先輩と餓え2
『先輩と餓え2』
「うぅ…………」
放課後、部室の中。珍しく二人で某狩猟ゲームをやった後の事。
唐突に、先輩が突っ伏した。
「大丈夫ですか?先輩」
「うぅ…………」
よほどお腹がすいているのか、声をかけても机から顔を上げようとしない。
「ううう……」
「返事できないほどお腹すいてるんですか?」
聞いても、うめき声しか返してこない。
「うぅうう……ぅ……ぅぅぅ……」
「コーヒー淹れますけど、先輩も何か飲みます?」
「うぅうう……ぅ……ぅぅぅ……」
「紅茶で良いですか?」
「うぅうう……ぅ……ぅぅぅ……」
「ティーパック使いますよ。アッサムで良いですよね?」
「うぅ……ぅぅぅ」
「アッサムは嫌ですか?……じゃあ、アールグレイ?」
「うぅぅ……ぅう……ぅうぅ……ううぅ――」
「ダージリンですね。りょーかいです」
「!!うぅうう……ぅ……ぅぅぅ……」
「今、お湯沸いたんで、すぐ淹れますね!」
******
「ふぅ……」
ガムシロップを二つと半分入れた紅茶を飲んで、ようやく先輩が復活した。ちなみに、ガムシロップの余った半分は僕のコーヒーに投入される。
「生き返った気分だよ、アオ君」
「それは良かったですね」
机に突っ伏して唸っている先輩は、いつもの凛々しさが抜けて、小動物じみた可愛さがあったけれど、いつまでも唸っていられても困る。
「じゃあ、生き返りついでにお昼ご飯食べちゃってください」
「ぐっ……」
何か変な声が聞こえた。
「あれ?お昼食べてないんですよね?」
「うん。そうなんだよね……」
先輩は気まずそうに顔をゆがめる。
「じゃあ、今からでも食べたほうが良いですよ」
「うん。そうなんだけどね……」
先輩が喉を掻く。追い詰められているときの癖だ。これは……
「先輩?」
「何かな?アオ君」
「もしかして……持ってくるの忘れたんですか?お昼。だから――」
「はっはっは!面白いこと言うね、アオ君。」
先輩は目をそらす。次いで、諦めたようなため息。
「…………その通りだよ」
「それにしたって、購買に行けばいくらでも売ってるでしょう。部活前にでも行けば何かあったハズですよ?」
「……確かにそうだね。うん。部活の前にも、昼休みにも、買う時間はあったし、行っていれば恐らく食べ物が売られていた」
「じゃあ――」
買っていればよかったじゃないですか!と、ツッコむまでも無く僕は気付いた。そう、この人は、
「でもね、私にはソレらを買うことができなかったのだよ。…………財布を家に忘れてきてしまってね」
ダメなときは極端にダメなんだ。
「全然食べてない訳じゃないんだよ?友人が自分の分を半分も分けてくれたんだ。ただ…………近頃の女子高生は、燃費が良過ぎるよね?」
「はぁ……」
先輩も近頃の女子高生だったハズなんだけど。僕の勘違い?
「勘違いしないでもらいたいんだけれど、私の燃費が悪いという訳じゃないからね!私は常に頭を働かせているから、余計にカロリーを消費するんだ。将棋の棋士の体重が対局後に激減しているのと同じだよ」
「どんだけ酷使してるんですか、それ」
常に対局時の棋士並って……でも、先輩のスタイルを見ると、あながち嘘にも思えないんだよなぁ…………ともかく、
「事情はわかりましたから、とりあえず何か食べましょう?今日の部活は切り上げて――」
「いや、部活はまだ……」
何故か拒否する先輩。
「帰りましょうよ」
「でも、まだ早い時間だし……」
渋る先輩。
「帰りましょう」
「全然遊び足りないし……」
嫌がる先輩。
「帰りますよ」
「もう少しなら、我慢でき――」
駄々をこねる先輩。
「帰れ」
「………………はい」
その日、初めて先輩に勝てた気がした。