石ころ
石ころ
昔っから、石ころばかり集めていた。
石ころの色合いや、つるつるとした肌触り、硬さなどが僕の興味をひいて離さなかった。
周りの友達は、カブトムシやクワガタなどに夢中だったが、僕は山というよりは、川にある色々な色や形をした石を集める方が好きだった。
石ころの何がそんなに好きだったのだろうか。
僕は石を家に持ち帰っては、色をグラデーションにして並べたり、つるつるした方を左に、ごつごつした方を右に置いたりして遊んでいた。
そのうち、石の表情が分かってきた。
この石は不機嫌な顔をしている、この石はいつも笑っている、この石は着飾るのが大好きだなど。
ある日、僕は究極の石に出会った。
それは、なんてことない、小学校5年の5時間目が終わって帰る時だった。
給食を食べた後、5時間目があったので僕は多少眠くてふらふらしていた。
マンホールの上に、それはあった。
遠くからでもわかる、水色に光る石。そんな石を見たことがあっただろうか。
僕が走り寄って見てみると、それはこれ以上ないほど磨かれたかのように、つるつるしていた。
「これはすごいぞ。こんな石、見たことがない。」僕は自分自身に対して言った。
そこから家に帰る間、僕はその石をどうやって飾ろうか、そのことばかり考えていた。
「あの赤い石の隣に置こうかな。きっと水色が映えるはずだ。」
「いや、あの黒い石の上に置けば、この水色の素晴らしさが引き立つかも。」なんて色々なことを考えながら帰っていた。
家に帰ると、僕がこれまで集めていた石が部屋に散乱していた。
まあこれはいつものことである。
石ばかり集めている小学生など、僕を含めてもそんなにいないんじゃないかと思っていた。
「さて、とこの石をどこに置こうかな。」
僕は迷った末に、これまで拾ってきた中で一番気に入っている、赤ともオレンジともつかない色に輝く石の隣に置くことに決めた。
「やっぱり、綺麗だ。お前らは、今日からライバル同士だな。」
その時、不思議なことが起こった。
二つの石が光りだしたと思うと、互いに嫌いあうかのように火花を散らしたのである。
その時僕は聞いた。確かに石の言葉を。
オレンジの石は言った。「またお前か・・。」
水色の石は言った。「ふん、またお前と会うとはな。」
僕は、何が何だか分からなかったが、言った。
「やめろよ、君たち。ケンカはよくないぜ。」
オレンジの石は言った。「それは無理な相談だ。俺たちは300年前からの因縁があるんだからな。」
「因縁?それって何?」僕は聞いた。
「あれは、300年前のことだった・・。」水色の石が語りだした。
「俺たちは、同じ村の集落に住んでいた。そっちの赤石は、名をタイゴロウといった。川に橋を渡す仕事をしていて、大変な力持ちだったから、役に立っていたらしい。」
赤い石は言った。
「青い石の名は、ヒヨリ。刀の鍛冶職人をしていた。無口な奴だったが、腕は確かだった。」
青い石が語りだす。
「だが、俺たちは互いを忌み嫌っていた。どちらも頼りにされる存在だったから、相手のことが好きになれなかったのかもしれない。」
赤い石は言う。
「そんな俺たちは、とうとう我慢できなくなって言った。(今度決闘をしよう。負けた方がこの村を出ていくんだ。)と。(ただし相手のとどめはささない。それが約束だ)と。」
青い石がまた語りだした。
「三日後の晩、俺たちは決闘をした。お互いに手練れだったが、タイゴロウの方が力が強い分、有利だった。タイゴロウは右手に重傷を負っていたが、とうとう俺を追い詰めた。その時俺は言った。(タイゴロウ、俺の負けだ。明日、俺は村を出ていく。)と。許せないのはそのあとだ。タイゴロウは、(悪いな。やっぱり俺は、お前を殺っちまわないと気が済まねえ)といって、俺ののどを突き刺したのだ!」
赤石は言う。
「さあ、これで終わった。俺は右手を負傷してはいたが、翌日には橋を作る仕事に戻った。信じられないことがその時起きた。橋の一番先のところで、ロープが切れやがったんだ。俺はまっさかさまに落ちて、川の石で頭を打ち、絶命した。」
青石が言った。
「念を入れて、ロープが切れるようにしておいてよかった。俺たちの憎しみはすごかったからね。俺もタイゴロウを殺さなくては済まなかったんだ。」
赤石は言った。
「これで分かったろう。俺たちは、この狭い家の中に二人で住めなんかしねえ。頼むから、これから俺たちが言うところに、それぞれ石を放り投げてくれねえか。そうしたら、俺たちは、お前の一番欲しいものをお前にやる。」
赤い石の示したのは、隣町の大きな湖のほとりだった。
僕は、そこに赤い石を放り投げた。
青い石の指すところは、市内で一番大きな木の下だった。
僕はそこに青い石を置いた。
その時、あの赤い石の光が隣町からやってきて、青い石の光と一緒になり、ある方向を指し示した。
そこは、市内にある小さな神社の一角だった。
僕はそこを掘ってみることにした。
すると、誰が埋めたのだろう、色々な色に輝く石が百個以上あった。
しかし、不思議なことに、僕はその時には石への熱が冷めきっていた。
神社にあるものを持って帰るのも罰当たりだと思い、結局そこを埋めなおして今に至っている。
それにしても、誰があんなにたくさんの石を埋めたのだろうか。
もしかしたら、昔、僕と同じように石を集めていた少年が、青い石と赤い石に出会い、同じ場所を指し示されて、そこに石を埋めたのかもしれない。
そう思うと、今度は僕も逆に、あそこに自分のコレクションも埋めてやろうかななんて考えるのであった。