当たり前の日常
朝日が眩しい。
明るい時間に起きたのなんて、何日ぶりだ?
ああ、2週間ぶり?ま、何でもいっか。
俺だけ冬休みが明けてすぐ冬休みになったのはラッキーだったけど、学校行ったらまた怒られんだろうなあ。
あー、面倒臭え。
ぼんやりそんなことを考えて天井を見つめていると、2週間ぶりの怒鳴り声が耳に届いた。
同時に、物凄く体重を感じる足音.....
俺がこの世で1番怖いもの。
「真冬!いつまで寝てるの!?起きなさいこのバカ息子!」
そんな怒鳴り声を出しながら、母ちゃんは寝てる俺の顔を覗き込んできた。
外面の良い母ちゃんは、普段近所の人たちとか、俺の同級生たちに『美人』だとか『綺麗』だとか『優しい』だとか言われてる。
でも実際はどうだ。
俺を怒鳴りつけてくる母ちゃんの顔は鬼そのもの。
お面をつけているのかってくらい普段とは顔が違う。
小学生の頃なんかは、夜に母ちゃんのこの顔思い出して怖くておねしょしたことすらある。
シーツを汚して次の日結局怒られたけど。
そんな真冬の母・茜は真冬の被っていた布団を強引に引っ張りあげ、畳の上に投げ捨てた。
「真冬!停学明けに遅刻なんて許さないからね!」
鬼の形相で怒る茜に、真冬はあからさまに不機嫌な表情を浮かべて起き上がった。
「朝からうっせーな!遅刻しねーから安心しろよ!てか怖えーんだよ!」
真冬が言うと、茜は目を細めて真冬の耳を引っ張った。
「痛でで...!」と顔をしかめる真冬を無視して、茜は真冬の顔を睨みつけた。
「女性に向かって怖いはねーだろー...?」そう言うと手を離し、出口に向かって歩きながら「ほら、朝ごはんできてるから早く起きな」と言い捨てて階段を下りて行った。
二度寝したい。
二度寝したら殺されるから起きるけど。
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欠伸をしながら階段を下りると、甘い匂いが鼻を通った。
俺はこの匂いが好きだったりもする。
言わないけど。
「お、おはようバカ息子。2週間ぶりの学校は緊張するな?」
ダイニングテーブルの前に腰を下ろし、マグカップにコーヒーを淹れてそう言ったのは父の修二。
修二はニヤニヤしながら真冬を見ていた。
真冬は「うっせーよ」と呟き、前髪を搔きながら椅子に座った。
「兄ちゃんおはよ!朝起きてくるの珍しいじゃん」
嫌味ったらしくそう言ってくるのは中学生の弟・和泉。
コイツも生意気なんだよなあ。
「お前もうっせ!いいから黙って食えよっ」
俺はそう言いながらテーブルの上のパンケーキとサラダを見た。
家の朝食はいつもパンケーキとか、ホットケーキとか、スコーンとか、なんかそういうお菓子みたいなやつ。
好きだけど好きじゃない。
そして自分の席にも置かれているパンケーキ。
「たまには俺も白飯と魚とか、そういうの食べたいんだけど~」
真冬は悪態をつきながらも、置いてあるナイフとフォークに手を伸ばした。
今日はブルーべリーと生クリーム。
「文句言うなら食べなくて良し!」
廊下から歩いてきた茜は、そう言うと真冬のパンケーキの皿を手に取った。
真冬はすぐさま皿をつかみ「食べるよっ...!」と茜を睨む。
茜は満足気に微笑み、皿から手を離すと「もうっ好きなくせに」と笑った。
「好きっつうか、母ちゃんも親父も普通の飯作れねーじゃん....」
真冬はそう言いながら、先日茜が作ったハンバーグのことを思い出した。
思い出すだけでも恐ろしい。
どうやったらあんな味になるのか、というかあれは人が食べていい物だったのか。
「もうしょうがねーだろ?俺も茜も甘いもんしか作れねーんだから」
クソ親父がそう言う理由ってのも、家はケーキ屋なのだ。
正直、甘い物は確かに美味いし近所でも有名だ。
その甲斐もあって、結構繁盛してるみたいだし、2号店を出さないかなんて話もよく来たりする(らしい)。
そして俺はというと、この2人に育てられているせいか店を継ぐのは当然みたいになってて、俺自身やりたいことなんかないし、普通の会社で生きていけるような真面目な奴でもないしってことで来年からは継ぐ予定でいる。
和泉は頭も良いし真面目で、来年からここらじゃ有名な進学校に行くことが決まってるし、継ぐのは俺しかいない。
面倒いけど。
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「んじゃ行ってきまーす」
靴を履き終え、玄関でそう言うと「真冬!」と茜の声がした。
真冬が振り返ると、茜はキッチンの方から駆け足で真冬の元へ。
「はい、これお弁当!今日からまた頑張りなさい!もう停学とかやめてよ〜?」
茜はそう言いながら真冬に弁当の袋を差し出し、わざとらしく笑って見せた。
「へいへい。すいませんでしたね迷惑かけて〜」
真冬が苦笑すると、茜は「なーに言ってんの!」と笑った。
「あんたの停学なんかもう慣れたし、いつだってあんたは正しいことしてるんだから、胸張ってなさい!ね?」
茜の言葉を聞き、真冬は「母ちゃん…」と呟き、なんとなく照れ臭い気持ちになった。
追い打ちをかけるように、茜の後ろから歯ブラシを持った修二が出てきた。
「そうだぞ真冬。お前はバカだけど、自分の信念貫ける男なんだ。親として、こんなに誇らしいことはないぞ?」
ニヤニヤしながらそう言う両親を見て、またむず痒くなった。
真冬は薄らと紅く染めた頬を隠すように2人からフンッと視線を逸らし、「バカは余計だっつうの…!」と口を尖らせた。
「あ、真冬きゅん照れてる?♡」
修二はそう言って真冬を指さした。
「照れてねーよっ!てか早く歯磨けよ汚ねーな…!」
真冬の大袈裟な反応を見るなり、茜は嬉しそうにクスッと笑った。
「じゃ…!今度こそ本当行ってくるわ。弁当あんがと」
真冬はそう言って家を後にした。




