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 初めっから変な奴だったんだよ、そういやコイツ。

 ――で、そこでちょっと考えたら解った事なんだけど......そういう場合って、二つしかないんだ。

 近いか、まるっきり逆か。

「物質世界の存在っていうのは、いろんな精霊の力が作り上げていて、生き物によってはその力の加わり方が、まんま特性になってるってのは解るよな?」

『はい』

 精霊界というところは、力の性質によって区切られている。俺んとこは当然、闇の精霊界。で、他にも何とかの精霊界ってヤツが幾つかあって、精神サイド――精霊界というのが形成されている。それに対して逆サイドの物質界は、一つのフィールドの上に、全ての精霊の要素が乗っかっているんだ。

 ......ちなみに、俺はその雑多な感じが好きなんだけど、精霊のくせにこんな事言ってるのは、他に訊くまでもなく俺だけだろう。

「人間は精霊の、全ての要素を受ける存在な訳だけどー......お前さんは、その中でもかなり強く光の性質を持っているんだ」

『光?』

「そういう事」

『えっ?......ええっ?』

 ......混乱してるなあ。気持ち、判んなくもないけど。

「もしかしてー、光に傾いているのに何でまた、闇の力に執着してしまうのか?なーんて悩んでる?」

『あ、はい』

「悩むような事じゃないさ、自然の理だよ。自分に欠けた要素(もの)を求めるっていうのはね」

 世界の理――それこそが、安定を求める事に他ならない。そして、この世界の安定はバランスの上に成り立っている。

 様々に、性質という名の枠で分けられた力たち――それらが、均衡を保つ事によって世界が成り立っているように、人間ひとりひとりだって、それぞれが有している要素の力のバランスで存在を保っているのだ。バランスが悪けりゃ、それこそマトモな人格なんて形成されないだろうけど、そこまで行かなくても何かの力を強く持って生まれてくるっていうのは、そんなに珍しい事じゃない。

 ......足りない部分を、無意識とは言え直接呼び出す奴ってのは珍しいだろうけど。

「でもまあ、光を強く持っているとはいえ、闇の要素が足りてないって訳じゃなさそうだから、精霊を扱うんだったら、当然ながら光の精霊の方が相性が良いだろうな」

 俺の分析に、同意と共に迷いの思念が伝わって来る。

『......そういう事ならそう、でしょうね。――でもやはり、俺は近くに闇の精霊の力を置いておきたい気がするんです......』

 その気持ちも、まあ解る。

「闇って要素のひとつの性質は『安息』だからね、求める気持ちは解るよ。まあ、それも精霊使いとしての腕を磨けば気にならなくなると思うけど――」

 そこで、ちょっと言葉を切る。

『けど、なんですか?』

「頑張って腕を上げて、それでも闇の精霊の力が必要だと感じるようだったら、他のヤツじゃなく俺を呼ぶように」

『えっ?』

 ......その、「えっ?」はどういう意味かなーあ。

「......嫌か?」

『そ、そんな事ありません!』

 ぼそりと呟いた俺に、慌てた言葉が返ってくる。

 おっ?結構力入ってる。

『しかし......』

 って、今度は急に弱気だし。

 落ち着いてる奴なんだと思ってたけど、萎縮してただけだったのかな?なんだか......かわいいじゃないの、感情表現が豊かってのは精霊使いにとってはプラスの条件かな。

「しかし、何だ?」

 ついつい口調があやすような感じになってしまうな、そういう風に意識すると。

『......しかし、いいんですか?俺なんかが呼び掛けても......』

 精霊王は世界の礎の一端。軽々しく近付いてよい存在ではない。――一般論だねえ。

「確かに、普通の精霊さんは物質界に呼び出されるなんて面倒は嫌うもんだけどね。――寝る前に俺の言った事、覚えてないか?」

 在り続ける為だけに存在を強要される、そんな俺の在り方。

「俺は、精霊界に居続けるのに飽きてしまうんだよ。それに――お前はなかなか愛すべきキャラクターをしているしな。それこそ、人生の一端に付き合ってもいいくらいにさ」

『あ......ありがとうございます』

 伝わって来るのは複雑な感情。――嬉しいような、恐れ多いような......思ってもみない提案への戸惑いの気持ち......

 ......正直、この坊やの能力じゃ、俺を支配しようなんてのは一生掛かっても多分無理だけど。でも、必死に腕を磨けば、『親しい友』くらいの位置では、精霊使いと精霊の関係を作れるんじゃないかと思うんだよね。

 ――まあ、褒めてるんだか貶してるんだか微妙だから、言わないでおくけどさ。

「......では、これ以上俺がここに居るとお前さんの命を奪いかねないんで、そろそろお暇させてもらおうか――じゃ、頑張れよ」

 別れの言葉はなるべくさりげなく――

 ......俺がひとりの人間と二度も三度も接点を持つなんて事はほとんどない。あんな軽口叩いたところで......残念ながら再会は、あまり期待していない。

 別れはそのまま今生の別れ――だからこそ、別れってヤツに重い意味は持たせたくない。

 ......後味、悪くなっちゃうんだよね、どうしてもさ。こんな風に話してても、通じ合えると思う部分を持っていたとしても、俺が俺である事は変えられない。物質世界の住人たちとは、決して埋められない距離がある。

 ......我ながら、僻みっぽくなっちゃうんだけど。――でも、感情入ると寂しくなっちゃうんだよ。

 ――しかし、もし次があるんならその時には......なんて考えながら、意識は坊やの下から離れて行った。


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