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ナインイレブン異世界支店

ナインイレブン異世界支店 久藤シフト

作者: 久藤雄生





時給に釣られて始めたバイト。

あなたのコンビニ、ナインイレブン。



俺のバイトしているコンビニは、一風変わっている。

何が変わっているかというと……。


「おう、兄ちゃん。カラアゲたんと塩味くれや」


まず、客層。

このコンビニの客の九割五分九厘は重装備だ。

鎧や兜装備はザラ、剣や弓を持っている人もザラ。

ついでにいうと自称魔法使いもザラ。

あれだ、ある条件を満たした30歳過ぎの男性がなれるという魔法使いではない。

ちなみに俺は、もうなれない。

ってそんなことはどうでもいい。


「はい、カラアゲたんノーマルひとつ、塩味のポップコーンひとつですね」


「ほらよ、これでどうだ? 良い鉱石だろう?」


つぎに、通貨。

このコンビニの取り扱いは日本円ではない。

つうかぶっちゃけ物々交換だ。

主に鉱石やモンスターの素材で取引される。


「このカラアゲたん、うまいんだよなぁ。俺ぁノーマル派なんだが、一体何のモンスターの肉なんだ?」


「ははは、それは企業秘密ですよお客さん」


そして、商品である。

勿論、普通のコンビニで取り扱っているような弁当・ドリンクなどもある。

しかし人気が高いこのからあげたん。

何の肉を使っているかというと……。


「小林くん、今日の分捌けたわよ」


「ありがとうございます、橋本さん。あの……返り血浴びてますよ……」


「あらやだ。また子供が泣いちゃうわ。落して帰らないと」


えぇ、ぜひそうしてください。

橋本さんはからあげたん原材料のロックワームを、大きめだけど普通の包丁1本で捌く凄腕主婦なのである。

ちなみにロックワーム、岩場に生息しているだけで、岩で出来てるわけではない。

店の事務所から繋がる、地下ダンジョンに生息している。

主要商品であるポップコーンの仕入れの時、一緒に納品されてくるのだ。


さて、もうお解り頂けたかと思う。

そう、ここはナインイレブン異世界支店、なのである。







「か、かかかかか金を出せ!」


「は?」


おぉ、初のコンビニ強盗だ。

って感動している場合ではない。

ここは異世界であって、日本でない。

警察が来るわけないだろうし、保険も効かないのではないだろうか。

こういう時に限って相方のハルは休憩中だ。


コンビニ強盗は声と体つきからして中年男性。

ごく普通の鎧と兜、手甲などを身につけている。

もうごく普通なんて言ってる時点で馴染んでるな、俺。

あぁヤダヤダ。

いくら時給が良いからってやめときゃよかったかなぁ。


「な、何をしている! 早くしろ!」


両手剣を突き付けられて、俺は大人しくレジを開けた。

レジの中身、銀貨3枚程しか入ってないんだよな。

だってこの店は物々交換。


「はい」


「……え、これだけ?」


「何ならレジの中見ればいいんじゃねぇっすか? 入ってないから」


強盗はさっさと銀貨を掴み逃げていった。

あーあ、オーナーに怒られるんだろうなぁ……。

これがギンちゃんだったら怒られないだろうし、そもそも山崎さんやアキラさんなら難なく撃退出来るに違いない。


案の定こっ酷く怒られた。

あれ俺なんでここで働いてるんだっけ。





癒しを求めて地下ダンジョン。

地下ダンジョン入口階段付近に、実はホワイトタイガーの子供が住み着いている。

バイトの日は必ず廃棄弁当を持っていくおかげか、俺が行くとすぐに寄って来る。

最初は警戒心ばりばりだったが、今では抱っこも出来るようになった。


「はぁ……お前だけが癒しだよ……」


バイトを辞めるとこいつとも会えなくなるんだよなぁ。

そんなの耐えられん。

だがしかし、いずれは辞めなくてならないのだ。

今は学生だからバイト出来てるけど、もうすぐ就職活動だ。

この店に社員登用さえあればなぁ……。


「はぁ……そろそろ戻るか。また明日な」


名残惜しいが休憩時間はもう終わりだ。

最後にひとなでして地下ダンジョンを後にした。




「かかか金を出せ!」


「ってまたかよ!」


先ほどの男と同じ声、同じ装備。

同一人物じゃないか。

しかもハルは上がりで、またもや俺一人。

何だこれ、俺が狙われてんの!?


「いやもうないし。さっき持って行っただろうが!」


「あれっぽっちなわけないだろ! ここが繁盛店だってことはわかってるんだ!」


どうやら思い直して戻って来たらしい。ちっ。

強盗は両手剣を持ち直し、その切先を俺の喉元に突きつけて来た。

っていうか金くらい働いて稼げよ!

異世界じゃ定職がなくてもハンターとして金を稼ぐことが出来る。

弱くても採取って手があるんだし。


首がちくりと痛む。

くっそ、頸じゃなくて心臓にしてくれれば良いのに。

ここの制服は防御補正が掛かっていてるのである。

覚悟を決めたその時。

白い物体が高速で飛んできた。

強盗の手元に喰らい付く。


「しろ!」


地下ダンジョンのホワイトタイガーである。

俺のピンチに駆け付けてくれたのか! 

何ていいコなんだ……!


「うわあああああ!」


しろに手を食い千切られそうになった強盗が、悲鳴を上げながら逃げ出した。

おい血ぃ拭いていけ!

掃除大変なんだよ!


「しろ……ありがとうな」


しろを抱き上げ頭を撫でる。

気持ちよさそうに目を細め、俺の胸に寄り掛かって来る。

何てかわいいのだろう……。

あぁ連れて帰りたい。

ホワイトタイガーって日本で飼えないんだっけ?


そして(本人的には)感動的場面を見ていた冒険者により、ある噂が広がった。

あのナインイレブンという店には、モンスター使いが雇われている、と……。


実はホワイトタイガーだと思われているしろが上位のモンスターだなんて、知らぬは本人ばかりなり。






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