で、溜まっていた仕事を片付けていた。まるまる一月留守にしており、その間の仕事はある程度他の者に割り振られていたが、それでも澄佳が担当していた仕事は多い。また澄佳は自分の仕事だけでなく、他部門の担当者から相談役としても働いていた。

 獣人種区の唯一の弱点は事務能力の低さだと澄佳は口を酸っぱくして言っているのだが、頭より腕っぷしという気質の者たちが多いのでどうにもならない。それでも回っているのは流石というべきなのかも知れないが、中心として回している澄佳はたまったものではない。


「……!こんな時に来るなんて!?」


 獣人種区にいるにも関わらず、神霊種区に突如魔獣が現れたという事に気付いた。それこそが国外で新たに契約した魔獣の能力によるものだった。国外で魔獣の住処を見つけ、色々な交渉を経て契約を交わしたのだ。

 交渉が出来るだけの知性を持つ魔獣に出された条件をクリアできれば、もっと多くの魔獣達と友好関係を築いて貰えると約束を取り付けた。そして今現れた魔獣は、クリアすべき条件に関わっているものだった。

 すぐにリオンに事情を伝え、神霊種区へと発つ澄佳。獣人種区は神霊種区の混乱を見越して、多くの人員を派遣するだろう。しかしその前に魔獣をどうにかしておかなければならない。神霊種区の人々の安全は勿論の事、派遣されてくる兵士でも太刀打ち出来ない程強大な相手なのだ。


「嘘!?また一匹増えた!?」


 新たに増えた方の魔獣もまた、強大な力を持っている。それも一匹目とは違う方向性の力を有している為、同時に相手するのは困難だ。

 流石に状況も分からずに向かうのは得策ではない。澄佳は契約の力を使い、神霊種区の情報収集を始めた。そして二匹はどうやら別々の所に出現したということ、そして何者かが現在戦闘中であるという事を突き止めた。


「流石佐綾とレイラちゃんね。でも相手が逆だったら良かったのに」


 二匹が持つ特性を知っている澄佳は、どちらへ向かうかを考える。どちらも助けが無いと危険ではあるが、澄佳はまずレイラの元へと向かう事にした。放っておけば被害が大きくなりかねないのは猪なのだが、残念ながら澄佳も佐綾がどうにも出来ない相手を倒す手段は無い。

 一方でレイラが戦っている蛇はレイラだからこそ苦戦するものの、澄佳であれば充分に戦える相手なのだ。そして何より、話しが通じる可能性はこちらの方が高いのだ。

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