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公人達は王の間を後にすると、直ぐに別室へと向かった。そこで公人は、今日のレイラ宅での事を話す。
「そう……どこも進んでいるのね」
話を聞いていたルネの表情は少し暗い。やはり何か悩みがあるのだろうか。夜一とレイラからルネの様子を見るように言われたが、確かにあまり良くない傾向かもしれない。
「ところで、ルネさんは何故来られなかったんですか?」
「お父様に止められたのよ。まだ結果を出してもいないお前が外をほっつき歩いている暇があるのかってね。お父様の言う通り、私はこの一ヶ月の間、何も結果を出せていないわ」
自分の仕事を全うしてから行けという事だろう。しかしそれだけで、他種区からの招待を蹴る理由になるだろうか。仕事に追われて時間が取れないというならまだしも、ルネはそれほど多忙という訳では無いはずだ。
それに戦技顧問というのは、直ぐに結果が出るような仕事では無い。にも関わらず結果が出ていないから外には出さないというのは、理由としては不適切だろう。やはり王は魔霊種と関わらせたくないという思いが、一つの行動基準になっていると言わざるを得ない。
だがそれも結局は公人の主観でしかない。もしかすると本当に、公人が知らない事情からルネを外に出さないでいるかもしれないのだ。身勝手な憶測で物申す事は出来ない。
「私が戦技顧問になった事は知ってるわよね?それが思うようにいかなくて……」
「王に言われた、結果が出ていないという事ですか?それは違いますよ。この手の仕事は、今日明日にでも結果が出るようなものではありません。焦って結果を出そうとしても……」
「そうじゃないのよ。その……うまく教えられないの。頑張って説明しても、中々理解してもらえなくて……」
「兵士達に聞き取り調査をした所、ルネの説明が分かり辛いという声が多かったんだ。そして理解できなかった者の大半は、言い方は悪いが半人前の連中ばかりだったんだ」
一部の者は理解できるが、半人前の者は理解できない。つまりルネの教え方は上級者向けという事だ。
「その事に不満が出ている。ルネは力のある者だけを贔屓しているのではないかと。自分の力不足をルネのせいにしているなんて、全く情けない話だがな」
「ですが、私がきちんと説明出来ていないのも事実です。私がちゃんとしていないと、誰も付いてきてくれないのに……」
ルネの言う通り、ルネ自身の言葉で兵士達を指導出来なければ誰も付いてきてはくれない。それは夜一の計画に支障をきたしかねかい事だ。
「ルネさんは誰に魔法を教わったんですか?その方の教え方を真似れば……」
「残念ながらルネは誰からも教えを受けてはいない。いや、取っ掛かりだけは俺が教えたが後は独学だ」
「それは……また……」
ルネは生まれながらにして天才だったのだ。独学で魔法を覚え、その実力は区でトップというのは並大抵の事ではない。それ故にどうやって人に教えれば良いのか、いまいち掴みきれないのだろう。
そういえば公人自身も、ルネからはとっかかりを教えてもらっただけだった事を思い出す。だが幸い忍術と魔法は近い感覚で使えた為、まるで基礎が無かった訳では無かった。だからこそ一日の訓練で使用出来るようになったのだが。
「まぁ兎にも角にも、ルネが信用を得るには与えられた役割を全うするしかない。焦りは禁物だが、何か良い方法を見つけて貰うしかない」
以前ならば手伝う事が出来ただろうが、区長となってしまった公人はそう身軽ではない。公人に出来る事はせいぜい、時間を作って合同訓練の様子を視察する事ぐらいだろう。
「ごめんなさい。皆頑張っているのに、私だけ……」
「……とりあえず今日の事は俺の方から伝えておきます。相談してみれば何かいい案が出るかもしれませんし」
「えぇ、お願い」
ルネは足早に部屋を後にした。思い詰めた表情をしていただけに、少し心配になる。
「実は王からの圧力がかなりきついんだ。この頃は特に戦力の拡充に力を入れているからな。それが上手くいっていない事に腹を立てている様だ」
「戦力の拡充……やはり闘技祭ですか?」
「他には考えられないが……いや、止そう。憶測だけでは話にならない」
セイジは何やら思い当たる節がある様だが、確信が持てないでいる様だ。確かにエルフ種区はこれまで、強大な武力を持とうという指針は出していなかった。自分達の種が最低限の秩序を保てればそれで良しとしていたのだ。魔法という力を持っていただけに、そこまで躍起になって力を求める必要性が無かったとも言える。
それが突然戦力の拡充に力を入れ始めると言うのは、少しばかり違和感を覚える。だが闘技祭が開かれる限り、その主張は正当なものだ。
それでもセイジが何かあると言うならば、と考えそうになるがこれ以上は邪推というものだ。今はそれよりも優先すべき事がある。まずはそちらについて考えなければならないのだから。




