先輩と餓え1
『先輩と餓え1』
「うぅ…………」
放課後、部室の中。珍しく二人で某狩猟ゲームをやっていたときの事。
唐突に、先輩が唸りだした。
「どうしたんです?いきなり?」
奇人という言葉が良く似合う我が部の部長だけれど、いきなり唸りだしたことは今までにない。…………気がする。
「いやね、恥ずかしながら現状の空腹感に耐えきれなくて…………」
ゲーム内の先輩が、自慢の太刀と共に吹き飛ばされる。
「お昼食べなかったんですか?」
倒れた先輩に照準を合わせた怪物に、僕の双剣が連撃を浴びせる。
「ああ、いろいろあってね。」
そう言いながら、画面内の先輩はゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ今からでも食べたほうがいいですよ。」
部室には先輩が持ってきたポットもあるし、食事するには悪くない環境だ。
「それは……そうなのだけど…………」
何故か歯切れの悪い応えの先輩。
「いや…………ね?」
怪物に襲われる先輩。動きがぎこちない。
「ちょっと休憩入れましょうか。僕もコーヒー飲みたくなってきましたし」
僕の双剣が怪物の身体にめり込む。あと少しで倒せそうだ。
「いや、うん。そうだね。じゃああと少しやったらで」
そう言いながら先輩は画面の中で太刀を振るうけれど、何故か空振ってばかりで、まともに攻撃が当たっていない。そんなにお腹がすいているのだろうか?
「先輩?ホントに大丈夫ですか?」
ゲームと名のつくモノほとんどすべてで僕を圧倒する先輩らしからぬプレイング。今日の先輩は、何かがおかしい。
「いや、まぁ、大丈夫だ。アオ君の未来ほどは、やばくない」
「何と比べてるんですか!ていうか、僕の未来、そんなにヤバくないですから!」
入学直後の試験だって、割と上位の成績だった。もうすぐ始まる中間テストは、正直怖すぎるけど。最近、先輩と遊んでばっかりだからなぁ……
「失礼、言い間違えた。地球の未来ほどは、悪くない」
「地球、そんなヤバい状況じゃないでしょう!」
今の先輩より悪い状態なら、地球はあと一週間ももたないだろう。
「とにかく、今闘ってる敵を倒してからだからね、休憩は。中途半端なところでやめるのは良くないんだから!」
「仕方ないですね。これが終わったら休憩ですからね!」
******
その後。
「行くよ、アオ君!ちゃんとサポートしてよね!」
「りょーかいです!先輩こそちゃんと当てくださいよ!」
「アオ君に言われたくないの!避けてばっかりじゃなくてちゃんと攻撃してよね!」
「先輩よりは当ててますよ!それに、サポートしてろって言ったの先輩じゃないですか!」
「サポート=攻撃でしょ!突撃あるのみ!」
「何でこのゲームの時だけ頭使わないんですか!もっと考えて!」
「力こそパワー!アオ君は無駄に考えすぎなのだよ!」
「考え無さ過ぎもダメでしょうに…………」
「はっはっは!突撃~!」
「ちょっ!先輩なんで倒されてるんですか!」
「うるさい!ちょっとミスっただけなの!」
「ミスったって……だから突撃はやめてって言ってるじゃないですか!」
「うるさい!アオ君の、ばか!」
………………結局、休憩をいれるまでに一時間かかったとさ