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再編集した為2話分の話しを統合しました
内容に大きな変更はありません
サブタイトルの数字もそういう意味のものですので特にお気になさらずにお願いします
人類区の外れにある森、その奥に一つの人影があった。草木も眠る丑三つ時、そこにいるのは修行中の大納公人である。本来であれば、師匠たる人物である阿手夜一と一緒に修行を行っているのだがこの日は一人である。
師匠はと言えば数日前に大事な用があると言い、家を出たっきり帰ってきていない。とはいえ修行の基礎はほぼ終えており師匠からも合格点を貰っている。
相手がいないと言うくらいで、修行の質が別段落ちる訳では無いので特に気にしていない。以前から師匠は度々姿を消しては突如戻ってくるという事もあったので最早慣れっこだ。
「居なくなるのはいつもの事だが、期間くらい教えてくれないと困ってしまうな。こっちも買い出しの予定とか色々あるんだが」
師匠は自分の事をかつて争いを無くすために世界の裏舞台で戦ってきた組織、その末裔の一人であり忍者を自称している。そして公人自身もその末裔の一人であると告げられた。
公人は幼き頃に両親を亡くしており、師匠が育ての親であり、兄貴分であり、唯一の家族でもあった。そんな兄貴分の事を疑っている訳では無いが、公人自身は余り実感を持てないでいる。
何せ現在の世界は戦争も無く、平和な世界と言っていいだろう。争いの時代を知っている人物など人類区の中では現在の長老ぐらいなものだろう。
世界が平和で有るにも関わらず己を鍛えるのには理由がある。それは闘技祭があるからだ。人類種は獣人種のような身体能力や、エルフ種や魔霊種のように魔法や精霊の扱いにも長けていない。科学力はかつて反旗を翻した人造種に劣っている。
しかしそれを補って余りある程、数多の武術を極めているのだ。才能のある者は十代で道場を開き、生計を立てている者も存在するくらいだ。これが人類種の強みであり、これまでの闘技祭でも幾度かの勝利をもぎ取ってきたのだ。
それでも単純な武術のみで他種に勝つことは難しかった。その大きな原因は魔法の存在だ。いくら体を鍛え相手に必殺の一撃を打ち込もうとしても、その前に魔法による爆発で吹き飛ばされ、燃やされてしまってはどうしようもない。絶対に勝てないという事は無いが、やはり相性は悪い。その為勝率はどうしても低くなってしまう。
その点公人には他者には無い利点があった。それは忍者を師に持つことが出来た事だ。忍者はその任務や存在の特異性から、非常に多くの能力を要求された。諜報活動や敵性地域への潜入、要人の暗殺等。どんな事でも、何処であろうと、誰が相手であろうともそれらを実行出来なければならなかった。
その為忍者はあらゆる武術にも精通している。剣術や柔術は勿論のこと、槍術・投擲術・射撃・合気等例を上げればキリが無い。その上で独自に開発してきた忍術を使い任務を遂行してきた。
公人は未だ十四歳と若い身ながら、体術の腕前は既に実践クラスのものだと師匠は褒めていた。周りに比較対象がいないため、公人にはあまりその実感が沸かないのだが。師匠である夜一は忍術があまり得意ではなかった為、特に体術を重点的に鍛えられたという事にも起因している。
忍術に関しては基礎は習ってはいるが、未熟さが目立つ為一人の際には主に忍術の修行をする事にしている。それでも体術との複合術である隠形術に関しては自信を持っている。
幼少期から修行に明け暮れたこの森は、もはや知らない場所はない庭も同然だった。基礎訓練を終えた後、火を扱う術を練習するつもりだ。その為森の中でも比較的開けた場所へ移動する。夜間とはいえ修行を誰かに盗み見られない為、自身に隠形術を掛けながら落ち葉の上を足音も無く歩いていく。
程なくして目的地に辿り着き公人は修行を開始した。森の中で火を扱う為細心の注意と、尋常ではない集中力が必要となる。息を深く吸い心を落ち着かせ、意識を体の内側へと向けていく。
忍術の原理は忍者自身も詳細が把握できていない。本質は術を扱う人物の魂にあると言われ、心に描いた事を具現化するだとか、魂のエネルギーを抽出して使うのだとかいう教えを請けた。公人はそんな曖昧な教えを、精神力や集中力の様なものだと置き換えて理解している。
そんな教えを思い出しながら術を発動しようとしていたら、途端に右手の先から火傷しそうな程の熱を感じた。まさか術が失敗したか、しかしまだ発動すらしていないのに何故と思い、右手に視線を向ける。
するとそこには小さな火の玉が浮かんでいた。まだ術は発動していないはずだ。慌てて手を握り締めるとその火の玉は消滅した。
「何だったんだ今のは……術が暴走、なんて事があるのか?」
心に描いた事を具現化するというだけあって、自分が考えてもいないような事は通常術として発動し得ない。忍術は発動するかしないかのどちらかしか無い。その為発動の成功率向上と、威力増大の為の修行をする。
想定だにしていなかった事象に困惑する。兎にも角にも森の中でこれ以上この術を修行するには、少々どころではない危険が伴う。
「今日の所は修行は辞めておくか。師匠が帰ってきたら少し話を聞いてみよう」
師匠が帰ってくるまでは川にでも行って水を扱う術の修行でもするか。そんな事を考えながら帰路に着こうとした。だが公人はふと奇妙な違和感を覚えた。