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 ルネは目覚めてから一時間程ベットの上で休んでいた。ようやく頭がはっきりしてきた事で、自分の身体に起きた異変にも気付き始める。その事で色々と確認したいことがあったのだが、勝手にそれをするのは危険な気がしていた。まずはレイラが言っていた説明というのを聞いておいた方が良いだろう。そう考え医務室を出ようとすると、佐綾が待っていた。


「もう大丈夫ですか?」


「えぇ、迷惑をかけてしまってごめんなさい。早速で申し訳ないのだけど、レイラさんに話しが聞きたいわ」


「分かりました。レイラちゃんも待ってます、付いてきてください」


 佐綾と共に向かった先はレイラの個室だった。そこに向かうまでの間、従者達に一度も出会わなかったのは偶然だろうか。少し違和感もあるが、そういう事もあるのだろうとそれ以上は考えない事にする。


「ルネさんを連れてきました」


「入っていいわよ」


 部屋に入るとレイラと公人が待っていた。机が用意されており椅子が四つ。わざわざここに用意したという事は、あまり人には言えない様な内容になるという事だろう。公人が机の上のポットから紅茶を注いでいる事からして、従者達には聞かせない為の配慮をしている証拠だ。


「さて、早速現状について話しをしたいのだけどその前に一つ。ルネはどこまで覚えているかしら?」


「公人に手伝ってもらって、最後は一人で何とかしようとした所までです。そこから先は……私は結局失敗してしまったんですか?」


 ルネは自身の身に起きた事をなんとなく察しているが、ここにいる三人がその事に気付いているか分からない。そう思い最初から全てを話そうとはしなかった。バレていなければ、エルフ種区の為にも隠しておいた方が良い。


「失敗だったかどうかは……分からないわ」


「分からないとは、どういう意味ですか?」


 レイラと公人は互いに何か確認しあっている様に見える。ルネの質問に答えたのは公人だった。


「周囲に被害が出ていないという点では成功と言えるかもしれませんが、ルネさんが意識を失ってしまったという点では失敗です。どちらと言うには中途半端な状況です」


 ルネは言わなかったが、実は助けようとしてくれた公人を吹き飛ばしてしまった事までは覚えている。周囲に被害が無いというのは嘘だったが、公人は優しさからそう言っているのだろう。


「気を失ってしまった時点で失敗と言うべきでしょう。でも感覚を掴むことは出来ました。次は成功させるので、もう一度機会をもらえませんか?」


 ルネの予想が正しければ、次は確実に成功するという確信があった。その機会さえ貰えれば、失敗しから学びを得た事でコツを掴んだと言って、そのまま修行を終えてしまえる。


「それはダメよ。危険すぎるもの。私も一応貴方の身の安全を確保する義務があるわ。出来るという保証が無ければ、ああいった事は二度としないわ」


「どうすれば出来ると信じてもらえますか?」


「そうね。これを受け取って貰えれば、信じてもいいわ」


 レイラがそう言うと公人がどこからか鉄球を取り出しレイラに手渡した。公人は両手で抱えていた物を、魔霊種の膂力を持つレイラが軽々とルネに向かって放り投げた。


「ちょっ、何を!?」


 公人は慌ててルネの元へと駆け寄るが、ルネは動じる事無くそれを片手で受け止めようとする。その鉄球は思っていたよりも軽く、ルネの手の上を跳ねて床に落ち、カランという軽く乾いた音が響く。


「ルネ、あなた自分の身に何が起きたか理解しているみたいね。話しを聞かせて頂戴」


 ルネは完全にしてやられた。公人がアレほど重そうに演技をしていたのだから、普通ならばそんな物を投げられば避けるに決まっている。しかし今の身体は力が溢れており、あの程度簡単に受け止められると思ってしまった。

 それだけでなく、もう一度機会が欲しいと言った事も利用されたのだ。ルネはここに長く居る事で秘密がバレるのを恐れ、早々に修行を終えたかったのだ。レイラは確実に勘付いており、ブラフを貼っていたという事だ。ルネがその事を隠そうとするという事すら想定していた。


「……分かりました。ですがその前に、どこまでご存知ですか?以前みたいに、私が言わなくても良い事まで言ってしまう可能性もありますから」


 ルネはレイラに修行のお願いをした時の事を思い出した。本当はレイラが知らない事、知らなくて良い事まで話してしまう可能性があるため、その線引をする為に先に情報の開示を求めた。


「良いわ。こっちは今知り得てる事を包み隠さす話す。ルネはそれを聞いた上で、話して良いところまで教えてくれれば充分よ」


「ありがとうございます」


 ルネはかなり都合の良い事を言っているが、レイラはそれを受け入れてくれた。本当に区の事や周囲の人の事まで考えていていると感心してしまう。いつまで経ってもこの人には敵わないと思わされてしまいそうだ。

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