261
神霊種区へ入り店へと向かう二人だが、区内は喧騒に塗れていた。どうやら早朝の事件で暴れていた者達に対する聞き取り調査が行われているようだ。エルフ種区内で暴れていた者達も同様に聞き取り調査が行われており、後に解放されるようレイラは王に交渉している。王は渋っていたが、魔霊種のみならず全ての種の人々がそれぞれの区に対して侵攻している。しかし万が一エルフ種が魔霊種区へと進行している可能性を考慮した為承諾した。ちなみにその場で公人も人類種区へ侵攻してきた者に対して、同様の措置を取る旨を伝え足並みを揃えている。
神霊種区での聞き取り調査は率先して、神霊種区に住まう人々が行っていた。その聞き取り調査の中にグライフが混ざっているのが見える。神霊種区に住む人々の種はバラバラでありながら、グライフが目を光らせている為公平な調査が行われているようだ。グライフの実力であれば再び暴動が起きた際の抑止力にもなるだろいう、適材適所というやつだ。
当の本人は面倒だと言いつつも周囲に鋭く目を光らせている。その様子を歩きながら見ていた公人とルネにも気づいたようだが、ちょうどそのタイミングで聞き取り中の現場で口論が発生した。明らかに面倒だと口が動いていたが、身体はすぐ現場へ動き出し間もなく口論が止んだ。
「グライフは順調にポイントを稼いでいるわね」
獣人種区内では既にある程度の人気を獲得していたが、他種区では未だに多くのことは知られておらず、闘技祭の威圧的な態度が大きく印象付いてしまっている。しかしこの場をうまく処理出来れば、ただ粗暴なだけの男では無かったと認識を改めて貰えるだろう。マイナスイメージからのスタートだったが、タイミングの良いことに丁度よく役割が回ってきたのだ。
そのため後に文句を言われるだろうとは思いつつも、手伝ったりはせず目的地へ向かう。今はグライフよりもルネの方が悩みのタネは大きい。
「いらっしゃい……おっと、遅かったじゃない。他のみんなからの報告はもう済んでるから、あとは二人の分だけだよ」
店に入るなり女店主が声を掛けてきた。その様子からこちらの処理はそれ程時間をかけずに収束していたようだ。エルフ種区に行っていた公人達の方がよほどゴタゴタしていたという事だ。
「報告のあと、店の奥をお借りしても良いですか?少しレイラさんと相談したい事があるんですが」
「ああ、構わないよ。今は澄佳ちゃんがいるけど、外してもらったほうがいいかい?」
公人はレイラに目を向けると、代わってレイラが答える。
「そのままでいいわ。むしろ一緒に考えてくれた方が有り難いかも」
そう言って二人は報告を済ませ、すでに整理されていた報告を聞く。各区の被害状況とその後の対応について、特に言うべきことは無かった。公人が唯一心配だったのは、トップである自身がいなかった事で何か不都合が起きていないかということだった。しかしその点はやはり元区長の手腕は見事であり、組織に関わりそうな事があっても桜がいる。更にアルカスも増援で向かってくれていたという事もあり、むしろ自分が仕切るよりもスムーズに運んだだろうという感想を持った。
「流石ですね。俺ももっと精進しなければいけません」
「さっきも言ったかもしれないけど、公人は頑張っているわよ。こういうのは場数が必要だし、それを補佐する為に年長者がいるのだから頼れる時は頼りなさい?」
そう言ってレイラは店の奥へと公人を促すと、今度は猫耳を生やしたままの澄佳が出迎えた。
「二人共お疲れ様。聞いてたけど、ルネさんに何かあったみたいね?」
「そうなんだけど……やっぱり猫耳も可愛いわね。ずっとそのままにしていたら?」
「うーん……確かに面倒だし、レイラちゃんが言うならそうしよっかな」
公人は澄佳が初対面の時に赤面していた事を思い出したが、もう今では吹っ切れたのだろう。出したり引っ込めたりも面倒なのでこのままでもいいやと、レイラの提案を簡単に受け入れていた。佐綾とレイラも仲が良いが、この二人も結構なものである。
「公人はどう思う?こっちの方が可愛いわよね?」
「ところで澄佳さんはどうしてこちらに?」
レイラの悪ノリが飛び火してきたのをあえて無視するために澄佳に話を振る。レイラがわざとらしく拗ねた表情をするが、年上の女性に対して非常に答えづらいため回答は拒否したい。
「私はいつも通りグライフ君のお目付け役よ。最初は一緒に動いてたけど、大丈夫そうだったから一人でやらせてみようと思って、こっちに引っ込んできたの。もし外で何かあったらそっちを優先させてもらうから」
「それで構わないわ。グライフなら多少の事なら何かあっても平気でしょ。それまではこっちに付き合ってもらうわよ」
「もちろん構わないわよ。ところで公人君は猫耳ありと無し、どっちの方が可愛いと思う?」
澄佳が悪ノリで猫耳を生やしたり引っ込めたりしながら公人に迫り、最終的には犬より猫派とだけ伝えて見逃してもらった。




