表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3

『すごいっ......!』

「......え?何が?」

『えっと、何て言うのか......とにかく、すごい話だなぁって』

 ......俺はお前のリアクションの方がいろんなイミですごいと思うぞ。......ま、口には出さんけど。って......

「あ、そっか。お前さんの言ってる『すごい』は話のスケールに掛かってるのだね?」

『ああ、そうですね。そういう事だと思います』

 確かに、と言うか、普通はこんな視点で世の中考えたりはしないな。

「感心してくれて、とりあえずありがとう。――で、さっきから言ってるように、俺は少し寝たいんだけど」

 俺が入り込んでいる事で、この坊やの精神や肉体にはかなりの負担が掛かっている。そして、その負担が限界まで来るとどうなるかというと、俺という存在の重圧に耐え切れなくなった精神は崩壊、場合によっては身体の方も塵のように跡形もなく四散してしまうだろう。

 つまり、死が待っているのだ。

 そうなれば、物質界に留まる為の媒介を失った俺は精霊界に押し戻されてしまう。

 当然、そうなる前に引くつもりだけど、このまま漫才を続けてたら、何にもせんまま戻る羽目になりかねない。

 ――折角出て来たのに、それじゃ、つまんないよな。

「俺の望みがかなえられたらさ、お前さんの願いにも応えてやるからさ」

 この坊やの潜在能力は、当初の俺の読み通り、かなり高そうだ。しかし、コイツにはまだ経験ってヤツが不足している。

 ......そうだなぁ。これから十年も腕を研いた後だったら、それこそ三日くらいは俺がこうやってても大丈夫になると思うけど、今の段階では一日も持たないだろう。

 ――だから、せめて、眠りが欲しい。

『貴方の望み?』

「言ってるだろ?眠り、だよ」

 まあね、他にもやりたい趣味はあるけど、今回はあんまし時間ないんでパス。

『何故、そんな事を?』

 不思議そうに、疑問が返される。

 人間の身体乗っ取って、まずする事がお昼寝っていうのが理解出来ない訳ね。

「生物に眠りが必要なのは生身の身体を休ませなければならないからで、精神体であり、純粋な『力』として存在する精霊には疲労がないんだよ。で、睡眠の必要もない。必要ないから眠る事なんて出来ない――でもさ、理屈で行ったら疲れないとは言うものの、創世の時代からずーっと意識を持ち続けているんだ。俺が、他の奴等よりも余計な事ばっか考えてるからなのかも知れないけど......やっぱり、疲れるよ。たまには意識を手放して休みたいんだ」

 その存在毎に時間の観念というのは自然と違ってくる。

 例えば、人間の一生もエルフなんかにしてみれば、何て事もないささやかな時間だし、逆に小動物――猫でも兎でも何でもいいけど、そういう生き物だったとすると何世代にもなる時間。そして――本来なら、精霊にとって時間なんてのは、別にさして意識する必要のないものだ。......何たって、時間の流れによって変質する存在じゃないんだから。

 しかし、だ。俺の論法には逆説が多いんだけど......でも、確かに俺は精霊で、しかも大物であるにも関わらず、時間の流れを見詰め、起伏のない自らの存在を思い、憂鬱な気分に陥ってしまうんだよなー......

 変化のない存在に、なんで自我なんかあるんだろう?考えないで済めば、こんなに苦痛じゃないのに。

 って、こんな仮定すら不毛で嫌になるんだけど。

『......なるほど。解りました、なんて言ったらきっと怒られてしまうような、そういう世界での話なんでしょうが、俺でお役に立てるなら』

 なかなか奥ゆかしいコメントで。別に解ったような口利いても怒ったりはしないけどね。むしろ、俺としてはこういった事に理解を示してくれる奴がいた方が嬉しいし。

「そう言ってもらえると有り難いね。じゃ、早速だけど――おやすみ」

 改めて、草の上に寝そべり、眼を閉じる。そして、意識を坊やの身体と同調させて行って......仮の、眠りを手に入れる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ