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一人のサムライ@関西  作者: しゃくとりむし
第2章 疾風
2/4

戦場の彼方に。

いろいろと困っていた農民達は、侍を含めた7人を成り行きで雇うことになってしまった。僧侶2人、子供1人を含めたこの集団で、稲穂村の危機にどうやって立ち向かうのか。関西風戦記、第2章が始まります。

☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★









そうべい、なおよし、つっきー、森島様,恵向様,道覚様、

井之川様,まさちゃん,図師様、みちひろ

ほんで、大おじじと金一じいが車座になって

薄暗い部屋の中で話しあっていた。

そうべいは、大おじじ、金一じいに土下座をしていた。


そうべい:「申し訳おまへんやった。侍7人雇うトコ、侍は1人しか雇えず、

      よくわからん者をこないなに雇ってしまおったんや。」


金一じい:「野伏を退治した村は、侍を7人雇ったんだぞ!

      それでも何人も亡くなりよったちゅうわ。

      侍一人で、勝てるわけなかろうわ。

      前例通りやらんかい!この馬鹿どもめ。」


大おじじ:「まあ、まあ。侍を7人雇って来いと言えば、

      侍でないものも雇うことになるやもしれんと思ってはいたのや。

      それに、高名な極楽大空寺のお坊様が来てくださったとは心強い。」


金一じい:「ここまで前例をはずれてしまっては…わしには判断できん。

      大おじじ、許可の判断は任せた」


大おじじ:「7人侍雇った村は、何人も死者がでたそうや。

      それはある意味敗戦と言える。  

      そやが、僧侶を含めて、このもの達ならば、もしや…。

      他に打つ手は、なかろうわ。 よし! この者達を雇うことを許す。

      森島様どの。侍は森島様だけじゃ。この村を頼む。

      この村の農民達を指揮してくれ。」


森島様:「かしこまりたんや。そういえば、自己紹介がまだやったな。」


大おじじ:「そうやった。そうやった。すっかり忘れておったわい。」


森島様:「まずは、ウチが。森島 倫正と申す。

     生まれも育ちも積藁の国の七根村やけど、

     仔細あって3年ほど前から古河茅の国で浪人をしとる。

     今回、たった一人の侍となってしもた。

     戦がわかるのはそれがしだけやので、

     皆の指揮は、ウチがさせてもらうでことになりよった。

     皆のために全力を尽くす所存や。」


道覚様:「ウチは道覚や。見ての通り出家した虚無僧やので戦には参加しまへん。

     昔は武士やったさかい、多少は戦のことはお教えできるかと。

     あと、托鉢でお会いしたときはどうかよろしゅうお願い申す。」


井之川様:「わしは櫂の使い手、井之川や。

      櫂を振り回したら侍やらなんやら木っ端微塵や。ハハッハ!」


まさちゃん:「ウチは明津真之や。一番若輩ものやけどよろしゅうお願いしまんねん。」


森島様:「 まさちゃん! 君は侍か!?手に持っとる傘はなんだ!」


まさちゃん:「 (((( ;°Д°)))) はい。ワイは侍や。手に持っとるのは刀や。」


金一じい:「???」


図師様:「ウチは図師昭輝や。絵師を仕事としとります。

     戦の経験はおまへんが、のぼりや旗、鎧の意匠等なんでも任せておくんなはれ。

     ほんで、将棋が趣味やので、将棋ができる人はぜひお相手を。」


みちひろ:「ウチは鹿沼 通泰や。戦の経験はおまへん。

      やけど、伝令時やらなんやらでお役に立てるかと存じまんねん。

      積藁の国のB街へも3日あれば荷物を届けます。

      ご入用のときは、ぜひこのみちひろに。」


恵向様:「南無阿弥陀部、南無阿弥陀仏。」


森島様:「頼もしい仲間が揃ったな。o(^▽^)o」


森島様:「では、初の作戦会議を始める。」

    「まずは、そうべい。この村の現状と防衛につかえそうなことを教えてくれ。」


そうべい:「村は見ての通り荒廃しておるんや。

      米や雑穀も冬を越えるだけで精一杯。

      野伏は、40人の小集団やけど、種子島を持っており、やろかり強敵や。

      村の人間の半数は既に逃散して今は、80人ほどや。

      戦えるものは40人おるかおらへんか…。

      近隣の村に助けを呼べば、もうちびっとあつまるかもしれまへん。

      この村は山と川に囲まれ、上手く堀や柵をつくれば、

      攻め難い土地だと思うで。」


つっきー:「いや、それはどうかいな。4面に分けたら、

      10人しかおまへんか。この村、10人で守れるような広さではおまへん。」


森島様:「うむ。そうなのや。

     やから、子ども、女、老人、問わず、戦には参加してもらうで。」


なおよし:「ちーとばかし待て、子供や老人ではそないなの戦力にはならんぞ。」


森島様:「よい。戦力になるかどうかが問題ではおまへん。

     では問うが、戦いの間どこに、これらの者を置いておくつもりや。」


なおよし:「それは、そうやけど…賛成しかねる。」


森島様:「槍を持たせたほうが安全かもしれんぞ。致し方ないと諦めてくれ。」

    「これで、80人だな。4方面に分けても20人や。他の村の援助か…、

     いざちうときはみちひろに伝令に行ってもらわねばならぬな。」


森島様:「次に、まさちゃん!野伏の情報はなにか持っておるか?」


まさちゃん:「は、はい!昔は、野伏の頭領、公文とやらは、人望に厚く、

       豪放な人柄で知られておったんや。2年ほど前から、

       主家の滅亡とともに、浪人となり、当時の部下とともに野伏となって

       悪行をし始めたらしいんや。」


森島様:「そうか。それは貴重な情報や。ありがたい。」


なおよし:「まさちゃん。なんでそないなことを知っとるんだ?」


まさちゃん:「宿屋にはいろんな方がいらっしゃいまんねん。巷のうわさは大体耳に入るんや。」


道覚様:「(なるほど。それで手代を。)」


森島様:「そういうことや。それでまさちゃん。

     古河茅の国は、なんでやねん野伏を捕らえることがでけへんか。わかるか?」


まさちゃん:「稲穂村は、となりの国の積藁の国との国境にあり、

       不用意に兵を出せば、積藁の国を刺激しまんねん。

       また、討伐隊が来ても、盗賊は積藁の国にすぐに逃げ込める。」


森島様:「もし、古河茅の国に討伐隊を頼んで、要望を汲んでくれるような人はおらんか?」


まさちゃん:「そうやね。盛野様ちう気骨のある人がいらっしゃいますわ。

       盛野様は、野伏の取り締まりのための出兵を家老の田中様さまに志願したそうや。

       やけど、田中様さまが却下したと聞いていますわ。」


森島様:「エライぞ!まさちゃん。

     よし、これだけの情報があれば。後はなんとでも。

     では、具体的な作戦と作業を指示する。」


森島様:「まず、この村を城にする。井之川殿は土木工事を指揮してくれ。

     簡単な作業や。この地図の線に沿って、空堀と柵を作ってくれればええ。」

 

地図をパサリ。


井之川様:「了解だぜ!」


森島様:「図師様。戦には旗が不可欠や。

     この文字の旗を作ってくれんか。材料は、むしろでかまわん。」


紙切れをパサリ。


図師様:「了解!」


森島様:「恵向殿は、川原で大声で念仏していればええよ。僧侶だし。」


恵向様:「南無阿弥陀仏。」


森島様:「ウチはまず、農民たちを訓練する。

     みちひろと道覚殿はちーとの間井之川殿を助けてくれ。」

    「とりあえず、この方針で進めていく。

     ほんで、物見の番は、農民と雇われたもので、交代で行うからな。

     皆、そのつもりで。では、作業開始だ!」








野原に森島様と竹やりを持った農民達が整列している。訓練を行っているのだ。


森島様:「まず、やりの構えはこうや。ほんでこうやって、突け!」


ビュッ


農民一同: ザっ。


森島様:「そうや。そないな感じや。次に、行進をいれるぞ!列を崩すな!」


農民一同:ざっ、ざっ、ざっ。


森島様:「うん、立派なもんや。さあ、掛け声をいくぞ!

     南無阿弥陀、なむあみだぶ、なむあみだぶつ♪、なむあみだぶ、なむあみだ♪」


農民一同:「南無阿弥陀、なむあみだ、南無阿弥陀仏♪、なむあみだぶ、なむあみだ♪」


森島様:「ええぞ!雰囲気でてきたやないか。(≡^∇^≡)」


なおよし:「お侍さま~。ときの声とか、勝どきとかはやったりせんんで?」


森島様:「うむ。不要や。戦争で一番怖いのは、

     訓練された兵でも強い武器でもない。気合でもないんや。

     死ぬ気になりよった兵が一番怖いのや。

     やから、南無阿弥陀仏だけを唱えて、行進する方がええのや。」


農民一同:ざっ、ざっ。「なむあみだぶ、なむあみだぶ、南無阿弥陀♪」


図師様:「お~い。 書いてあったとおりの旗を作ったよ~。」


森島様:「さすが、早いな。」「うむ。ええできだ!」


つっきー:「なんてかいてあるんや。なんか見覚えがある文字やけど。」


森島様:「南無阿弥陀仏って書いた旗だよ。

     こっちの旗は厭離穢土欣求浄土ってかいてあるよ。o(^▽^)o」


図師様:「ほんまにこれで、ええのか?

     意図はわからぬでもないが、これではまるで。…一向一揆みたいな。」


森島様:「大丈夫。あくまでこれは野伏への対策やから。ヽ(゜▽、゜)ノ」


森島様:「この旗1つ貰うよ。

     図師殿。悪いが、訓練をちびっとの間見ていてくれへんか?」


図師様:「どこに行くつもりや。ウチでは訓練は無理や。」


森島様:「ちーとばかし、みちひろに用が。

     あと、訓練は迫力を感じればええから、そないな方針で。

     よろしゅう頼みまっせ!」


パタパタ。



森島様は、堀の工事場所ちかくでみちひろを見つけた。


森島様:「おーい。出番だぞ!みちひろ!」


みちひろ:「やっとやろか。それで、どないな仕事で?」


地図をパラリ。


森島様:「この旗を身につけて、この地図の通り村々を回ってほしいのや。

     できるかぎりの高速で。」


みちひろ:「ほぼ、古河茅の国中やね。この道だと結構かかるんやよ。

      2週間。いや、もうちびっとかかるかもしれへん。」


森島様:「大丈夫。それで十分。旗はこれや。」


みちひろ:「これは、南無阿弥陀仏。やろか??」


森島様:「そうや。これをつけて、村に入ったら、

     南無阿弥陀仏を大声で唱えよ。それで、こう叫べ!

    「南無阿弥陀仏! 稲穂村は賊の討伐を行う!信仰あるものは稲穂村に来い!」

     と。ヽ(゜▽、゜)ノ」


みちひろ:「なんだかよくわかりまへんが、走って叫ぶだけの仕事なら、簡単そうや。

      信仰心に問いかければ、確かに人は集まるでっしゃろ。」


森島様:「よろしくたのむよ! みなの命運はお主にかかっとるんだ!

     食事はどこぞで振舞ってもらえると思うわ。

     やけど、一応路銀を渡しておくよ。」


チャリン。


みちひろ:「三文?? これだけ?」


森島様:「これだけ。」


みちひろ:「鬼やね。」


森島様:「大丈夫だよ。みんな驕ってくれるから。やさしいもん。食料は現地調達で。」


みちひろ:「ううわ。」。(´д`lll)


森島様:「さあ!走れ!飛脚。どこまでも走れ!明日へ向かって走れ!」


みちひろ:「まだ、なあんも準備できてまへんってば。鬼。(T T)」









土木工事の休憩中。

図師様、井之川様、道覚様が、話をしていた。


道覚様:「図師殿は、森島様と親しいようやけど、いったいあいつは何者なんだ?」


図師様:「ただの浪人ものや。3年前までは積藁の国で仕官しとったらしい。

     そのときからの付き合いや。

     なんの仕事をしとったのかを質問したことがあるが、

     まともな答えは返ってきたことはないな。

     察するに、当時の仕事は、書庫の管理と、寺社の見張りやろうか。」


井之川様:「やあ、どう知り合ったんや。侍と絵師にそう接点はないやろう?」


図師様:「積藁の国のさる由緒あるお寺に屏風を収めたのや。

     そうしたら、あやつは文句をつけてきた。」


道覚様:「どないな?」


図師様:「お前の絵には、発見が無い。ただキレイなだけや。

     美しいだけでええのか!?ってね。いちゃもんや。」


井之川様:「確かに、森島様が言いそうなことや。」


図師様:「やから、ウチは言ってやったのや。

     やったら、お前が手を加えてみよ!ってね」


道覚様:「それで、何ぞしでかしたのか?」


図師様:「なんと、セミの抜け殻を拾ってきて、屏風に貼り付けた。

     そうしてから、屏風にこう書いたんや。

    「さて、この絵に蝉は何匹いるでっしゃろ?」


道覚様:「意味不明だな。というよりもガキの遊びだな。」


図師様:「その翌日、森島の奴は積藁の国を首になりよった。

     それで、浪人として流れてきたのや。

     将棋の会で、偶然再会した時は驚いたものや。」


井之川様:「3年もなんで、浪人のまんまなのや。仕官はしようとしとるんか?」


図師様:「いや、浪人のまんまやったわけではおまへん。

     再会した時は、古河茅の国家老の田中様の部下の一人として仕官しとった。

     その後、奇行をしたらしく、追い出され、

     何年かは、本屋の用心棒をしとったらしい。」


道覚様:「また、奇行か。  …本屋に用心棒が必要なのか??」


図師様:「きょうびは盗んで売りさばくやからもおるからな。

     そうそう、積藁の国屋書店やったやろか。その店は。」


井之川様:「聞けば聞くほど、変わった奴だな。かわいそうな気もするが。」


図師様:「あれはあれで、日々楽しそうやからええではおまへんか。

     奇行をしていても、それが正攻法だと言い張っとる。

     まあ、意外と正しいことも多いがね。

     さあ、そろそろ仕事に戻ろうか。」


井之川様:「トコで、図師殿,今そっちでは何の作業をしとるんだ?」


図師様:「ああ、ウチは、今、農民達の服を朱色に染め付けとるよ。

     もう、目が覚めるような真っ赤な色や。迫力重視でね。

     そのうち君達の服も赤に染めるから。」


井之川様:「全員赤か。確かにそれは怖いにちげえねえ。」







朝早く、森島様と道覚様、図師様とそうべいが道に立っとる。


森島様:「道中の飯まで準備しとっただきかたじけへん。」


道覚様:「もし、留守中に野伏が攻めてきたら、手はず通りに防戦を。」


そうべい:「はい。道覚様、お侍様、お気をつけて。敵の本拠地に行くのやろから。」


森島様:「周辺の地形も探るから、1週間以上留守にする。留守中はくれぐれも頼む。」


図師様:「まかしといてくれよ。」


森島様:「うむ。ほんで、3つの巻物を書いておくから、

     非常事態になりよったら、それをあけてくれ。

     指示が書いてある。非常事態になりよったらだぞ。

     それ以外は役立たないと思うわ。

     いや、非常事態でも役立たないかもしれへんから。

     そのときはあしからず。」


図師様:「いったい何が書いてあるんだ?」


森島様:「それは言っては意味がないやろ?( ̄▽+ ̄*)」


そうべい:「気になるな。」


森島様:「ウチの大事な戦略なのや。大切に扱うのだぞ!」


図師様:「ほならお気をつけて。」


森島様:「それや、行って来るよ~。」









2日後、

ザクッ、ザクッ。

道なき道を歩く二人。


道覚様:「ほんまにこっちなのか?

     もう、人影も無いし、ここはもう積藁の国では無いのか??」


森島様:「ええのや。ええのや。これで。」


道覚様:「どこに行こうとしとるのや。

     わしは不安でしゃあない。もしや戦から、逃げ出したのか。」


森島様:「着けばわかる。

     実は、積藁の国屋書店本店に行きたいのや。

     月刊菜根譚の発売日なのや。」


道覚様:「何! こないなときに何を申すか! 本屋だと!ばか者!」


森島様:「まあ、まあ、やから、着けばわかるって。

     落ち着いて。怖いな~。ボウズやろ~。」


ザクッ。ザクッ。


そんな風にして、2人は積藁の国の城下町へと向かったのだった。









みちひろは走った。できるだけ早く、村々では言い含められた言葉を大声で叫んでいた。

寝る時間も最小限にして、みちひろは走った。南無阿弥陀仏の旗をたなびかせながら。


皆、南無阿弥陀仏と書かれた旗と、飛脚が叫ぶ内容に驚いた。


みちひろは、全力で走った。

そのひたむきな姿に、心を打たれ、応援する者や一緒に走るものまででてきた。

そして、走る飛脚のうわさは村々を駆け巡った。


某村村民達数人が集まって、飛脚の走りを見物している。


某村民:「キャー。飛脚さま!頑張って~。」


みちひろ:軽く手を振り、

    「南無阿弥陀仏! 稲穂村は賊の討伐を行う!信仰あるものは稲穂村に来い!」

     イエエイ!


某村僧侶:「これをお飲みおくんなはれ。粥でござい まんねんわ。」


みちひろ:「ありがとーう。走りながら食べるよ! みんなありがとう!」


飛脚は大きく手を振った。


飛脚は走りながら思った。


みちひろ:「(ウチは毎日毎晩壱年中、他人のものばかり配達しとった。

      それに誇りを持っとった。でも、今はどうやろうわ。

       走ること、そのことが、ただ気持ちええ。)」


みちひろ:「(それに皆が、ウチを応援してくれる。走るウチを応援してくれる。ううっ。)」


みちひろ:「(それが、ムカシからのウチの生活に無かったものや。

       確実に荷物を届けるそれがみなやった。

       せやけど、今、気づいてしもた。ほんまは、ただ走りたかったのや。

       その、走る姿を賞賛して欲しかったのや。)」


みちひろ:「(そもそも、森島様の話に乗ったのは、心のどこぞで、

     今の生活をしょーもないものと感じとったからかもしれへん。

     確実な配送を人一倍頑張っても、当たり前の扱いをされて、賞賛されることはなかった。

     飛脚やからしゃあないと思っとった。

     その身分を越えたことを望むべきでないと思っとった。)」


みちひろ:「(依頼人が望まなくても、全力で毎日毎晩壱年中走った。

      それは、確実で早い配達のためやない。

      心にわだかまりがあったからや。

      心に毎日毎晩壱年中暗い霧がかかっとったからや。

      あの暗い気持ちを、晴らしたかったからなんだあっっ!!!)」


みちひろの目から涙があふれる。


みちひろ:「(今、ウチは最高に気持ちええ。走ろうわ。みなをかけて。皆が応援する限り。

      走ること。それだけが、今のウチのみなやったのや。

      一歩を踏みしめて。さあ、走ろう。)」


こうして、40の村々を10日間で走り抜けた飛脚の伝説が生まれたのだった。








古河茅の国城内。大名、見目誠史郎様と、家老、田中柾信様、及び家老、古郡明丞様が、

一連の騒動について、相談をしていた。

昼の日差しが差し込み、古郡様の白髪がキラキラ輝いていた。


田中様:「上奏いたした報告書の通り、

     今、古河茅の国では一向一揆が起きようとしておるんや。

     一向一揆を起こそうとしとる首謀者達は、

     どうやら野伏の討伐と言い張っとるらしいんやが。」


見目様:「なんでやねんや。

     わが国の浄土新宗の総元締め、極楽大空寺の住職は、なあんもしておらんようや。

     むしろ、事態の成り行きを心配しとるようやったが。」


田中様:「いえ、ウチの知る範囲では、極楽大空寺の恵向と申すものが、

     一味の首魁のようや。単独で、事を起こした可能性もあるんやが、

     住職の関与は当然あるでっしゃろ。」


古郡様:「元はと言えば、田中殿、そなたが悪かろうわ。稲穂村での野伏を野放しにし、

     年貢もきつくとりたてとったそうな。ほなら、一揆も起きようわ。」


田中様:「その件は面目ない。稲穂村は積藁の国との国境。簡単には兵を出せまへんやった。

     実は、部下の盛野から、何度も要請はあったんや。

     そのときに、兵を出していれば。そう悔いてなりまへん。」


見目様:「まあ、古郡、責めるでない。ウチが田中でも同じ対応をしたやろうわ。」


田中様:「盛野を差し向けて、必ずや、一揆を鎮めてみせまひょ。」


古郡様:「田中殿。例の一揆を広めて歩く飛脚の件やけど、

     まだ捕まえることができんのか。」


田中様:「はい。飛脚は逃げ足が速い上、神出鬼没で、

     どないな道を通るか予想できまへん。

     ウチに、内通者がいるのではおまへんかと、疑っとるほどや。」


古郡様:「けっ。人ひとつ捕まえるのに何日かかっておるのや。

     こないな奴が筆頭家老だと。笑わせる。」


見目様:「言葉を慎め。。筆頭家老にしたのはウチなのだぞ。」


古郡様:「ははっ。」


見目様:「田中、早急に対処せよ。シッパイを繰り返すようなら、次は無いと思え。」


田中様:「かしこまりたんや。すぐに対処いたしまんねん。」


田中様は立ち上がり、退出する。

パッ。サササッ。




古郡様:「へっ。格好ばかりがよい若造が。」


見目様:「古郡はそう言うが、田中は周囲の評判もよく、人当たりもやわらかい。

     毎日毎晩壱年中にこにこしとる好人物や。

     付き合いもええし、教養もある。

     今回はシッパイしたが、仕事はできるちうわけや。」


古郡様:「やけど、悪い話が無いわけでもなかろうわ。

     能力ある者を貶めるやりかたで潰しとるちう話や、

     薄情で、笑顔で人を切るちう話も聞く。」


見目様:「それは、妬みからくる噂話ではおまへんかと思うのや。

     能力あるものにはよくあることや。」


古郡様:「果たしてそうなのかのう。」


見目様:「古郡。ちびっとはその毒舌を止めぬと、身を滅ぼすぞ。」


古郡様:「もうこの歳で、生き方はかえられまへんのや。はっはは。」









道覚様と森島様は、野伏の偵察に向かい、野伏の本拠を素通りして、

積藁の国屋書店に向かっていた。


道覚様:「ほんまに良かったのか。野伏の偵察にいかんと、こないなとこをぶらついて。」


森島様:「うむ。問題はなあんも無い。月刊菜根譚の発売日にちょうど着いた。」


道覚様:「冗談かと思うたが、本気らしいな。泣けてきた。」


森島様:「よしよし。 泣いちゃだめだよ。ほら、積藁の国屋書店はあそこだよ。」





男2人、積藁の国屋書店にいる。

ガサ、バサッ。 森島様は、本を整理していた。



道覚様:「いったい何をしとるのや。本を五十音順にならび変えたりして。」


森島様:「ちーとばかし、待っててね。すぐ、開けるから。」


道覚様:「あけるってなにを?」


森島様:「はい!これで、完成。」

    「今、ウチ達以外にだれも客はおらへんよね。」


道覚様:「おらへんが、なんでそれを聞く?」


森島様:「ふっふっふっ。驚くがええ。」



森島様は、本の棚をぐいっと押した。

すると、本棚がくるっと回った。




ガタッという大きな音と共に、暗く小さな通路が開いた。


森島様:「これどエライでしょ!ウチが作ったのや。本の重さが鍵の役目をしとるんだよ!」


道覚様:「仕組みは微妙に凄いが。う~ん。見た目が、しょぼい。」


森島様:(TωT)


道覚様:「そないな顔しなはんな。で、どこに繋がってるんや。」


森島様:「閻魔大王がいるトコ。」


道覚様:「どこに繋がっとるの?」


森島様:「きょうび、道覚、突っ込んでくれへん。」(TωT)


道覚様:「で、どこだ!」


森島様:「行けばわかる。戸を閉める必要があるから、先に行っててくれへんか。

     どなたはんかにあったら、森島の仲間じゃ!わはは。といえばええよ。」


道覚様:「やあ、この暗い通路をとりあえず行けばええんだな。」



モゾ、モゾ。

道覚様は這い蹲りながら、進んだ。


道覚様:「(このような通路簡単にはつくれるものでは無い。

      あやしい通路や。森島っちゅう奴は何者なんだ?

      積藁の国屋書店になんでこないな通路があるんだ?

      まあ、考えても始まりまへんか。ウチは人生を捨てた身や。

      ちびっと、森島のボケに翻弄されてみるか。フフっ。)」



道覚様A:「先に着いたのやけど、森島様はどうしてこないのや。遅すぎる!

      ここはどこなのや。結構広いお屋敷のようやけど。」


居合わせた侍:「む、お主何者や。」


道覚様:…  (どうする。わて) … 「托鉢中の虚無僧や。」チリーン。


居合わせた侍:「であえ~であえ~。曲者や!!!」





森島様:「なんでやねん、道覚、お主は捕まっとるのや。」


居合わせた侍:「申し訳ない。森島様のお仲間とは露知らず。」


森島様:「ええよええよ。この虚無僧の手違いのせいやから。」


道覚様:「つい、反射的に言ってしもた。

     森島殿の仲間と言わねばならんことは知っておったのやけど。」


森島様:「道覚様も結構抜けてるな~。

     こないな所に托鉢僧はいまへんやろ。ははは。」


道覚様:「くそうわ。森島めに笑われた。」


森島様:「さあ、早くいくぞ、道覚殿。

     積藁の国家老、伊波忠道様のトコに行くのやから、身なりを整えておけ!」


道覚様:「積藁の国の家老やと! ちうことは、お主は積藁の国の間者なのか!!」


森島様:「間者。う~ん、そういう表現は悪役みたいで嫌いだな。

     公式の配置では、積藁の国屋書店の用心棒(休職中)で只の浪人なんや。

     絵師は勘違いしてたけれど、積藁の国で首になりよったから

     古河茅の国に行ったわけではおまへんんや。」


道覚様:「そうか。なんか見えてきたぞ。

     もせやけどダンさんて、古河茅の国を動揺させるのが、本当の目的か?

     農民達に協力したのもそのためか!」


森島様:「一部分あたりやけど、それはちゃうわ。

     ウチは、古河茅の国の安定をも求めとるのや。

     ウチは、世界はより安定した形になるべきだと思うとるのや。

     天下統一がなされ、戦がなく、国境も無い世界をウチは求めとる。

     動揺させたのは事実やけど、それは目的では無い。」


道覚様:「農民達をだましたのか!」


森島様:「ウチがいつ、古河茅の国のものだと言った?

     自己紹介の際も、積藁の国のものとはっきり言ったではおまへんか。

     それに、農民達には悪いようにはせん。ウチを信じてくれ。

     ウチは嘘はそないつかへん人間や。」


道覚様:「む~。狐に化かされとる気分やけど、

     ここまで来よったら腹をくくるしないか。むむむ。」


森島様:「なむあみだぶ♪なむあみだぶ♪なむあみだぶ」(*^ー^)ノ


歌いながら、テクテクと森島様は歩いていく。


道覚様:「(稲穂村の農民達、船頭や手代、絵師に飛脚に念仏僧、

      全員だまされておるぞ、ああ、心配や。

      思い返せば、一揆風の旗や訓練、妙やった。単に野伏対策とは思えん。

      エライことになっていなければよいのやけど、(>_<))」







~ここまでの説明~


森島様と道覚様は、野伏の偵察に向かい、野伏の本拠を通り過ぎ、積藁の国屋書店に向かった。

積藁の国屋書店には地下通路があり、それは稲藁の国の家老、伊波忠道の屋敷へと繋がっていた。

森島様と道覚様は、伊波忠道様と面会を果たしたのだった。



~なんでやねん。さっき読んだわ!~



森島様:「お久しゅうございまんねんわ。伊波忠道様。」


伊波様:「ホンマに、ご苦労やった。

     これだけ古河茅の国が乱れれば、古河茅の国はもはや積藁の国のもの。

     凄まじき働きやったな。

     それに、毎日毎晩壱年中古河茅の国の内情をあれほど詳細に伝えてくれて、

     今回の戦は勝ったも同然や、ほんまに役立ったぞ。」


森島様:「ありがたきお言葉、恐縮至極に存じまんねん。(●´ω`●)ゞ閻魔大王様。」


伊波様:「そう照れるでない。

     まだ、もうひと働きしてもらわねばならんからな。トコで、

     そこのボウズは、何や。」


道覚様:「拙者は、旅の虚無僧で、道覚と申す。只の虚無僧や。」


森島様:「古河茅の国内での我らの味方になる勢力の一人や。

     前回の報告書に書いてある通りや。閻魔大王様」


伊波様:「あ~あの道覚か。エライ騒動に巻き込んでしもたなあ。

     して、森島様よ。この虚無僧をここまで連れてきた訳は?」


森島様:「いえ、意味はおまへん。せやけど、稲穂村への帰り道で、

     やっておかねばならぬ仕事がありまして、

     そのために、必要不可欠やのでござい まんねんわ。閻魔大王さま」


道覚様:「……」


伊波様:「まあ、よい。お前のやることは毎日毎晩壱年中よくわからんが、

     ケツには最良の結果になる。自由にするがよい。」


森島様:「はい!(;^ω^/ 閻魔大王様!」


伊波様がふすまをガラガラと開ける!


伊波様:「皆の者に伝えよ!出陣や」


森島様:「はい!閻魔大王様」


伊波様:「森島よ。なんぼ褒めたからとて、照れすぎや。

     閻魔大王やらなんやらと何回も呼ぶでない。

     そないなに嬉しかったのかのう?」


森島様:「う、嬉しくなんやろかいもん!(・・。)ゞ」


道覚様:「(…森島の、ひげ面でかつ照れたあの顔。

      この世のものとは思えん。見なかったことにしようわ。

      わわわ… そないな顔でこっちを見るな!鳥肌が立ってきた。)」









がしゃ、がしゃ、ざっ、ざっ。

積藁の国の部隊、約1万が出発した。その行進の中に、道覚様と森島様の姿があった。


森島様:「しもた~。月刊菜根譚を買うの忘れた!!」


道覚様:「何を言ってるんだ!この戦が終わるまで、それどころではなかろう!!ばか者。

     それに、古河茅の国の積藁の国屋書店でも買えるやろ。」


森島様:「わかってへんな。月刊菜根譚は、ウチ達の伝令道具なのや。

    月刊菜根譚への懸賞応募の手紙に、暗号で報告を書いて送るんや。

    月刊菜根譚のページは、指定された方法で読むと、重要な伝令が読みとれるのや。

    やから、一ヶ月に一回は、必ず読み、懸賞に応募せんといけへん。

    今、戦にでたら、今月号を買い逃してしまうわ。それはまずいのや。」


道覚様:「あの月刊菜根譚にそないな秘密が…。やから、懸賞があたりまへんのか。」


森島様:「懸賞?ウチは毎回当たるよ。一応、公平な抽選がなされとるはずや。

     道覚殿は、運に見放されてるな~はははっ。」


道覚様:「なんてことや。またも森島様に笑われるとは。くっ(>_<)。」


森島様:「あっ。あそこに、なんか良さげな本屋が。

     月刊菜根譚あるかもしれへん。ちーとばかし買いに行ってくるよ!」

     (^O^)/


道覚様:「ちょっと! 隊列を乱しては、罰を受けかねんぞ。

     く… 待て! 一人は嫌や。わしも行く~!」








様々の方向に交錯する思い。それに伴う事態の急変。

だが、、まだ古河茅の国の稲穂村は、まだその頃は平和だった。


まさちゃんと井之川様、農民達が、柵をつくり、堀を掘っていた。


まさちゃん:「ウチの柵も完成したんや。」


井之川様:「よっっしゃあ。

      あとは、堀をどれだけ深くできるかだな。一旦休憩にするか(^-^)」




まさちゃん:「井之川様は、凄腕の剣士なんやね。 

       ど、どうしたら強くなれるんやろか?」


井之川様:「剣士?まあ、使うのは櫂やけどな。

      なんだ、小僧、お前は強くなりたいのか?」


まさちゃん:「はい。井之川様もそうべいはんやなおよしはんも、

       皆力持ちで、大きな石を軽々と運びまんねん。

       それに、これから戦をするんでっしゃろ?強くないと殺されちゃうわ。」


井之川様:「そうか。確かに不安やろうな。わても、お前くらいの時は、不安やった。

      ある奴に剣の極意を教えられるまでは。」


まさちゃん:「極意。?」


井之川様:「いや、極意ちうほどのものでもないやろか。へへ。」

     「昔、わての船に客として乗った奴がいたんや。

      そいつは、わての櫂になんでやろか、

      わいもよーしらんが興味を示したちうわけや。

      訊くと、なんでも、近いうちに決闘をするらしい。

      その戦いで櫂を使いたいと。」


まさちゃん:「決闘に櫂…??」


井之川様:「そうさ、笑えるやろう。刀で切られておしまいだと思うやろ。

      やから、わても可笑しくて笑っちまったぜ。

      櫂で剣士を倒すなんて発想、考えたこともなかった。

      妙にその発想が気に入ったから、その櫂をそいつにくれてやったんや。」


まさちゃん:「それで、決闘に勝ったんやろか?」


井之川様:「ああ。やろかり手ごわい敵やったらしいが。無傷で戻ってきたよ。

      そいつ、ええ顔してたなあ。」

     「それで、わては気がついたんや。刀でなくても、

      例え、櫂のようなありきたりのものでも、

      使い方次第で、櫂の範疇を超え、刀よりも強くなれるってな。。

      負けた剣士の方は、刀を超えた発想ができなかった。

      やからそれまでやったってね。」


まさちゃん:「それで、櫂を使う剣術を。」


井之川様:「別に櫂で無くたってええんだぜ、

     宿屋の手代には手代なりの「剣術」があってもええと思うぜ。

     よく、森島様が「お前は侍だ!手に持っとるものはなんだ!」

     ってお前に訊くやろう?

     あれは、わてが思うに、刀が無くても、箒でも、箸でも、

     持ってるものを自由に使えば、侍のように戦える、

     もっともっともっともっともっともっともっともっともっと

     自信を持て!って言いたいんやろうぜ。」


まさちゃん:「森島様様がおっしゃることにそこまで意味があるとは思えまへんが…

       手代なりの剣術やろか…。ウチにできるでっしゃろか?」


井之川様:「できるさ。小僧が、手代でありながら、手代の範疇を超えられればの話やけどな。」


井之川様:「さあ!仕事すっぞ!」


まさちゃん:「はい!」











積藁の国で、大規模な軍が出発したその頃、古河茅の国も、稲穂村の一向一揆に対して、鎮圧の兵を出した。一揆の噂が広まってから、一週間で兵を派遣した田中様の迅速さは、賞賛に値する。その部隊の隊長が、盛野厳造。盛野厳造は、気骨のある武将として有名で、歴戦の勇士である。


盛野様:「おい! 稲穂村へ向かった使者はまだ帰らんのか!?」


伝令:「 稲穂村からの使者が帰還なされました!」


その時、使者として稲穂村へ行っていた蒲原亀生が苦い顔をして歩いて来るのが見えた。

蒲原亀生。通称かもりん。かめりんと呼ぶと激怒するが、穏やかな知識豊かな武将である。


かもりん:「申し訳おまへん。交渉はシッパイやった。」


盛野様:「そないなに一揆勢の意思は固いのか?一揆方は、どないな様子なのや。」


かもりん:「奴らは、まだ、この期におよんでも、野伏退治と言い張ってい まんねん…

     やけど、南無阿弥陀仏の旗をかかげ、赤い装束に身を包んだ姿、

     あれはもはや、野伏退治の様相ではございまへん。

     南無阿弥陀仏を唱え、竹やりを構えて、猛然と突き進む訓練する様子も、

     鬼気迫るものがあったんや。決死の形相とはあのことや。

     しかも、一揆勢には女や子ども、老人まで含まれとるようや。

     奴ら、全滅もいといまへんちうことでっしゃろ。」


盛野様:「むむむ。それはまずいぞ。奴らは死ぬ気か。

     それに、女、子ども、老人に僧侶。

     わしらが、戦で勝ったとて、無傷ではいられんぞ。

     殿とわしの声望は地に堕ちるやろうて。」


かもりん:「一揆勢の首謀者とみられる恵向様と接触したのやが、

     ひたすら念仏を唱えるばかりで会話になりまへん。

     問いせやけどても、「一揆では無い」と言い放ち、

     すぐに念仏をしはじめたんや。

     これは交渉の余地無しちうことでっしゃろ。」


盛野様:「(そこまで思い詰めておったのか。わしが独断でも野伏を退治しておれば。

      これは、わしのせいなのや。対応を誤らなければ、こないなことには。

      すまぬ。稲穂村の農民達、田中様。

      この戦。ウチが悪魔と呼ばれようとも、どれだけ泥にまみれようとも、

      古河茅の国中に火が広まる前に、この盛野様がみなを賭けて、

      収めなければなるまいて。)」


盛野様:「蒲原よ。もう交渉はよい。もう進むしやろかさそうや。(…修羅の道へ)」


かもりん:「はい。申し訳ございまへん。」


盛野様:「苦労をかけたな。」


こうして、盛野様は、重い心をひきずりながら、稲穂村へ進軍したのだった。





盛野厳造が兵を率いて稲穂村に向かったその頃、

稲穂村では会議が開かれていた。


そうべい:「どうしたものか。どうやらわしらは一向一揆と間違われてしもたようや。」


なおよし:「南無阿弥陀仏の旗なんてつくるからだ!指示した当の本人はおらへんし!」


井之川様:「慎重に使者をあつかわなかったわてたちも悪いんや。

      あの使者め、さらさら話を聞こうとせんし、まるっきし。」


まさちゃん:「皆はんそないなこと言ってもはじまりまへんし、何ぞ対策を考えまひょよ。」


つっきー:「今度こそ終わりだ~。侍達に斬り殺されるだ~。」


恵向様:「南無阿弥陀仏、なむあみだぶ、」


そうべい:「そういえば、森島様から3巻の巻物を貰っとったんやったよね。図師様。」


図師様:「ああ、3つの巻物、ちゃんと持ってきたんやよ。

     開いてみまっしゃろか。今は危機やろからね。」





するする。巻物を広げる図師様。




~~~~~~~森島倫正の超凄い大作戦~第一巻~~~~~~~~~~~~


みんな~元気? 道覚はなんとかぎりぎり元気や。


ウチの予想では、みんな一向一揆を起こした首謀者になってるはずだよ。


やったね! 恵向様もどエライね。一揆を起こしちゃうなんて。(-^□^-)


みちひろ殿が古河茅の国中に、一揆の仲間を集めるために触れ回っておるから、


事態の早期収拾を、田中様たちは考えるはずだよね。


この巻物をみるってことは、危機やろか?


ワイが思うには、盛野様が兵を率いて進軍しきてるんでしょ。( ´艸`)


でも、大丈夫。積藁の国から援軍がすぐにくるから。何日かもちこたえればええんだよ。


一巻目はこれだけだよ。もし、大当たりやったら次の巻も見てね。必ずだよ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^




静まりかえる室内。


そうべい:「森島様の予想の範囲内ちうことか。」


井之川様:「わしらは上手く転がされておったようだな。」


図師様:「なんかむかつく文面や。まあ、次にいくか。」




~~~~森島倫正の超凄い大作戦~第二巻~~~~~~~~~~~~~~


はずれ~


図師殿は、ああ見えて生真面目やから、絶対一巻、二巻、三巻とならんでいたら、

順番を守ってあけるんだよね。融通きかん奴だな~やから将棋で負けるんだよ。


※ ごめんなさい。やりすぎたんや。ちゃんと書いたさかい次の巻を読んでおくんなはれ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^


くちゃくちゃくちゃ。 ビリビリッ。


図師様は、無言で巻物第二巻を破り捨てた。

そして、三巻目を開いた。





~~~森島倫正の超凄い大作戦~第三巻~~~~~~~~~


すまん。すまん。


これが、ほんまの作戦ね。奇抜な作戦だけれど、必ず実行してね。


まず、今回討伐隊として来る盛野厳造。この武将は一本気で、ええやつなんや。

ちーとばかし、頑固で思い込みが激しく、融通がきかないとこもあるけど。


盛野様は、女、子ども、老人までいる一揆勢と、戦いたくないと心から思っとると思うんや。

でも、命令だし、今回の一揆の責任も感じて、全力で向かってくる。


トコで話は変わるけれど、図師殿は、将棋はちゃんと持ってきておるやろか??


実は盛野様、将棋が大好きなんや。でも下手の横好きで、超弱いよ。

ウチも実は戦ったことがあるけれど、守ってるだけで勝てちゃうの。


ほんでや。上手く交渉して、図師殿は、盛野様に将棋での決闘を申し込んでおくんなはれ。

盛野様は負けず嫌いやから、挑発すると何回でも乗ってくれるよ。


どエライ作戦でしょ。あれ、信じてへん人もおるやろか?

でも、将棋で人を殺さんと済む可能性があるなら、盛野様も乗ってくれるよ。

ほんで、判断、引き際を誤る。


図師様。意図はわかったよね。やあ、頑張って。

できる限り長く時間を潰してね。積藁の国の軍が到着するまでやから。

あと、打ち歩詰めなんかしちゃだめだよ~


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


図師様:「話は理解した。でもなんか気に食いまへんなぁ。」


つっきー:「負けるなよ!!」


図師様:「わかってるよ。問題はどう交渉するか。だな。」












盛野様は、稲穂村に部隊を率いて進軍している。

森島様からの秘策を胸に、図師様はこれに立ち向かう。

稲穂村の運命はいかに!









盛野様:「あれが、稲穂村や!!

     皆の者、心してかかれ!あの村は只の村ではおまへん。

     あの村は、城ぞ!城の中にいるものは、

     僧侶、老人であっても、兵隊ぞ!臆するなよ!」


兵士一同:「はい!!」


盛野様が馬を進めたその時!その目に妙なものが映った。

それは、橋の上に、ドカンと置いてあった。


盛野様:「あ、あれは何や。妙に心をくすぐる、あの形は!」


そこには、どエライでかい、人の背丈ほどの大きな将棋の駒(金将)があった。


盛野様:「な、なんでやねん金なのや。ちゅうよりも、なんでやねんこないなトコに。」


その時、図師様が、将棋の影から、ひょこりと顔を出した!


盛野様:「何者だ!」


図師様:「ウチは、あんはんがたが一揆扱いしとる

     稲穂村を助けるために雇われた者や。(=⌒▽⌒=)

     ご心配には及びまへん。危害を加えるつもりはおまへんから。

     ウチは、あんはん様にご提案にきたんや。

     盛野様にとってもよい賭けだと思うのやけどなぁ。」


盛野様:「すでに使者との交渉を蹴っておるではおまへんか。いまさら交渉やらなんやら…」


図師様:「交渉ではおまへん。

     ウチが提案するのは、この村の存亡を賭けた勝負の提案や。」


盛野様:「オモロイ。話くらいは聴いてやろうわ。」


図師様:「ありがとうございまんねんわ。提案するのは、将棋の勝負や。

     もし、盛野様が勝ったなら、稲穂村は無抵抗で降伏しまひょ。

     もし、ウチが勝った場合は、もういっぺん将棋の勝負を繰り返しまんねん。」


盛野様:「ちーとばかし待て。もういっぺん勝負を繰り返すとは?どういうことや。」


図師様:「盛野様が勝つまで、この勝負を続けるちうことや。」


盛野様:「ほなら、ウチに有利な勝負ではおまへんか。」


図師様:「いえ、そうでもおまへんよ。ウチの呼びかけで、

     続々とようけの村々から協力者がやってきていまんねんわ。

     時間をかけすぎると、ワシ等は大軍になるんよ。」


盛野様:「時間を賭ける、ちゅうことか…。むむ。」


図師様:「はい。そういうことや。勝負乗ってくれまっしゃろか?」


盛野様:「(…この者の意図もわかる。

     今の一揆勢では、まともに勝負しても、我が軍に勝てへん。

     勝てへん勝負なら、無傷で負けた方がええちうことか。

     ワイが思うには、詐術では無い。

     勝ち負けだけならば、この勝負乗るべきでない。

     我が軍なら、必ず一揆を打ち破る。

     やけど、わしが望むのはそないなことでは無いのや。

     できれば、双方無傷でこの戦を終わらせたい。

     こやつの提案のせいで、変な欲がでてきたわい。

     しかも、何よりも、無辜の者を殺さんと済む。

     これは、ありがたいことや。…)」


盛野様:「よし、その勝負乗った!!」


図師様:「お話のわかる方で助かったわ~。さあ、コッチへ、

     特設の勝負の舞台をご用意しておるんや。」


盛野様:「どこに連れて行くのだ!罠ではあるまいな!」


図師様:「野原に線を引き、この大駒を動かして勝負するのや。

     農民も、兵士も大興奮の勝負ができまんねん。ええと思いまへんか?」


盛野様:「はははっ。それは楽しそうや。

   (…兵士と農民の戦う気を削ぐ気か。みなは時間かせぎのため、やろうな。

    もし、わしが勝って稲穂村が降伏しても、後腐れ無いやろうわ。

    正々堂々の勝負やからな。こないなお祭りを考えるとは。

    こやつ、すさまじき策士だな。…)」




図師様は、人の背丈より大きな巨大将棋による将棋対決を盛野様に申し込んだ。

盛野様はそれを受け入れ、2人は史上稀に見る大決戦をくり広げることとなる。



図師様:「2二角成り!!」


農民一同:「2二角成りだぞ~」 「お~い。ここでええか~」 

     「そこだそこや。ひっくり返せよ~」


盛野様:「3二飛車!! 三間飛車で一気に攻めるぜ!」


兵士一同:「飛車だ~。飛車を動かせ~」 

     「よいしょ、よいしょ。 これでええか~」 「ええぞ~」


もう既に、盛野様は3回負けていた。図師の将棋は、非情はほど強かった。


そして、また、盛野様の玉は追い詰められていた。


盛野様:「ちくしょうわ。強い。強すぎる。

     (…こないなことなら、将棋なんてやめてここで捕らえるか?…)」


図師様:「5五金。詰みや。」


盛野様:「ま、参った。」


図師様:「ファファファッハ。 井之川殿、あれを持ってきてくれへんか。」


井之川様:「わかったぜ。なおよし、ちーとばかし手伝え。」


井之川様、なおよし:「よいしょ。よいしょ。 せ~の。」


パシャン。


井之川様となおよしは、図師様の玉の上に、王冠のような形をしたの竹かごを置いた。


盛野様:「何のまねだ?」


井之川様となおよしは、またなにかを運んでくる。

今度は、さらにおおきな竹かご。目が異様にあらい。


それを盛野様の玉の上に置いた。


盛野様:「いったいどういうつもりだ!!」


図師様:「王者に王冠を載せ、敗者をかごの中に閉じ込めたちうワケや。

     負けた奴は、こうしてくれるわ!ファファファッハハ。 」


盛野様:「くそっ。ウチを愚弄するとは。

     このような辱めを受けて、負けたまんま終われん。

     もういっぺん勝負しろ!!こやつめ~!!」ヾ(。`Д´。)ノ


図師様:「望むトコや。何度でも戦いまひょ。」



そして、盛野様が十五回目の負けを喫した時だったろうか。

もう、日が暮れかけた、夕焼けの空に、盛野様を応援する声が響き始めた。


兵士達:「盛野様負けるな!!頑張れ~。」


それはどこからともなく広がり、一つの歌になった。


兵士達:「♪おお~おお♪われらが希望、盛野様♪、何回負けても、勝負をすてるな♪

     お~おお~おお、おおお、われらの手本。盛野様,盛野様、我らが盛野様♪」


盛野様:「お、お前達は…。(ノДT)」


農民達もその応援に対抗して、応援をしはじめた。


農民一同:「♪ われらが稲穂村の戦略家♪ 図師様、図師様、図師様だ!

      ♪将棋をさせれば天下一、金でも銀でも蹴散らすぞ!♪ 

       図師様~ 図師様~おおお、おう、おう♪」


図師様:「恥ずかしいから、やめておくんなはれよ~。」


そうして、稲穂村の春の夕べは、暮れていった。






その頃森島様と道覚様は、歩いていた。


森島様:「やあ、問題や。今、ウチ達2人はどこに向かっとるでっしゃろ。」


道覚様:「稲穂村ではおまへんのか?」


森島様:「はずれ~。答えは野伏の本拠や!」


道覚様:「なんでやねん、いまさら、野伏を気にする必要がある。この一大事に。」


森島様:「ええの。稲穂村はもう解決したも同然やから、

     積藁の国が古河茅の国を滅ぼして終わり。それでおしまい。

     野伏の問題は今動くことが一番大事。」


道覚様:「…どういうことや。」


森島様:「野伏達に、積藁の国への帰参を呼びかける。

     仕官の要請やね。積藁の国の周りには暁の国をはじめとして、

     積藁の国と敵対する国が多いから、

     積藁の国は戦力になるものを欲しとるんだよ。」


道覚様:「積藁の国としては、犯罪者を雇うことで、

     民意の反感を買うのは怖いが、戦力としては欲しい。

     古河茅の国への侵攻への協力をしたことにより、

     積藁の国に取り立てたことにしたい。

     戦争中のごちゃごちゃの中で取り立てれば、

     民意を逆なでせん。そういうことか?」


森島様:「ご名答」

    「ほら、あそこの集落、あれが、野伏達の本拠や。」


テクテクテク


道覚様:「おい!待て森島様。

     そないな堂々といくつもりか?偵察ではおまへんのか?」


森島様:「も~うわ。これからすることは交渉だよ。しかも、野伏にとってお得な。」


道覚様:「確かにそうやけど、…」


森島様:「道覚様!そないな意気地なしなら置いてくぞ!!」


道覚様:「はぁ~。行くしやろかいのか。ああ。」






森島様と道覚様は、野伏の本拠地に直接乗り込んだ。

森島様と道覚様は見張りの野伏に話をつけ、野伏頭領と面会を果たした。

野伏の頭領公文隆寛は、好々爺として、野伏の頭領とは思えないほどの好人物だった。




森島様:「ご面会しとっただけるとは、ありがとうございまんねんわ。」


公文様:[よい、よい。この山の中や。

     夜道も危ないやろうて。ゆっくりしていけばええ。

     さて、まずお主らは何者や。

     何の用でここに来よった。」


森島様:「ウチ達は、積藁の国の家老伊波様からの使いで、森島と道覚と申す。

     公文殿によいお話を持ってきた。」


道覚様:「…」


公文様:「よいお話か。それは結構。

     …侍に虚無僧か。妙な組み合わせだな。もしや、その方ら忍か?」


森島様:「ご想像におまかせしまんねんよ。そないなことより、早速、交渉しまへんか。」


公文様:「そうやな。それでよい話とはなんやろかや。」


森島様:「ちょうど今、積藁の国が古河茅の国に攻め込もうとしておるんや。

    そのための、調査の過程で、野伏となっとる公文殿のお話を耳にしたんや。

    積藁の国の家老、伊波様はそれを知り、

    公文様を登用するように、ウチに命じたんや。

    伊波様は、野伏全員を積藁の国に雇うことを約束するとおっしゃっておるんや。」


公文様:「もし、断るとどうなるのや?」


森島様:「伊波様は、断るなら切り捨てよとご命令されていましたわ~。」


頭領公文隆寛の後ろに控えている野伏たちがざわめき、立ち上がった。


公文様:「話は済んでおらん。控えろ!」

    「すまなかったな。それで、続きを。」


森島様:「もし、ウチがあんはんを打ち損じても、積藁の国の軍が討伐しまんねん。

     国境ちう地の利をなくしたこの集団を捕らえるのは易しい。」


道覚様:「…」


野伏頭領:「答えは拒絶だよ。ヒゲを生やしたお侍様。」


森島様:「なんでやねんやろか。理由をお聞かせねがいたい。

     これほどの好条件を断る理由を。」


野伏頭領:「わしは、探しておるのや。昔の主君を。殿や若様を。二年前、やったなあ。

      仕えとった家は、古河茅の国でも有数の豪族で、見目様の下で甘んじてはおったが、

      若様もお強く、天下を狙える家だと、毎日毎晩壱年中誇りに思うとった。

      せやけどダンさん、世の中は厳しく、田中様の奴に些細なことで因縁をつけられ、

      あっちう間に、滅ぼされてしもうた。殿や若様は行方しれず。」


道覚様:「…」


森島様:「それで、野伏を。わかりまへんね。

     ウチならどなたはんかに仕えて、そうしながら主君を探しまんねん。

     それに、はっきり言えば、野伏頭領様には、求心力があるが、組織力は無い。

     資金、それどころか日々の食糧にさえ困り、

     部下達は盗賊をし、品位をなくした部下の中には

     人さらいまやる輩がいる。はっきり言えば、あんはんはもはやこの世界の害悪や。」


道覚様:「…」


公文様:「その通りや。ほんにその通りや。この2年間。幾つの罪を部下に犯させたのか。

     わしは、二君には仕えん。… そうやな。わしを斬ってくれ!

     もう、歳や。主君も見つからぬ。

     部下達よ。本日この時までついてきてくれてありがとうわ。

     手出しはするなよ!斬れ!その刀で斬れ!」


森島様:「もとからそのつもり、この世の害悪は消え去るがええ!!」


抜刀する森島倫正、泣き崩れたり立ち上がる野伏達。


道覚様:「ま、待ってくれ。このような老人を斬るのは止めてくれ!!」


傍観していた虚無僧道覚が、急に立ち上がり叫んだ。


森島様:「は。聞こえへんなあ。」



道覚様:「わしが、その老人が言う若様だ!やから、やから、止めてくれ!」


森島は、ニンマリとベットリとした笑顔になった。


森島様:「やっと言ったか。調査済みだぜ!ついでに、その深編笠をええ加減はずせ!!」


ズバッ、サッ、ヒュッ

森島様は虚無僧道覚の深編笠を、切り裂いた。


公文様:「若、若様ではおまへんか。こうしてお会いできる日がくるとは…(ノДT)」


道覚様:「(>_<)済まなかった。わしが不甲斐ないばっかりに。

      父は、館が落ちたあの晩、矢を受けて死んだんや。

      野伏の話を聞いたとき、もしやと思ったのや。

      やけど、会わせる顔が無かったのや。

      わしは、あの戦ではなあんもできなかった。

      日頃誇っとった槍術も、軍学も、なあんもできなかった。

      焼け落ちる館を背に、震えて逃げることしかできなんや。

      それ以来、人と目をあわせる事ができなくなり、

      ずっと虚無僧として深い笠を被って暮らしとったんや。」


野伏頭領:「若様、完璧を求める悪い癖は治っていまへんな。

      あの戦、相手は二枚も三枚も上手やった。

      戦の前から、勝負はついとったちうワケや。そう、オノレを卑下なされるな。

      みんな、限られた中から、最良の選択しかできん。若様は今でも、十分立派や。」


道覚様:「…すまぬ、…すまぬ、爺。」


森島様:「コホン。 さて、積もる話もあるやろうが、本題に戻らせていただこう。」


森島様:「野伏頭領様。これからどうなさいます?。」


野伏頭領:「もちろん。若様の家来に戻るんや。」


森島様:「道覚殿。お主はどうする。もう、虚無僧のままではいられんぞ。」


道覚様:「うむ。公文達を従えて、積藁の国の伊波様に仕えようわ。ほんで、還俗する。

     わしは、これから、元の名前、出間新之助と名乗る。

     森島様、道覚やらなんやらとわしをよぶでないぞ。」



森島様:「よし!交渉成立だね! これから、稲穂村の救援に行くぞ!今頃、激戦やろうな~」


出間新之助:「(…今回は森島に感謝せねばならんな。

        虚無僧をしとったのは単に己から逃げとっただけだ、

        まだ、やることがわしには沢山ありそうや。まだ、世を捨てるには早すぎる。

        公文達もいるし、武功を挙げねば。

        名を成さねば、死んだ父も浮かばれへんやろうわ。

        森島、お前とちーとの間一緒にいくぞ、お前についていけば何ぞ起きそうだ…)」


森島様:「ルン、ルルー♪o(〃^▽^〃)o


 …(ここまでは大成功..ひひひ。成功か。みなが順調や。

   せやけど、こういうときこそ、気をつけなければいけへん。) 

  (みちひろは上手く、扇動したやろうか。図師殿は将棋対決に上手く持ち込めとるやろうか。) 

  (いや、失敗の要素は少ない。だが、考えろ。思いがけへん落とし穴があるはずや。)…」








みちひろの疾走は、終盤に差し掛かっていた。。

走行予定にあった48の村の内、40の村は既に通過していた。

走り始めて11日目。これほどの長距離を、疾走したことは、みちひろも経験したことはなかった。

体は疲れとるはずだけど、みちひろは疲れをみせず走り続けとった。

春の夜道、輝けなかったオノレを、燃やしつくすようにみちひろは走った。


みちひろ:「…(あと、8の村をまわれば終わりか。

        走り始めたときは長く感じたが、今では短く感じるな。)…」


みちひろ:「…(この旅で、オノレは何ぞ変われた気がする。

        心を覆っとった霧が晴れたような。そないな感じだ)…」


みちひろ:「…(森島様や井之川殿、農民達は上手くやっとるのやろか?

        きっと上手くやっとる。そう信じたい。)…」


みちひろ:「さあ、もっともっと速く、一気に走りきるか!」


みちひろは、一段と速度を上げ、南無阿弥陀仏の旗をたなびかせて走った。


ほんで、暗い森に差し掛かった。その時、雨が降り始めた。


みちひろ:「…(む。嫌な感じがする。賊か。いや、この空模様のせいか。)…」


森島様の考えた走行ルートは、追っ手の裏をかくものであり、

みちひろはいつも難を避けることができていた。


運悪く、走行ルートに追っ手が潜んでいても、

持ち前の直感力で、本日この時まで危機を避けてきた。

だが、、この時、疲れと雨で、みちひろの判断力は鈍っていたのかもしれない。


みちひろ:「…(なんだ? 殺気を感じる。)… (嫌な森や。全速力で抜けるぞ!)…」


みちひろは全速力で駆け出した。だが、もう既に勝負はついていた。


ヒュン。ヒュン


突然、矢がみちひろの足を射抜いた。


みちひろ:「ヴウォー」


みちひろは、顔を歪め、叫び声をあげながら、まだ走った。

まだ、諦めていなかった。走ることを。生きることを。


そのみちひろの目の前に、突然、藪の中から数人の弓兵が立ちはだかった。

ほんで、射抜いた。


プス。プスプス。


満身創痍。血みどろのみちひろ。

目から流れるものは、血やろうか。涙やろうか。


それでも、みちひろは歩みを進めた。一歩一歩、まだ生きとることを主張するかのように。

走ることが生きることと証明するかのように。


朦朧としながらも歩みを進めるみちひろの前に、ぼんやりと侍の姿が浮かんだ。

それは、みちひろの目には、一瞬、森島様の姿のようにも見えた。


その侍は、刀を振り上げ、そして一気に振り下ろした。


みちひろの存在証明は、もう誰も見ることができない。

誰にも知られることなく、無残にも、その証明は中断されてしまった。


走った道と、10日で40の村を駆け抜けた飛脚の伝説、ただ、それのみが残った。








みちひろが、何者かに殺されてしまったその頃、

稲穂村では大将棋による大決戦が続いていた。

稲穂村を代表して駒を動かす「盤上の戦略家」図師昭輝と、

一揆鎮圧隊の隊長である「不屈の闘志」盛野厳造。


この時点では、図師の60連勝で、図師の圧倒的優勢やった。

だが、勝負の行方はわからない。


盛野の陣営では、明日の将棋対決に向けての作戦会議が開かれていた。


かもりん:「盛野様。失礼を承知で申しまっけど、ウチと交代しておくんなはれ!」


盛野様:「ならん。これはわしと図師の奴の決闘や。」


かもりん:「こたびの戦で、皆、将棋の駒の動かし方、作戦、みな覚えたんや。

      お願ええたしまんねん。」


盛野様:「ならん。」


かもりん:「では、せめてウチが陣中で合図を送るさかいに、その通りに…」


盛野様:「そないな卑怯なまねができるか!!」


その辺の兵士:「では、拙者と、是非交代を。拙者の方が、上手く指せまんねん。」


盛野様:「ならん!ならん!ならん!」


かもりん:「…(頑固やな。本来の目的を忘れていらっしゃる。

        このまんまでは図師様の思うつぼや。

        兵士達も大将棋に飲まれとる。どうにかせねば…)」


かもりん:「では、こういたしまへんか。「早指し」の対決を提案するのや。

      そもそも、長考ありの今の状態は、図師様にとって有利で、盛野様様には不利や。

      沢山勝負すれば、一回くらいまぐれでも勝てるでっしゃろ。

      それに、なにより「公平」な勝負になるんや!」


盛野様:「確かに、そうやな。長考ありでは、長期戦に持ち込みたい図師の方が有利や。

     それに、わしはいつでも早指しやから、その方がええかもしれへんな。

     ハッハッハ。明日が楽しみや。」







かもりんの秘策を胸に勝負に臨む盛野様、勝利を勝ち取ることはできるのか。

早朝、日の出とともに、両軍勢は、9×9の升目が描かれた野原に集まった。


図師様:「本日もよろしいやろやろか。」


盛野様:「いや。今日は図師殿に提案したきことがある。」


図師様:「ほ~うわ。何でっしゃろか。」


盛野様:「昨晩気がついたのやけど、この勝負は長考できる規則やったな。

     やけど、よく考えてみると、これは「時間」を賭けておる

     お主の方が有利な規則ではおまへんか!

     ほんでや。早指しを提案したい。そうでないと、この勝負、

     公平さに欠けるではおまへんか。!」


図師様:「…(ええトコに気がつきたんやね。

     まあ、長考ちうほど考えこんだことやらなんやら無いんやけどね。)…」


その辺の兵士:「そうだ!!この勝負、イカサマだ!」


図師様:「…(この空気。まずいな。)…」

    「わかりたんや。早指しやね。ええでっしゃろ。それで、制限時間は?」


盛野様:「一手につきこの砂時計が落ちるまで、持ち時間は無し。」


図師様:「砂時計一個?一手打ったら、ひっくり返す。そういうことやろか?」


盛野様:「そうさ。早く打って相手に渡せば、相手の時間はより短くなる。

     最初は、中間の量を示す線のトコに砂をあわせてある。

     そうはいっても、大駒を動かす時間が必要やから、

     どうやってもそれなりにかかるがな。」


図師様:「その砂時計のオノレの持ち時間が無くなることも、負けにつながるちうことか。

     ふっ。そこまで考え込むようなことは無いと思うがな。今回もウチの勝ちや。」


盛野様:「ふん。やってみんとわからんやろ。」






本日も勝負が切って落とされた。

やはり、図師様が優勢やった。

図師様は、正午までに40連勝を重ねた。


図師様:「2六歩。今回は棒銀でいくぞ!」


農民達:「お~い。2六歩だぞ~。」「いそげ~」 「置いた!!」


砂時計が係りのものの手でひっくり返される。


盛野様:「9二香車。わはっは。囲うぞ、囲うぞ!」


兵士達:「えいほ。えいほ。」「置いた!!」


砂時計がもっかいひっくりかえる。


つっきー:[おらはもう駄目だ~息が持たない。力が入りまへん。後を頼む~」パタン


図師様:「2五歩!!」


農民達:「はあ。はあ。 置いたぞ~!!」


盛野様:「8二銀。 しもた!閉じちゃった。」


兵士達:「えいほ、えいほ。」「置いた!!」


そうべい:「す、すまない。足をつってしもた。 だ、どなたはんか交代を。」 パタン


図師様:「2四歩。銀の必要なさそうや。」


農民達:「ぜえ、ぜえ。 置・い・た!!」


盛野様:「7一金。まあええや。」


兵士達:「えいほ。えいほ。 置いた!!」


なおよし:「お、おれももう無理。」 パタン



この戦いは、夕方になっても続いていた。




図師様は将棋では圧倒的に勝っていた。

だが、大駒を運ぶ労力で、農民達の疲労は限界を超えていた。

その点、盛野勢は、決断の早さと、体力のある兵士達に助けられ、

前日の勝負と比べると雰囲気的には優勢となっていた。

とはいっても、盛野自身も度重なる敗戦による精神的な疲労が蓄積していた。


盛野様:「…(くそうわ。今日勝たねば、いつ勝つ。これほど負けるとは。)…」


図師様:「…(粘り強い男や。そろそろ、退却してくれへんやろか。

       森島殿の言う援軍はまだか~?)…」


盛野様:「…(わては負けへん。ここまでやって、逃げ出す腰抜けではおまへん。

       単なる将棋では無い。これは賭けなのや。双方の運命を賭けた。

       あきらめなければ、いつか機会が来る)…」



夕暮れになり、図師様も農民達も疲労していた。正直もう、頭が回っていなかった。

兵士や盛野様も疲れていた。そのまんま、立って眠れそうなくらいだった。

そんな時、この勝負の終焉は突然やってきた。


盛野様:「4三玉。」


兵士達:「4・三・玉。  …   おいた。」


砂時計係り:コトン


その時、一匹の黒いものが、図師様のすぐそばで、蠢いていた。




図師様:「う、打ち歩詰みはだ、ダメだよね。 3・四・ふギャーあああ ((>д<))」




まさちゃんは、そのとき見た光景を一生忘れることができないでいる。



そう、一匹のゴキブリが、図師様の手のひらの中で、潰れていたのだった。


農民達:「さん・よん・ ふ~・    お い た~」


へとへとになりよった農民達は、事態の理解よりも駒の移動を優先した。


かもりん:「あ、あれは。 二歩や。」


盛野様:「勝った!! 勝ったぞ!!」


兵士達:「ワー!!勝った。勝ったんだ!! 盛野様万歳!!」


盛野様:「お、お前達のお陰や。この勝負、心が折れそうになることが何回もあった。

     負け続けるのを耐えることができたのは、お前達の応援があったからだ~!!(ノДT)」


兵士達:「盛野様!!盛野様!! 盛野様!!」


呆然とする図師様と倒れこむ農民達。勝負はもう決したのだ。


盛野様:「さあ、稲穂村諸君。武装を解除して、投降してもらおう。」


図師様:「そうやね。あんはんの勝ちや。皆、槍を捨てまひょ。」


カラン。カラン

竹槍を捨てる音がした。




森からの大きな声:「槍をすてる必要は無い!!」


盛野様:「や。だれだ!」


森の中から、森島様と、出間様(元虚無僧)、元野伏の集団が現れた。


森島様:「ウチは、この村に雇われた浪人者。森島倫正と申す。後ろは、積藁の国の軍勢にござる。」


盛野様:「森島。ああ、名前は知ってるぞ。

     ああ、峯澤殿の部下やったな。積藁の国と通じている疑いがあって首になったちゅう。

     なんでお前がここにいる?」



森島様:「今は、浪人者や。まあ、積藁の国とは密接な関係があるんやが。

     昔の話はやめまひょ。

     これは、積藁の国の軍勢や。今、積藁の国が古河茅の国に攻め込んでおるんや。

     田中様からは、伝令が行っていなかったちうワケやか?」


盛野様:「初耳や。お前の嘘であろう!?」


森島様:「…(やはりな。)…」

 

    「嘘でも何でも、この森に潜む兵が、急襲すれば、盛野様の首は飛びまっけど。」


盛野様:「何がええたい!」


森島様:「投降を願おう!盛野殿。もう、勝負はついた。小事に執着しすぎ、大局で負けたのや。」


盛野様:「…くっ。」


なおよし:「おい!!森島様。盛野様を逃がしてやってくれ!」


森島様:「何?」


農民達:「助けてあげておくんなはれ!!」「捕まえちゃだめ!!」「殺さないで!!」


森島様:「え~」


井之川様:「そういうことや。逃がしてやってくれんか。」


森島様:「嫌や。」


図師様:「ウチからもお願いしまんねんよ。」


森島様:「みんな。酷い。」


農民達:「お~に。お~に。」「悪魔!!」「天罰にあっちまえ!!」


森島様:「人間怖い。・゜゜・(≧д≦)・゜゜・。」


公文様:「ええやないか、森島様。あきらめろ。」


森島様:「わかった。」


農民、兵士一同:「ワーッー!!良かった!!」歓喜の声が沸き起こる。


盛野様:「…」




盛野様:「かたじけへん。この恩、必ず。」


稲穂村一同:「元気でな~」「また来いよ~」


盛野様は、暗い夜道を兵士達とともに帰っていった。


森島様:「トコで、図師様。ニ歩って。ええ仕事しすぎだよ。゛(`ヘ´#)」


図師様:「あれは、ちーとばかし疲れておったのや。

     あの、ゴキブリさえいなければ…。はよ、手を洗お。」




こうして、盤上の千本決戦と言われる名勝負は、盛野厳造の完全勝利に終わった。








盛野様と図師様の盤上の千本対決として世に伝わる迷勝負の決着がついた次の朝。

森島様、出間 新之助、頭領の公文,元野伏達、そうべい、なおよし、つっきー、大おじじ、金一じい、井之川様、まさちゃん,図師様、恵向様、一同が会し、今後について話し合っていた。


なおよし:「…経緯は確かにわかった。やけど、野伏を許す気にはならん。」


つっきー:「おらの家族は、行方知らずのまんまや。返せ!!お前らは何しに攻めて来よった!!」


頭領の公文:「…。すまぬ。」


そうべい:「なんぼ謝られても、公文が関わってへんといっても、許す奴やらなんやらおらへん。

     どないなことをしても、許すことやらなんやらありえへん。

     野伏を許してやって欲しいやらなんやらと。

     森島様様。わしらの気持ちも考えとっただきたい。」


森島様:「う~ん。心の溝は簡単に埋まることはないやろうな。」


そうべい:「わしらとしては、野伏達の顔もみたくないのや。積藁の国に編入されたのなら、

      伊波様の指揮に入れて、二度とこの稲穂村に入れてくれるな!」


森島様:「そうだな…。そうしてもらうか。。」


図師様:「さあ、そろそろ説明してもらおうか。

     ウチ達は、積藁の国の保護のもと、古河茅の国と戦うことになってしもたが、

     当初の目的は、野伏退治やろ。

     どうしてこないなことになりよったのか。説明して欲しいね。」


森島様:「ウチは積藁の国の者や。

     浪人として古河茅の国に潜入し、攻め込む糸口をつくる役割を持っとった。

     稲穂村の野伏退治を利用して、一揆を起こさせ、民心を離れさせた上で、

     攻めるちう計画を立てた。稲穂村を利用したのは、否定はせん。

     やけど、稲穂村のことも考え行動したつもりや。」


そうべい:「…」


図師様:「確かに、本日この時までの行動のようけに説明がつく。

     ウチも知らんとその計画に組み込まれとったのか。」


つっきー:「わしらは別に古河茅の国と戦いたかったわけではおまへん。」


森島様:「せやけど、野伏の問題を解決するには、国境がある今の現状が問題なのや。

     この稲穂村付近は、地理的に盗賊や野伏の巣窟になりやすい。

     それに、古河茅の国の政治が積藁の国に勝っとるとは言えへん。

     一言でいえば、ようけの人を見捨てる政治や。

     野伏はまだまだ生まれるやろうわ。

     ウチは、古河茅の国は無くなりよった方がええと思っとる。」


なおよし:「それは道理や。古河茅の国が積藁の国より劣ることもわかる。

      やけど、わしらはそれを望んでいなかった。」


森島様:「沢山の村から、助勢が集まり始めとる。この村は一揆運動の中心や。

     このうねりからは、簡単に抜け出せへんぞ。

     それに、積藁の国が負ければ、稲穂村も必ず焼かれる。」


つっきー:「それはわかっとるが。」


井之川様:「まあ、騙した森島様が悪いわな。

      なんぼ野伏の問題を解決しても、稲穂村が古河茅の国と戦う理由にならん。」


森島様:「まあ、そうか。騙したことはすまぬ。せやけど、言っておったら成功しなかった。」


そうべい:「そないなこと、理由にならん。それに、道覚様の素性を知っとったのなら、

     それだけで野伏の問題は解決できたやないのか!」


森島様:「そうやろうな。でも、どうする。稲穂村と積藁の国の軍勢は一連托生や。」


大おじじ:「そうやなあ。ここは一つ、稲穂村は一揆の中心にはなるし、積藁の国の助力はするが、

      古河茅の国と戦わん。ちうのはどうや。」


そうべい:「そうだな。それくらいならばええかも知れへん。」


森島様:「愚かだな。」


なおよし:「何!!もう一回言ってみろ!!」


森島様:「愚かだと言っとるんだ!!ちびっと上手くいっておるからって調子に乗って!

    なあんも犠牲を出さんと、成果だけ要求する。

    オノレが傷つかず、どなたはんも傷つかず、

    どなたはんかを傷つけず、何ぞを為そうとする。

    そないなことできる筈ないやろ!!やから愚かと言ったんだ!

    そないな甘い姿勢では、みな。みな失ってしまうんだ!!」


まさちゃんは、森島様の怒った表情をみたのはこの一度だけだったと時々思い出す。。


まさちゃん:「…」


そうべい:「…そこまで言うのなら、参戦するしかないか。気は進まんがな。」


大おじじ:「確かに、一揆はどうにもならんとこまできてしまっておるのや。

      この事実は確かや。稲穂村も戦うしやろかいのやろうな…」


井之川様:「…(森島様。言いたいことはわかるが、農民達の士気はあまりにも低い。

        無理に、戦に連れていっても役立つとは思えん。理念だけで人は動かんぞ。)…」







森島と農民達が、盛野様を稲穂村から送り出したその頃。

田中様は、ともし火を見つめながら、物思いにふけっていた。


田中様:「…(なんでやねんやろうわ。毎日毎晩壱年中何ぞが足りまへん気がする。)…」


田中様は、幼少時から、武芸、軍学、儒学、万事にすぐれ、神童と呼ばれていた。

元服後も、優れた判断力、気性の好さ、全てに優れたその能力を発揮し、名声を得た。

特に、能力を重視する見目様が当主の座についてから、一気に家老まで取り立てられ、

古河茅の国に田中柾信ありとされるほどだった。


だが、田中柾信は、それに満足感を覚えたことはいっぺんもなかった。

むしろ、ざらざらした気持ちだけが広がっていった。


田中様:「…(ウチの心はまるで灰だな。)…」


そんな気持ちになるのは毎晩のことだった。


自分と違う者、幸せそうな者は嫌いだった。

そういう者は、利用できなくなるとすぐに世の中から消した。

本人にもわからないように。

そういう者をみると、心が軋むような音がするのだ。


田中様は、公言したことは無かったが、一つの考えを持っていた。

「真の計略は人に覚られてはならへん。真の行動は人に気づかれてはならへん。」


これは、田中様が政治的駆け引きの中で学んだことやった。


だが、計略と行動の中心となる、田中柾信の「心」は、

ただ、虚ろだった。

次回、奇妙な森野の剣。その秘密が明らかになる。


なんのことやらさっぱりわかりまへん。

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