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「私も試合は見ていたわ。そんな事一度も言って……」


 サキコはそこまで言って気付いた。飛鳥馬は試合中に一度大声で何かを叫んでいた。そしてその最後の部分が爆音で掻き消されて聞き取れなかった事に。

 まさかこリージャスには聞き取れていたのだろうか。塔の設備ならばテレビよりもより高性能な機械が揃っており、十分聞き取れている可能性もある。

 つい先程、自分の口で飛鳥馬が組織の一員では無いと言ってしまった。しかし組織に所属してもいないのに、サキコの事を知っているというのは無理がある。


「いいえ、違うわ。もし本当にそう言っていたのなら、彼はやっぱり組織と繋がっている可能性が高いわ」


「そうだろうか?今組織との繋がりを確認できているのはレイラだけなのだろう?レイラが各区にお主の情報を流したとは考えられんかの?だからこそどの区も、これほどの実力者を出してきたのではないか?」


 リージャスの言い分は十分に有り得る。というよりも、サキコも最初からそう見越して動いていたのだ。だからこそ人造種区の強化に手をつくし、わざわざ危険を冒してまでアルカスの元へと近づいたのだ。

 危険を冒してアルカスの正体を探り、問題無いと判断したは良いが新たな問題が出てきてしまったのだ。その問題にリージャスはまるで関わろうとしていない。

 つまりはこれを機に、サキコを切り捨てるつもりなのだ。


「奴らは貴様だけを狙っておる。この世界はまだ儂の庇護が無ければ、どうにもならないという事を理解している様だしな。本心がどうあれ、儂に危害を加えようとするものはおらん」


「夜一は貴方に襲いかかってきたでしょう?」


「奴の攻撃に殺意は無かった。殺すことが目的だったのならば、機械を狙わずに儂を攻撃する筈だ。そもそも、夜一は一度も儂を攻撃していない……サキコよ、何を恐れる事がある?貴様は不死身なのだろう?誰が勝ち上がってこようと、返り討ちにすれば関係無いではないか。一体何が問題なのだ?」


 芝居がかった質問に、サキコは渋面を隠そうともしなかった。


「……分かったわ。あとは私の好きにさせてもらうわよ」


 そう言い残し姿を消すサキコを、リージャスは笑みを浮かべながら見送る。


「そうだ、勝手にするといい。お前が動く事で、儂は力を温存することが出来るからな」




「さぁ!間もなく決勝戦が始まります!」


 会場の興奮は最高潮に達していた。飛鳥馬とアルカス、両者共に実力者である事は誰の目にも明白だ。その上この二人は、共に武芸者である事が分かっている。戦闘スタイルの近い者同士の決勝戦とあれば、どちらの武がより秀でているのか注目せざるを得ない。

 一方で控室ではまた別の空気が漂っていた。ここにいる者たちは実況者を除き、この決勝戦で勝ち上がった方がサキコを倒しに行くという事を知っている。この一戦の後に、国の今後を左右する戦いがまだ残されているのだ。それを知っているが故に、これまでとは別の緊張感が漂っている。

 アルカスが勝った場合、方法は不明だが佐綾が共に塔へ突入する事になっている。佐綾はサキコには既に顔が割れている為、組織につながる情報がこれ以上漏れる事は無い。アルカスだけでもサキコを倒せる見込みはあるが、神霊種がどう動くか分からない以上、それに対抗しうる戦力を投入する必要があるのだ。

 逆に飛鳥馬が勝った場合、組織の計画は破綻するが夜一達が手段を講じているはずである。こちらも概要こそ分からないが、何が起きても対応出来る様に構えていなければならない。

 公人はと言えば、実のところこの作戦に関して特別な役割を担っている訳ではない。そもそもが極秘事項であり、公人と組織の関係はサキコや神霊種には明らかになっていない情報だ。下手に関わらせれば失敗した際のフォローが効かなくなってしまう恐れがある。

 兎にも角にも、作戦に関わっていない以上公人に今何が出来るわけでもなく、ただ決勝戦の解説に集中して少しでも二人の技を盗み見るしかなかった。


「あら、もう行くの?」


「私の見立てだと、直ぐに決着が着く筈だから。先に屋上に行ってる」


 佐綾が部屋を出て行く。屋上からでも試合は見えるが、作戦の決行は優勝者の表彰が終わり、塔内に召喚されてからなのだ。少しばかり早い気がしないでもない。


「彼女はああ言ってますが、公人さんはどう思いますか?」


 マイクが切れているタイミングで実況者が聞いてきたので、公人は苦笑しながら答える。


「いやいや、俺にはさっぱり分かりませんよ。ただあの人は、俺なんかよりも余程強いんで信憑性はあるかもしれません。多分見えてる世界が違います」

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