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「よう、坊主。久しぶりだな」
「な、お前たちは!?何故ここにいる!?」
「今の状況見て分かんねぇのか?お前を助けてやるってんだよ……来るぞ!」
吹き飛ばされたリージャスの姿は見えない。しかし何かが飛んで来る気配を感じてそれを避ける。
「ほう、魔力を触手の様に操っているのか。中々器用だが……」
鼻の長い仮面を被った男が柏手を打つと、先程まで感じていた何かが消え去った。
今の話を聞くに、リージャスは魔力を放出するのでは無く、自らの手足の様に扱っているようだ。夜一にとっては見えない手が襲ってくる様なもので非常に脅威だが、目の前の魔霊種二人には通用しなかった。
やがて奥からリージャスが再び姿を現す。
「その姿……鬼と天狗か。今更になって出てくるとは、一体どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何もねぇよ。俺らは好きな時に好きなだけ暴れる。魔霊種ってのはそういうもんだろうが!」
鬼が拳を振るうと目には見えない衝撃波が放たれる。リージャスはそれを先程同様魔力を操って打ち払う。それをみた鬼はニヤリと笑い、楽しそうにリージャスへと突進していった。
激しく殴りかかるがリージャスは一発もまともに攻撃を受けていない。それどころか鬼へカウンターを仕掛けている。傍から見れば鬼は一方的に打ち込まれているが、一歩も引かず、笑みも絶やさず殴りあっていていて不気味だ。
夜一は何が起きているのか分からないでいると、天狗が話しかけていた。
「お主、夜一と言ったか。ここにサキコはいるか?」
「サキコ?何故お前たちがそんな事を……いや、そういう事か。残念ながらここにサキコはいない」
「そうか。では早くここから逃げるぞ」
「そうはいかないわよ」
突如床一面が黒く染まり、足が動かなくなる。先程夜一が串刺しにしたはずの大男がいつの間にか立ちあがり、夜一達を見つめていた。
「貴方達は私の計画に邪魔なの。ここで死んでくれなきゃ困るわ」
「なるほど、貴様がサキコか。人の体に寄生してまで生き永らえるとは、薄気味悪い」
「この身体の持ち主にはちゃんと許可を貰ってるわよ。むしろ喜んでくれてさえいたわ」
大男、もといサキコはゆっくりと歩み寄ってくる。夜一は足のみで無く身体全体が動かなかった。
「貴方、あの娘の記憶の中によく出てきてたわね。余程愛されていたのかしら?とても興味深い内容だったわよ?それに……忍術なんて凄く面白いじゃ」
その言葉を発した瞬間、サキコの身体は燃え上がった。真っ黒だった床は元の色を取り戻し、身体が動くようになる。
「さっきから貴方、全然私に話させてくれな」
夜一は再度サキコを両断する。頭から足先までを真っ二つにすると、身体は一瞬で黒い霧に変わる。しかし、その霧は再び集まり元の身体を構成した。
「無駄だ、その身体は普通の攻撃では通らない。大方どこかに本体がいるか、何らかの魔法の作用だろう」
今度はサキコが天狗に向けて魔力を放つが、天狗は腕を一振りしただけで魔力を横へ逸らした。魔力はあらぬ方向へと飛んでいき、壁を壊して回っている。
「レディの秘密をペラペラ喋らないでくださらない?」
「それはお互い様だろう。こちらはジェントルマンだがな」
気が付くと鬼とリージャスの戦闘にも変化があった。最初は一方的に打ち込まれていた鬼だったが、今では逆にリージャスが押されていた。鬼の攻撃も段々と威力を増していき、今では腕を振るう度に建物が壊れ、踏ん張る度に床が沈んでいる。
そして遂に鬼の拳がリージャスを捉えると、リージャスの身体は吹き飛ばされ壁を何枚も破った後漸く止まった。
「へっ!やっと一発ぶん殴れたぜ」
「さて、夜一よ。さっさと脱出するぞ」
「しかしサキコが……今はどうしようも無いか。分かった」
「逃さないって言ってるでしょう?」
壁に空いた穴から飛び出そうとすると、突如見えない壁が現れそれ以上進めなくなった。サキコが結界を張ったのだ。
「この程度の結界、造作も無い」
天狗が結界を破ろうとした瞬間、とてつもない重圧感が夜一達を襲った。余りの圧力に三人は堪らず膝をつく。
「貴様らああああああああああ!許さん!許さんぞ!ここで皆殺しにしてくれる!」
リージャスが雄叫びを上げると、突如部屋中が光で満たされた。そして光がリージャスの元へと集まり球状の物体を形成すると、それを夜一達に向かって投げつけた。
光の珠は軌道にある壁を抉り、床を剥がしながら一直線に飛んで来る。夜一達を縛る圧力は弱まる事を知らず、一歩も動くことが出来ない。夜一は再び死を覚悟した。
しかし光の珠は突如飛来した黒い槍に貫かれ霧散した。黒い槍は無防備だったリージャス目掛けて一直線に飛んで行くが、いつの間にか傍に移動していたサキコによって阻まれる。
「はぁ……はぁ……何とか間に合ったわね」




