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夜一は表彰式を淡々とこなしていく。夜一は闘技祭に関して特別な感情を抱いてはいない。組織の者は皆人類種だが、人類種区に対して入れ込んだ感情が有る訳では無いのだ。組織はあくまでも人類種の平和と繁栄では無く、全ての種の平和と繁栄を目的に動いている。
その為どの区が優勝しようと、特に重要ではないのだ。組織が闘技祭に関わることがあるとすれば、特定の区が勝ちすぎる、或いは負けすぎていた場合だろう。極端に差が開いてしまえば世界のバランスが崩れてしまうからだ。
故に夜一は今回の闘技祭は他の区に対してアンフェアだったと感じている。今回の参加者を見る限り、飛鳥馬の実力であれば優勝出来たであろう。しかも、今回出場しなかった飛鳥馬が次回の闘技祭に出てくる事になれば、連続優勝になってしまう。
ここ数回の闘技祭では、獣人種区の優勝が遠ざかっている事が懸念されている。澄佳の報告によれば獣人種区は国外調査を目指している。組織はそれを支持する予定なのだが、優勝が遠ざかる程にその動きも遅れるだろう。
そんな事情を考えていたら、いつの間にか表彰式は終わりを迎えようとしていた。会場からは今一度盛大な拍手が送られるが、やはり夜一は終始顔を上げようとはしない。
この闘技祭が終わったからといって気を抜くことは出来ない。夜一にとって本番はむしろここからなのだ。
予定通りであればこの後は神霊種に謁見し、力を取り上げられない様にする。更に神霊種の身辺を調べなければならないと、今まで以上の困難が予想される。
そこで初めて夜一が顔を上げて塔を見上げようとした時、神霊種の使いによる空間跳躍が行われた。一瞬平衡感覚を失ったかと思うと、目の前の光景が瞬時に変わった。どうやら大部屋に移動したようだが、照明が少なく薄暗い。部屋の奥は祭壇の様な造りになっており、そこだけはスポットライトで照らされている。
すると予想通り祭壇に何者かが空間跳躍して現れた。見た目には人類種と区別が付かないが、恐らく神霊種で間違いないだろう。長い白髪と立派な白髭が、いかにもといった風格を醸し出している。
「我はリージャス。世界を治める神霊である。夜一よ、そなたに二つの道を示そう」
長々と説明を受けたが、事前に知っていた情報と同じ内容だった。力を奪われ故郷たる人類種区へと帰るか、力はそのままに神霊種区に残るか。迷わず後者を即答するが、簡単な質問を付け加える。
「一体どのようにして監視を付けるんですか?それと神霊種区に残るとして、どこかに住む場所は有るんですか?」
「優勝者はこの塔にある部屋を自由に使って良い事になっている。では、こちらへ参れ。監視を付ける為、場所を移すぞ」
リージャスは直ぐに答えてくれたが、仰々しい話し方では無かった為、どうやら最初の台詞は定型文として使っている様だ。
これだけでも分かる情報がある。神霊種と言えど言葉は通じるし、意思や人格といったものが存在しているのだ。受け答えのやりとりだけで、神霊種は状況に対して思考をするのだという事が分かった。
それはつまり全能性を否定する証拠となり得る。昔の戦では神霊種についての一切が不明とされていたが、この事だけでも十分な成果と言っていいだろう。
夜一はリージャスの近くまで歩いて行くと、またも空間跳躍が行われた。すると今度は打って変わって、機械だらけの部屋に出た。何をするのか分からない装置に、何のデータを写しているのか分からないディスプレイが多数存在する。
先程同様照明は少ないが、機械が出す光りがチカチカと眩しいくらいだ。しかしこの空間は明らかに不自然である。神霊種と言えば超常の存在だ。
全能性を否定したばかりだが、その力は本当に全能だと思わせる程のものであった筈なのだ。人ひとりに監視を付ける為に、こんなにも大掛かりな機械が本当に必要なのだろうか。この機械は本当に神霊種の物なのだろうか。
「まるで人造種区の様だな……」
リージャスの動きがピタリと止まり、不機嫌な様子がありありと見て取れる。どうやら癇に障ってしまった様だ。しかし今の台詞に反応するとは、どうやら人造種区と何か有りそうだ。
「この装置でどうやって俺に監視を付けるんですか?」
「教える必要は無い。そなたは黙ってそこに座れば良いのだ」
「しかし……俺は人造種の技術は信用していません。こんなものに頼らずとも、貴方ならそれくらいのこと出来るでしょう?」
「出来るかどうかは関係無い。これが一番効率が良いのだ。そなたは儂の言う通りにすれば良い」
一人称まで変わるとは、相当腹が立っているに違いない。それに人造種の技術である事を否定しなかったのも気にかかる。
これ以上は危険かもしれないが、今後も神霊種と会える機会が有るかは分からない。ギリギリまで粘って少しでも多くの情報を引き出したい所だ。




